-1- 『給料・賃金の決め方』

農業経営における労務管理③
『給料・賃金の決め方』
規模拡大や法人化に伴い雇用労働者を抱える農業経営体が年々増加しています。しかし、
給料を始めとする就業条件に対する不満から辞めていく雇用労働者が多いのも事実です。
そのため、今回は給料・賃金に決め方について簡単に紹介します。
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賃金体系
賃金体系とは、従業員の賃金額を決める仕組みをいいます。賃金は大きく月例賃金(月給)
と賞与(ボーナス)に分けられます。また、月例賃金は基本給と各種手当から構成され、手当
は所定内手当(正規の勤務時間内の労働に対して支払われる手当)と所定外手当(時間外や休
日の労働に対して支払われる手当)から構成されます。(図1参照)
賃金体系の例
月例賃金
基本給
所定内手当
管理職手当
固定残業手当
調整手当
家族手当
通勤手当
賃 金
手 当
所定外手当
賞 与
図1
時間外手当
休日手当
深夜勤務手当
一般的な賃金体系
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賃金水準の考え方
賞与は企業に利益が出た際に支給する賃金であるため、
月例賃金の水準はたとえ企業に利益が出なくても従業員
が最低限生活していけるレベル以上の額が確保されてい
るべきです。また賃金は、経営者から見れば企業活動を
を行うコスト(人件費)であり人材への投資に当たりま
すが、一方で従業員の側から見れば労働力の提供に対す
る報酬であり、生活の原資となる金銭です。
大切なのは、右図における3つの側面のバランスが取
れていることです。(図2参照)
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生活費
給 与
労働力
の対価
企業活動のコスト・人材投資
図2
給与のバランス
月例賃金の決定要素
月例賃金は、基本給と手当から構成されますが、それぞれの意味を以下に整理しました。
決定要素
業務の内容
職務遂行能力
業務生産性
必要とする生活費
労務管理的配慮
具体的内容
・責任の程度
・専門知識、技能、技術、資格等の必要度
・業務場所における物理的条件(騒音、高温
ほこり、汚れ、危険、屋外での作業など)
・会社にとって価値のある職務能力や経験等
・企業業績、個人の業務効率
・標準生活費、扶養家族の人数
・勤続年数、通勤負担、退職後の生活保障
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左に対応する給与
役職手当
職務手当
特別手当
基本給
基本給・賞与
基本給・家族手当
基本給・(退職金)
経営面からみた給与水準の考え方
企業にとって従業員の給与をどのように決めるのかは難しい問題ですが、決算書の数値から
人件費の総額を決める方法があります。以下に紹介する「労働分配率(企業が稼ぐ付加価値の
にん じ
従業員への還元割合)」と「人時生産性(労働1時間当たりの付加価値額=従業員の働き方)」
の二つの見方により、経営状況に基づいた適正な人件費の水準を考えることができます。
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(1)労働分配率 〔企業が生み出した付加価値のどれだけを人件費に使っているかの指標〕
労働分配率は、付加価値に占める人件費の割合です。一般的に人件費を多く支払えば従業員
の勤労意欲は高まりますが、高い人件費は企業経営を圧迫します。一方、経営を優先して人件
費を減らすと従業員の勤労意欲は下がり、優秀な人材は企業から離れていきます。
人件費は、製造原価における賃金・賞与・雑給・法定福利費・福利厚生費、と販売および一
般管理費における給料・役員報酬・役員賞与・法定福利費・福利厚生費・退職金などの合計額
です。また、付加価値は人件費に賃借料・リース料・減価償却費・租税公課・支払利息・経常
利益を加えた合計です(以上、日本政策金融公庫方式)。なお、栽培する作目により労働者へ
の労働依存度(労働集約度)も変わるため、労働分配率は作目で違いが見られます。
営農部門別の労働分配率の目安として、日本政策金融公庫による「農業経営動向分析結果」
(表1に引用)があります。
もし、ご自身の経営における労働分配率が高いのであれば、人件費ではなく付加価値(利益)
の減少が影響しているかも知れません。労働分配率を下げる方法は、人件費を下げるもしくは
利益を増やすのどちらか(もしくは両方)ですが、人件費の引き下げは従業員のモチベーショ
ンを著しく低下させるので、通常は利益アップを目指して経営改善に取り組むことになります。
逆に労働分配率が低すぎる場合は、人件費を増やしてあげたいところですが、今後の経営見
通しもあるため、一度上げてしまったら下げにくくなる月例給ではなく、賞与や福利厚生費の
部分で人件費の支出を増やす方法も検討されてはいかがでしょうか。
用
語
人件費 = 賃金・賞与・雑給・法定福利費・福利厚生費・退職金・役員報酬などの合計額
付加価値 = 経常利益+人件費+賃借料・リース料+減価償却費+租税公課+支払利息
表1
法人経営における労働分配率〔日本政策金融公庫による融資先調査〕 (%)
第1位部門
稲作
果樹
露地野菜 施設野菜 施設花き
酪農
肉牛肥育 養豚一貫
平成 23 年
36.3
75.9
69.0
66.8
71.2
41.3
35.1
56.9
平成 24 年
37.5
73.6
71.2
68.2
73.2
42.6
34.0
58.7
平成 25 年
42.3
73.3
68.6
69.8
71.9
43.6
37.7
53.3
