LEADER'S VOICE フリースケール・セミコンダクタ・ジャパン株式会社 パイオニアがカーナビ/AVの 要があります。しかし、製品の高機能化が 進むにつれ、機能要求にソフトウェア開発 心臓部にi.MX 6を採用。 が追いつかなくなっていきます。そこで、 Android OS によるプラットフォーム統一を 図り、製品企画に応じたラインアップを提 案できるようになりました。 6 機種のソフトや基板を共通化してコスト削減。 パイオニアは、同社の海外向けカーナビ製品 4 機種、車載 DVD AV 製品 1 機種、海外・国内向けAV 製品 1 機種のメイン・ プロセッサとして、フリースケールの「i.MX 6DualLiteプロセッサ」および「i.MX 6Soloプロセッサ」を採用した。従 来、同社の海外向け車載製品には 2 系統のソフトウェア、OS、基板が存在し、これらを個別に開発していたが、今回、 を用意している点などが i.MX 6シリーズ採用の決め手になったという。ここでは、こうした車載製品開発の経緯を、 企画や設計にかかわった担当者に話を伺った。 海外向けを中心とする パイオニア株式会社 カーエレクトロニクス事業統括部 カー市販事業部 事業企画部 マルチメディア企画部 企画 2 課 蛭田 裕達 氏 製品開発の経緯を教えてください。 パイオニア西脇:新製品のコンセプトが 決まり、共通に、そしてスケーラブルに使 フリースケール・セミコンダクタ・ジャパン株式会社 マイクロコントローラ・グループ ビジネス・デベロップメント MPU 大林 久高 氏 えるプラットフォームが欲しい、という話 が企画部門から開発部門へ来たのは、2012 製品で別の基板、別の OS、別のアプリケー 年の夏ごろです。最初の 3 カ月は、どのよ フトウェアの順に完成度を上げていきます ション・ソフトウェアを使っていたところ うな技術を使い、どのような構成でシステ が、Android のおかげでハードウェアの完成 を一つに統合し、スケーラブルに使えるよ ムを組んでいくのか、という検討を行いま 度に依存せず開発することができました。 ションの機能を除いた構成になります。プ が転送した画面データを車載製品がデコー うにすることでした。当社が車載製品の OS した。プロセッサが決まったのはこの段階 ロセッサの処理性能はカーナビ製品ほど必 ドして、液晶モニタに表示します。2014 年 として Android を採用したのは、今回が初 です。実際のハードウェアで検証を始めた 要ないので、Cortex-A9 シングルコアの i.MX の機種は Apple CarPlay™ に対応していまし めてです。2013 年以前の機種では、ローエン のは 2012 年の秋になります。フリースケー 6Soloプロセッサを載せています。最後の 1 た。2015 年の機種は、これに加えて Android ドの製品には ITRON を、ハイエンドの製品 ル が 提 供 し て い る i.MX 6 シ リ ー ズ の 評 価 パイオニア蛭田:例えば CarPlay の処理で 機種は少し変わった製品で、iPhone と組み合 Auto™ にも対応しました。Android 搭載のス には Windows 系の組込み OS を使っていま ボード SABRE(セイバー:Smart Application す。問題となるのはレイテンシでした。これ わせて使う車載製品です。6.2 インチの液晶 マホをつないで、車載製品からコントロール した。これを、Android に 1 本化しました。 Blueprint for Rapid Engineering)を入手し、 は、ユーザーが操作した時の応答速度に影響 モニタと静電容量方式のタッチパネルを搭載 します。これは、 アフターマーケット向けカー パイオニア西脇:従来のプラットフォー どのくらいの性能を期待できるのか、付属 します。性能の低いプロセッサでは間に合い 州で販売している車載製品 6 機種に i.MX 6 し、Apple CarPlay™ 規格に対応しています。 ナビ /AV DVD 製品としては世界初 ムで新しい機能を追加しようとした場合、 の BSP(Board Support Package)に ど の よ ませんでした。 シリーズを搭載しました。機種はカー・ナビ この製品のみ、日本国内でも販売しており、 MIXTRAX は、当社が開発した「ノンストッ ITRON 向 け と Windows 向 け の 両 方 の ア プ うな機能があり、どこまで使えるのか、な ゲーション製品で、2014 年 1 月に量産を開 i.MX 6Solo プロセッサを搭載しています。 