養殖漁場における魚病ハザードマップの構築に向けて 愛媛大学 農学部 海洋生産科学特別コース4回生 田中 俊也 背景・目的 現在の魚病対策 愛南町は魚類養殖が盛んに行われている地域です。しか し、魚類養殖で問題となっているのが魚病被害です。右のグ ラフは愛南町における魚病診断件数の推移で、毎年1000件 以上の診断が行われています。このように魚病被害は慢性 化しており、安定的な養殖生産を行う上で大きな障害となっ ています。また、その被害額は全国で推定90億円(平成20 年)と見積もられています。 2000 定期採取 魚病発症 魚病予測 海水・底泥 対策 地域特性 季節・水温 養殖業者の 経験・勘 1600 診断件数 1400 1200 1000 800 600 対応の遅れ 予防対策 400 200 早期治療 被害・コスト 短期投薬 大幅低減 早期発見 発症 1800 魚病対策の新システム構築 定期 魚病診断 愛南町における魚病診断件数の推移 0 平成20年度 平成21年度 平成22年度 平成20年度21 平成23年度 22 23 平成24年度 24 病気の発症 ワクチン接種・消 毒 密度調整・生 簀移動餌止めなど 平成25年度 25 蔓延・長期化 予防対策 餌止めなど 本研究では 病原体量(海水・底質)と魚病発生との関連性を解析 地図上に魚病リスク情報 (予報・注意報・警報・発症の有無) ハザードマップ作成の基盤情報 方法 測定項目 病名 イリドウイルス症 エドワジエラ症 心臓へネガヤ症 ノカルジア症 類結節症 白点病 脳粘液胞子虫症 筋肉クドア症 食中毒 地点:町内4海域 期間:2013/8~ 2014/11 海水-毎週 底質-3ヶ月毎 結果 10 100 10 1 0.1 0.01 尾数 1000 22 18 14 10 4 底質 100 10 1 4 5 5 6 5 7 6 2013 8 9 7 10 8 9 10 12 1111 12 11 22 33 44 55 66 77 88 10 9 9 10 11 11 12 4 1 2014 2013/8月 2013/11月 2014/2月 2014/5月 2014/8月 2014/11月 91×10⁴ 43×10⁴ 6×10⁴ 209×10⁴ 351×10⁴ 532×10⁴ 55×10⁴ 247×10⁴ 117×10⁴ 360×10⁴ 551×10⁴ 190×10⁴ 318×10⁴ 299×10⁴ 144×10⁴ 446×10⁴ 615×10⁴ 751×10⁴ 291×10⁴ 735×10⁴ 914×10⁴ 559×10⁴ 1383×10⁴ 634×10⁴ 海水 春~秋に高い 底質 6 7 2013 80 60 0.1 40 10 7月29日 8月28日 9月27日 10月27日 当歳魚に 感染 B 2526 1915 1858 15386 27530 1395 C 1618 2603 2867 4324 3556 973 D 14710 10126 8128 6187 55473 5114 中 <1000 ○ ノカルジア症 ○ 白点病 ○ 心臓へネガヤ症 × エドワジエラ症 ○ クドア属 × イリドウイルス症 - 類結節症 底質 貧毛類 >3000 診断 夏から秋に高い 一部海域で高く地点で 異なるパターン 現在種を同定中 感染ルート・メカニズムの 解明が不可欠 台風 26 22 18 20 14 0 10 11月26日 白点病の定期調査外の地点 循環 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 保菌状態 で年越し D 2671 3362 <1000 1370 2448 ・海洋物理情報 (海流など) 8 9 10 海水 底質 春~夏に高い 秋に高い 11 魚間 魚 魚 循環 底質 >3000 正 確 な 病 原 体 の 動 態 海流の 影響? 20m 1757 診断 底質と同時に増 発生メカニズムの解明 外 部 か ら の 感 染 8110 中 1000~3000 高 ・気象情報(台風など) ・養殖魚の生理状態 7 平均 2013/8月 2013/11月 2014/2月 2014/5月 2014/8月 2014/11月 A 961 2730 699 B 3358 327 2045 5510 638 C 778 2446 631 4731 1818 ・水温変動 ・病原体の病原性 6 2014 ハザードマップの構築 ○ 診断数と病原体数が連動 海水 診断数より先に 海水 ○ 病原体数増加 底質 底質 ○ 深さと混合に関係 発生海域の底生生物から 底質 ○ 検出 海水 × 越年魚から発生 × 検出されず 効率的なウイルスの回収法を開発 -中 高 1000~3000 魚類 30 モニタリング結果 関連性 へネガヤ DNAを検出 11 2165 今後の課題と展望 考察 10 4626 越年魚から当歳魚に一連のサイクル 病名 9 1483 低 計測結果 水質 底質 8 2014/5月 2014/8月 2014/11月 2013 水温上昇に 菌の増加 より発病 7 3799 4 保菌状態 の越年魚 6 遺伝子数/m L 1 6月29日 5 台風 100 5月30日 4 診断数より先に海水中の病原体の 検出頻度が増加傾向 120 4月30日 3 140 10 0.01 3月31日 2 1306 海水 夏に高頻度 水温(℃) 細胞数/mL 水温(℃) 14 1 診断尾数 18 12 白点虫(マダイ:白点病) 診断尾数 22 当歳魚増加 11 2014 160 当歳魚(0才) 越年魚増加 越年魚(1才以上) 10 2013/11月 2014/2月 エドワジエラ菌(マダイ:エドワジエラ症) 30 9 771 病原体数、診断数が2014年に高い 100 8 A 低 診断 菌数と共に高い 2014年8月に高い 5 平均 2013/8月 低 <100×10⁴ 中 100×10⁴~500×10⁴ 高 >500×10⁴ 26 粘液胞子虫ミクソボルス の生活環 0.1 0.0001 地点 A B C D へネガヤの生活環は未解明 10000 26 0.001 地点D 遺伝子数/mL 14 遺伝子数/mL 18 100000 30 1000 へネガヤ胞子(マダイ:心臓ヘネガヤ症) 診断尾数 水温(℃) ノカルジア菌(ブリ・カンパチ:ノカルジア症) 診断尾数 地点B 地点C 22 DNA抽出 底質:0.5~1.5g(乾泥重量換算) 水質:50ml 寄生虫 水温 10000 30 リアルタイムPCR (TaqMan法) 遺伝子の 種類と量を測定 類結節菌(ブリ・カンパチ:類結節症) 26 地点A 分類 ウイルス 細菌 寄生虫 細菌 細菌 寄生虫 水温(℃) 海水 病原体の測定方法 海水・底泥採取 循環阻止 30m 水深が浅いと サイクルが早 くなり発病し やすい 40m 同じ水深でも発 症レベルが異なる 水深が深いと循 環を阻止できる 海流の影響? 台風、気温低下による鉛直混合によって 底質中の病原体が撹拌が原因? 魚病の発症予測 魚病の発生源を絶つ より確実な魚病対策 ↓ 効率的・安定的な 養殖生産の実現 謝辞 本研究では海水、底質の定期 採取に、安高水産(有)、マルスイ (有)、中谷水産(有)、中田知公 氏、久良漁業協同組合、愛南漁 業協同組合、愛南町海洋資源開 発センター、吉原勇作氏、伊藤克 敏氏、羽野健志氏のご協力のも と行っています。さらに、調査に 関してご助言を賜りました浦崎慎 太郎氏に厚く御礼申し上げます。 なお、本研究課題は平成24年度 文部科学省地域イノベーション戦 略支援プログラム、平成26年度 愛媛大学COC教育志向研究経費 により実施されています。
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