業績=考え方×能力×意欲

インタビュー
株式会社ジャスト
業績=考え方×能力×意欲
会社の未来に高い関心を持ち
モチベーションの高い社員がジャストの最大の財産(=人財)
さいたま市に本社を置く株式会社ジャスト
は、業務用マットやウォーターサーバーと
いったオフィスサプライ用品のレンタル・販
売業務を主とする会社だ。パート・アルバイ
トを含めて700人超の従業員の多くは、社用
車に商品を積み、関東一円のクライアントの
元に届ける営業マンである。
一般にこういった業種は、クライアントの
好不況に業績が左右されがちで、慢性的な人
手不足や離職率の高さに悩む傾向がある。
しかし株式会社ジャストはひと味もふた味
も違う。長期不況もなんのその、右肩上がり
の成長を続けているのだ。
その秘訣はひとえに「人財」にあると語り、
株式会社ジャスト
代表取締役社長
ほ ん
だ
ひとし
本多 均
氏
1954年(昭和29年)4月東京生まれ 1977
年(昭和52年)中央大学文学部卒。高校時代か
らアルバイトの稼ぎを元手に株式投資を経験し、
大学卒業後は東京証券株式会社に入社。1978年、
赤木屋証券株式会社に移り、史上最年少の23歳
長に、独自の経営理念を伺った。
「こんな会社なら、仕事が楽しい!」
若さにまかせて次々と想いを実現
― 株式会社ジャストは、
1969年(昭和44年)
で投資アドバイザーとなる。
にサニクリーン東京のフランチャイジーであ
和55年)に父親が設立した株式会社ジャストに
その後、2代目である本多社長が、創業者
「社員のモチベーションこそ、最大の差別化」
は、1979年、25歳の時だと伺いました。
その後、代議士秘書などを経て、1979年(昭
る「株式会社サニクリーン大宮」として創業。
入社。1991年、同社社長に就任。
である父上から実質的な経営権を託されたの
をモットーに、非上場宣言、全正社員株主化な
実際に代表取締役に就任されたのは1991
ど、独特の経営手法で着実に業績を伸ばし続け
ている。趣味は巡礼。
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裏表なく自らの言葉を実践してきた本多均社
ぶぎんレポート No.193 2015 年 11 月号
年だったそうですが、それにしてもずいぶん
早い事業承継なのではないでしょうか?
年齢的に見れば、そう思われるでしょう
ただ、正直いってその頃の当社は、事業承
ね。しかも私はそれまで金融や政治といった
継というのもおこがましいぐらい小さな会社
まったく畑違いの仕事しかしていませんでし
でした。社員は10人ほどで、業績もささや
たから、自分でも驚いたぐらいです。
かなもの。
「好きなようにやってみろ」と任
実は父はその頃体調を崩しており、ひょっ
されたものの、この先どうすればいいかとい
としたら…という気持ちで私を呼び戻したよ
うような方向性も、特に定まっていませんで
うなのですが、後から勘違いと分かりまし
した。
て、親子で笑いあったものです。
― 事業方針や経営理念などの引き継ぎもな
“ブルーオーシャン戦略”5年ごとに変わるメイン事業!
ジャストでは現在、次の3本柱でビジネスを展開している。
①レンタル事業
②事務用品物販事業
③水事業
なコーウェイのウォーターサーバーは、食物の安心安全
の増加によって売上げはやや伸び悩み気味。しかし「ど
への関心が高まっている今、オフィスだけでなく一般家
の会社でも同じようなクオリティの商品を扱っているの
庭への進出も見込める」と、本多社長は大きな期待をか
だから、モノでの差別化が難しいのは当然。ただし社員
けている。
の対応力やモチベーションの高さでは絶対に負けない」
と、本多社長は胸を張る。
その代わりに、近年注力し、急成長しているのが③の
100%
10.1%
0.0%
80%
水事業。当初はボトルウォーター(クリクラ)の販売が
メインだったが、2014年からは水道水を安全でおいしい
水に変える高性能フィルター付き浄水器メーカー・コー
ウェイの日本事業部を買収し、ウォータースタンドのレ
ンタル事業を本格展開している。
3.2%
0.0%
3.2%
47.6%
だから、一つの事業に満足することなく、好調のうちに
次の手を打っていかなくてはならない。高機能で経済的
33.7%
26.7%
60%
20.9%
40%
33.5%
89.9%
23.6%
46.0%
20%
28.1%
「証券マン時代から目の当たりにしてきたが、事業とい
うのは必ず成長→安定→成熟→衰退という道をたどる。
1.8%
2.0%
9.6%
LEADER’S INTERVIEW COLUMN
①と②については創業以来の安定した事業だが、競合
0%
30期
水商材
(WATERSTAND)
38期
水商材
(クリクラ)
46期
事務用品物販
20.0%
49期
(2017年度)
その他
レンタル
ぶぎんレポート No.193 2015 年 11 月号
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かったのですか?
