レンズ形状を有するせん断パネルダンパーの開発 その5 ランダム波形

日本建築学会大会学術講演梗概集
(近畿) 2014 年 9 月
21426
レンズ形状を有するせん断パネルダンパーの開発
その5 ランダム波形による構造性能確認実験
制震
履歴型
低降伏点鋼
せん断パネル
正会員
同
同
○山﨑 信宏*
久保田雅春**
阿部 隆英**
正会員
同
同
石山
名取
三塩
昌幸*
祥一**
洋一***
レンズ型ダンパー
性能確認
1. はじめに
筆者らが提案する低降伏点鋼を用いたレンズ型せん断
せん断パネルの劣化損傷度を確認するため,せん断パネ
パネルダンパー(以下,LSPD,図 1 参照)は,地震時な
た。なお,本報で示す「回」は,観測地点における地震
どに水平力を負担する鋼材履歴型ダンパーである。この
波 1 波形,すなわち当該地震 1 回分と定義する。
LSPD は,伸び性能およびひずみ硬化の大きい低降伏点鋼
(LY100,LY225)の材料効果およびレンズの形状効果を
4. 実験結果
各実験により得た平均せん断ひずみの時刻歴を図 3∼図
利用することにより,繰返し変形性能を高めたダンパー
5 に示す。図中には,試験機入力変位も示しており,いず
であり,溶接を必要としないシンプルな構造である。
れの試験も両者は良く一致している。このことから,試
前報までに,LSPD の概要
1)
や構造性能確認実験
2)
,実
3)
験結果に基づき設定した設計モデルと劣化損傷度評価 を
ルにき裂が生じるまで,同じランダム波形を繰返し与え
験機および試験体は,忠実に応答していると判断できる。
各実験において,き裂の発生までに繰返し入力したラ
示した。本報では,ランダム波形による性能確認実験に
ンダム波形の数は,JR 鷹取 NS で 5 回,JR 鷹取 EW と大
ついて述べる。
阪ガス N27W では 6 回であった。この結果は,既報 5)に示
2. 試験体(レンズ型せん断パネル)
試験体は,既報 1)の形状に準じ,LY100 type12-6 とした
す劣化損傷度曲線に基づき算出した,き裂予測値に概ね
(図 2 参照)。
一致する。
次に,平均せん断応力度と平均せん断ひずみとの関係
3. 構造性能確認実験
ランダム波形による構造性能確認実験は,二軸試験機
を図 6∼図 11 に示す。ここで示す平均せん断応力度とは,
面板に取付けられたせん断パネル固定部材のボルト孔と
しており,図 9∼図 11 は,き裂の発生が確認された加力
レンズ型せん断パネルの上下部に設けられたボルト孔に
時の履歴曲線を示している。
実験により得た荷重をレンズ型せん断パネル中央部断面
(鉛直 2MN,水平 1MN,日本鋳造(株)所有)にて行った。 積で除した値である。図 6∼図 8 は,各実験において,繰
レンズ型せん断パネルの試験機への取付けは,試験機
返し入力したランダム波形のうち 1 回目の履歴曲線を示
高力ボルトを用いて締付けており,せん断パネルの固定
部材は,ボルトにより試験機上下面板に連結されている。
実験は,その状態で,鉛直変位を固定し,変位制御によ
る水平方向への繰返し加力実験とした。
実験条件の一覧を表 1 に示す。試験機に入力する変位
は,図 3∼図 5 に示すランダム波形とした。ランダム波形
は,道路橋示方書・同解説 4)に示される標準地震波を使用
し,ある橋梁モデルを想定して動的解析を行った結果,
LSPD に生じた応答変位である。なお,標準地震波には,
JR 西日本鷹取駅構内地盤上 NS 成分(以下,JR 鷹取 NS),
図 2 試験体の形状
図 1 LSPD
JR 西日本鷹取駅構内地盤上 EW 成分(以下,JR 鷹取
EW)および大阪ガス葺合供給所構内地盤上 N27W 成分
(以下,大阪ガス N27W)の 3 波形を用いた。
表 1 実験条件の一覧
条
件
標準地震波
(観測地点)
平均せん断ひずみとは,レンズ型せん断パネルに生じる
1
水平変位をせん断パネルの有効高さ h で除した値である。
また,いずれの実験とも,ランダム波形によるレンズ型
最大変位は,変位漸増繰返し加 力実験結果
2)
より,
35mm(平均せん断ひずみ 22.4%)程度とした。ここで,
平均せん断ひずみ(%)
最大速度
最大値
最小値
(mm/sec)
JR 鷹取 NS
21.5
-16.8
166.7
2
JR 鷹取 EW
14.7
-18.8
178.7
3
大阪ガス N27W
9.5
-21.0
171.7
Study on the shear panel damper in the shape of concave type
lens for seismic response control structure.
