日本一「高石のユリ」 - ユリア【高石オリエンタル・リリー】JAとさし高石支所

テキスト
日本一「高石のユリ」
日本一「高石のユリ」
テキスト
1
日本一・・・その理由
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
(1)
「カサブランカ」の品質、どこを見れば分かる?
(2)出荷箱のサイド面は情報の宝庫です
基準の評価(目のつけ所)
(3)日本一と日本一の連携(冬春の「ユリア」
、夏秋の「雪美人」)
2
日本の宝石
ユリ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
(1)日本のユリ
(2)日本のユリの文化史
(3)日本のユリ生産の歴史
①球根産地として
②切り花生産
③オランダからの切り花や球根
〈コラム〉ユリの球根は世界を旅してやってくる
(4)さまざまなユリの品種
①ユリの育種
(5)名花「カサブランカ」とはどういうユリか
①「カサブランカ」の生い立ち
②日本人の嗜好と「カサブランカ」
③「カサブランカ」の商品力
〈コラム〉季節によって違うユリの咲き方
〈コラム〉ユリの花の構造
3
日本一「高石のユリ」を生む産地の力
・・・・・・・・・・・14
(1)高知県のユリ栽培の歴史
(2)高石のユリ栽培の歴史
(3)土壌、水
〈コラム〉 品質に大きく影響する「吸収根」
、そのまわりの土の質
(4)技術力
①プレルーティング
②栽培圃場の管理
③定植(疎植)
④生育のようす
⑤収穫方法
⑥出荷作業
(5)切磋琢磨-目慣らし会
(6)環境への配慮-ヒートポンプ
(7)花屋さんとの交流
4
作型別
栽培日記
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25
(1)10 月下旬~11 月出荷の栽培
5
6
高石のユリの作り手たち ・・・・・・・・・・・・・・・・・29
高石のユリの未来 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29
(1)次世代の作り手達
(2)高石のユリ農家が提案する「ユリのあるくらし」
①さまざまな生活シーンに
②新しい贈り方、贈られ方
1
日本一・・・その理由
(1)
「カサブランカ」の品質、どこを見れば分かる?
一輪一輪、大きい蕾
しかも最後の蕾まで
開く
バランスの良い姿
大きな蕾を支えるし
っかりした茎
(2)出荷箱のサイド面は情報の宝庫です
-1-
品種名
箱を開けなくても品
種名が分かります。
生産者(生産者番号)
誰がこのユリを栽培したか、すぐに分かる
ようになっています
この番号を目当てに買う人もいます。
等級
いろいろな基準で等級を決めています。
①花穂長
②第一花の蕾の大きさ
③全体のボリューム感
④蕾と蕾の間隔
⑤花の付き方
アンテナ、車咲き
⑥がく割れ、奇形花の有無
⑦蕾の色(青みの有無)
⑧軸の太さ
⑨軸の曲がり
⑩葉焼けの有無
⑪害虫の被害の有無
⑫マゴ(蕾の直下から出るちいさな蕾)の有無
★★
基準の評価はどこをどうやって見るのかは
次のページで詳しく説明します
-2-
長さ
どのくらいの
長さの花が入
ってるかを示
しています。
本数
輪数
一本あたり付い
ているつぼみの
数です。
JA とさしのロゴマーク(左)と
高知県園芸連マーク(右)
JA とさしのロゴマークは、土佐市を
象徴する龍と空と海、そして平仮名
(ひらがな)の「と」をシンボル化
したものです。躍動感のある波のフ
ォルムは躍進を意味し、更なる発展
をイメージしています。
①花穂長
基準の評価(目のつけ所)
⑫マゴ(蕾の直下から出るちいさな蕾)
の有無
⑥がく割れ、奇形花の有無
