藻類バイオマス

解説
藻類バイオマス
仙台市まちづくり政策局防災環境都市推進室 主査 金 裕史
仙台市では、筑波大学・東北大学と連携し、南
立、東北大学はオイルの抽出・精製技術の確立を
蒲生浄化センターにおいて、下水を利用して培養
担当し、仙台市は南蒲生浄化センターを中心とし
した藻類からオイルを作り出す藻類バイオマスの
た実験環境の提供などを行っています。
研究開発を進めています。本稿では、このプロジ
藻類は、石油に代わる燃料の産出源として世界
ェクトの概要や今後の展望について紹介します。
的に注目を集めていますが、本市のプロジェクト
東日本大震災では、停電が長期におよぶととも
では、オーランチオキトリウムとボトリオコッカ
に、ガソリン等の燃料調達が困難な状況に陥るな
スという2種類の藻類を対象に研究を進めていま
ど、特定のエネルギー源に依存することのリスク
す。
の大きさが露呈しました。そこで、本市では、震
オーランチオキトリウムは、2010年12月に、本
災復興計画において、
「
『持続的なエネルギー供給
プロジェクトにも参画いただいている筑波大学の
を可能にする』省エネ・新エネプロジェクト」を
渡邉信教授が発見した藻類です。この藻類は、下
掲げ、特定のエネルギーに依存しないエネルギー
水汚泥に含まれる有機物を取り込んで増殖する従
効率の高い都市を目指した取り組みを進めていま
属栄養性藻類であり、重油相当の炭化水素である
す。その一環として実施しているのが、藻類バイ
スクアレンを生成し、細胞内に蓄積します。大き
オマスプロジェクトです。
な特徴は、増殖が速いということで、3~4時間
このプロジェクトは、下水処理場における新し
で倍加します。また、光合成を行わないため、室
い循環型モデルの構築を目的に、2011年11月から
内タンクでの培養が可能です。
スタート。2012 年には、文部科学省の東北復興次
一方、ボトリオコッカスは、下水処理水に含ま
世代エネルギー研究開発プロジェクトの1つに採
れる窒素やリンを栄養源とし、CO2 を取り込んで
択され、5カ年事業として本格的な研究が始まり
光合成を行い増殖する独立栄養性藻類であり、同
ました。筑波大学は藻類の培養など生産技術の確
じく重油相当の炭化水素であるボトリオコッセン
オーランチオキトリウム
最初沈殿池
余剰汚泥
一次処理水
生物処理槽
ボトリオコッカス
最終沈殿池
二次処理水
下水処理と藻類バイオマスを融合したフロー図(写真:筑波大学提供)
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オイル
屋内実験室ボトリオコッカス培養の様子
(写真:仙台市提供)
屋外ベンチプラント
(写真:仙台市提供)
を生成します。細胞分裂によって複数の細胞が生
適化を図るための研究も始めました。最適化に際
じ、それらが集まってコロニーを形成し生育しま
しては、培養規模の拡大や各工程の効率化・簡素
す。オイルはコロニーの中の細胞間に蓄積します。
化を図っていくことはもちろんのこと、下水汚泥
増殖が遅く、倍加には6日程度かかりますが、CO2
の焼却で発生するCO2 や廃熱を藻類の培養に活用
を取り込んでオイルを産生するため、このオイル
し、培養のために投入するエネルギーを低減させ
を燃焼させてCO2 を発生させても環境には負荷を
ることも検討しており、これもまた、新たな循環
与えたことにはならないという長所(カーボンニ
型モデルの1つと言えるものです。
ュートラル)があります。
今年度は、屋外にボトリオコッカスを連続培養
この特徴の異なる2つの藻類を活用し、下水汚
するためのパイロットプラントを設置するととも
泥やリン、窒素を減少させ、下水処理に係るエネ
に、既存の屋内実験室にもオーランチオキトリウ
ルギーを軽減するとともに、2つの藻類から抽出
ムを培養するための 30ℓの大型タンクを設置。よ
したオイルを汚泥焼却の燃料に用いることで、外
り実際の利用に近い環境・規模で研究を行う予定
部から調達する燃料の低減や燃料供給源の分散化
です。
を図る、というのが本市の目指す新しい循環型モ
東北復興次世代エネルギー研究開発プロジェク
デルです。
トの事業実施期間である2016年度までは、屋内実
2014 年度までは、両大学及び南蒲生浄化センタ
験室や屋外プラントでの研究を通して基盤となる
ー建屋内に設置した藻類バイオマス技術開発実験
技術を確立し、2017年度以降の実証段階への道筋
室において、藻類の培養やオイル抽出・精製等に
を付けることが当面の目標となりますが、将来的
関する基礎研究を行ってきました。これまでの研
究で、オーランチオキトリウムについては、本来、
汽水域に生息し、培養にはある程度の塩分濃度が
必要とされる藻類なのですが、下水を活用して培
養するための淡水に順化した株の抽出に成功し、
下水汚泥から得られた有機物を使って培養する技
術を確立しています。ボトリオコッカスについて
は、研究室レベルで下水処理水を使った連続培養
に成功しています。オイルの抽出・精製に関して
は、様々な方法を試行し、より効率的な技術の確
立に向けた研究を進めています。
さらに、実証段階に向けて、このモデルを下水
処理過程に組み込んだ場合のエネルギー収支の最
国連防災世界会議スタディツアーの様子(2015 年 3月)
(写真:仙台市提供)
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には、この下水道におけるオイル生産システムを
なお、8月1日には、本プロジェクトの現状と
実用化し、東北の被災地はもちろんのこと、全国
展望を市民の方々などにお伝えする市民フォーラ
に展開が可能なモデル(仙台モデル)として確立
ム(会場:仙台市情報・産業プラザ セミナール
していきたいと考えています。また、今後は、関
ーム(2))を開催します。詳しくは後日、仙台市
連する技術・ノウハウをお持ちの企業の方との共
のホームページ等に掲載いたしますが、ご興味の
同研究も積極的に展開して行きたいと考えていま
ある方は、ぜひご来場ください。
す。
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