大気へ排出された鉛の沈着による土壌汚染可能性の評価 グェン ティー ランビン*・小林 剛*・亀屋 隆志*・高橋 ゆかり** * 横浜国立大学大学院環境情報学府, ** 富山国際大学現代社会学部 「多様な化学物質の沈着による土壌汚染」の可能性 1. 背景・目的 5000 大 環境省 4500 気 「土壌汚染事例及び対応状況に関する調査結果」 4000 排 出 3500 基 3000 準 重金属等 86% 3000 2500 2000 土 2000 0 ) 土壌汚染を放置して汚染が広がると、対策に大きな 労力や時間を要するため未然防止が重要となる。 現在も汚染が進行している汚染原因として、 「大気に排出された有害物質の沈着」が考えられる。 カドミウム カドミウム カドミウム 鉛 土 壌 3汚 染 し 2 や す さ 1 粒子状物質成分として排出が想定される化学物質の 大気への排出基準と土壌汚染対策法指定基準から、 「沈着による土壌汚染の起こりやすさ」を相対評価した。 数値大:大気排出されやすく、土壌汚染しやすい(要懸念) 雨 乾 性 沈 着 4 土 壌 溶 1 出 量 基 0 準 鉛 鉛フッ素 フッ素 フッ素 ダイオキシン ダイオキシン ダイオキシン 2 壌 1500 含 1500 1000 有 1000 500 量 500 基 0準 0 ) 問題 3500 )÷( 汚染原因の 不明件数 60% 2500 4000 沈着量 5 大 気 4 排 出 基 3 準 4500 )÷( 汚染原因の ある件数 40% VOC 14% 5 ( ( 5000 輸送・拡散 湿 性 霧 沈 着 雪 研究方法 ADMERによる年間沈着量推算 土壌含有量の測定 土壌溶出量の測定 土壌汚染 地下水汚染 目的 本発表では排出源周辺で採取した土壌中の鉛を測定し、 沈着量と土壌中含有量・溶出量との関係を調査・解析し、 鉛の沈着による土壌汚染の可能性を評価するとともに、 汚染未然防止のための管理の必要性を提示する。 2. 方法 2.1. 土壌中の鉛の測定方法 2.2. 大気に排出された鉛の沈着量の推算と評価 土壌溶出量:土壌中の鉛の水への溶け出し易さ (地下水汚染の指標) 土壌含有量:土壌中の鉛の量(手から口、皮膚からの摂取) (表層土壌汚染の指標) 土壌溶出量 土壌試料 約10g-dry 凡例 イオン 交換水 振とう6時間 200spm 重量体積比 2 g/m /sec 1:10 土壌含有量 静置20分 振とう機 2 g/m /year -7 1.0× 10 ろ過 メンブランフィルター 0.45μm 検液 15ml 16.0 振とう2時間 200spm -7 2.0×10 塩酸 6.2 静置20分 土壌試料 1mol/l 約3g-dry -7 5.0×10 遠心分離20分 3000rpm 遠心分離10分 3000rpm 検液 15ml 振とう機 1.6 5.0×10 重量体積比 2.0×10 分 析 ろ過 結 メンブランフィルター 果 0.45μm 3.1 -8 3:100-8 ICP/MSで 定量分析 0.6 3. 結果・考察 1.0× 10-8 0.3 3.1. 推算年間沈着量と含有量の測定結果 含 有 量 測 定 結 果 16.0 6.2 3.1 1.6 0.6 0.3 基準超過 年数(年)※ 0.7 1.7 3.4 6.6 17.5 35.0 基準値の5倍以上 基準値の2倍以上 基準値の以上 基準値の半分以上 基準値の20%以上 基準値の20%未満 (含有量基準150mg/kg) 鉛の排出源: 1) 事業所1 (500kg/year) 2) 事業所2 (2.2 kg/year) 2 ADMERモデルを用いた推算・解析の流れ 〈対象物質〉鉛 〈計算範囲情報〉 計算メッシュ数 (50×50) 計算準備 〈気象データ〉 Amedas 及び日射量と曇量データ 解析対象となる計算範囲の作成・選択 (平成23年度の気象データ) 対象範囲の気象データの作成 〈排出量データ〉 平成23年度の大気に鉛を排出した 対象物質のグリッド排出量データの作成 PRTR届出事業所及び届出排出量 含有基準値の5倍以上 〈計算パラメータ〉 計算実行 含有基準値の2倍以上 分解係数: 0.00 (/sec) 計算に用いるデータ、パラメータの確認 バックグラウンド濃度: 0.00 (g/m ) 含有基準値の以上 乾性沈着速度: 0.35 (cm/sec) 計算実行 洗浄比: 87 (-) 含有基準値の半分以上 結果確認・計算解析 含有基準値の20%以上 〈計算結果を用いた解析・評価〉 計算結果の確認 全沈着量の濃度分布の確認 含有基準値の20%未満 計算結果を用いた解析 推算結果と実測結果との関係の評価 3 3.2. 溶出量の実測結果と含有量の測定結果 1 0.1 0.1 溶出量(mg/l) 推 算 年 間 沈 着 量 凡例 g/m2/year ADMERモデル:産業技術総合研究所の曝露・リスク評価大気拡散モデル 今回の調査 溶出量基準値 0.01mg/L 0.01 0.01 含有量基準 値150 mg/kg 200m ※表層5cmの土壌中含有量が基準超過するまでの年数を 推定 通常の鉛汚染土壌の測定結果1) 0.001 0.001 11 10 100 1000 推算年間沈着量が多い地点では、鉛含有量が高く、 1000 10 100 排出源から離れるほど、沈着量も土壌中含有量も小さくなる傾向が見られた。 含有量(mg/kg-dry) 推算年間沈着量と土壌中含有量の分布の分布は良く一致し、 US EPA報告(1986)では、採掘場や精錬所から大気に排出される鉛は、 大気に排出された鉛の沈着が含有量基準超過の原因となることが示唆された。 主に鉛-硫黄化合物(PbS、PbSO4、PbO-PbSO4)の化学形態である。 この事業所では、数年間の沈着でも基準を超過する懸念があることが示唆された。 今回の測定地点は、精錬所の周辺の地表面の土壌であり、 鉛等の土壌汚染物質について、 特に、溶解度の小さいなPbOやPbS等の形態で直接土壌に沈着したため、 大気への毒性重みづけPRTR届出排出量の多い事業所では、 含有量基準の超過倍率が、溶出量基準の超過倍率より大きくなったと示唆された。 「ADMERでの推算沈着量が多い地点を中心に汚染実態を調査」することや、 今後、形態別の鉛分析も試みたい。 「排ガス対策の強化」が重要であると考えられた。 4. まとめ 1)亀屋・大橋ら、(2009)汚染土壌中の鉛の含有量と溶出量の関係とpH影響、環境工学研究論文集、vol.46、p.299~305 鉛を大気に排出する事業所周辺で、土壌の測定結果と大気からの沈着量の推算結果とを比較し、年間推算沈着量が多い地点で土壌基準を超える地点が見られた。 事業所から離れ漏洩等による直接の土壌汚染の可能性が低い地点でも基準超過があり、大気に排出された有害化学物質の沈着は土壌汚染の一因となることが示唆された。 → 土壌汚染未然防止のためには、大気からの沈着による土壌汚染にも注目して、排出基準の強化の検討のような法対応も必要である可能性が示唆された。 また、今後、大気への毒性重みづけPRTR 届出排出量の多い事業所では、土壌汚染物質の種類毎に大気排出量の要懸念レベルを検討し、提案する研究を進めたい。 謝辞 : 本研究は、JSPS科研費26281047の助成により実施された。ここに記し、謝意を表します。
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