がく割れ、奇形花がない→秀
天の蕾が自然にないもの→優
ガク割れが天の蕾のみ →良
天及び蕾を飛ばしたもの→無印
②第一花の蕾の大きさ
長さがあってふっくらしたものがよ
い。
草丈が1mの場合、蕾の長さは12c
m以上あると美しい=開花すると径25
~26cmの豪華な花になる。
⑦蕾の色(青みの有無)
上:通称「青地」 ○の部分の緑色が濃くややく
びれた形。このよう蕾全体に対し根元部分の緑色
が濃い花は開ききらないことがある。
下:正常な蕾の姿 ふっくらと膨らんだ姿で、色
の濃淡の差が少ない。
⑧軸の太さ
細すぎないこと
⑨軸の曲がり
水平に於いて5cm以上の曲がりは優へ
S字の曲がりは無印
⑤花の付き方
花が3方向までなら良 それ以上なら無印
④蕾と蕾の間隔
くっつきすぎても間延びしても良くな
い。目安は5cm前後。
⑩葉焼けや害虫の被害の有無
全体で 70 枚以上の葉がある、その中で
下のような状態の葉が4枚以上あれば無印
3 枚までなら良
全くないものが秀品となる
葉焼け
害虫(アブラムシ)
アンテナ、車咲き
-3-
-4-
全体のボリュ
ーム感とバラ
ンス
草丈 100cm以
上で、花、花穂、
葉の大きさを
総合的に判断
する
(3)日本一と日本一の連携(冬春の「ユリア」、夏秋の「雪美人」)
日本のユリ市場を席巻する2大産地。二つの産地がリレーして、日本の市場には年間を通
じて高品質のユリが供給されています。
カサブランカ(H24.5~H25.4 出荷実績)
「TF」マーク
高石(TAKAISHI)と津南(TSUNAN)の頭文
字の「T」と花き栽培者(FLORIST)の「F」
を組み合わせたロゴマークです。両産地からの
出荷箱にはこのマークが印刷されています。
-5-
2
日本の宝石
ユリ
(1)日本のユリ
オリエンタルユリの自生地である日本。
ヤマユリ、オニユリ、カノコユリ、ササユリ、オトメユリ、タモトユリ・・・さまざま
な形、色のユリがあります。
江戸末期から明治初期にかけて日本にやってきた欧米人たちは、自生するユリの美しさ
にとても驚いたといわれています。彼らが採取し持ち帰ったユリから、現在の多くの品種
が作りだされました。
(2)日本のユリの文化史
ユリは万葉集にも歌われているように古くから日本人の生活になじんできました。
生け花として鑑賞されるのはもちろん、絵画や着物の柄などのデザインにも取り
いれられてきました。
(3)日本のユリ生産の歴史
①球根産地として
日本には数多くの種類のユリが自生していたことから、第2次大戦前からテッポウユリ
を中心としてユリの球根を海外に輸出していました。戦後、1970 年頃まで球根生産は急速
に増加したが、球根の輸出は 1973 年以降円高が進んだことから急速に減少し、いまではわ
ずかしか残っていません。
②切り花生産
国内の切り花生産は戦後から増加を続け、切り花産地は、秋から春にかけては高知県や
鹿児島県などの暖地、春から秋にかけては、新潟県や長野県等の冷涼地と季節によって分
かれ、周年生産していました。切り花産地に供給する球根生産はほとんどが国産で、スカ
シユリが新潟県、北海道を中心として、テッポウユリが沖永良部島で行われていました。
その頃は、「内田カノコユリ」に代表されるオリエンタルリリーは、球根の増殖に時間が
かかることと、バイラスに弱いなどの理由で国内での切り花生産はほとんど行われていま
せんでした。
③オランダからの切り花や球根
世界一の球根生産国であるオランダでは、胚培養など種間交雑の技術が進む中で 1980 年
代までに多くのアジアティック系、オリエンタル系のユリ品種を作り出しまた。
同時に球根の貯蔵技術も進み、1970 年代の後半には氷温貯蔵球を利用した長期の貯蔵技
