東京甲南会報◆5 秋の講演会 「物のみかたと心の持ち方」(抄録) 東京甲南会は、新年度最初のビッグ行事である「秋の講演会」が 10 月 23 日(木)18 時 30 分から、ステーションコンファレンス東京(サピ アタワー5F)で開催されました。 講師は、華厳宗管長東大寺 221 世別当大僧正 筒井寛昭さん(S43 文)を奈良からお招きし、「物のみかたと心の持ち方」と題して、お釈 迦様の教えと現代人が失いつつある「文化の伝承」や希薄になりつ つある「人間関係」について心が洗われるお話を拝聴することができ ました。その一部を抄録としてまとめたものです。 □ 物のみかたと心の持ち方 華厳宗管長東大寺 221 世別当大僧正 筒井寛昭さんのプロフィール 1946 年 1955 年 1968 年 2007 年 2013 年 奈良市出身 東大寺に入寺 甲南大学文学部卒業 (古美術研究会に所属) 東大寺執事長・華厳宗宗務長就任 華厳宗管長・東大寺 221 世別当就任 人の「物のみかた」は、「心の持ち方」によって千差万別である。 人間は、「肉眼」と「心眼」の 2 つの眼を持っている。 肉眼は、物の大きさ、形、色、動静などを直に見て物を認識すること 世界文化遺産「東大寺」の歴史 ができる。心眼は、心の目でみることであり、「物事の本質」を観察 8 世紀前半の奈良時代に聖武天皇により建立。その後、1180 年と することである。つまり、心眼は、物事の真実や背景・真相をはっき 1567 年の 2 度兵火により焼失。 現存する国宝本尊「盧舎那仏 り見分ける「心の働き」である。 (奈良の大仏) 像高は 14.7 ㍍」は、鎌倉から江戸時代にかけて完 事例(1):「1 匹の犬の死」に対する 3 人 3 様の思い 成。 (台座の連弁に建立当時の物が残っている) ・家族の 1 員として大切に可愛がっていた犬の死 (悲しみ) 国宝「大仏殿 (金堂)」は江戸時代(18 世紀初頭)に再建。 ・誰かに殺されたのかも知れない。高いお金を支払って買 1998 年世界文化遺産に登録。 った犬の突然死 (怒り) ・隣家では、うるさいと困っていた犬の吠える声から解放さ □ 正しい心の持ち方 れる (喜び) 人間は、自分の考えが一番正しいと思い込んでいる。 事例(2):「円柱」のみかた 本人の心の持ち方次第で、この世が地獄にもなり、極楽にもなる。 ・1本の円柱も、それを見る人の状態や立場によっていろ 従って、同じ状況でありながら、「極楽の心」と「地獄の心」では全く いろな形にみえることになる。つまり、真上から見ると 違った結果を生み出すことになる。 「円」であり、真横からみると「角」である 虫は人間と同じように生き、虫としての生活をしている。 今日、「環境問題」「自殺」「いじめ」「犯罪」が増加し社会問題とな しかし、人間のエゴにより害虫とされて殺されてしまうこと っているが、これらは単独で起こっている現象ではなく根っこでは 1 がある。このように人間の判断 (心の持ち方次第で) が つのものとしてつながっている。 虫の生命を支配することになる。 その全ては我々の「心の持ち方」に原因があるということである。 我を捨て、虫(相手)の立場、気持ちになって考えて見る 人は、努力して全体を見て、正しく物事の本質を見いだす「心の持 ことが大事である。 ち方」を確立することが大切である。 今日、現代人の多くは「利を求むことの多きが故に苦悩も多い」と □ お釈迦様が説いた教え いう社会生活を送っているのではないか、今一度、「少欲知足」を お釈迦様は、人々への人生のアドバイザー的な存在であり、人々 振り返ってみることも大切である。 に「物のみかた」と「心の持ち方」が大切であることを教えている。 □ お釈迦様の「八正道」の教え ・地球上の動物も植物もすべてが平等である 我々が幸せに暮らすためには、自然と調和して存在することであ ・貪欲・瞋恚(怒り、自分の心に逆らうこと)・愚痴の 3 つの毒を廃す り、人間のみの幸せはあり得ないことを理解しなければならない。 ること そして、広い視野で物事を見て、自分たちの周りの自然と調和し ・四苦八苦から逃れることが心の安定をもたらす て行くことが大事なことである。 四苦 (生・老・病・死)、 お釈迦様の「八正道 (正見・正思惟・正語・正業・正命・正精進・正 八苦(四苦+愛別離苦・怨憎会苦・求不得苦・五陰盛苦) 念・正定)」の教えはつぎのように説いている。 ・救いは超越的存在 である (神の力で救済されるのではなく、 人は、偏らない (中道) 正しい心を持って (正念)、正しく真実を見 自分・自身が実践することで救われ) て (正見)、その真実を認識することが大切であり、それが「人間 ・宇宙全体が調和のとれた一大生命である 完成」への道である。 (完) 文:神門善三郎(S39 理)
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