2015.11.05

北斗 2 衛星と情報化戦争
漢和防務評論 20151030 (抄訳)
阿部信行
(訳者コメント)
中国は、GPS、GLONASS、ガリレオに対抗する独自の衛星航法システム(北斗 2)
を着々と築いています。
中国は 2000 年代初期に、技術を入手すべく欧州のガリレオ計画に接近しようとし
ましたが米国の反対で拒絶された歴史があります。その報復のためか、北斗 2 は
ガリレオと共通の周波数帯を使用しているとのことです。
中国の戦略としては、北斗 2 衛星航法システムを利用できる安価な武器を当面は
アジア中心に大量に輸出し中国製武器を中心とする準同盟国を増やそうとするで
しょう。また中国は、独自の衛星航法システムを構築すると同時に、相手の衛星
システムを破壊する武器を開発しています。米中間が戦争に発展した場合は、ま
ず最初に相互に航法衛星を破壊しあうことになる、と KDR 誌は指摘しています。
本誌編集部
中国の北斗 2 衛星航法システム (BD-2) とロシアの GLONASS 衛星航法システム
連接の動き(航法基準の統一化)及び 2013 年の中国からパキスタン、タイ国への
北斗衛星航法サービスの提供開始、また同時に両国に対し潜水艦輸出を推し進めて
いること等から、中国の BD-2 は、単なる全球衛星航法システムではなく、この地
域の軍事力を高品質に改変し、中国製武器装備の輸出を促進し、はては中国を中心
とする準軍事同盟を建設するための重要な工具と見ることができる。
BD-2 は、すでに 17 個の衛星を打上げており、また 2015 年には 3 乃至 4 個打上げ
の予定で、現在すでにアジア地区に航法サービスを提供できる能力を持つに至って
いる。2020 年には、全部で 35 個の衛星が揃い、全球サービスが可能になる。その
時点の精度誤差は 2 M 以下であると、設計者は述べた。2015 年 3 月 30 日に打ち
上げられた衛星は、新時代の BD 航法衛星と称し、衛星間にデータリンクを構築す
る能力がある。
BD-2 は、迅速に軍用化されている。2015 年 2 月 11 日の官方報道によると:総参
謀部は、2 月 5、6 日に広西省で行われた北斗航法衛星利用の作戦運用演習におい
て BD-2 体系化の成果を展示した。演習科目は、主として:ネットワーク指揮、精
確な定位、遠距離情報伝送、戦場態勢共有等々であった。報道内容は、BD-2 を誘
導武器運用に使用することについて触れてはいない。しかしこの演習中に第一世代
の誘導武器のテストを行ったのかどうか?注意する必要があり、演習の主催が総参
謀部であったことにも注目すべきである。
中国及びパキスタンの戦略部隊は、ロケット、誘導弾等々の装備品には GPS を利
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用しない。パキスタンの戦略ミサイル部隊の消息筋は、カラチの武器展示会でこの
ように述べた。また上述の報道は:BD-2 が 2012 年に完成して以来、すでに中国
軍の作戦及び訓練で全面運用されている、と述べた。
民用版の BD-2 は、2013 年にタイ、ミャンマー、ラオスに対するサービス提供を
開始した。北斗は、2014 年に、タイに地上の増強ステーションを建設した。計画
では 3 年以内に 220 個の地上ステーションを建設する。BD-2 は、タイ国内の定位
精度がミリメートルのレベルに達する。中国官方によると:BD-2 は、2020 年以前
に ASEAN の 10 ヶ国に 1000 個の増強ステーションを建設する計画である。そし
て GPS 市場の三分の一を脅かすことになるだろうと述べている。
中国官方の設計者は:開発の次の段階では、BD-2 は武器誘導を行うであろう、と
述べた。今年のパリエアショーで、パキスタンが展示した JF-17 の搭載武器に 2 種
類の GPS 誘導爆弾があった。
”現在 BD-2 誘導システムは未だ採用されておらず、
現在中国と交渉中である。今後の誘導武器は、BD-2 を採用する”とのことであっ
た。
BD-2 を開発する前に、中国は 3 個の BD-1 航法衛星を打ち上げた。それぞれ、2000
年 10 月 31 日、12 月 21 日、2003 年 5 月 25 日のことである。これらは軍事目的
に利用できなかった。高速移動プラットフォームでは使用できなかったからである。
2007 年から、BD-2 の打上げを開始した。2012 年 10 月、16 番目の BD-2 衛星を
打ち上げ、アジア地区の大部分で航法サービスが提供出来るようになった。この中
には朝鮮半島を含む特に敏感な南アジア亜大陸(注:スリランカ、モルジブ、イン
ド、バングラディッシュ、ブータン、ネパール)を含んでいる。パキスタンには、
すでに BD-2 の地上受信ステーションを建設した。次の段階は、更に多くの地上増
強ステーションを建設することになる。
BD-2 は、軍事面から見れば、パキスタン及び北朝鮮の軍事力向上に大きく寄与す
る。もし北朝鮮が、BD-2 を自力生産した新型弾道ミサイル潜水艦に利用したなら
ば、北朝鮮の海上発射弾道ミサイル (SLBM) の打撃能力は大幅に向上する。北京
の電子工業展覧会で、北朝鮮の軍関係者が BD-2 の各種展示を頻繁に訪問し、関連
資料を入手しようとしているのを KDR 記者は注目した。
KDR の経験から言えば、北朝鮮の軍事技術関係者が、ロシア及び中国の各種軍事
展覧会に参加するのは、任務のためであり、重点は研究開発である。
パキスタンのカラチには、5 個の基準ステーションと、1 個処理センターが建設さ
れた。リアルタイムの定位精度は 2 ミリメートルである。処理後の精度は 5 ミリメ
