イバンドロン酸ナトリウム水和物が 維持透析患者の骨代謝に及ぼす影響 第60回日本透析医学会学術集会 医療法人社団城南会 西條クリニック鷹番、西條クリニック下馬 西條公勝、下地博、渡部千恵子、西條元彦 日本透析医学会 CO I 開示 筆頭発表者名: 西條公勝 演題発表に関連し、開示すべきCO I 関係にある 企業などはありません。 背景 ①透析患者では様々な骨病変が生じ、骨折頻度は健常者よりも著しく 高いことが報告されている。 ②PTHを管理目標内に維持しても骨密度が漸減していく透析患者をし ばしば経験する。 ③ビスホスホネートは強力な骨吸収抑制効果により閉経後骨粗鬆症 の骨折抑制効果、骨密度増加に関して多くのエビデンスを有する。 ④慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常の診療ガイドラインでは 骨粗鬆症治療薬を推奨していない。 ⑤CKDに対するビスホスホネートの骨密度上昇、血管石灰化抑制効 果が複数報告されている。 目的 イバンドロン酸ナトリウム水和物(以下イバンドロン酸)が維 持透析患者の骨代謝マーカー・骨密度・血管石灰化に与え る影響を検討すること。 倫理的配慮 対象者には得られたデータは研究発表以外には使用しない こと、また個人名が特定される表現を避けることを説明し、 同意を得た。 対象 当院および関連1施設において ①「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2011年版」の 原発性骨粗鬆症の薬物治療開始基準を満たす ②TRACP-5bが 男性 170mU/dl以上、女性 120mU/dl以上 ①②を満たす30例の血液透析患者 方法 イバンドロン酸を月1回静注し、下表の項目について12ヶ月 間観察を行った。 ①新規投与、②SERMからの切り替え、③経口ビスホスホ ネートからの切り替えの3群に分けて検討を行った。 投与前 6ヶ月後 12ヶ月後 TRACP-5b ○ ○ ○ BAP ○ ○ ○ 骨密度検査 ○ ○ ○ baPWV ○ ○ ○ 心臓超音波検査 ○ (橈骨遠位1/3 DXAもしくは中手骨MD) ○ 統計学検定 Wilcoxonの符号付き順位検定で比較し、危険率5%未満を有意水準とした。 患者背景 性別 年齢 透析歴 原疾患 BMI 骨折歴有 FRAX® 新規投与 切り替え 男性 女性 糖尿病性腎症 腎硬化症 慢性糸球体腎炎 その他・不明 SERM 経口ビスホスホネート 8例 (26.7%) 22例 (73.3%) 75.9±7.8歳 73.1±56.9ヶ月 10例 (33.3%) 5例 (16.7%) 6例 (20.0%) 9例 (30%) 20.9±3.2 18例 (60.0%) 29.3±14.0 11例 (36.7%) 11例 (36.7%) 8例 (26.7%) 併用薬 マキサカルシトール(静注) 活性型ビタミンD3(内服) 6例 9.2±4.9 μg/week 20例 シナカルセト塩酸塩 6例 22.9±10.0 mg/day 沈降炭酸カルシウム 12例 1667±651 mg/day ビキサロマー 2例 2625±530 mg/day 炭酸ランタン 8例 1469±619 mg/day ワルファリン 3例 透析条件 透析方法 透析時間 OLHDF 19例 置換液量 30±0L HD 11例 3.9±0.3時間 血流量 213.3±26.4ml/min 膜面積 1.75±0.69m2 Kt/V 透析液 1.69±0.22 カーボスター(Ca2+ 3.0mEq/L) 検査所見 Alb 3.5±0.3 g/dl Ca(補正) 9.0±0.7 mg/dl P 5.0±1.2 md/dl ALP 243.0±91.6 U/l Intact PTH 160.5±96.8 pg/ml TRACP-5b 554.6±318.1 mU/dl BAP 18.0±10.4 μg/dl YAM 橈骨遠位1/3DXA (13例) 60.7±12.6 % YAM 中手骨MD (17例) 65.4±9.7 % baPWV(右) 1931±442 cm/s baPWV(左) 2066±583 cm/s 補正Ca P (mg/dl) 10 9 8 7 補正Ca 6 P 5 4 3 前 1ヶ月 2ヶ月 3ヶ月 4ヶ月 5ヶ月 6ヶ月 7ヶ月 8ヶ月 9ヶ月 10ヶ月 11ヶ月 12ヶ月 intact PHT (pg/ml) 400 300 200 100 0 前 3ヶ月 6ヶ月 12ヶ月 ① 新規投与 (11例) ② SERMからの切り替え (11例) ③ 経口ビスホスホネートからの切り替え (8例) 新規投与11例 患者背景 性別 年齢 透析歴 原疾患 男性 女性 糖尿病性腎症 腎硬化症 慢性糸球体腎炎 その他・不明 BMI 骨折歴有 骨密度検査 橈骨遠位1/3DXA 中手骨MD 6例 (55.5%) 5例 (44.4%) 78.4±9.7歳 49.7±47.7ヶ月 4例 (36.4%) 2例 (18.2%) 2例 (18.2%) 