術が確立されて、周年生産が可能となっていきました。
これらオランダ産の品種は、花色の豊富さから日本でも注目されていたのですが球根の
隔離検疫制度が壁になっていました。しかし、1988 年の隔離検疫の一部撤廃以降、その輸
入量は、揃った規格と安価な価格、栽培期間を大幅に拡大する氷温貯蔵の技術と共に導入
-6-
されたこと等の理由により、急速に日本国内にひろがりました。
オランダの球根は、大規模栽培で機械化生産されるため生産コストが低く、これに円高
の要因が加わると球根価格の点で国内生産者は太刀打ちできず、国内の球根生産量は急速
に減少してしまいました。ただ、テッポウユリは、「ひのもと」の草姿が日本人好みであ
り、収穫時期も六月と早いことから、現在も主力品種として沖永良部島で球根生産が続い
ており、オランダの輸入品種はわずかです。
また、人気の高いオリエンタル系ユリは、オランダだけでなく 1999 年に南半球のニュー
ジーランド産、2002 年にチリ産のオリエンタル系ユリが隔離免除となり、切り花の周年化
が進んでいます。
-7-
〈コラム〉
ユリの球根は世界を旅してやってくる
ユリの球根は日本国内でも栽培されていますが、多くが外国から輸入されています。
ユリ球根の氷温帯での輸送経路には、航空便と船便の2つがあります。
☆輸送方法
日本にやってくるまで
航空便では十数時間
船便では約1ヶ月かかります(輸入量の 90%は海上輸送のようです)。
<オランダ産ユリ球根に関係する会社>
オランダ産のユリ球根は全世界に輸出されており、輸出会社数は 100
社に及びます。そのなかで日本向けの輸出会社は小規模のものも含め 56
社あり、そのうち上位 10 社が日本向けの大部分を占め、大手輸出会社は、
1社1年間で日本向けに 7,000 万球輸出しています。
これに対して、ユリ栽培会社は 2003 年冬現在で、約 250 社。オランダ
の現在のユリ栽培総面積は、4,277ha(オランダ国際球根協会調べ)で、
栽培規模は世界一です。栽培会社は、生育時期に圃場でのオランダ農務
部側の輸出検疫検査で合格したロットについて、掘り上げ・粗洗浄・サ
イズ分け・計数後に箱詰めを行います。
8~11 月に定植する作型に用い
る球根は、チリやニュージーラン
ドなど南半球側の生産地からも
輸入されています。
-8-
-9-
(4)さまざまなユリの品種
①ユリの育種
ユリの仲間は世界に 100 種以上あるといわれます。
その多くが日本を中心とする東アジアにあります。
ユリの品種グループは「オリエンタル系ユリ Oriental Liliy」、「アジアティック系ユリ(ス
-10-
カシユリ) Asiatic Liliy」
、
「ロンギフローラム系(テッポウユリ)
ユリ Longifrolum Liliy」の
3つに分けることができます。
アジアティック系ユリ(スカシ
ユリ) Asiatic Liliy
東アジアの大陸側、日本の北
部に分布します。
花は上向き、花弁は基部が離
れています。ウイルスには比較
的強いといった特徴がありま
す。
・
・
・
ロンギフローラム系(テッポ
ウ ユ リ ) ユ リ Longifrolum
Liliy
「テッポウユリ」とよばれる
ものです。テッポウユリはも
ともと国産(沖縄原産)の純血
種です。
大陸産のものにはタカサゴ
ユリがあります。
オリエンタル系ユリ Oriental
Liliy
日本原産のユリの原種。ヤ
マユリ、オニユリ、カノコユ
リ、ササユリ、オトメユリ、
タモトユリなど。
華やかで色のバリエーショ
ンも豊かで魅力的です。大陸
産の種に比べてウイルスに弱
いものが多いことが欠点で
す。
-10-
