抄録 - 北海道整形外科外傷研究会

第 131 回
北海道整形外科外傷研究会
抄
録
平成 27 年 2 月 28 日(土) 14:40~
於:札幌医科大学 記念ホール
会長:函館協会病院
多田
博
先生
共催: 北海道整形外科外傷研究会
日本イーライリリー株式会社
第 131 回
北海道整形外科外傷研究会
【一般演題:上肢外傷・下肢外傷・骨盤外傷・脊椎外傷】14:55~15:40
座長:函館協会病院
多田 博
先生
(1)アキレス腱断裂に足関節内果骨折を合併した2例
札幌徳洲会病院 佐藤 直人 先生
(2)脛骨の大きな骨欠損を遊離骨移植にて再建した2症例
市立函館病院 中島 菊雄
先生
札幌徳洲会病院 辻 英樹
先生
(3)骨盤,四肢骨折に対するテリパラチド使用例の検討
(4)紛争・貧困地域での外傷治療
~ドイツ国際平和村での支援活動を通して~
富良野協会病院 矢倉 幸久 先生
【主題:股関節周囲骨折(インプラント周囲骨折・DVT予防を含む)
】15:50~16:40
座長:北海道整形外科記念病院
(1) Locked pubic
大浦 久典 先生
symphysisの1例
札幌医科大学 高橋 信行
先生
(2) 骨盤周辺脆弱性骨折の2例
市立病院前整形外科クリニック 佐久間 隆 先生
(3) 股関節前方脱臼に伴う寛骨臼前壁骨折の1例
札幌医科大学 入船 秀仁
(4) 転位型大腿骨頚部骨折(Garden stage
先生
Ⅲ・Ⅳ)に対する
Hansson pin3 本法(Three-pin Techniqe)の成績
愛育病院 畑中 渉 先生
(5)同一機種における人工骨頭置換術後のステム周囲骨折の治療験
富良野協会病院 松倉 圭佑 先生
【教育研修講演】17:00~18:00
座長:函館協会病院 多田
博 先生
『大腿骨近位部骨折を含む股関節手術におけるVTE予防対策 』
旭川医科大学 整形外科学講座
教授 伊藤
浩 先生
一般演題(1)
アキレス腱断裂に足関節内果骨折を合併した2例
札幌徳洲会病院 外傷センター
佐藤 直人
辻 英樹
倉田 佳明
斉藤
丈太
佐藤 和生
坂 なつみ
士反 唯衣
鈴木
智亮
上田 泰久
松井 裕帝
【はじめに】
アキレス腱断裂と足関節内果は単独では日常的に遭遇する疾患であるが、合併することは稀で
ある。今回我々はアキレス腱断裂と足関節内果骨折を合併した症例を 2 例経験したため、文献的
考察を加えて報告する。
【症例 1】
48 歳男性。車から降りる際に転倒し、左アキレス腱断裂と足関節内果骨折を受傷した。アキレス
腱断裂に対しては腱縫合術、内果骨折に対しては cannulated cancellous screw2 本で内固定を
行った。術後 4 か月で抜釘し、現在術後約 10 ヶ月であるが疼痛なくスポーツも可能であり経過は
良好である。
【症例 2】
30 歳男性。階段を踏み外し左アキレス腱断裂と足関節内果骨折を受傷した。アキレス腱断裂に
対しては腱縫合術、内果骨折に対しては cannulated cancellous screw1 本で内固定を行った。
術後 2 か月で装具着用下にリハビリを行い足関節可動域を拡大している。
【考察】
アキレス腱断裂と足関節内果骨折を同時に受傷する例は比較的稀である。受傷機転は足関節過背
屈による下腿三頭筋の収縮によりアキレス腱断裂が生じ、その後足関節の回内強制により内果骨折
が生じるというものが諸家により報告されている。今回の症例では 2 症例とも内果はほぼ横骨折で
ありおそらく、同様の機転で生じたと思われる。またこのような合併損傷で臨床上問題となるのは
どちらか一方のみの診断がつき、もう一方は見逃されることが挙げられるが、2 症例とも問診と
足関節触診により、合併損傷を疑い、Xp にて初診時に両受傷の診断がついている。治療に関しては
2 症例とも腱縫合術と骨接合術を施行している。骨折を合併することで腫脹が強くなり、十分なアキ
レス腱の底屈位がとれない可能性がありアキレス腱保存治療が難しいことや、早期荷重の利点から
も手術療法は有効であると考えられる。
一般演題(2)
脛骨の大きな骨欠損を遊離骨移植にて再建した2症例
市立函館病院
中島 菊雄
平賀 康晴
菊池 明
【症例 1】
37 歳、男性。交通事故にて右大腿骨骨幹部Gustilo II、右脛骨近位部・右肘・左膝蓋
骨Gustilo IIIAの開放骨折を含む多発骨折を生じた。受傷後4時間で緊急手術を開始
