- キッコーマン バイオケミファ

ライフコーポレーションにおける
ATPふき取り検査の役割
~「SSOPの管理」や「教育・訓練」に大きな効果を発揮!~
㈱ライフコーポレーション
南港プロセスセンター品質管理課
野々村 明氏
本稿はキッコーマンバイオケミファ㈱が2月
24 日、東京・中央区の月島社会教育会館におい
品質管理体制の概観
て開催した第 97 回「ルミテスターセミナー」に
おいて、㈱ライフコーポレーション(本社所在
はじめに、ライフコーポレーションの品質管理
地:東京都台東区ならびに大阪市淀川区)の野々
体制について概要を紹介します。当社では、品質
村明氏が講演した内容の要旨である(
「ルミテス
管理業務の基本となる「品質管理統括規程」が設
ター」は ATP ふき取り検査で使用する測定装置
けられており、この規程の下に品質管理に関する
の名称)
。
個別の規程(例えば、食品検査規程、店舗衛生管
ライフコーポレーションは昭和 31 年設立の
理規程、プロセスセンター規程など)が設けられ
スーパーマーケットチェーンで、2015 年2月1
ています。食品安全や品質管理に関わる部門や業
日現在で首都圏 107 店舗、近畿圏 138 店舗を展開
務の概要は表1のようになっています。また、品
している。
(編集部)
質保証部と各プロセスセンター(加工センター)
※3月1日付けの組織改編に伴い、南港プロセスセンター品
質管理課は品質保証部南港品質保証課に組織変更している。
の品質管理担当の役割分担は表2のようになって
います。
品質保証部は、PB(プラ
表1 食品安全、品質に係わる業務分掌(一部抜粋、概略)
部門
業務
規程の運用統括、 関連部署との調整
品質、衛生、その他業務の適切性の確認、是正指示
検査結果に基づく撤去指示、販売中止要請
製品、原料の調達品質確認、
品質異常発生時の対応判断、指示
お客様サービス室との連携
工程管理、衛生確保、安心・安全の実現
センター商品の品質確認・解析など(+商品部と同様)
お客様申し出対応、衛生確保
品質保証部
商品部
プロセスセンター
店舗
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イベートブランド)商品や
NB( ナ シ ョ ナ ル ブ ラ ン ド )
商品、インストア商品(各店
舗で加工する商品)を含む、
ライフコーポレーションで取
り扱う商品全体の品質管理を
しています。一方、各プロセ
お客さまサービス室(総務部)お客様からの相談、要望、意見、苦情の受付、対応など
スセンターの品質管理担当
ストア部(店舗管理)
店舗の対応確認、店舗指導
ストアサポート部
店舗の作業改善、指導など
は、プロセスセンターで加工
月刊HACCP2015年
月号
して店舗へ供給する商品、値
表2 品質保証部、各プロセスセンター品管の役割分担
部門
品質保証部
担当商品群
検査内容、その他
PB 製品
情報チェック、工程確認(工場調査など)、製品検査
NB 製品(PC 不通過)
同上(ライフ使用原料の確認を含む)
インストア商品
製品検査、レシピ確認、店舗調査など
原料情報チェック、工程構築・確認、製品検査(一部、
プロセスセンター製造加工商品(小分包装を含む)
原料チェックを含む)
プロセスセンター
(生鮮)栗橋・南港 プロセスセンター値付け商品・小分商品
情報チェック、その他
(惣菜)船橋、天保山
施設・設備確認(冷水管理、他)
その他
ISO22000 チームリーダー and / or 事務局
付け商品(冷凍状態などで入
荷した後、保存方法、期限、
価格を変更または表示して陳
列する商品)
、
小分け商品(店
舗重要に応じて小ロット化し
て供給する商品)などの品質
管理を行っています。その品
質管理業務の内容は、製品検
写真1 野菜に付着した虫(左)。下から光を当てることで目視でも検出しや
すくなる(右)
。機械類の情報を収集し、検品台の導入を推進
査(微生物検査、官能検査、
理化学検査など)だけでなく、
検食管理、工程点検、衛生点
検・衛生巡回、衛生教育、ク
レーム( お 客 様 か らの申し
出)への対応、表示管理など
多岐にわたっています。その
写真2 異物混入対策の是正処置として、器具の形状変更を実施(左写真→中
央写真)。断片的な見直しだけでなく、連動して発生する問題点(右写
真、混入部位のカットに伴う底部の摩耗対策など)まで対応する
他、施設・設備や機械・器具
に関するさまざまな確認や提
案も、品質管理課の業務に含
まれます(写真1∼6にいく
つかの事例を示します)
。
HACCP で は、 微 生 物 ハ
ザードだけでなく物理的ハ
ザードや化学的ハザードも、
ハザードの対象としていま
写真3 冷水装置の温度や流量の監視 写真4 加工機器の改造(殺菌水ノ
ズル設置)による殺菌強化、
によって、最適な製造加工条
二次汚染対策
件を設定
す。したがって、品質管理の
部署は原料∼製品などの検査
業務だけではなく、工程や環
境の健全性の確保などにいか
に寄与するかが重要であり、
現場とのコミュニケーショ
ン、共同作業や外部との情報
交換、情報収集などが非常に
重要です。必然的に、検査業