原種を交配した新たな品種(ハイブリッド)
O
オリエンタル系ユリ
Oriental Liliy
ヤマユリ、オニユリ、
カノコユリ、ササユリ、
オトメユリ、タモトユ
リなど。
オリエンタルハイブ
リ ッ ド 系 Oriental
hybrid
「カサブランカ」、
「ソルボンヌ」、「シ
ベリア」などが含ま
れます。丈、花とも
に大きく、香りがよ
いのが特徴です。一
方で色の多様性は小
さく、白、ピンク、
赤などがほとんどで
す。
A
L
アジアティック
系 ユ リ Asiatic
Liliy
スカシユリ
ロンギフローラム系ユリ
Longifrolum Liliy
テッポウユリ
タカサゴユリ
アジアティックハイブ
リッド系(スカシユリ)
Asiatic hybrid
主にアジア産のユリ
を親とした品種。オリ
エンタルユリと比較す
ると、香りはそれほど
しませんが、花が上向
きに咲き、黄、橙、赤、
ピンク、白など、色が
バラエティに富み、ま
た葉の形なども様々で
す。全体的に小振りで
す。価格も手ごろです。
ロンギフローラムハイブリ
ッド系(テッポウユリ)
Longifrolum hybrid
テッポウユリとタカサゴ
ユリなどと交配された園芸
種のことをロンギフローラ
ムハイブリッドと呼びま
す。花色は白で、長い筒状
の花筒(かとう)を持つのが
特徴です。シンテッポウユ
リなどはこの代表です。
現在ではピンク系のテッポ
ウや、複色系のテッポウも
あります。
・
・
・
トランペットリリー
LA ハイブリッド系
OT
ハイブリッド系 Oriental Trumpet
hybrid 黄色の色素を持たないオリエンタ
ルに、色素を持つトランペットリリーをか
け合わせたものです。蕾がラッパ(トラン
ペット)状なのが特徴です。
-11-
Longifrorum Asiatic
hybrid
ロンギフローラムハイブリッド系(テッ
ポウユリ)とアジアティックハイブリッド
系(スカシユリ)を交配して作られたもので
す。花はつぼみの状態から大きく長く、そ
ういうところはテッポウユリに似て、開く
とスカシユリの形に見えます、丈は大きく
なります。
(3)名花「カサブランカ」とはどういうユリ
か
①「カサブランカ」の生い立ち
「カサブランカ」とは、ユリの品種の名前で
す。
高石のユリを代表するユリです。
「カサブランカ」は 1950 年代に、アメリカ
で 育 成 さ れ た 品 種 で 、 1984 年 に
オランダのフレッター&デンハーン社 Vletter
and Den Haan BV(VH)が発表しました。
名前の「カサブランカ」は「白い(ブランカ)
家(カーサ)
」という意味で白い壁の家並みが続
く南ヨーロッパの風景を彷彿とさせます。
②日本人の嗜好とカサブランカ
「カサブランカ」が登場する少し前、1982 年にオランダで開催されたフロリアードにお
いて、花色が多く豪華なオリエンタルハイブリッドが展示され、会場を訪れた日本の生産者
に強い印象を与えました。
その後 1988 年にオランダ球根の隔離検疫が一部撤廃され、1990 年以降全国的に、オリ
エンタルユリの栽培が増加しました。最初が花が上向きに咲く「スターゲザー」が、その後、
「ルレーブ」
、
「カサブランカ」が登場しました。
しばらくはこの 3 品種が主力品種となり、そのなかでも、
「カサブランカ」は、当初、球
根代は 1500 円程と大変高価でしたが、市場では切り花が 3000 円程で取引されたため、生
産者はこぞってこの品種の栽培を試みました。
「カサブランカ」の登場は日本ではちょうどバブルの頃と重なり、日本人好みの純白、
豪華な花姿で一気にスターの座に駆け上りました。
有名な映画名と同じ名前は日本人にも