プミックス再生」の機能で、楽曲を切れ目な リケーション・ソフトウェアを開発する必 どを検証しました。2013 年の年明けに最初 車載製品 6 機種に i.MX 6シリーズを採用 どのような製品に i.MX 6 シリーズを搭載 したのでしょうか? パイオニア蛭田:北米、南米、アジア、欧 始しました。最上位機種は 7 インチの液晶モ ニタと静電容量方式のタッチパネルを搭載し ています。その下の機種はタッチパネルが 4 製品群が企画意図に合致 i.MX 6 シリーズはどのような処理を実行 していますか? ※1 です。 プロセッサの選定に影響を与えたアプリ ケーションはありますか? 以前からフリースケールのプロセッサを 使っていたのでしょうか? くつなげて再生します。ちょうどクラブの DJ の試作が行われ、 のように、似た曲調や近いテンポの曲だけを Android OS の パイオニア蛭田:カーナビ製品本体では 自動選曲して、次々と切り替えていきます。 ポーティングと ないのですが、ヘッドアップ・ディスプレ 抵抗膜方式に、さらにその下の機種は液晶 パイオニア蛭田:2D グラフィックスの GUI 従来は曲のテンポの解析をパソコン上で実行 デ バ イ ス・ ド ラ イの表示用に使ったことがあります。カー モニタが 6.2 インチに、というように機能差 描画処理、ナビゲーションの地図情報処理、 する必要があったのですが、プロセッサの性 イバの開発に着 ナビのメイン・プロセッサには、長らくル を持たせて価格を変えています。これらの製 スマートフォン連携の通信・表示処理、USB/ 能が上がったので、車載製品の内部で解析処 手 し ま し た。 そ ネサス エレクトロニクス社の SH 系のプロ 品 に は、2 個 の ARM® Cortex®-A9 コ ア を 内 SDメモリに記録した動画ファイルのデコード 理を実行できるようになりました。 の 後、 数 回 の 試 セッサを使っていました。 蔵する i.MX 6DualLite プロセッサを載せてい 処理、MIXTRAX と呼ぶ当社独自の音楽再生 ます。次の 1 機種は車載 DVD AV 製品です。 処理などを実行しています。スマートフォン 開発上の課題はありましたか? ブラリやミドル 7 インチの液晶モニタと抵抗膜方式のタッチ 連携では、車載製品がタッチパネルの座標情 パイオニア蛭田:今回の開発の大きなポ ウ ェ ア、 ア プ リ パネルを搭載したカーナビ製品からナビゲー 報をスマートフォンに送り、スマートフォン イントは、それまでカーナビ製品と DVD AV ARM PARTNERS SUCCESS LEADER'S VOICE LEADER'S VOICE Android OS と i.MX 6シリーズを採用しこれらを 1 本化した。機能・性能についてスケーラブルな製品ラインアップ Androidとの相性とスケーラブルな 作 を 行 い、 ラ イ ※ 1 パイオニア社調べ(2015 年 3 月) 図 1:i.MX 6DualLite プロセッサを搭載した最上位機種「AVIC-8100NEX」。 ケ ー シ ョ ン・ ソ なぜ、メーカーを変える必要があったの ですか? パイオニア西脇:今回、企画部門のほう ARM PARTNERS SUCCESS 5 Ethernet 経由で試作機とパソコンを接続し、 西脇 秀和 氏 部門にも説明に回っていただきました。 感がありました。 イブラリのように Linux カーネル上に実装 社やフリースケール日本法人のメンバーが、 されるプログラムについては、Linux をイン お客様と話し合いながら一つ一つ問題を解 サなのにフリースケール製品でいいの?」と ストールしたパソコン上で開発し、プログ 決していくしかないと思います。 いう声があったのだと思います。パイオニ フリースケール大林:問題が起こった際、 丸文加藤:社内では「カーナビのプロセッ 豊富な周辺機能を備え、 長期供給を保証 アさんは、自動車メーカーへ OEM 供給する i.MX 6 シリーズにはどのような特徴があ また、試作機にはデバッグ用のシリアル・ そこで立ち止まってしまうお客様もいらっ カーナビ製品や車載オーディオ製品も開発 ポートが用意されており、パソコンからコ しゃいます。幸い、パイオニアの技術者の しています。その意味で、高い水準の品質 マンドを送りながらデバッグすることも可 皆さんは、自分たちでどんどん開発を進め 管理が要求されます。プロセッサの品質を 能です。さらに上位の Android Runtime 上 ていこう、多少のハードルがあっても自分 懸念されるのは、当然だと思います。そこで、 2012年11月に出荷を開始しました。