ートルである。中国とパキスタン双方は、衛星航法領域の協力協定に署名(2014
年)した。第二期工程は、BD-2 の定位範囲をパキスタン全域に広めることである。
次の段階で、パキスタンは、BD-2 の運用を戦略ミサイル部隊の武器にまで拡大す
るだろうか?注目すべきである。現代の情報戦争は、まず第一に定位であり、精確
誘導である。BD-2 は、パキスタンにとって安心して戦略ミサイル部隊及び潜水艦
部隊の作戦武器に使用することが出来る。
その後、
逐次 BD-2 の技術向上に伴って、
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自ら BD-2 誘導ミサイル及び爆弾を開発することになる。一旦、パキスタン全域が
BD-2 のサービス範囲、定位範囲になった場合は、JF-17 戦闘機も利用可能になる。
NATO が統一した作戦が出来るのは、GPS の”情報聯盟”があるからである。今
後、BD-2 の効用はこれと同じであろう。BD-2 を使用する国家は、自然に中国の”
準軍事同盟国”となる。
パキスタンが開発した全ての地対地ミサイル及び巡航ミサイルは、戦略ミサイル部
隊が統括している。これらの兵器は、慣性誘導のみを利用しており、過去にカラチ
で展示された。巡航ミサイルは、地形追随誘導を採用している。これらの戦略兵器
の打撃精度を高める手段は、第一、自らの位置を精確に定位すること。この段階は、
パキスタンの BD-2 第二期工程が完了すると実現する。第二、ミサイルのミッドコ
ース段階で BD-2 の定位技術を採用することである。たとえパキスタン国内で採用
されたのだとしても、打撃精度を大幅に向上させることが出来る。
パキスタンは、6 乃至 8 艘の S-20P 型ディーゼル潜水艦の導入をすでに決定した。
この決定は、BD-2 がパキスタンに建設されたことと関係がある。タイ国も将来、
同じ決定を行うであろう。これらの潜水艦が BD-2 によって精確に定位を行い、ま
た発射された巡航ミサイルが飛行中のミッドコースで定位が出来れば、打撃精度は
飛躍的に向上する。潜水艦の活動の効果も高まる。更に注意すべきことは、パキス
タンが軍用版の BD-2 を獲得する最初の国家になる可能性が極めて高く、イスラマ
バードと北京の軍事的関係は、早い時期に準軍事同盟の域に達することである。
すでに BD-2 を使用しているラオス、ミャンマー、タイ国は、多くの中国製武器を
輸入する可能性がある。将来は BD-2 誘導ミサイル及び爆弾が含まれるであろう。
BD-2 の全球的運用は、中国製戦闘機及び艦船の今後の商業輸出に相当有利となる。
今年 2 月に行われた中国軍の BD-2 を使用した軍事演習に関連付けて考えると、
KDR の予想に誤りがなければ、2015 年以降、中国の軍事工業界は、BD-2 誘導ミ
サイル、爆弾を生産し、輸出に回すか或いは自軍で使用することになるであろう。
自軍用の武器の定位精度は当然高い。しかも BD-2 は GPS や GLONASS の民用版
とは競争関係にあるので、BD-2 が市場に出た後、GPS や GLONASS の民用版の
定位精度が高まるであろう。将来の軍用版及び民用版の航法衛星(GPS、GLONASS、
BD-2、ガリレオ)の定位精度の差は、大幅に縮小する、と KDR は見ている。
現段階では、理論上、BD-2 衛星信号がカバーする範囲内だけで中国の戦略兵器、
例えば巡航ミサイル及び各種 BD-2 誘導ミサイル並びに爆弾が使用できる。特に周
辺の台湾、ベトナム、インドである。KDR はすでに説明したが、一旦全球版 BD-2
が完成すると、中国は BD-2 誘導戦略ミサイルを以て米国本土、在日米軍基地に対
して攻撃を発動することが出来る。これは 2020 年以降のことである。また北朝鮮
も BD-2 をひそかに軍事目的に利用する可能性が極めて高い。
中国は BD-2 の開発に際し、極めて狡猾な手段で使用信号を採用した。2000 年初
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期、かつて中国は、欧州の”ガリレオ定位衛星計画”に 2.4 億ユーロに投資したが、
米国が反対した。理由は、当然軍事転用を危惧したためである。欧州は、米国の意
を受けて拒絶した。自尊心の強い中国人は、BD-2 を開発し、”ガリレオ”と同じ
PRS 信号を採用した。かつまた重要な周波数を率先使用し、BD-2 の全球化を果た
したのち、
”ガリレオ”の市場を占領しようとしている。
次に、BD-2 の開発成功によって、将来の大国間の戦争・摩擦、特に米中軍事衝突
では、必ず”第五世代宇宙戦争”から開始されるであろう。双方は、必ず相手方の
GPS 及び BD-2 を撃破する。しかし小規模の摩擦においては、米軍が BD-2 を妨害
することに政治的な配慮が必要になる。BD-2 を妨害することは、
”ガリレオ”が選
択できる周波数がますます縮小することを意味するからである。そうしないと
BD-2 と同じ周波数を使用する”ガリレオ”も妨害を受ける危険があるからである。
現在、BD-2 の衛星打上げ数及び打上げスピードは、GPS だけでなく、”ガリレオ”
や GLONASS に比べても多く、速い。どちらが速く、どちらが主導権を獲るか。
BD-2 は”ガリレオ”に報復している。
当然協力できる面もある。両種の航法衛星は同じ PRS 信号を採用している。もし、
中心周波数の共用に合意したら、信号の共用が実現できる。
全体的に見て、BD-2 の全面就役は、特にアジア国家において、GPS が確立した”
情報聯盟”を排除する可能性がある。
以上
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