写真5 殺菌水をシャワーリングする 写真6 切創対策手袋の導入による
安全衛生の確保と衛生管理
ための構造の試作、工程改善
向上を実現
の推進
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「SSOP の管理」において、大きな効果を発揮す
務の品質を維持しつつ、業務比率を検査以外の部
分に重きを置くことが求められます。このため、
ると考えています。
検査機器の導入や代替法の活用による検査の省力
ただし、ATP 検査では1検体当たりの単価は、
化を積極的に実施しています。
培地を用いる微生物検査などに比べると高価にな
ります。当社の店舗で考えた場合、
「畜産」「水産」
品質管理業務における
ATP 検査活用の考え方
「農産」
「惣菜」
「ベーカリー」の5部門があるの
で、例えば「各部門で1日2カ所を検査する」と
いうルールを設けただけでも1日 10 検体となり、
HACCP では CCP 管理の他に SSOP
(Sanitation
すべての店舗で毎日実施すると、年間の検査に係
Standard Operating Procedure、衛生標準作業手
る経費は膨大な金額になります。そのため、「効
順)や PP(PRP)での衛生確保を前提としてい
果的な検査計画」を模索しながら ATP 検査を活
ます。当社でも ISO22000 を導入しているため、
用しています。これはプロセスセンターでも同様
これらに関する文書を整備して活用しています。
です。ATP 検査でも微生物検査でも、闇雲に検
図1に示すように、原料が製品になるまでに、
査をしても、経費がかかるだけです。「どのよう
人を介した汚染をはじめ、さまざまな汚染物が付
な目的で検査を実施するのか」
「得られた検査結
着したり、交差汚染が起こる可能性があります。
果は、どうすれば効果的に活用できるのか」とい
「微生物制御の3原則」として「つけない」
「増や
うことを十分に考えることが非常に重要です。当
さない」
「殺す」といわれていますが、SSOP を
センターでは、ATP 検査は月 200 検体くらいに
作成し、遵守することで「つけない」ための対策
計画して、それに目視検査や微生物検査などを組
をすることが重要です。当社では、ATP ふき取
み合わせています。
り検査(以下「ATP 検査」
、写真7)を① SSOP
管理項目のモニタリング、
② SSOP 管理の確認
(す
当社における ATP 検査の活用事例を簡潔にま
なわち洗浄後の清浄度確認)
、および③作業実施
とめると、表3のようになります(生鮮食品(加
者への教育・訓練――という3つの用途で活用し
熱しない食品)では、微生物制御のための CCP
ています。
を設けていません。そのため、CCP については、
ATP 検査には、「その場で(リアルタイムで)
ATP 検査の実施事例は「該当なし」と記載して
清浄度が数値化できる」という特徴があるので、
います)。
現場で洗浄後の清浄度を確認して、
(問題があれ
ISO22000 では SSOP という概念の代わりに、
ば)その場で即座に改善に取りかかることがで
オペレーション PRP(ORPR)という管理区分を
きます。この特徴を活かすことで、ATP 検査は
採用しています。CCP に次ぐハザードを効果的
工程汚染
原料
汚染物
人
トイレ、
手洗い
毒物
有害
動物
図1 SSOPでの衛生確保項目
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製品
写真7 ATP検査で用いる測定装置「PD‐
30」および試薬「ルシパックPen」
(キッコーマンバイオケミファ㈱製)
に制御する管理箇所と
して、SSOP 項目に含
まれない異物制御(例
えば機器の刃こぼれ
防止など)等も OPRP
として管理ができま
表3 ATP 検査によるモニタリング計画(例)
モニタリング対象
CCP
目的と効果など
CL への適合性を判断
OPRP
ハザードの効果的な低減
SSOP
PRP
ハザードの低減
教育・訓練
効果測定、理解
す。SSOP 項 目 に つ
実施事例
該当なし
修正、是正処置を伴う 始業時点検、切替時点検結果が
不合格⇒使用不可、再浄
作業の改善に連携
可視化
測定、評価→改善指示
※定義上は SSOP 対象のみ
洗浄確認、その場で結果評価⇒
再洗浄、指導
い て は、
「OPRP と し
て管理するもの」と「PRP として管理するもの」
を基に設定しています。
に大別できます。
ATP 検査は、検査結果がその場で数値化され
一部の加工機械などでは、始業前や(取り扱う
るので、「この器具は汚れていますね。再洗浄が
製品の)切り替え時などにおいて、洗浄後の清浄
必要です」
「再洗浄したら良い結果になりました
度を ATP 検査で確認し、基準値を上回った場合
ね。この数値を維持しましょう」といった改善や
は「再洗浄」としている箇所があります。そうし
指導につなげやすいことが特徴です。今のところ
た箇所では、OPRP 管理として一般の洗浄効果の
は品質保証部が検査を実施していますが、将来的
確認とは区別しています(詳細は後述)
。
には店舗側の作業者が検査して、