純な話、やっぱり社長にガミガミ言われるよ
はい。ただ、今と同じで営業社員が中心の
り、女性から「頑張って!」といわれた方が
会社ですから、25歳の私とは世代・感覚が
励みになりますよね。これが男女逆であって
近い人が多かった。
も、同じことでしょう。
だから、自分なりに「自分だったら会社が
そんな思いつきを実践していくうちに、
こんな風だったらいいな。仕事をするのが楽
12人だった社員は24人に、48人に、100人
しいだろうな」と思うことを、どんどん実現
にとどんどん増え、事業も拡大していったの
していこうと決めたのです。
です。
まず着手したのが、全営業車にエアコンを
つけたこと。今ならどんな車にも冷暖房完備
が当たり前ですが、30年前はエアコン付の
営業車など大企業でもありませんでした。ご
存じのとおり埼玉の夏は本当に暑く、辛いの
で、それだけで社員としては、競合会社に対
して優越感を感じながら、快適に仕事ができ
急成長期に経験したつまずきから
生まれた「非上場宣言」
― 順調な成長の中で、たとえば上場したい
というような野心は芽生えなかったのでしょ
うか?
それは当然ありました。私は元々証券会社
ますよね。
勤務ですし“価値を高める=上場”というの
そうして社員のやる気と業務効率が上がっ
が、企業の目指すべき姿だと思っていました
て、業績が伸びたとなったら、次は社員旅行
から。
で還元です。中小の社員旅行といえば熱海、
経営を引き継いで10年が過ぎた頃、私は
という時代に、みんなでハワイやオーストラ
いずれは株式公開を…と考えて、業績をさら
リアに行っていたのですから「これはいい会
に拡大すべく、さまざまな新規事業にチャレ
社だ!」と思うでしょう。
ンジしました。
その他にも、女性社員に営業成績のチェッ
パソコン事業、エコ事業、IT事業など、い
クをまかせたら、当時は男性がほとんどだっ
かにも成長の余地がありそうな目新しい事業
た営業のメンバーが発奮してくれたとか。単
を興し、主幹事証券や監査法人もつけて経営
指導を受け、社員たちにも株式購入を推奨し
ていたのですから、本気も本気だったのです。
しかし、そもそも当社は、定期的にクライ
アントを訪問して、お客様と直接顔を合わ
せ、ご挨拶しながらフロアマットや水のサー
バーを交換し、注文があった物を届けるとい
う、とてもアナログで地道な会社でした。
私がいかにひとりで張り切っていても、IT
やエコといった、ターゲットが曖昧で形のな
い商品やサービスを扱えと急にいわれた社員
独創的な経営理念を持つベンチャー経営者として、メディア
や教育機関からの取材も多い本多社長
(写真提供:埼玉大学総務課)
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ぶぎんレポート No.193 2015 年 11 月号
の気持ちは、今一つ乗りきれていなかったの
です。
インタビュー
気付けば新規事業はことごとく失敗し、業
社員が楽しく前向きに働ける会社になれば、
績は大幅にダウン。こうなると、社員は仕事
きっとまた逞しく伸びていけるはずなのです。
が楽しくありませんし、先行きも不安になり
ならば社長がすべき仕事は、社員の幸せを
ます。上場どころか、これまで意欲的に業務
最優先して、社員の能力と意欲を高める手助
に取り組んでくれていた社員たちが多数退職
けをすることだ。私はそう考えました。
してしまうという非常事態に陥ってしまいま
した。
― 社員の為にも良かれと思って上場を目指
正社員はほぼ全員、ジャストの株主
業績アップがそのまま資産形成につながる
したのに、かえって大事な人材を失ってし
では、どうすれば社員の能力・意欲が上が
まったというのは皮肉なことですね。
るのか。それはやはり、自分の頑張りが、き
そうなのです。私は大きなショックを受け
ちんと自分に還ってくるという実感を持つこ
て、なぜだろう、どこで間違えたんだろう
とではないかと私は考えました。
と、真剣に悩んでしまいました。
こういった仕組みづくりは、元証券マンと