覚えやすかったことも大きな要因かもしれません。
花店で白いユリというと「カサブランカ」と言われるようになりました。
「カサブランカ」
は、導入当初から現在まで、市場でもオリエンタルユリを代表する品種として取り扱われて
きました。しかし、花が横向きに咲くことからアレンジ花としては扱いにくく、市場では「カ
サブランカ」にかわる品種が求められましたが、
「シベリア」や「リアルト」等多くの品種
が出ても、有名な名称を含めて「カサブランカ」を越える品種は出ませんでした。
そういう意味では花屋の使い勝手の常識を覆す「おばけ商品」と呼ばれるのも頷けます。
聞くところによると、山の手の奥様が、
「カサブランカ」ばかり、ごっそり活けるのがステ
ータス・・とか、東京でも知らない人のない有名な花店の社長さんが「全部の店にカサブ
ランカは必ず置くように。
」と言って、おいてくれているとか・・・。
バブルが弾けた後も、高級花として残しておきたいという市場や花店の意志が感じられ
る、そういう花が「カサブランカ」です。
③「カサブランカ」の商品力
上品で豪華で、そのうえ清楚です。また日持ちがよく第1花で、冬場なら 10 日以上持ち
ます。また最後の花らいまで咲ききるのでエンドユーザーにとっても嬉しい品種です。
-12-
〈コラム〉
ユリの花の構造
花びら
花びらは何枚?
一見 6 枚に見えるユリの花
びら(花弁)。
よく見ると内側に 3 枚、
花びら
外側に 3 枚ついていること
が分かります。
内側の 3 枚が本当の花びら
外側の 3 枚は「がく」になり
ます。
雌しべ
花の中央にのびている
雌しべの先端を「柱頭
(ちゅうとう)
」と言い
ます。
蝶が運んでくる花粉が
つきやすいよう、長く
伸びています。
がく
雄しべと雌しべ
花屋さんの店先でよく見るユリは
「雄しべ」を取り除いています。
これは「花粉」が手や服につかない
ようにと言う配慮から、ひとつひと
つ取り除いているからです。
白い花びらに朱色の雄しべのアク
セントがついているのが本来の「カ
サブランカ」の姿。これもまた別の
美しさです。
-13-
3
日本一「高石のユリ」を生む産地の力
(1)高知県のユリ栽培の歴史
高知県のユリの切り花栽培は戦前から行われており、篤農家の開発した技術によってテッ
ポウユリ、スカシユリの順に球根の冷蔵処理による促成栽培が始まりました(この時期は輸
出用球根栽培も行われていたようですが次第になくなりました)。
本格的にユリの切り花出荷が増加したのは、1950 年代後半(昭和 30 年代)に入ってから
です。その後、国産球を用いたテッポウユリとスカシユリの栽培は順調に増加し、県下花き
の中心的な品目になりました。主要な産地はテッポウユリが大方町と土佐市、スカシユリが
高知市と土佐市でした。
また、
自生のトサヒメユリを用いた露地栽培も始められていました。
オランダ産のユリの隔離免除以降、高知県でも、まずアジアティック系が、次に 1990 年
(平成 2 年)からオリエンタル系ユリが本格的に導入されました。「カサブランカ」を代表
とするオリエンタル系の大輪のユリは、その豪華さから、市場で高価に取り引きされ、急速
に増加して、1995 年には、オリエンタル系ユリの粗生産額がテッポウユリを抜いて第 1 位
となりました。
テッポウユリは、国産の「ひのもと」が今も主流ですが、需要の変化、球根産地の供給量
の減少などの理由により、栽培面積は減少傾向である。また、アジアティック系ユリは、球
根価格に対して販売単価が比較的低いことから減少し、
今ではオリエンタル系ユリの作付け
のローテーションの中に組み合わされることがて栽培されて導入される程に減少していま
す。