3例 (27.3%) 20.6±3.1 7例 (63.6%) 6例 (54.5%) 5例 (45.5%) TRACP-5b(新規11例) (mU/dl) TRACP-5b変化率(新規11例) (%) 800 Wilcoxon singled –ranks test 20 Wilcoxon singled ranks test *p<0.05 * * p<0.01 ** ** 600 0 * 580.6 -20 392.1 400 -29.6 387.1 -27.8 -40 200 -60 0 -80 前 6ヶ月 12ヶ月 前 6ヶ月 12ヶ月 BAP(新規11例) (μg/l) (%) 30 BAP変化率(新規11例) 40 Wilcoxon singled ranks test *p<0.05 25 20 * 20 18.7 0 14.9 15 14.9 -20.9 -20 -15.1 10 -40 5 0 -60 前 6ヶ月 12ヶ月 前 6ヶ月 12ヶ月 (%) 橈骨遠位1/3DXA YAM (新規投与6例) 橈骨遠位1/3DXA YAM変化率 (新規投与6例) (%) 75 15 10 70 5 64.8 65 0 -4.3 -5 61.5 -6.3 60.0 60 -10 -15 55 -20 50 -25 前 6ヶ月 12ヶ月 前 6ヶ月 12ヶ月 (%) 中手骨MD YAM (新規投与5例) (%) 90 中手骨MD 変化率(新規投与5例) 10 5 80 0 74.0 71.8 70 68.6 68.4 -4.9 -5 -6.8 -10 60 -15 50 -20 12ヶ月前 前 6ヶ月後 12ヶ月後 前 6ヶ月 12ヶ月 ① 新規投与 (11例) ② SERMからの切り替え (11例) ③ 経口ビスホスホネートからの切り替え (8例) SERMから切り替え11例 患者背景 性別 年齢 透析歴 原疾患 BMI 骨折歴有 切替前薬 女性 糖尿病性腎症 腎硬化症 慢性糸球体腎炎 その他・不明 ラロキシフェン パセドキシフェン 骨密度検査 中手骨MD 11例 (100%) 72.0±6.3歳 51.0±55.4ヶ月 5例 (45.5%) 0例 (0.0%) 3例 (27.2%) 3例 (27.2%) 19.9±3.4 6例 (54.5%) 8例(72.7%) 3例(27.3%) 11例 (100%) TRACP-5b (SERMから切り替え11例) (mU/dl) TRACP-5b変化率 (%) (SERMから切り替え11例) 150 1400 1200 100 1000 50 800 613.2 625.0 21.1 681.1 600 28.8 0 400 -50 200 -100 0 前 6ヶ月 12ヶ月 前 6ヶ月 12ヶ月 (μg/l) BAP (SERMから切り替え11例) 25 BAP (%) (SERMから切り替え11例) 100 50 20 6.9 18.0 17.5 -4.1 0 16.8 15 -50 -100 10 前 6ヶ月 12ヶ月 前 6ヶ月 12ヶ月 中手骨MD YAM (SERMから切り替え11例) 75 中手骨MD変化率 (SERMから切り替え11例) Wilcoxon singled ranks test 5 Wilcoxon singled ranks test ** p<0.01 ** p<0.01 ** 70 0 ** ** ** 65 61.5 61.9 -5 -7.1 60 57.9 -8.5 57.5 -10 55 -15 50 45 12ヶ月前 前 6ヶ月 12ヶ月 -20 前 6ヶ月 12ヶ月 ① 新規投与 (11例) ② SERMからの切り替え (11例) ③ 経口ビスホスホネートからの切り替え (8例) 経口ビスホスホネートから切り替え8例 患者背景 性別 年齢 透析歴 原疾患 BMI 骨折歴有 切替前薬 男性 女性 糖尿病性腎症 腎硬化症 慢性糸球体腎炎 その他・不明 アレンドロネート リセドロネート 骨密度検査 橈骨遠位1/3DXA 2例 (25.0%) 6例(75.0%) 75.0±6.7歳 47.9±35.8ヶ月 1例 (20.0%) 3例 (37.5%) 2例 (25.0%) 2例 (25.0%) 20.9±3.4 6例 (75.0%) 6例 (75.0%) 2例 (25.0%) 8例 (100%) TRACP-5b TRACP-5b変化率 (経口ビスホスホネートから切り替え8例) (経口ビスホスホネートから切り替え8例) (mU/dl) (%) 700 Wilcoxon singled ranks test 20 Wilcoxon singled ranks test *p<0.05 *p<0.05 600 10 0 500 0.0 * -10 438.4 * -18.3 -20 400 336.3 300 -30 -39.1 -40 251.5 -50 200 -60 100 -70 0 -80 前 6ヶ月 12ヶ月 前 6ヶ月 12ヶ月 BAP (経口ビスホスホネートから切り替え8例) (μg/l) 30 BAP変化率 (経口ビスホスホネートから切り替え8例) (%) 100 80 25 60 20 40 15.7 15 17.7 20 13.6 10.7 -17.9 0 10 -20 5 -40 0 -60 前 6ヶ月 12ヶ月 前 6ヶ月 12ヶ月 橈骨遠位端1/3DXA YAM 橈骨遠位端1/3DXA YAM変化率 (経口ビスホスホネートから切り替え8例) (経口ビスホスホネートから切り替え8例) (%) (%) 75.0 6 70.0 4 65.0 2 60.0 0 57.1 55.9 56.7 55.0 -2 50.0 -4 45.0 -6 40.0 -8 前 6ヶ月 -1.2 12ヶ月 前 6ヶ月 -0.5 12ヶ月 baPWV (30例) 右 (cm/s) (cm/s) 3000 3000 2500 2500 2069 2000 2106 1939 2066 2077 2143 2000 1500 1500 1000 1000 前 左 6ヶ月 12ヶ月 前 6ヶ月 12ヶ月 大動脈弁狭窄症 (4例) (mmHg) 大動脈弁圧較差 peak 症例1 症例2 症例3 症例4 (%) 大動脈弁圧較差 peak 変化率 平均 45 100 90 80 40 70 35 60 31.0 30 50 28.0 40 25 21.0 30 20 20 15 37.3 10 9.9 10 0 2012年 2013年 2014年 2012~2013年 2013~2014年 大動脈弁狭窄症 (4例) (cm2) (%) 大動脈弁口面積 症例1 症例2 症例3 症例4 平均 大動脈弁口面積 変化率 0 2.5 -2 -6.9 2 -4 -9.8 1.5 -6 1.51 1.38 1.29 -8 1 -10 0.5 -12 2012年 2013年 2014年 2012~2013年 2013~2014年 透析患者に対するビスホスホネート投与 報告 年 2015 報告 岡ら 埼玉県医師会誌 国 薬剤 日本 イバンドロネート 投与 投与量 観察 骨代謝 方法 間隔 期間 マーカー 静注 竹内ら 2014 Kidney Metab 日本 アレンドロネート 静注 2012 etc. 月1回 900μg 4週間毎 Bone Dis Mitsopoulos 1mg ギリ シャ イバンドロネート 静注 イバンドロネート 静注 1mg 月1回 6M 12M 6M TRACP-5b ↓ BAP ↓ TRACP-5b ↓ BAP ↓ ALP → AJKD 2008 2005 Bergner etc. ドイツ J Nephrol Wetmore etc. Nephrology 2mg 4週間毎 USA アレンドロネート 経口 40mg 週1回 12M 6M TRACP-5b → BAP → ALP → Osteocalcin ↓ 部位 効果 腰椎DXA ↑ 橈骨遠位1/3DXA ↑ 腰椎DXA → 大腿骨頸部DXA → 腰椎DXA ↑ HipDXA → ビスホスホネートによる血管石灰化抑制 報告 年 2011 2010 2010 2006 2004 報告 Innasimuthu etc. Echocardiology Toussaint etc. 国 薬剤 投与 方法 経口 USA 豪州 アレンドロネート Elmariah etc. スペ 窒素含有性 J Am Coll Cardiol イン (第二世代以降) 日本 日本 大動脈弁 狭窄症 評価部位 大動脈弁狭窄症 大動脈、大腿動脈 Am j Kidney Dis 経食道 心臓超音波 CKD 3-4 経口 女性 エチドロネート 経口 透析 大動脈 CT エチドロネート 経口 透析 冠動脈 CT 大動脈弁、僧帽弁胸部 大動脈、冠動脈 Ther Apher Dial Nitta etc. 評価方法 経口 Am J Kidney Dis Hashiba etc. 対象 CT CT まとめ ① 新規に投与した11例において、TRACP-5bは有意に低下したが、骨密度維持・ 改善効果は認められなかった。 ② SERMから切り替えた11例において、TRACP-5bは高値を維持したままであり、 骨密度は有意に低下した。 ③ 経口ビスホスホネートから切り替えた8例において、TRACP-5b変化率は6ヶ月で 有意に低下していた。骨密度は12ヶ月後まで維持されていた。 ④ baPWVは有意な変化を認めなかった。 ⑤ 大動脈弁狭窄症を合併した4例で、大動脈弁圧較差・大動脈弁口面積の 変化率は投与前よりも小さかった。 結語 ①透析患者にイバンドロン酸を新規投与し、骨吸収マーカーは有意に 低下した。しかし骨密度維持・改善効果は確認出来なかった。 ②SERMからの切り替えについて有用性は認められなかった。 ③経口ビスホスホネートからの切り替えは有効と考えられた。 ④大動脈狭窄症の進行抑制の可能性を考え、経過観察していく必要 がある。
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