スケー で動いているアプリケーション・ソフトウェ たちで乗り越えていこう、という姿勢でし 設計部門の方が理解していることを、製品 ラビリティを意識して、最初から 5 種類の製 アについては、パソコン上のAndroid環境(エ た。パイオニアの皆さんは私たちをパート 化に関係する方々にも理解してもらうため 品(Quad、Dual、DualLite、Solo、SoloLite) ミュレーション)での開発がメインとなりま ナーとして扱っていただき、一緒に開発し の場を設けていただきました。特に「フリー を発表しています。2015 年 2 月にはヘテロ す。チームに 1 台程度、動作確認用のボード ていこう、一緒に製品を立ち上げよう、と スケールは自動車の制御系の半導体で実績 ジニアス SoC である SoloX を加え 6 種に広が を用意する、といった具合です。 いう感じで、プロジェクトを進めることが があり、車載インフォテインメントについ りました。また、i.MX 6 シリーズはそれぞ できました。 ても自信があります」ということをアピール れの信頼性保証レベル(Qualification)に応 今後の製品開発の展開を教えてください。 しました。 じた、車載機器向け/産業用機器向け/コン パイオニア蛭田:当社としては、「コネク BSP のデバイス・ドライバはそのまま組み 込んだのですか? るのでしょうか? フリースケール大林:i.MX 6 シリーズは 海外メーカーのプロセッサを新規採用す 加藤 高宏 氏 シューマ機器向けの製品を展開しています。 テッド化の実現」を成長戦略の軸の一つとし るにあたって、パイオニア社内では問題と 実際に品質上の問題は発生したのですか? i.MX 6 シリーズの特徴は、豊富な周辺機能 ています。「車載機器」、 「情報サービス」、 「周 なりませんでしたか? パイオニア西脇:デバイスのバグも含め で す。 高 速 イ ン タ フ ェ ー ス と し て は、PCI 辺機器」の三つを組み合わせてクラウドにつ パイオニア西脇:いろいろと議論になり て、大小さまざまな問題がありました。中 Express や、Serial ATA が載っているライン なぎ、コネクテッド・カー・ライフ市場を うわけではありませんので、異なる部分は ました。過去の経験やサポート実績から国 にはチップ内の設計に起因する問題も見つ アップがあり、産業用機器に使われていま 展開していきます。今後も力を入れていく では、適切な選択ができないと思いました。 デバイス・ドライバ等のカスタマイズが必 内メーカーのプロセッサを推す人もいます かり、それをどういう形で収束させていく す。豊富なマルチメディア機能は、タブレッ のは、AV 機器とカー・ナビゲーション機器 国内外のさまざまな半導体メーカーと協議 要 で し た。 大 き な カ ス タ マ イ ズ 例 と し て し、戦略面から i.MX 6 シリーズを推す人も か、問題解決に向け根気よく付き合ってい トやカー・ナビゲーションの用途で使われ の融合です。また、Android などのオープン・ した結果、最終的に i.MX 6 シリーズを採用 は、画面出力の部分です。スマートフォン いました。また、海外メーカーはビジネス・ ただき、一つ一つクリアして生産にこぎ着 ています。 プラットホームへ先行して対応していきま することにしました。海外向けの機種とい (Android)では、画面出力は 1 系統が標準で モデルが明確なので、意見も真っ二つに割 けました。チップの設計情報を明らかにし 丸文加藤:フリースケールは 10 年、15 年 うこともあり、スケーラビリティを考えた す。一方、当社が開発しようとしている車 れました。リファレンスの BSP は無償で提 なければ解決できない問題は、フリースケー の長期供給保証を行っています。そこを評 とき、廉価な機種にも搭載できるプロセッ 載製品は、画面出力が 2 系統必要になりま 供されますが、動作保証はありません。世 ルの米国本社と協議することもありました。 価して製品を採用していただいているケー サであることが条件となります。i.MX 6 シ す。例えば、自動車の前席でカーナビの画 界中のユーザーからWeb 経由でノウハウを ただ、最初からある程度覚悟して採用した スも少なくありません。 リーズは車載向けに 4 コアの Quad、2 コア 面を、後席は AV エンターテインメントの画 入手するスタイルも国内メーカーと違う点 こともあって、「思ったよりはきちんと対応 フリースケール大林:日本ではスケーラ することが要求されます。車載で言うと「e の Dual と DualLite、1 コアの Solo の 4 種類※ 2 面を、というように異なる画面出力が要求 です。