2A1a - 理論化学研究室

2A1a
共鳴密度汎関数法の開発
(東大院工、産総研、九大院理)○常田 貴夫、千葉 真人、中野晴之
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密度汎関数法(DFT)は、化学物性を高速かつ定量的に再現する方法として、全体の 9
割を超える量子化学計算で利用されている。しかし、主に大規模分子計算について、B3LYP
などの Hybrid 汎関数を利用しても、van der Waals 計算、非線形光学応答計算、励起スペク
トル計算などの物性計算を行えないという問題が指摘されてきた。常田らは、この問題に取
り組むために、交換汎関数に対する長距離補正(LC)法を開発し、さまざまな物性計算に適
用してきた。その結果、DFT の抱える非常に多くの問題が LC 法によって解決もしくは大幅
に改善することが明らかになってきている。しかし、残念ながら、LC 法によって解決できな
い問題もいまだ存在する。そのほとんどは DFT の理論的枠組み自体が抱える問題であり、解
離ポテンシャルエネルギー曲面の非再現などの多配置性の問題も主要な問題の1つである。
単配置理論である DFT に多配置性を取り込む多配置 DFT として、さまざまな手法が提
案されてきた。従来の手法は、概ね 3 種類に分類できる。1 つは、CASSCF 法と DFT 相関
汎関数とを単純に足し合わせる手法である。この手法には、電子相関の二重換算を回避する
ための技法が提案されているが、本来不整合な理論を組み合わせるために十分に回避するこ
とはできない。2 つ目は、DFT の相関汎関数を長距離補正する手法である。この手法は電子
相関の二重換算を回避できるが、長距離相関部分の算出には計算時間のかかる多参照理論を
用いており、また、結合開裂などで配置が入れ替わるとポテンシャルエネルギーが不連続に
変化する恐れがある。3 つ目は相関汎関数にもとづいて配置間相互作用(CI)行列を構成す
る Colle-Salvetti の手法であり、電子相関の二重換算はないが、計算時間がかかりすぎると
いう問題がある。これら従来の多配置 DFT に共通するのは、交換汎関数が利用されていない
ことであり、多配置「DFT」と呼称することにも疑問がある。
本研究では、これらの手法に代わる新たな多配置 DFT として、共鳴 DFT を提案する。
開発にあたっては、オゾンやベンゼンなどの共鳴構造をもつ分子の基底状態の電子配置が主
に(i,i→a,a)型二電子励起配置の混合で記述されることから類推し、DFT にこの特定の電子配
置からくる状態間相互作用を取り込むことを考えた。共鳴 DFT は次の手順で実行される。
1.
通常の Kohn-Sham 計算を行う。
2.
Kohn-Sham 分子軌道を利用し、CI 行列を構成する。対角項には Kohn-Sham 軌道を入
れ替えた配置に対する Kohn-Sham エネルギー、非対角項には主配置、(i,i→a,a)型電子
配置間の状態間相互作用を使う。
3.
CI 行列を対角化し、その係数を使って相関汎関数エネルギーを計算する。
ここで重要なのは、交換汎関数が利用されていることと、2 の過程における状態間相互作用
に反平行スピン電子間相互作用しか含まれないことである。したがって、3 の過程で相関汎
関数を各電子配置に対して計算し、その線形結合を取ることで、電子相関の二重換算が自然
に取り除かれた多配置 DFT となる。二重換算の検証、応用計算例については当日発表する。