そうして気がついたんです。そもそも社員
してはお手の物ですから、早速“会社に利益
は上場なんか望んでいなかったんじゃないかと。
が出た時には一定のパーセンテージで臨時賞
さらに冷静になってみれば、株式を公開し
与を支払う”
というシステムを決めたのです。
たところで、うちのような無名の会社が一般
たとえば、当社の昨年度の経常利益は約9
市場ですぐに相手にされるはずもない。上場
億7,000万円でしたので、その12%にあたる
企業=いい職場で、社員にも誇りになるだろ
1億1,600万円が臨時賞与として社員に還元
う…そんな思い込みに囚われていたのは私だ
されました。
けだったのです。
さらに当社の正社員は、ほぼ全員が自社株
そこで私は腹を決めました。こうなったら
を保有しています。従業員であり、株主でも
もう上場なんか目指さないぞと、残ってくれ
あるということは、自分の頑張りで会社の業
た社員たちに向かって「非上場宣言」をした
績が上がれば、自分の暮らしや人生が豊かに
のです。
なるということです。
― それもまた、極端なお話のように聞こえ
ますが…。
CS
誤解しないでいただきたいのですが、これ
は別に、企業としての成長や成功に見切りを
つけたわけではないのです。
むしろ、会社の価値を他者からの評価に委
ねるのではなく、自社できちんと作りあげよ
うという覚悟の表れでした。
私が父から引き継いだ会社は、これまでモ
チベーションの高い社員たちの活躍によって
成長してきました。目的を見誤ってちょっと
(顧客満足)
自己利益よりお客様第一を常に
考える社員からの提案や対応
社会
貢献
Just共創への
サイクル
常に率先して行動
しようと考える社員
による積極的な
地域貢献
ES
(社員満足)
自立した行動により
自己成長を手に
入れた達成感と
企業からの還元
つまずいてしまったけれど、初心にかえって、
ぶぎんレポート No.193 2015 年 11 月号
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― それならなおさら、会社の行く末を他人
事としてではなく当事者として見つめる気持
ちになるでしょうね。
その通りです。実際、会社が好調な時は、
そうやって、自社株が頼もしい資産になる
こ と を み ん な が 理 解 し て い る か ら こ そ、
“ジャスト社内マーケット”が成立するんで
すね。
支給された臨時賞与でさらに株を買おうとい
う社員が増えます。
多い者では1万株近く所有している社員も
おり、その額面は数千万円程度になりますか
ら、もし事情があって若くして退職すること
になっても、株を売却すればまとまった額が
手に入り、退職金の代わりになる安心感があ
ります。
また、一般に自社株と言うのはなかなか手
放しにくい雰囲気があるものですが、当社の
場合は社員間であればいつでも自由に売買で
きます。だから、子どもの進学やマイホーム
購入といったタイミングで売却し、現金化す
ることもできる。
決算内容や今後のビジョンを知るのは、株主である社員の
当然の権利。上場企業同様の本格的な株主総会を毎年開き、
透明性のある経営を維持するとともに、自らの頑張りがい
かに業績に反映されているかを共有し、社員のモチベー
ションを高めている
LEADER’S INTERVIEW COLUMN
強い組織を築くためのジャストの様々な仕組み
ユニークなポストシェアリング制度
⇒社長以下、役員は2人のみ。管理職も極端に少ないのに、
カンパニー長と支店長、支店長と営業課長等は任期を
組織がしっかり機能する工夫が、ジャストにはあるのだ。
1年として、ローテーションで役職を入れ替える制度
決算書の見える化
全社員約400人が出席する株主総会では、年次決算内
容や中期計画を発表することは当たり前である。日次決
算の見える化に至っては、各支店別、更には支店内営業
チーム別の開示を行い、約300人の営業社員ごとの売上
げや粗利そして給与も含めた経費から計算される、営業
社員一人ひとりの営業利益が見える!
