いつまでも 心ゆたかに|ワンポイント BPSD

医療法人社団 三喜会
秋号(第109号)
2015年10月発
c
行
9月の敬老の日にちなみ、デイサービスセンター渋
介助をしていて少し席を外した際に、何とK様自ら
沢でもご利用者へ長寿のお祝いをしました。その中
ご利用者の食事の世話をして下さっていたのです。
で、渋沢で一番のご高齢者、K様は11月に96歳を
声を掛けながら、その方のペースに合わせて丁寧
迎えます。
にスプーンを運ぶ様は、さながら介護スタッフのよう
天使のような優しさを讃えた笑顔を見せることもあ
でした。他にもご利用者の車椅子を押して下さるな
れば、頬を震わせて怒りを表 すこともあり、その表
ど、体の不自由な方のお世話をする時のK様の姿
情の豊かさは人を惹きつけます。ご高齢でも生命力
は、優しくも気丈にも見えます。
の強さを感じさせてくれるK様の、デイでの日常をご
紹介します。
K様は小柄な女性ですが、男性であろうと力の強
そうな大柄な人であろうと、怖がらずに正面から主
張する正義感の強い方でもあります。
K様は平成24年5月から渋沢を週4回(現在は週
5回)利用されています。当初は環境に慣れないせ
いか、デイルームから何度 も出て行 こうとされまし
た。歩行は不安定でしたが、そんなことお構いなしと
言わんばかりに階段を這うようにして降り、玄関先
に居座ることも度々ありました。
また、K様はご高齢により自分の気持ちが相手に
手を添えて丁寧に食事介助をするK様。
伝わらないことにもどかしさを感じ、表情や身振り手
振りで必死に訴えられます。私たちもなんとか応え
ようとするものの、伝わらないと目に見えて肩を落と
すK様に、私たちも無念さを感じずにはいられませ
んでした。
現在、要介護度5のK様がご自宅で生活できてい
るのは、ご家族の想いが大きいと思います。息子さ
ん夫婦からの連絡ノートにはK様の日頃の様子が
かつては着物で生活していた
というお洒落なK様の意に添
うよう、ご家族が服を選んでい
るそうです。
首に巻いたスカーフがアクセ
ントになって、素敵です。
いつも事細かに書かれています。
K様は、喜怒哀楽様々な表情
を見せて下さるので、思わず
カメラのシャッターをたくさん切
ってしまいます。写真を選ぶ
のに苦労しました。
様子も見られます。
最近のK様は疲れが目立ち、午前中はうとうとさ
れることが多くなりました。それでも、カラオケの時
間では曲に合わせて口ずさんだり、陶芸に精を出す
これからも、出来る限り家で一緒に暮らしたいと
いう息子さん夫婦の願いをサポートするためにも、
渋沢で出来る事-日常生活が継続できるように、
体力 を維持 することや楽 しみの時間を精 いっぱい
そんな中、K様の優しいお人柄を現すエピソードが
あります。昼食時にスタッフが他のご利用者の食事
提供できるように、K様とふれ合っていきたいと思っ
ています。
ホーム
長の
前編では、BPSDの中でも暴言・暴力にまでエス
Aさんには電話を使って「今から迎えに行くので、
カレートさせてしまう要因の多くは、介護者の対応
ホールで待っていて下さい」と、安全な場所を指定
の仕方にあるとのお話をしました。
したのです。遠目で見守りしながらもAさんが玄関
今回はそんな関 わり方に失敗 し暴言 ・暴力に対
応せざるを得なかった反省事例をご紹介します。
に行こうとする度、電話で同じ内容をお伝えしてい
ると、徐々に興奮状態が収まってきました。顔の険
しさが引いた所を見計らって、「温かいお茶はいか
ある日の昼食後、いつものように重度認知症Aさん
のトイレ介助をするため、介護経験の浅いスタッフB
さんが失禁パッドを交換しようとしましたが、その日は
がですか?」と声を掛けると、先程の様子とは打っ
て変わり、感激した様子で「頂けるんですか?」と喜
ばれ、後はいつもの生活に戻られました。
なかなか交換させてもらえません。Bさんは自分の仕
それでは何故、Aさんはあんなに興奮した状態から
事を全うしようと、悪気なく「失禁しているので交換さ
普段の生活に戻ることができたのでしょうか?事例か
せて下さい」とストレートに言い、さらに焦りも手伝い、
ら3つのポイントを紹介します。
語気も少し強くなってしまいました。
直後、Aさんはスイッチが入ってしまったごとく、「失禁
なんかしてませんよ」と激怒し、「こんな所にはいられ
ません」と興奮しながら玄関に向かったのです。
1.安全な場所に移動する(ここではホール)。
玄関に居続けては、外に出て行こうとする気持ち
が揺るがない。また、ガラス窓や武器となる傘も
あり危険。
玄関に着くなり、隅にあった傘を取って、「誰か玄関
を開けて下さい、開けないとガラスを割りますよ」と言
って窓ガラスを叩き出しました。手加減はしているよう
ですが、相当な力で叩いており、驚いたBさんは引っ
2.クールダウンできるように、むやみに声を掛けず、
必要最小限の距離を置く。自分なりに落ち着ける
環境・時間を提供する。
込んでしまいました。
事務スタッフCさんは、Aさんがこれ以上興奮して怪
我をしたら大変と思い、小さな声で「危ないですよ」と
繰り返し囁きながら傘をとろうとしますが、渡してくれ
ません。
Aさんは「私の職場はここを出て向こうに行けばある
から、職場に帰ります」と言い、傷つけられた怒りを正
当化する口実にして、過去の体験も重なり、混乱して
います。
3.顔に険しさがなくなり、関心がよそに向かうタイミ
ングを見計らい、一気に気分をプラスに方向転換
させる。
発した言葉が怒りと無関係のものだったら、その
話題に乗っかり、怒りの気持ちから切り替えられる
ようにする。
手段やツールはその人(生活史、性格等)によって
変わりますが、ここで紹介したポイントを押さえた関わ
りをすることで、暴言・暴力をエスカレートさせず、安
状況を静観し、頃合いを見ていたベテランスタッフD
さんが機転をきかし、「Aさん、お電話ですよ」と声を
掛けました。電話の先に救世主がいると思ったAさん
は、玄関からホール近くの電話口に向かいました。そ
の際、傘もやっとのことで手放して頂けました。
全に普段の生活を取り戻すことができます。
もちろんプロである以上、暴言・暴力を限りなくゼロ
に向かわせる為に普段から「根拠のあるケア」を実践
することと、決して「無理強いな介護をしない」と覚悟
を決めることも必要です。
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