し、開放創の洗浄・débridementと、右下肢の創外固定などを行なった。
受傷19日後に内固定手術を行ったが、下腿のMRSA感染を生じ、débridem
entを繰り返した結果、脛骨は最大で径の3/4、長さ18cmの欠損を生じた。VCM混入
セメントビーズ留置、海綿骨移植、開放療法・洗浄処置などを行い、受傷後13ヶ月(骨移植後
5ヶ月)で創は閉鎖し、PTB装具で歩行可能となり、その1ヵ月後にはfunctional
braceでの歩行を許可した。骨移植後1年ではCTで髄腔構造が確認された。
【症例 2】
59歳、男性。狩猟の帰りに同行者の銃が暴発し、左下腿に被弾した。脛骨はGustilo
IIIBの開放骨折に相当し、広範な筋欠損も伴っていた。MRSA感染を生じ、dé
bridementの結果、骨は11cm、2/3周の欠損となった。VAC治療、植皮にて感染
を抑えた後、筋弁と2回の遊離海綿骨移植を行い、骨移植後8ヶ月で骨癒合が得られ、funct
ional braceでの歩行が可能となった。
【考察】
大きな骨欠損の治療には、bone transtprtや血管柄付き骨移植が有用とされる。
しかし、骨が部分的に残っている場合、これを切除してbone transportを行なう
べきかは議論のあるところである。血管柄付き骨移植はdonorの問題や技術的な難度の問題が
ある。一方、海面骨移植ではどの程度の欠損であれば再建可能か、また、治療に要する日数や労力
が不明である。このたび、比較的大きな脛骨骨欠損を海綿骨移植にて治療し得たので報告する。
一般演題(3)
骨盤,四肢骨折に対するテリパラチド使用例の検討
札幌徳洲会病院 外傷センター
辻 英樹
倉田 佳明
斉藤 丈太
上田 泰久
坂 なつみ
士反 唯衣
鈴木 智亮
佐藤 直人
松井 裕帝
佐藤 和生
【はじめに】
近年骨粗鬆症治療に用いられ、高い骨形成促進効果を持つテリパラチドの骨折骨癒合促進効果が
注目されている。
【対象と方法】
骨粗鬆症を有する骨盤、四肢骨折で、骨癒合に懸念があり癒合促進を目的にテリパラチド(全例
フォルテオ)を使用し、使用開始より3ヵ月以上経過観察可能であった33人34骨折(男2人、
女31人)を調査対象とした。平均年齢は80.1歳(50-95歳)
.骨折は脆弱性骨盤骨折14、
大腿骨近位部骨折6、大腿骨骨幹部、遠位部骨折5、膝蓋骨、脛骨近位部骨折3、下腿開放骨折2、
上肢骨折4骨折であった。骨接合術を23骨折に行った。受傷~テリパラチド使用開始までの期間
を新鮮骨折群(28日以内21骨折;以下A群)と仮骨遅延群(29日以上13骨折;以下B群)
に分け、使用開始から仮骨出現時期、骨癒合の有無を調査した。使用開始からの平均経過観察期間
は10ヵ月(3-18ヵ月)であった。
【結果】
受傷~テリパラチド使用開始までの期間はA群平均8.2日(1-23日)B群平均109日
(30-195日)
、使用~仮骨出現時期はA群平均4.0週(2-8週)
、B群平均10.6週
(4-24週)であった。骨癒合はA群20/21骨折,B群12/13骨折で得られた。
【考察】
骨癒合に懸念がある骨粗鬆症を有する高齢者骨盤、四肢骨折に対するテリパラチドの効果につい
て調査した。受傷早期から使用された群と仮骨出現が遅延してから使用された群に大別されたが、
最終的に32/34骨折(94.1%)で骨癒合が得られた。骨折部位別に治療経過を報告する。
一般演題(4)
紛争・貧困地域での外傷治療
―ドイツ国際平和村での支援活動を通して―折
富良野協会病院
矢倉 幸久
演者は戦争・紛争地(アフガニスタン、グルジア、アンゴラ他)の傷ついた子どもたちをヨーロ
ッパに連れてきて治療、リハビリを行い、母国に返す、という支援活動を行っているドイツの NGO
の活動に 2007 年から参加している。紛争の真っ只中、医療施設どころか生活に必要なインフラさえ
整備されていない厳しい生活環境の中、けがを負っても適切な治療を受けることができず、大きな
障害を残したり、命を落とす子どもたちが現在でも多数存在している事実を、なかなか日本では
知ることができない。
研究会は、学術研究発表、議論の場であると同時に、啓蒙の場でもあると考えている。
今回、私のこれまでの活動経験から、紛争・貧困地域での外傷治療について実情を報告し、感じ
たことを述べてみたい。
主題(1)
Locked
pubic
symphysisの1例
札幌医科大学 高度救急救命センター
高橋 信行
入船 秀仁
【はじめに】