県内のオリエンタル系ユリの栽培は、当初、スカシユリの産地であった高知市や土佐市を
中心に導入され、その後急速に、県下の切り花産地に導入され、現在では、安芸市、嶺北地
区、春野町、須崎市、大方町など、広範囲で栽培されるようになっています。
(2)土佐市のユリ栽培の歴史
昭和33年
テッポウユリの促成栽培が始まる
昭和41年
スカシユリの促成栽培が始まる
平成 元年
オリエンタルユリの栽培が始まる
平成18年
産地ブランドの「ユリア」誕生
(3)土壌、水
高石
地区
-14-
川が長い年月かけて上
流から運んできた豊な土
の重なった地層を「沖積土
(ちゅうせきど)」と呼び
ます。図の青い部分が沖積
土です。高石地区は水質を
誇る仁淀川の河口近く、水
はけのよい礫の上に沖積
土が積もった扇状地に昔
からの園芸農業地帯とし
て発達しました。
農業用水は、江戸時代の高度な水利技術でつくられた「高岡疏水」から惜しげなくそそが
れます。
(仁淀川)
(豊かな水で発達した製紙業:特産の和紙)
-15-
〈コラム〉
品質に大きく影響する「吸収根」、そのまわりの土の質
ユリの品質は、球根の上に横に張った吸収根の「多さ」、
「長さ」、
「質」が左右しま
す。
ストレスなく根が伸びる「土壌」環境、生育初期はたっぷり後半はきちっと締めて
いくコントロールができる「水」の条件が、日本一の「ユリ」を育てます。
この吸収根が多く、長く
伸びるほど地上部の生
育が良く、花の品質も良
くなります。
この2本は8月下旬に
植え付けた‘カサブラン
カ’を 50 日目で掘り上
げたものです。
上の株の方が、草丈、
根の長さとも長くなっ
ています。
-16-
(4)技術力
栽培は土の準備から始まります。
土の中の害虫や病原菌対策には薬剤は
使いません。高温の蒸気で消毒します。
画像は「蒸気消毒機」
蒸気を逃がさないように全面をポリエチレン
フィルムで被覆します。
専用の畝立て機で球根を植える畝(うね)を作ります。
このあと、溝の中に球根が並べられます。
-17-
①プレ・ルーティング(芽伸ばし処理)
自然界のユリは、早春に土の中で芽を伸ばしながら1年の生長をスタートします。年末か
ら年明けにかけて出荷するユリは、
低温で眠らせていた球根を8~9月の暑い時期に植え付
けるため、
そのままでは十分に上根を伸ばすことができず良い切花とはなりません。そこで、
人工的に作った早春の環境下で芽を伸ばすことで上根の張りを良くさせています。
<写真解説>
球根の入っていたコンテナに吸水させ
たピートモスを敷き詰め、球根を並べ
ます。
10~12℃に設定した冷蔵庫の中でお
よそ 15 日間保管すると左写真の様に
芽が伸びあがってきます。
球根に近い部分の茎にぷつぷつとした突起が。これ
が上根となって伸びてきます。プレ・ルーティング
を行わないと、この部分が球根の中に留まり、土の
中に上根を伸ばすことができません。
-18-
②栽培ほ場の管理
定植
球根は1球ずつ手作業で植え付けられます。球根の列と列の間は 35cm です。
※写真は 12 月定植のため、プレ・ルーティングは行っていません。
マルチング
オリエンタルユリにとって土の表面の乾燥は大敵です。
乾燥しすぎると、地表面近くの上根が死んでしまうからで
す。表面に敷き詰めた「落ち葉」は適度な湿度を保ち、上
根が順調に伸びるのを助けてくれます。土はねを防いでく
れる効果もあり、汚れや病気の発生を防いでくれる一面も。
次の作付けには有機物としてユリの生育を支えてくれる
働き者です。ちなみに、この「落ち葉」はインドネシアか
らやってきています。
疎植・・・品質へのこだわり・・・
質の良い「カサブランカ」の条件は蕾と開いた花が大き
いことが大切と考えています。また、開いたときに花の重
