車を運転して一人で自由にどこまでも行ける!

車を運転して一人で自由にどこまでも行ける!
ジョイスティックを利用した自動車運転支援システムが実用化
「肢体不自由者のための自動車運転支援システムの社会実装」は、東京農工大学 工学研究院 准教授 和田 正義先
生を責任者とする実装活動です。
和田先生および協力開発企業である株式会社ニッシン自動車工業は、通常のハンドルやギア操作が難しい身体障
害者の方向けに、ジョイスティックを利用したハンドル操作で自動車の運転を可能にする支援装置を開発(全国中
小企業団体中央会「平成 21 年度ものづくり中小企業製品開発等支援補助事業」の成果)、より安全性・信頼性を高
めながら普及させていく実装活動に取り組んでいます。
前回は支援装置を実装した改造車両をご紹介しましたが、今回、長野県で運転免許取得を目指している方のため
にカスタマイズした車両が納車されると聞き、納車当日に長野県立総合リハビリテーションセンター に伺いました。
■待ちに待った納車の日
「もう届いているはずなん
ですが、見ていないんです。
ワクワクしています」と話
すのは、長野県在住の大学
4 年生、村田慶哉さんです。
車を購入してから村田さ
んの身体の状態や障害の特
性に合わせ、約半年かけて
車両を改造。無事登録を済
大学 4 年生の村田慶哉さん
(上)運転席に初めて座り、ジョイス
ティック 1 本タイプの運転システム
を確認。アームレストや背もたれ等
も特注
(左)シートベルトを斜め後ろから直
接引く動作は難しいため、ドアにフッ
クをつけ、一旦引っ掛けてから装着
するようにした
ませ、ナンバープレートの交付を受け、この日を迎えました。
これから普通自動車第一種免許取得を目指し、運転教習が始
まります。
長野県立総合リハビリテーションセンターは、障害者専
用の運転教習コースを持ち、専門の教習指導員が在籍する、
全国でも稀な施設です。教習車も用意されていますが、ハン
「大学に入学した頃から本人が運転できる車を探していま
ドル操作が難しい村田さんが使うことはできないため、ジョ
したが見つからず、毎日 2 ~ 3 時間かけて送迎してきました」
イスティック式の愛車を持ち込んで技能教習を行います。
と村田さんのお母様。カリキュラムの都合で、入学後一年
間は高速を使って片道 1 時間 15 分の松本市
に通わなければならなかったそうです。
「午
前中で授業が終わる日は松本で時間を潰し、
丸一日授業の日は一度自宅に戻ってきて家
事をしてから迎えに行きました」
。さらりと
おっしゃいますが、大変なご負担です。
就職にあたり、自力で通勤できることは
とても大切ですし、企業側も重視するよう
です。
「免許が取れたら、本人も家族も生活
がずいぶん変わると思います。自由な時間
が増えますね」と笑顔で話します。
そこに、村田さんにジョイスティック式
の改造車両を紹介した新井寛さんが、ご自
分の車を運転して来てくれました。新井さ
車いすを車内に運ぶ電動リフトと電動ハッチをリモコンで操作する村田さんと、見守る和田先生。
んはここで教習を受け、約 1 年前に免許を
JST・社会技術研究開発センター(RISTEX)の WEB サイト http://www.ristex.jp 研究開発成果実装支援プログラムの WEB サイト http://www.ristex.jp/implementation/index.html
取得。現在までの走行距離は約
行いました。ハンドルの
1 万 3000 キロだそうです。
ジョイスティックは新井
「こすったこともありますが
さんと同じ、1 レバータ
(笑)
、 運 転 を 楽 し ん で い ま す。
ジョイスティック式の車両で
初めて免許を取得した
新井寛さん
イプです。
自分でいろいろな場所に行ける
運 転 席 は、 村 田 さ ん
ようになって、ネットワークが
の身体に合わせて背も
広がり、とてもプラスになって
たれやアームレストを
います。片道 320 キロの愛知県
特 注。 シ ー ト ベ ル ト を
の出身大学に 4 回ほど行きまし
斜め後ろから引っ張っ
たし、東京に研修に行ったり兵庫の知人に会いに行ったり、
遠出も結構しています」と、とてもアクティブです。
教習指導員の長瀬
理恵さんは、ジョイ
て一息でセットするの
運転席から車椅子に乗り換える村田さん。
運転席を回転させてから
数歩歩いて車椅子に移る
は 難 し い た め、 ウ ィ ン
ドウに一度引っ掛ける
ようフックをつけるな
スティック式のハン
ど、細部まで工夫しています。」(ニッ
ドル操作による教習
シン自動車工業・斉藤征道係長)
指導は初めてだった
助手席に指導員の赤沼さんが乗り込
ため、最初は戸惑っ
み、発進です。新井さんと同じように
長野県立総合リハビリテーションセンターの教習指導
員、赤沼成美さん(左)と長瀬理恵さん(右)
村田さんもジョイスティック式の電動
習中に脱輪しそうになった時は一緒に握ることができます
運転とは思えないほど上手に教習コー
が、ジョイスティック式は補助ができず、ブレーキを踏む
スを回ります。
しかありません。ハンドルの切りすぎも視覚的にわからな
「今日は時速 21 キロまででしたが、緊張しました」と、
いので、普通の教習車とはやはり違い、恐る恐るでした」
嬉しそうに微笑む村田さん。「電動車いすは時速 6 キロくら
た そ う で す。「 普 通
のハンドルだと、教
車いすに乗っているためか、初めての
ニッシン自動車工業の
斉藤係長
いですから、ずいぶん速く感じたようです。でも余裕はあ
■ドキドキの初運転!
りましたね」(教習指導員 赤沼成美さん)
いよいよ村田さんが車に乗る時がきました。まず後部の
村田さんはここで教習を受けた後、県の自動車運転試験場
ハッチを上げて電動リフトを降ろし、車いすごと乗ります。
で実技と学科の試験に合格して初めて免許を取得します。
通常後部座席と荷台がある場所に車いすを置き、運転席を
後方に回転させ、車いすから数歩歩いて移動します。
■実装活動を終えて
「注文をいただいてから約半年、綿密な打ち合わせを 3 回
「3 年の実装期間中に、ジョイスティック式ハンドルの福
祉車両を 11 台製作・納車し、2 名の方が
本免許を取得しました。仮免許の方もい
らっしゃいます。いずれも計画時の目標
を上回り、この研究を社会に普及させて
いくための課題や解決策も示すことがで
きました。
車の引き合いもたくさんいただいていま
すが、一人ひとりに合わせた製造に時間が
かかるため、嬉しい悲鳴を上げています。
平成 26 年度で『研究開発成果実装支援
プログラム』の実装活動は終了しますが、
この取り組みはさらに発展させながら続
けていきます」(和田先生)
障害者の自立の可能性を大きく広げる
この活動が大きく羽ばたいていくよう、
これからも見守りたいと思います。
JST・社会技術研究開発センター(RISTEX)の WEB サイト http://www.ristex.jp 研究開発成果実装支援プログラムの WEB サイト http://www.ristex.jp/implementation/index.html