Locked pubic
symphysisは、lateral compression
型の骨盤骨折の一種であり、まれな外傷である。今回、我々は,Locked pubic sy
mphysisの1例を経験したので報告する。
【症例】
21歳、男性。落馬後に倒れてきた馬の下敷きになり受傷.左仙骨zone
IIの骨折、恥骨
結合がはずれて恥骨が前後に重なる、いわゆる”locked pubic symphysis”
であった。即日、整復・創外固定を設置.左右の下前腸骨棘からlow routeでSchan
z
pinを挿入し、2本のpinでjoy stick操作を行い、open book様に
開くと比較的容易に整復が得られた。第13病日目に内固定へのconversionを行った。
術後、骨癒合が得られ独歩可能となり、術後1年で抜釘術を施行。最終観察時、Pohleman
n’s outcome scoreは7点でexcellentであった。
【考察】
一般的に、locked pubic symphysisの整復は、徒手整復が不能であれば、
open reductionが必要とされる。本症例では、low routeに挿入したSc
hanz pinのjoy
stick操作で、closed reductionが可能であっ
た。low routeから挿入されたSchanz pinは、bone stockが十分に
存在する部位に挿入されるために強固であり、整復操作においても”てこの原理”が得られて力学
的にも優れている。本法は、比較的容易に行える方法であり、徒手整復が不能であれば試みても
良い方法であると思われた。
主題(2)
骨盤周辺脆弱性骨折の2例
市立病院前整形外科クリニック
佐久間 隆
骨粗鬆症性脆弱性骨折は脊椎、大腿骨近位部、橈骨遠位端、上腕骨頚部に好発する。今回、診断
に苦慮した、骨粗鬆症性骨盤周辺骨折を治療する機会があった。経過を報告する。
【症例1】
88歳女性。既往歴:狭心症。リウマチ性多発筋痛症。83歳、右大腿骨近位部骨折→保存的
治療。86歳、第12胸椎圧迫骨折。他院で骨粗鬆症の薬物治療を受けていた。誘引なく右坐骨部
痛出現し、自力での座位保持困難となった。歩行器歩行は可能であった。右坐骨部叩打痛ほかの
所見より、骨盤周辺の脆弱性骨折を疑い、テリパラチドの自己注射を開始。同時にCT検査施行。
右仙骨骨折が判明した。治療開始1ヶ月で症状は著明に改善し自力歩行、座位可能となった。
【症例2】
85歳女性。既往歴:変形性股関節症、80歳、右THA。屋外で転倒、徐々に股関節痛出現。
THA担当医を受診したがX線上異常なし。1ヶ月後、ほぼ寝たきり状態となった。便座に座る
ことも困難と訴えクリニックを初診。つかまり立ち可能であるが、座位困難。坐骨部圧痛+。X線
上、左恥坐骨に骨折線を認めた。同部の脆弱性骨折と診断し、それまで服用していたBis製剤を
中止し、テリパラチド自己注射を開始した。1ヶ月後には疼痛軽減した。
骨盤周辺の脆弱性骨折はX線のみでの診断は困難であり、CTが有用である。クリニックでは
確定診断が難しい場合があるが、今回の症例は臨床像から脆弱性骨折を疑い、テリパラチドによる
治療を開始し良好な結果を得た。
主題(3)
股関節前方脱臼に伴う寛骨臼前壁骨折の1例
札幌医科大学 高度救急救命センター
入船 秀仁
高橋 信行
平山 傑
高畑
成雄
【はじめに】
寛骨臼前壁骨折は、股関節前方脱臼に合併して生じる損傷であるが、非常に稀な損傷である。
今回我々は、股関節前方脱臼に伴う寛骨臼前壁骨折の1例を経験したので、報告する。
【症例】
77歳、女性。既往歴に特記すべきことなし。
雪道歩行中に滑って右下肢を外転伸展するように転倒して受傷した。X線、CT画像では、右大
腿骨頭の前上方への偏位を認め、前壁骨折を伴っていた。また、臼蓋には関節面の不整を認めてお
り、臼蓋上方部の陥没が示唆されていた。こらより、右股関節前方脱臼骨折、右寛骨臼前壁骨折(A
O分類 62-A3.1)と診断し、介達牽引にて待機した。
受傷後3日目に観血的手術を行った。Ilioinguinal approachを使用し、
1st windowの前方部分、2nd window、3rd windowを使用して、
直視下に骨折部の整復固定を行った。
術後X線、CTともに解剖学的整復位は得られており、現在、リハビリ継続中である。
【考察】
股関節脱臼の内、前方脱臼は後方脱臼の1/10程度とされている。また、寛骨臼骨折のうち、