・‌社
長を含むすべての社員のスケジュール情報のオープン化
・‌役員や事務スタッフ等のすべての社員の机とイスを同
じ物で統一
・‌管理・監督・指示・命令を限りなく行わない組織体制
の構築
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ぶぎんレポート No.193 2015 年 11 月号
ポストにさえ縛りがないジャストでは、管理職も含め社員
一人ひとりの座席を特定しない「フリーアドレスオフィス」
を採用し、役員・事務スタッフ等すべての社員の机とイス
が同じである
インタビュー
これがどういう意味を持つかというと、会
社の資産が外部に流出せず、純資産が増える
ため、当然株価も上がるという仕組みが自然
に生まれるということです。
さ ら に、 ジ ャ ス ト の 第 二 位 株 主 で あ り
1/3を保有しているのは社員持株会ですか
ら、社長がいい加減な経営をしていると思っ
たら、真っ向から糾弾する権利を彼らは持っ
ている。だから我々経営陣としても、対社員
だからと気をゆるめることなく、毎年きちん
と株主総会を開いて決算書や経営計画書を開
示する。
クリーンで透明性のある経営を維持するの
にも、このシステムは大いに役立っているの
です。
経営はシンプル
「業績(成果)=考え方×能力×意欲(モチベーション)」
― 徹底して「ES(社員満足度)
」を追求す
ることができるのも、非上場宣言をしている
からこそと感心いたしました。
ありがとうございます。京セラ創業者の稲
盛和夫さんは「業績(成果)=考え方×能力
×意欲(モチベーション)
」とおっしゃって
いました。つまり業績(成果)を上げるため
には、もし社員の能力が低いのであれば能力
を高めてあげればいいし、意欲(モチベー
ション)が低いのであれば、その阻害要因を
取り除いて意欲(モチベーション)を高めて
あげればいいのです。
非上場宣言の話題のときにもお話ししまし
■
■ 安全・安心な水を、定額で使い放題
ジャストが注力する新事業「ウォータースタンド」
ぶぎんレポート No.193 2015 年 11 月号
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たが、能力や意欲(モチベーション)の問題
その原動力となるのも、競合他社に打ち勝
を決して当人の責任(他責)にはせず、自責、
つ差別化のポイントも、やはり社員の高いモ
つまり全ては社長である私の責任であり、そ
チベーションだと私は信じています。なぜな
れらを高めることが私の仕事であると、今も
ら、自分が満ち足りていない社員が、お客様
そう考えています。そして、高い能力と高い
の元で良いパフォーマンスを発揮してくれる
意欲(モチベーション)を持った社員一人ひ
はずがありませんから。
とりがしっかりとした考え方を持てば、結果
だから私の仕事は、ジャストをとことん社
として業績(成果)は後からついてきてくれ
員が幸せな会社にすることなのです。
るのです。
“人材”を“人財”に、というのはよく聞
く言葉ですが、誰もが会社の未来に高い関心
を持ち、前向きに業務に取り組んでくれる社
員たちは、まさにジャストの最大の財産とい
えるでしょう。
スタイリッシュで経済的な
ウォーターサーバーで家庭進出を目指す
株式会社ジャスト概要
本社/さいたま支社
― 御社が不況にも負けずに業績を伸ばし続
けている秘訣が、よく分かったような気がし
ます。最後に、今後の経営ビジョンを教えて
ください。
現在当社が最も力を入れているのが、水事
業というカテゴリーです。これまではオフィ
スや店舗向けに飲用としてのボトルウォー
ター・クリクラの販売がメインでした。
し か し、2013年 か ら レ ン タ ル を 始 め た
ウォータースタンドという高機能浄水器は、
水道水を通すだけで安心安全でおいしい水
が、冷水・温水・常温水としていくらでも供
給できる。飲用・入浴・美容など、あらゆる
シーンでリーズナブルに、上質な水を使うこ
とができるため、ご家庭からの引き合いが急
増しています。
業
1969年(昭和44年)3月
資
本
金
5,000万円
売
上
高
79億4,227万円(2015年6月期)
経 常 利 益
従
業
本
9億7,045万円(2015年6月期)
員
702名(パート・アルバイト含む)
(2015年6月期)
社
〒330-0854 埼玉県さいたま市大宮区桜木町4-463
これまでジャストはBtoB一筋に歩んでき
営 業 拠 点
全13か所
ま し た が、 創 業50年 を 目 前 に、 い よ い よ
電 話
048(648)6668
ホームページ
http://www.just-water.jp/
取
本店営業部
BtoCのフィールドへ進出する道筋が見えて
きました。
8
創
ぶぎんレポート No.193 2015 年 11 月号
引
店