※第1位部門:稲作部門は北陸4県の数値、園芸部門は全国の数値、畜産部門は都府県の数値
※資料出所 : 平成 25 年 農業経営動向分析結果 日本政策金融公庫農林水産事業
にん じ
(2) 人 時生産性 〔労働1時間当たりどれだけ付加価値を稼いでいるかを表す指標〕
人時生産性は、労働者が効率よく働いているかどうかをチェックする指標です。〔計算式は
付加価値÷総労働時間(円)〕。一般的に人時生産性は 4,000 円以上が必要といわれていますが、
これも業種によって大きな差が見られます。
人時生産性を高める方法は、付加価値を向上させるか総人時(労働時間数≒従業員数)を削
減するかです。しかし、労働時間(特に労働者数)を単純に削減すれば、生産量や品質の低下
が発生しますので、総人時の削減方法を目指す場合は従来の作業システムの見直しを行うこと
になります。具体的には、ムリ、ムダ、ムラのない作業計画づくりから始めます。
5 公表資料を参考にした給与水準のめやす
(1)世帯人員別標準生計費
人事院が調査している標準生計費は、従業員が家族を養っていける給与水準を考える参考に
なります。望ましい給与額は、給与の手取り額が標準生計費を上回っていることです。
(表2)
表2 標準生計費(円/月)人事院・人事委員会 平成 25 年 4 月調査
世帯人数
1人
2人
3人
4人
5人
新潟市
126,820
174,950
201,520
228,060
254,640
全国
120,800
168,720
195,220
221,680
248,150
農村地域推計
107,800
148,700
171,300
193,850
216,440
※農村地域推計の数値は、新潟市の 85 %で単純に算定した金額
(2)年齢に応じた賃金額の変化
世帯人員が暮らしていくために必要な1月当たり生計費の目安が標準生計費ですが、給料額
は勤続年数に応じて上昇していくのが普通です。新潟県における年齢別給与の目安として、県
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労政雇用課が調査公表している「年齢階級別
所定内賃金カーブ」があります。(図3)。
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新潟県賃金労働時間等実態調査(平成24年)
図3
年齢階級別所定内賃金カーブ
①新卒初任給
表3
新卒初任給・昇格上限基準表
学卒区分
新卒格付け
初任給
高校卒
2等級1号俸
145,000 円
短大・専門学校 2等級8号俸
152,000 円
大学卒
3等級1号俸
159,000 円
③ 基本給表の例
表5
号俸
給料表を活用した給料額の決定方法
以上のような公表資料や世間の相場を参考
にして給与水準を決めますが、毎月の賃金は
基本給と所定内手当の合計です。所定内手当
は、作業の危険性や家庭状況といった基本給
だけではカバーできない賃金格差を是正する
目的もあるため、賃金支給総額を8:2や9
:1等の割合で分割し、それぞれ基本給と所
定内手当にあてると良いでしょう。(※所定
外手当は別途支給)
なお、給料表については以下の(表3~5)
を参考にしてください。基本給表の使い方で
すが、年功的運用(1年毎に1号俸ずつ昇給
させる)の他、人事評価制度を導入して労働
意 欲の向上を 図る場合にも活用できますの
で、一度作成されてみてはいかがでしょうか。
等 級
昇給ピッチ
昇格昇給
モデル年数
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
② 昇給昇格
表4 人事評価を反映させた昇給モデル
人事評価
昇給
昇格の基準
A
2号俸
A評価が3回で上位
B
1号俸
の級に昇格する等の
C
据え置き のルールを決めます
基本給表(月額)
1等級
800
-
10
134,000
134,800
135,600
136,400
137,200
138,000
138,800
139,600
140,400
141,200
142,000
2等級
1,000
3,000
10
145,000
146,000
147,000
148,000
149,000
150,000
151,000
152,000
153,000
154,000
155,000
〔引用ならびに参考資料〕
○農業分野の給与体系および給与水準の目安
○農業の従業員採用・育成マニュアル改訂版
3等級
1,200
4,000
10
159,000
160,200
161,400
162,600
163,800
165,000
166,200
167,400
168,600
169,800
171,000
平成 24 年 4 月
平成 22 年 6 月
4等級
1,400
5,000
10
176,000
177,400
178,800
180,200
181,600
183,000
184,400
185,800
187,200
188,600
190,000
(円)
5等級
1,600
6,000
10
196,000
197,600
199,200
200,800
202,400
204,000
205,600
207,200
208,800
210,400
212,000
鹿児島県農業会議
全国農業会議所
なお、全国における業種別給料の相場等を知りたい方は以下の URL を参考にしてください。
国税庁 HP より 業種別及び年齢階層別の給与所得者数・給与額(平成 25 年)
http://www.nta.go.jp/kohyo/tokei/kokuzeicho/minkan2013/pdf/12.pdf
【経営普及課農業革新支援担当(経営)
-3-
高橋一裕】