前柱・前壁骨折は5%前後とされ、前壁単独骨折はさらに少なく、全寛骨臼骨折のうち1%との
報告もある。自験例でも手術症例60例中本例のみの1.7%の頻度であった。しかし、高齢化に
伴い、寛骨臼骨折も増加してきており、特に前方要素の損傷が増えてきていると報告されており、
今後注意が必要な損傷であると考えられる。
主題(4)
転位型大腿骨頚部骨折(Garden
Hansson
stage
pin3本法(Three-pin
Ⅲ・Ⅳ)に対する
Techniqu
e)の成績
愛育病院
畑中 渉
【はじめに】
非転位型に対する骨接合術の骨癒合率は85~100%、骨頭壊死の合併は0~21.1%と
良好な成績が報告されている。一方、転位型に対する骨接合術の骨癒合率は60~96%、骨頭
壊死の合併は22~57%と報告され、成績は必ずしも安定していない。演者はHansson p
inによる骨接合術を第一選択としてきたが、通常のHansson pin2本による骨接合術
では、転位型では早期に転位を認めることが多かった。2012年4月より、Hansson p
in3本法(Three-pin Technique)を用いて治療してきたので報告する。
【術式】
通常通りの術式で2本目にあたるHansson pinを挿入後、1本目のドリルを軸として
後方尾側より頚部後方骨皮質に沿わせてフックが斜め45度前方向きに来るように3本目を挿入し
た。
【対象・方法】
2012年4月から2014年2月までにThree-pin Techniqueによる骨接
合術を施行した転位型大腿骨頚部骨折20例(平均年齢79.0歳)を対象とした。後療法は、
手術翌日から1週の間に荷重制限を行わず早期の歩行訓練を開始した。検討項目は、歩行機能(①
独歩、②杖、③歩行器・シルバーカー、④車椅子、⑤寝たきり)
・転機・合併症の有無について検討
した。
【結果】
経過観察期間は平均14.8週。重篤な合併症を来たした症例はなかったが、4例は転位により
術後平均54.3日で人工骨頭置換に変更となった。歩行機能は、受傷前2.0から退院時3.2、
最終調査時2.9であった。
【考察】
Three-pin Techniqueを用いても骨質が不十分な症例であれば、過大なte
lescopingや、Chop stick phenomenonを起こして骨接合破綻に
つながるため、その欠点を補うため現在はTargon FNを転位型の骨接合に用いている。
後日その成績を報告する。
主題(5)
同一機種における人工骨頭置換術後のステム周囲骨折の治療経験
富良野協会病院
松倉 圭佑
田中 雅仁
矢倉 幸久
光武 遼
【はじめに】
今回同一機種を使用した人工骨頭置換術後に、大腿骨ステム周囲骨折を認めた2例を経験した。
過去の報告で、ステムの形状や表面加工が大腿骨周囲骨折の危険因子の一つとして挙げられており、
自見例に関しても機種に着目して検討を行った。
【対象と結果】
2009年4月から2014年3月まで人工骨頭置換術を施行した20例を対象とした。使用
機種はA社が9例、B社が7例、その他1例ずつ4社。そのうち、人工骨頭置換術後に大腿骨ステ
ム周囲骨折を認めたのが2例で、いずれもB社であった。
【症例1】
81歳女性、自宅で転倒し左大腿骨頚部骨折を認め、翌日B社を使用して人工骨頭置換術施行。
術後7.5カ月、再度自宅で転倒し再骨折を認めた。骨折型はVancouver分類B2と判断。
Dall-Milesプレートによる骨接合後、一度脱臼させ緩みを確認するも安定しており、
骨接合のみで終了した。
【症例2】
81歳女性、自宅でベットより転落し右大腿骨頚部骨折を認め、3日後B社を使用し人工骨頭
挿入術施行。術後9カ月、自宅で転倒し再骨折を認めた。骨折型はVancouver分類B3と
判断。Zimmer社cable-ready GTRによる骨接合後、同社Versys CR
Cにより人工骨頭再置換術施行。術後約2.5カ月、補助具を使用し自立歩行で退院。術後3カ月
で骨癒合得られた。術後約4か月時点でのJOAスコアは65点だった。
【考察】
過去5年間で、当院で起こった人工骨頭置換術後の大腿骨ステム周囲骨折は、同一機種を使用し
た症例であった。ステム近位の表面加工の違いによる発生頻度の差を報告したものもあり、文献的
考察も含めて自見例を検討し報告する。
教育研修講演
大腿骨近位部骨折を含む股関節手術におけるVTE予防対策
旭川医科大学
伊藤 浩
整形外科学講座
先生
教授