論文審査の要旨 博士の専攻分野の名称 博士(工学) 氏名 田中 享 学位

論文審査の要旨
博士の専攻分野の名称
博士(工学)
学位授与の要件
学位規程第 3 条第 3 項該当
氏名
田中
享
論文題目
光合成細菌変異株(Rhodobacter sphaeroides CR-720)を用いた 5-アミノレブリン酸の大量生
産及びグリシンの代謝に関する研究
論文審査対象者
主
査
教授
新川 英典
審査委員
教授
佐々木
審査委員
准教授
竹野
健
健次
[論文審査の要旨]
光合成細菌変異株 Rhodobacter sphaeroides CR-720 を用いた 5-アミノレブリン酸(ALA)の
工業的生産法の改良を目的に, グリシン等の添加技術, ORP 制御, ならびにグリシンの代
謝を検討し, さらなる ALA 生産の安定化および低コスト生産を目指した.
第 1 章においては, 光合成細菌の応用, ALA の農業・医薬分野への応用, ならびに光合成
細菌による ALA 生産研究に関する現状と, 我が国および世界中の ALA 生産に関する研究
を総説した.
第 2 章においては, ALA の生合成原料であるグリシンや ALA 脱水酵素阻害剤であるレ
ブリン酸の添加条件を検討した. さらに pH 及び酸素供給条件を検討した結果, 3l 発酵槽を
用い, 酸化還元電位を-150~-100 mV 維持し得る酸素供給条件下において, CR-720 株が
ALA を 52 mM ほど著量に生産可能なことを明らかにした.
第 3 章においては, CR-720 株による ALA 生産と併行して増加する未知不純物を見出し
そして同定した. さらに未知不純物の低減条件を検討した. その結果, 未知不純物は 5-ア
ミノ-4-ヒドロキシ吉草酸(AHVA)と同定し, CR-720 株は(S)-(+)-AHVA を生成することを明
らかにした. さらに 5 kl 発酵槽を用いて 28℃条件下で AHVA の生成を抑制することに成
功し, ALA を 72 mM まで生産可能なことを明らかにした.
第 4 章においては, CR-720 株での試験管での ALA 生産試験でその原料として安定同位
体標識したグリシンを使用し, 安定同位体の他の化合物への移行を GC/MS 分析によって
調べ, グリシンの代謝に関する検討を行った. その結果, ALA の 5 位炭素にグリシン-2-13C
の 13C が 98%移行, ALA のアミノ基窒素にグリシン-15N の 15N が 95%移行していたことか
ら, CR-720 株が C4 経路により ALA を生合成していることを明らかにした. さらにセリン
の 2 位及び 3 位の炭素に 13C が移行していたことから, CR-720 株のグリシン代謝にはセリ
ンヒドロキシメチルトランスフェラーゼとグリシン開裂系が深く関わっている可能性が
あることについて報告した.
第 5 章では, 第 2 章から第 4 章までの結果をまとめ, 光合成細菌変異株による ALA の実
用的大量生産への必須となる諸条件を明らかにした.
以上, 本研究により, CR-720 株を用いて実用レベルである 5 kl 発酵槽における ALA 生産
条件を設定し, 現在の研究では最高力価である 72 mM 生産した. さらに CR-720 株のグリ
シンの代謝について明らかした. 以上の知見は, さらなる ALA 生産の安定化やコスト低
減に利用できるものと思われ,博士学位論文としてふさわしいものと認められる..