持続可能な都市・地域に向けた地域活性化指標の構築と施策評価 石川直樹(筑波大学大学院システム情報工学研究科社会工学専攻修士 1 年) Keyword: データベース、地域活性化度、定量分析 【問題・目的・背景】 人口減少社会における、国民生活と国際競争力の維 ② 経済的要素・非経済的要素の両面を考慮した地 域活性化指標の設計 持・向上には、効果的な都市・地域の活性化と効率性 また本研究が目指した成果の全体像を、図1に示す。 を要する。 このうち、本紙では、可視化・分析に関する結果を報 川喜田(1980)が提唱した「地域活性」の概念は、 告する。 その後、定性的概念の統一、そして昨今の定量的指標 化の研究へと展開してきた。橋詰(2003)は、農村地 域を対象に「地域産業の発展」と「定住人口」を総合 した地域活性を定義し、指標化に、人口増減率、一人 当たりの工業出荷額・課税所得額などの 44 指標を採 用した。藤本(2013)は、域歳収支(客観的利益)と地域 の精神的・文化的な受益(主観的評価)を考慮した「地 域利益」の定義・指標化を試みた。 本研究では、先行研究の各論を踏まえ、地域活性を 図1. 本研究の全体像 持続的発展の観点で捉え直し、また、研究途上にある 指標化について、特に、地方自治体の施策と地域活性 (DMAIC サイクル各段への提案) 1)指標化 や持続可能性との関係性を指標化し、定量的分析を試 ①に対しては、地域情報を集約するデータベースを みる。現状や施策の効率性・効果性を共通化と全国標 構築し、全国 1742 地方自治体の SSDS データおよび 1 準との比較、および総体的固有性の分析により考察す 都 2 県(東京都・滋賀県・茨城県の約 125 市区町村) る。実データとの一連の分析手続きにより、適切な自 の総合計画の情報(政策・施策情報)を、表1(文末 治体評価・改善への貢献を狙う。 記載)のように 10 のカテゴリに分類して集約した。加 【研究方法・研究内容・分析結果】 えて、集約したデータとレーダーチャート等を用いて、 本研究では、我が国の課題として、「地域の持続的 各施策における市区町村間の相違や現状値を全国平 な発展にむけた施策の影響度に関する定量的分析」、 均と比較し相対的な市区町村の位置づけを可視化し 「総合計画等を実行する上での実施施策の効率性・効 た(図2)。 果性に関する分析」、 「地域の豊かさの状態を表す統一 的・客観的指標による地域活性化評価と地域間比較」、 「市民へのアカウンタビリティ、市民参画を促すよう な情報基盤づくり」を挙げ、それらを解決するために 以下 3 つの目的を設定した。 ① 地域間比較を容易にする地域情報の集約と可視 化 自治体内比較では、施策と結果のバランス等が見てと れる。 図2.カテゴリ別施策割合(市町村比較) 2)分析 ②に対しては、従来のような指標ごとの標準化値の 図4.SSDS を用いた市町村区間の比較 単純平均・総合から脱し、主成分分析を用いて、指標 間の相関を考慮した総合化指標を構築した(図3,図 次に、図5の分析事例を用いて自治体による政策戦略 4) 。 の相違を示す。大津市では、現状値が低いものを重点 世界標準の人口・社会統計である SSDS データを用 改善項目として、また現状値が一定以上に達している いてカテゴリごとの主成分分析を行い、経済的要素お 項目については維持項目と判断・区分して施策立案が よび非経済的要素の両方を含んだ地域活性化指標の 行われているようである。一方、武蔵野市の結果では、 設計を図った。従来の自治体評価においては、目標を 現状値が高いものを更に強くする重点維持項目エリ 達成した程度を中心に自己評価が行われるに留まっ アが多くみられ、それとともに現状値の低い分野(こ ているが、本研究で開発した新指標では、全国統一的 こでは、相対的にコスト要因で、社会関係資本に関わ で客観的なデータ体系と指標を用いることで地域間 る分野が多い)については改善項目エリアに残し重点 比較を可能にした。また、各自治体が策定する総合計 化しない2極化区別がとられているようである。この 画の実施施策割合と地域活性化指標をあわせて 2 軸 ように、ポートフォリオ分析によって、各市区町村の のポートフォリオ分析をすることにより、自治体の政 施策立案の戦略の違いも見てとれる。 策の傾向や今後優先的に取り組むべき課題の可視化 をはかった。 図 3.主成分分析を用いた地域活性度の定義 施策立案戦略の地域間比較、効率性評価を行うため 図 5.ポートフォリオ分析(地域間比較) に、図5のようなポートフォリオ分析を行う。横軸に また、地域間比較という視点からも分析することが 自治体の施策割合(施策数,予算)、縦軸に施策カテ 可能である(図6) 。この図は、 「産業」カテゴリにお ゴリ別に総合した地域活性度をとり、全国標準を原点 ける滋賀県内の 18 自治体のポートフォリオ分析を表 として可視化する。自治体間比較では自治体の施策立 したものである。地域間比較を行う際は、対象となる 案戦略の特徴(差異化、または均質化など)が、また、 地域の平均値を加えて表すことで、地域固有の特徴を 反映した形で分析することが可能となる。図6の太い 【考察・今後の課題】 青線で表された縦軸と横軸の原点は、それぞれ滋賀県 本研究で用いた SSDS データは全市区町村で比較す 内での平均値を表している(オレンジ色の細い線で示 るに有用なデータではあるが、指標が人口・施設数な されている軸は全国平均水準である)。