さを支えることができる茎の強さを私たちは重要視しています。
芯の強さを持った切り花に
仕上げるためには健康でのびのびと育つことが必要です。そのため、上根がしっかりと張る
ための根づくりと併せて、
生育期間中に1本1本がしっかりと日光を受けることができるよ
う間隔を空けて(1㎡あたり7~8本の栽培)植え付けています。
-19-
④生育の様子
定植後の生長は早く、
毎日数センチ伸びあが
ってきます。
最初、葉は茎に巻きつくような状態ですが生長とともに太
陽の光をいっぱい受けようと開きながら草丈を伸ばしま
す。このころになると葉に包まれた先端では花芽が出来上
がっているところです。
そろそろ肉眼で蕾が見え始めるステー
ジです。
ちなみに黒いロー
プはフラワーネッ
トを支えるための
もので、ネットは
生長の過程での曲
がりを抑えるため
に使っています。
収穫時期が近づいてきました。
‘カサブランカ'の場合、定植から収穫ま
では、気温が高い時期で 70 日、寒い時期
は 110 日程度かかります。
-20-
⑤収穫作業
蕾の緑色が薄くなってくると収穫時期を迎えま
す。収穫は蕾の色を確認しながら1本 1 本丁寧
に専用の収穫ガマを使って根元近くから切り採
ります。なお、季節によって切り前(収穫のタ
イミング)を変えています。
【収穫ガマ】
1mほどの柄の先に小型の鎌が付いて
います。これを使えば、立ち並んだユリ
の間の 1 本を切り採ることも簡単。
収穫したユリは、ほ場から運び出され、出荷作業まで水揚
げを行います。
-21-
⑥出荷作業
選別・束作り
収穫したユリは、まず最初に清浄な水をたっ
ぷりと吸水させます。(4時間~一昼夜)
1本1本、輪数や蕾の付き方、茎の硬さ等を
チェックし選別を行います。その後、規格の
長さに合わせて茎を切りそろえ、下葉を取り
除きます。
5本を一束として結束し、箱詰めまでもう一
度吸水。箱詰め前に輸送中に蕾が傷つかない
ように、束毎にスリーブをかけていきます。
-22-
箱の組み立て
出荷用の段ボール箱は、一つ一つ手
作業で組み立てます。
箱詰め
輸送中の底ずれによる傷みを防ぐために、出荷用段ボール
に新聞紙を敷きます。その上に吸水させていた束を段ボー
ルに詰め、株元を粘着テープで固定します。輸送中に箱の
中で動いて傷をつけないために必須の作業です。
ボリュームのある「カサブランカ」は1箱には2束(10
本)入ります。蕾を傷つけないように交互に詰めます。
「カサブランカ」以外の品種では、15 本(3束)入りの
場合もあります。
化粧紙を掛けます。「大事に育ててきたユリをお客様にお
届けする」
、私たちのこだわりです。
段ボールの折り返しの部分に新聞紙をあてます。段ボール
の出っ張りで蕾を傷つけないための工夫です。
箱詰めが済むと JA の予冷庫へ。予冷庫は 12℃に保たれて
おり、高温や低温による傷みを防いでいます。
なお当産地では、お買い上げいただいた後のごみの分別や
作業中の怪我の発生を考慮し、BBバンドで出荷箱の結束
はいたしません。
-23-
(5)切磋琢磨
-目慣らし会-
切り前や規格毎の品質を揃えるため、定
期的に目慣らし会開催しています。
目慣らし会はどなたでも自由に参加してい
ただいて OK です。
※出荷期間中の月曜日、木曜日、午前 11 時
に開催
(6)環境への配慮
-ヒートポンプ-
高知県では、冬の暖房は重油加温機が一
般的ですが、高石ではいち早くヒートポン
プを導入し、CO2 削減にも取り組んでいま
す。
(7)花屋さんとの交流
年に数回、花市場の皆さんが花屋さんを引き連れて産地へ来てくださっています。個人で
来られる花屋さんもあります。私たちは、皆さんの来訪を心待ちにしています。