「A ランク」を
また、
衛生管理を維持するためには
「現場で日々
維持できるようになればと思います。
働く方々に“その気”になってもらうこと」が非
常に大切だと思っています。そこで、ATP 検査
事例2:加工機器の清掃点検、教育・訓練
による清浄度確認の結果が悪かった場合には、再
プロセスセンターの加工機器は、センター側の
洗浄を指示したり、衛生指導を行うなど、
(ATP
品質管理担当者が月1回の頻度で ATP 検査を実
検査を)教育・訓練のツールとしても活用してい
施します(写真8∼ 12 に ATP 検査の活用事例
ます。
を示します)
。ATP 検査の結果が基準値を外れた
ATP 検査の活用事例
事例1:店舗の調理器具の衛
生確認
店舗の調理器具の衛生確
認として、品質保証部が年2
回の頻度で全店舗の衛生状
態を目視点検し、5段階(A
∼ E)で評価します。検査結
写真8 サーモンを取り扱ったまな板や包丁のATP検査の様子
果に問題があった場合には、
ストアサポート部と連携し
て、改善指導を行います。ま
た、必要に応じて、包丁やト
ング、ハサミ、アルコールス
プレーなどの ATP 検査も実
施します。なお、基準値につ
いては、各店舗でのハザード
分析や、過去の検査結果など
写真9 魚の皮をむく機械(左)や鱗(ウロコ)を取る機械(右)などは凹
凸が多い構造で、洗い残しが生じやすい
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場合は、現場の作業者に再洗
浄をしてもらいます(再洗浄
後、ATP 法による再検査も
行います)
。
作業者が変更になった場合
に、ATP 検査の結果が基準
値を超えることがあります。
そうした場合でも、きちんと
教育・訓練を実施することで、
洗浄の品質と担当者の意識を
写真10 水道の蛇口は、衛生管理の盲 写真11 肉の加工機械。部品が多いの
で、内部に汚れが溜まらない
点になりやすいので、時々は
よう衛生管理の徹底が重要
ATP検査で清浄度を確認
維持しています。
事例3:品目を切り替える際
の清浄度確認
盛り付け包装ラインでは、
前に取り扱った品目に由来す
る菌が、ラインや作業台、ベ
ルトなどを介して二次汚染し
ないように配慮しなければな
りません。そこで、品目を切
写真12 マグロの加工機械。スライサーの刃は、目視で汚れがなくても、
ATP検査で高い測定値になる場合もある
り替えるたびに、加工担当者
が ATP 検査を実施します
(写
真 13)
。検査結果は、基準値
と照らし合わせて
「○」
か
「×」
で判定 し ま す。 判 定結果が
「×」であった場合は、再洗
浄や殺菌をやり直し、再検査
します。
また、 加 工 担 当 者が自ら
ATP 検査を実施することに
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写真13 品目の切り替え時には、作業台やベルトなどの洗浄を行う。洗浄の
都度、加工担当者自身がATP検査を実施
は、担当者に対して「品質管理や衛生管理への参
して、再検査をします。再検査で合格になるまで
加意識を促す」という狙いもあります。
始業はできません。
事例4:加工機器の始業前点検
まとめ
加工機器の清浄度確認については、食品の直接
ATP 検査で大切なのは「管理項目に応じた検
的な汚染防止とその確認手段として、OPRP とし
査計画」を立てることです。闇雲に検査をしても、
て設定している場合があります。それらの加工機
有益な情報は得られません。検査結果を予測する
器は、始業前に加工担当者が、品質管理担当者
ことで、
「効率の良い、費用対効果の高い検査」
と連携して ATP 検査を実施します(写真 14 ∼
の計画を立てられると思います。今後も、しっか
15)
。
りした検査計画の下、SSOP の効果的なモニタリ
ATP 検査で不合格と判定された場合は、作業
ングを行い、ハザードの低減につなげていきたい
を始めることができません。再洗浄や殺菌を実施
と考えています。
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写真14 加工機器のボタンは、手指 写真15 鶏モモ肉を角切りする加工機器。鶏肉を取り扱った後は、カンピ
が頻繁に触れるので、衛生
ロバクターやサルモネラなどの微生物が残存する可能性がある。
管理が重要な箇所の一つ
始業前に刃やベルトなどについてATP検査を実施。ATP検査で合
格するまで、始業はできない
品質管理は、品質管理担当者だけではできませ
目視検査や微生物検査、タンパク検査、濁度測定
ん。現場の作業者にも「品質管理への参加意識」
など、さまざまな検査法を上手く組み合わせるこ
を持ってもらうことが大切です。そうした意識を
とで、
「より良い検査計画」を立てることをお勧
醸成する際にも、ATP 検査は(教育・訓練のツー
めします。
ルとしても)大きな効果を発揮します。
ただし、食品施設で効果的な検査法は、ATP
検査だけではありません。ATP 検査だけでなく、
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