Part5:Random Loading Test of Lens Type Shear Panel Damper
― 851 ―
YAMAZAKI Nobuhiro, ISHIYAMA Masayuki,
KUBOTA Masaharu, NATORI Shouichi,
ABE Takahide and MISHIO Youichi
硬化の影響により大きくなった。
その結果,いずれの実験とも,繰返し入力したランダ
ム波形 1 回目,実験開始直後において,若干平均せん断
・いずれの実験でも,平均せん断応力度の最大値は,
200N/mm2 程度であった。
応力度は低い傾向を示したが,平均せん断ひずみの増加
に伴い,ひずみ硬化の影響によって,平均せん断応力度
・加力中にレンズ型せん断パネルに,き裂が生じても,
急激な平均せん断応力度の低下は認められなかった。
は大きくなる傾向を示した.平均せん断応力度の最大値
は,いずれの実験においても 200N/mm2 程度を示した。
【参考文献】
各実験でのき裂発生回の履歴曲線を見てみると,加力
1) 名取,久保田,三塩,尻無濱,石山,山﨑:レンズ形
の途中でレンズ型せん断パネルにき裂を生じても,急激
状を有するせん断パネルダンパーの開発,その 1,日本
な平均せん断応力度の低下は認められなかった。
建築学会大会学術講演梗概集(北海道),2013.8
き裂の発生は,いずれの試験においても,フィレット
2) 山﨑,石山,久保田,名取,三塩,尻無濱:レンズ形
2)
部であり,既報 に示した変位漸増繰返し加力実験,変位
状を有するせん断パネルダンパーの開発,その 2,日本
一定繰返し加力実験での終了時と同様であった。
建築学会大会学術講演梗概集(北海道),2013.8
3) 三塩,尻無濱,久保田,阿部,石山,山﨑:レンズ形
5. まとめ
本実験により得た結果を以下に示す。
状を有するせん断パネルダンパーの開発,その 4,日本
・レンズ型せん断パネルに,き裂が生じるまで繰返し
たランダム波形の数は 5∼6 回であり,劣化損傷度曲
建築学会大会学術講演梗概集(北海道),2013.8
4) (社)日本道路協会:道路橋示方書・同解説Ⅴ耐震設
線より求めた,き裂予測値に概ね一致した。
計編,平成 14 年 3 月
・本実験での平均せん断応力度は,繰返し入力したラ
5) 石山,山﨑,久保田,名取,阿部,三塩:レンズ形状
ンダム波形 1 回目の実験開始直後において,低い傾向
を有するせん断パネルダンパーの開発,その 6,日本建
を示したが,平均せん断ひずみの増加に伴い,ひずみ
築学会大会学術講演梗概集(近畿),2014.9(投稿中)
図 3 JR 鷹取 NS の波形
図 6 JR 鷹取 NS 1 回目
図9
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JR 鷹取 NS 5 回目
日本鋳造株式会社
飛島建設株式会社
鉄建建設株式会社
図 4 JR 鷹取 EW の波形
図 5 大阪ガス N27W の波形
図 7 JR 鷹取 EW 1 回目
図 8 大阪ガス N27W 1 回目
図 10
エンジニアリング事業部
建設事業本部
建築本部
JR 鷹取 EW 6 回目
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図 11 大阪ガス N27W 6 回目
Engineering Division, NIPPON CHUZO
Construction Division, TOBISHIMA CORPORATION
Architectural Division, TEKKEN CORPORATION