-24-
4
作型別
栽培日記
【10 月下旬~11 月収穫】
○月○日 定植直後(草丈 20cm 前後)
約2週間のプレ・ルーティングが終わ
り、今日、定植をした。
植え方は、植え溝に1球ずつ丁寧に並
べた球根に土をかけ、畦の上面を平らに
する。
球根が均等に埋まると、球根と球根の
間に上根が伸びるスペースが確保でき
る。
プレ・ルーティングの間に曲がった茎
も、圃場で生育するうちに自然に真っ直
ぐに治ってくる。
○月○日 定植後5日目
今日は乾燥防止のために落ち葉を全
面に敷き詰める作業だ。
ユリはようやく葉が開き始め、緑が目
立つようになってきた。
予想どおり定植直後に目立っていた
茎の曲がった株は目立たなくなってい
る。
-25-
○月○日 定植後 12 日目
先日の大雨で浸水があり、たいへ
んだった。
すぐに排水作業を行ったので大事
にはならなくて一安心だ。
○月○日定植後 14 日目
この時期のユリの成長は早い。
この2週間で 40cm 以上伸びている。
表面からは蕾の姿は見えないが、この
程度まで生長すると生長点付近では花芽
分化が進み、蕾の数も決まってくる。
-26-
○月○日 定植後 26 日目
ユリの上根は過湿に弱い。
土の中の水分が多い状態が長く続く
と根痛みをおこしてしまい、ボリュー
ムがある切り花が出来ない。
だから水管理には気を使い、曇雨天
が続いた場合、かん水をやや控えめに
して管理している。
今日は雨の翌日、急に晴れたので写
真のように葉が垂れてしまっている。
でもうちの圃場では大丈夫。根がしっ
かりと張っているので1回のかん水で
すぐに回復する。
○月○日
定植後 41 日目
葉につつまれて生長してきた蕾が姿
を見せた。ほ場のほとんどのユリが1
~2cm の大きさの蕾をつけている。
ここまでくると収穫まであと1カ月
弱といったところ。
咲くときは横向きの「カサブランカ」
の蕾もこの時期は上を向いている。面
白い。
-27-
○月○日 定植後 56 日目
ずいぶん大きくなった。
蕾の大きさは5~6cm といったところ
だろうか。
2週間前には上向きだった蕾は下向きに
変わっている。
収穫まであと 10 日。ラストスパートだ。
○月○日 定植後 63 日目
いよいよ収穫直前だ。
緑の濃かった蕾の色が白みを帯び
ると収穫する。
○月○日 定植後 70 日目
収穫は定植後 66 日目から始まっ
た。
今日は収穫が始まって5日目、す
でに4割程度が収穫済みとなってい
る。この時期の収穫は短期決戦だ。
手前に残って見える株も夕方には
収穫する。
-28-
5
高石のユリの作り手たち
私のこだわり
誇りをもって
作っている。
6
ユリによせる思
い
我が子を育て
るように
こんな夢を
持っている
こんな工夫、知
って欲しい。
高石のユリの未来
オリエンタルユリの栽培は、
これまではどの産地も1本当たりの切り花単価の高値をねら
って栽培してきました。
しかし、最近では、
「品種を選び、裁植密度をできるだけ低くして品質を高め、高単価を
得ようとする産地」と、
「販売価格と裁植密度を考慮しながら地域の状況に合わせた栽培を
する産地」に分かれてきています。どういう切り花を生産するかの戦略が重要になってきて
います。いずれにしても、品種特性を考慮して日持ちの良い、品質の良い切り花を生産する
ことが基本です。
(1)次世代の作り手達
-29-
(2)高石のユリ農家が提案する「ユリのあるくらし」
①さまざまな生活シーンに
-30-
②新しい贈り方、贈られ方
専用の箱にてお届けします。
【参考文献】
日本のユリ
清水基夫
誠文堂新光社
植物と自然
ニューサイエンス社
園芸植物事典
土壌図
-31-