まず、軸の配 ど経済的な指標への偏りが見受けられるため、非経済 置から、滋賀県全体の「産業」の水準が相対的に高い 的な指標の共通指標を用いて分析する課題が残った。 ことが見て取れる。滋賀県内の「産業」カテゴリにお 本研究で用いたポートフォリオ分析では単にカテゴ いて、得点が県平均水準以上である自治体は 6 つある。 リ別の施策数をその自治体のカテゴリ別の重要度と ほとんどの自治体が全国の平均水準を上回っている したが、カテゴリ別の予算データあるいは自治体が考 のに対して、県内の平均水準で比較した際には相対的 える施策の優先度の情報を付与することで、自治体の に下回ってしまうことがあるのは、滋賀県全体の「産 優先課題とその現状をより明確に対比することが期 業」の水準が相対的に高いためである。県内で最も得 待される。なお、本研究内で示した評価指標では、主 点が高いのは竜王町であり、自動車メーカーであるダ に、線形関係を前提とした形式を示したが、指数形式 イハツ工場の滋賀工場があること、産業人口における など変換関数を用いた地域活性指標の設計も進めて 第二次産業従事割合が 52.4%と高いことが影響して おり、一般化にも向かっている。 いる。 また、全国の 1742 自治体を一律に分析した事例を 示したが、地方自治体の規模などで地域を分類した上 で同様の分析をすること等によって、大都市と過疎地 域などの差異を考慮したモデルの構築が必要である と考えられる。政策デザインへの応用に関しては、関 係性の方向を含めた解釈を可能にするため、指標の見 直しや主成分回帰分析の改良などが必要である。また、 「政策-施策-事務事業」の成果指標を用いて因子分 図 6.同一地域におけるポートフォリオ分析 次に、施策重点度を表す指標として施策割合の他に 予算割合を使用し可視化を行った。 析をするなどして、それぞれの指標の関係性を工学的 に分析し、総合計画の全体構造をデザインする課題が 残されている。 予算面からも施策戦略を見てとれることがわかっ た。 【引用・参考文献】 橋詰登(2003)「農山村自治体の地域活性化診断」 藤本理弘(2013)「情報化社会における地域活性化の観 点」 図7.予算を用いた施策重点度と地域活性度 (草津市) 公民館数(館/人) 、図書館数(館/人)、 分類カテゴリ 指標 円/人) 額等(百万円/人) 、小売業年間商品販 都市公園面積(箇所/人) 、1日当たり 自然環境 サイクル率(%) 、衛生費(千円/人) 額(百万円/人)、第 1 次産業事業所数 主要道路舗装率(%) 、舗装道路実延 (所/人)、第 2 次産業事業所数(所/ 長(km/総面積 1k ㎡あたり) 、郵便 局数(局/人) 、住居地域面積(ha/人)、 都市基盤 平均余命・男(年) 、平均余命・女(年) 、 工業・準工業地域面積(ha/人) 、商業・ 一般病院数(施設/人)、一般診療所数 近隣商業地域面積(ha/人) 、小売店数 (施設/人) 、薬剤師数(人/住民 1 人あ (店/人)、飲食店数(店/人) たり)、医師数(人/住民 1 人あたり) 建物火災出火件数(件/人) (逆)、交 老人ホーム数(所/老年人口 1 人あた 通事故発生件数(件/人) (逆) 、刑法 り) 、保護施設数(所/人) 、老人福祉 福祉 ごみ排出量(g/人日)(逆)、ごみリ 額(百万円/人)、卸売業年間商品販売 人) 、第 3 次産業事業所数(所/人) 健康 社会教育費(千円/人) 、保健体育費(千 農業産出額(百万円/人) 、製造品出荷 売額(百万円/人) 、商業年間商品販売 産業 文化 安全 犯認知件数(件/人) (逆) 、火災負傷 施設数(所/老年人口 1 人あたり) 、障 者数(件/人) (逆)、消防費(千円/ 害者支援施設等数(所/人) 、介護老人 人) 、災害救助費(千円/人) 福祉施設(所/老年人口 1 人あたり) 、 外国人人口(%) 、転入率(%)、転出 身体障害者更生援護施設数(所/人)、 率(%)、社会増減率(%) 、人口増減 知的障害者援護施設数(所/人) 、介護 率(%)、昼夜間人口比率(%)、人口 交流 老人福祉施設(所/老年人口 1 人あた 集中地区人口(%)、(他市区町村から り) 、民生費(千円/人) 、社会保障費 の通勤者数-他市区町村への通勤者) (千円/人) (%) 保育所入所待機児童数(人/年少人口 一般行政部門職員 1 人あたり人口 1 人あたり) 、保育所数(所/年少人口 (人)、財政力指数、実質収支比率(%)、 1 人あたり) 、幼稚園数(園/年少人口 1 子育て・教育 政策推進 経常収支比率(%)、実質公債費比率 人あたり)、小学校数(校/年少人口 1 (%) 、将来負担比率(%) 、自主財源 人あたり)、中学校数(校/年少人口 1 額(千円/人) 人あたり) 、高等学校数(校/年少人口 1 人あたり) 、小学校教員数(人/年少 表.1SSDS データの分類(市区町村 1742 団体) 人口 1 人あたり) 、中学校教員数(人/ 年少人口 1 人あたり) 、児童福祉施設 ※(逆)とは、指標の上昇、下降の動きが反対に逆サ 数(所/年少人口 1 人あたり) 、 イクルの系列のことで符号を逆転させたものである。
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