速醸法によるイシル(魚醤油)の調製とその醸造過程 における成分の消長

速醸法によるイシル(魚醤油)の調製とその醸造過程
における成分の消長
道畠俊英*
佐 渡 康 夫 **
矢 野 俊 博 ***
榎 本 俊 樹 ***
研究・指導の背景
石川県の能登半島には,イシルなどと呼ばれているイカの内臓やイワシを原料とした魚醤油が古くから作
られている。一般にイシルの製法は,魚肉タンパク質の腐敗を防ぐために飽和に近い食塩濃度下にあり,ま
た 伝 統 的 手 法 で 製 造 さ れ て い る た め , そ の 製 造 ま で に 1∼ 2年 と 非 常 に 長 い 熟 成 期 間 を 必 要 と し て い る 。 そ こ
で本研究では,加温することによりイシルの熟成期間を短縮することを目的とし,その試醸期間におけるア
ミ ノ 酸 ,有 機 酸 な ど の 主 要 成 分 の 消 長 に つ い て 検 討 を 行 っ た 。
90
研究・指導内容
80
イ カ 及 び イ ワ シ イ シ ル の 加 温 (30∼ 50℃ )に よ る 速 醸 法 で の
総遊離アミノ酸量(mmol/100ml)
試醸を行い,試醸期間におけるアミノ酸などの成分の消長に
ついて検討し,以下の結果を得た。
(1)加 温 に よ る 速 醸 法 で ,イ カ イ シ ル で は 温 度 の 上 昇 に と も な
い 各 成 分 の 生 成 速 度 が 増 加 し ,イ ワ シ イ シ ル で は 40℃ で 最
大となった。
(2)全 窒 素 は ,イ カ イ シ ル (50℃ )は 10日 ,イ ワ シ イ シ ル (40℃ )
で は 38日 で そ れ ぞ れ 市 販 品 と 同 等 の 値 と な り ,そ の 後 は 平
衡状態となった。
70
60
50
40
イカ30℃
イカ40℃
イカ50℃
イワシ30℃
イワシ40℃
イワシ50℃
30
20
10
(3)pHは 速 醸 温 度 に よ る 大 き な 差 は 見 ら れ ず ,イ カ イ シ ル は 経
0
時 的 に 5.6か ら 4.7へ と 低 下 し た の に 対 し , イ ワ シ イ シ ル は
0
5.8か ら 5.3と あ ま り 変 化 し な か っ た 。
図
(4) 遊 離 ア ミ ノ 酸 は イ カ イ シ ル (50 ℃ ) は 24 日 , イ ワ シ イ シ ル
20
40
60
時間(日数)
80
100
速醸法にイカ及びイワシイシルの
総遊離アミノ酸量の経時変化
(40℃ )で は 38日 で 平 衡 状 態 と な り ,ア ミ ノ 酸 組 成 も 市 販 品
と 同 様 な パ タ ー ン が 得 ら れ た (図 )。
(5)分 子 量 5000以 下 の オ リ ゴ ペ プ チ ド は イ カ イ シ ル ,イ ワ シ イ シ ル い ず れ の 場 合 も ,グ ル タ ミ ン 酸 ,グ リ シ ン ,
ア ス パ ラ ギ ン 酸 ,プ ロ リ ン な ど が 主 要 構 成 成 分 で あ り ,イ ワ シ イ シ ル が オ リ ゴ ペ プ チ ド を 多 く 含 ん で い た 。
(6)有 機 酸 は イ カ イ シ ル ,イ ワ シ イ シ ル い ず れ の 場 合 も 乳 酸 ,ピ ロ グ ル タ ミ ン 酸 が 大 部 分 を 占 め ,速 醸 温 度 に
よる影響はなく,また経時的変動も少なかった。
研究・指導成果
イ シ ル の 速 醸 法 で は , イ カ イ シ ル は 50℃ で 24日 , イ ワ シ イ シ ル は 40℃ で 38日 と 通 常 の 製 法 よ り も 非 常 に 短
期間で調製することができ,その成分も市販品とほぼ同程度であった。
論文投稿
日本食品科学工学会誌
*
食品加工技術研究室
**
2000 Vol.47 No.5 p.369-377
石川県能登北部保健福祉センター
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石川県農業短期大学