当初は戸惑いましたが、開発の立場 してくれたな。意外とやるな」という印象 ビリティ、コスト・パフォーマンスが評価 コックピット」がよい例です。現在、i.MX 6 が用意されていてスケーラビリティが高く、 されます。標準の BSP では未対応であった では「すぐに動くものがある」というのは魅 です。初めての海外旅行じゃないですけど、 されて、産業機器や教育用タブレットなど シリーズを採用していただいているお客様に 今回の企画意図に合っていました。 ため、フリースケールの助言をもらいなが 力的でした。当社も日本企業なので、トッ 多少トラブルのようなものがあるんじゃな にも採用されています。今後は車載アプリ 後継の製品を提供することはもちろん、新し ら当社でデバイス・ドライバのカスタマイ プダウンでものごとが決まるわけではあり いかな、と思いつつも、そこを乗り越えて ケーションが一番増えてきます。 い製造プロセスと、Cortex-A50 シリーズなど う視点で見たとき、スマートフォンやタブ パイオニア西脇:使えるところはそのま レットの世界をうまく取り込んでいかない ま 使 い ま し た。 た だ し、 当 社 の 製 品 は フ と製品開発が成立しません。従来のカーナ リースケールの評価ボードと同じ構成とい ビ用 LSI のメーカーに絞って検討していたの ソフトウェア開発はどのように進めまし ズを行いました。 パイオニア西脇:ソフトウェアの階層ご i.MX シリーズの採用で社内は大論争 へ切り替えるにあたって、何か違いは感じ 確 認 し な が ら デ バ ッ グ し ま す。 当 社 で は ましたか? ARM 純 正 開 発 ツ ー ル で あ る DS-5™ を 使 い パイオニア西脇:良くも悪くも国内メー ました。いったん Android OS が動き始める カーとは文化が違います。サポートは、国 と、Android SDK に 含 ま れ る ADB(Android 内販売代理店である丸文に間に入っていた ARM PARTNERS SUCCESS フリースケール大林:今後は複数の OS、 複数のアプリケーションを 1 つの SoC で対応 ションの開発に力を注げるように、ソフト i.MX 6SoloLite プロセッサを国産品から海外メーカー製 デバッガを使いプロセッサの動作状態を Debug Bridge)が 使 え ま す の で、USB や との連携も推進します。 ていきます。さらに、お客様がアプリケー とに開発の方法が異なります。Android OS の ポ ー テ ィ ン グ が 完 了 す る ま で は、JTAG す。それから、スマートフォンやクラウド の新しいコアを使って、新製品の開発も進め たか? 6 丸文株式会社 デマンドクリエーション本部 DC 第 1 部 第1課 係長 LEADER'S VOICE LEADER'S VOICE 用が必須だと考えていました。Android とい 行かないと私たちも先がない、という危機 ポートの違いはあると思います。そこは当 で は、 ス ケ ー ラ ビ リ テ ィ の あ る プ ラ ッ ト フォームを実現するために Android OS の採 ません。このため、丸文には、我々の品質 ソフトウェア開発環境が構築されます。ラ ラムを試作機に転送して動作を検証します。 パイオニア株式会社 カーエレクトロニクス事業統括部 カー技術部 プラットホーム開発部 開発 1 課 副参事 丸文加藤:国内メーカーと比べると、サ だきました。 i.MX 6SLX i.MX 6Solo i.MX 6DualLite i.MX 6Dual i.MX i.MX i.MX i.MX i.MX i.MX 6SoloLite 6SoloX 6Solo 6DualLite 6Dual 6Quad ピン互換 ソフトウェア互換 図 2:i.MX 6DualLiteプロセッサ搭載モジュール。 このモジュールの変更でスケーラビリティを実現。 ※ 2 企画当時は、車載向け製品は 4 種。2015 年 3 月現在は、SoloX が加わり 5 種。 i.MX 6Quad 図 3:i.MX 6 シリーズ ラインアップ。 ウェアのサポートにも力を入れていきます。 丸文加藤:販売代理店の立場で、2 ~ 3 年 後の製品開発を見据えて、お客様にフリー スケールの情報と技術サポートを提供して います。また、半導体メーカーだけでなく、 ソフトウェアを含めた技術力の優れたエコ システムパートナーも紹介していきたいと 考えています。 ARM PARTNERS SUCCESS 7
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