編集・発行 社団法人 日本プロサッカーリーグ ホームページ http://www.j-league.or.jp ふたつのサポーターズクラブ ふたつのサポ ふたつ サポーターズク ズクラブ ∼異なる顧客層へのアプローチとCRM∼ ■ほとんどのJクラブが持つ「ファンクラブ」や「サポーターズクラブ」などのメンバーシップ組織。ホームページ やスタジアムで「会員募集」告知を見る機会は多い。 ■ジュビロ磐田をはじめ多くのクラブは、クラブがファンに特典を与えることで、会員を募ろうとしている。他方、 浦和レッズのサポーターズクラブでは、サポーターの自発性に委ねている。クラブからの特典は、ない。 ■両クラブへの取材を通して、ふたつのサポーターズクラブのあり方を検証し、CRM導入を見据えたクラブと サポーターの向き合い方を考える。 ヤマハスタジアムのB ゲート。ここには色分 けされたプレートに会員の名前が整然と並ん でいる。ゴールドのプレートは「10年以上会員」、 シルバーのプレートは「5年以上会員」を示し ている。ジュビロ磐田のサポーターズクラブ、 愛称「VIGORE(ビゴーレ)」である。 会員は、 スタジアムに来ているか? VIGOREの発足は1993年。クラブがJリーグ に入会する前年から募集を開始した。当時の磐 田市の人口が8万人程度だったにもかかわらず、 初年度から2万人以上の会員が集まった。Jリー 「10年以上会員」はゴー ルドの、「5年以上会員」 はシルバーのプレートに 名前が記される グブームに、 “ドーハの悲劇”が重なって、その 主役の一人だった中山雅史選手の存在も、追い 風になっていた。 97年、クラブはリーグ戦を初制覇、2002年ま でに3度の優勝を飾るなど、Jリーグの歴史に一 時代を画した。指定席のチケットは、先行販売 すればすぐに完売する状況で、VIGOREの会員 も約3万1000人に達した。 ジュビロ磐田 ジュビロ磐田サポーターズクラブ特典一覧 磐田サポ サポーターズクラブ特典一覧 特典一覧 このVIGOREは、入会金1,000円、年会費 4,000円に対して、会員カード、入会記念品、 ①会員カードを発行 ⑨マッチデープログラム会員価格 サポーターズマガジン、さらにチケットの先行 ②入会記念品をプレゼント ⑩ジュビロデーのご案内 予約や割引購入など、14もの特典が与えられる (右 ③チケット優先販売 ⑪会員名を掲示 ④チケット割引サービス ⑫会員限定イベントへの参加 ⑤サポーターズマガジンの送付 ⑬アウェイのチケット・コンサート 表参照)。ファンはこれらの特典を吟味して、 入会を判断する。 ⑥グッズ割引サービス これはクラブが特典を提供することで、少し ⑦サテライトリーグ入場無料 でもクラブに関心のある人を会員化し、囲い込 ⑧通信販売のご案内 チケットが浜松・磐田のオフィ シャルショップで購入できます。 ⑭優待割引制度 (ジュビロ磐田公式ホームページより) むやり方で、多くの Jクラブが同型のサポータ ーズクラブを持っている。またサッカー以外の 業界でも普通に見られる会員組織のあり方だ。 クラブが「特典赤字」にならないように、やや高額の年 ンもまた、クラブを離れていった。それでもなおサポータ 会費を伴うこともある。 ーズクラブに残っている会員は、スター選手の不在やチ このような会員組織では、どのように工夫された特典 ームの成績にかかわらずクラブを応援してくれる、熱心な でも、それだけで会員を引き止めておくことは難しい。 メンバーといえるのだろうか。 隆盛を誇ったジュビロ磐田の会員数にも、やがて陰りが 今でもJリーグトップクラス、約2万5000人の会員数を 誇るジュビロのサポーターズ 見えてくる。 「02年がピーク。その後は先行販売でチケットが売り切 クラブについて、今年4月に代 れることも減り、サポーターズクラブに入会するメリッ 表取締役社長に着任した馬淵 トが薄くなった。会員数は減少基調で、特に名波や福西 喜勇氏は、厳しい口調で語る。 など人気選手が抜けたときには、一度に多くの会員を失 「無理やり入会した人と、ス った」 (注:名波は2008シーズンに復帰) タープレーヤーがいた時期に 現在、サポーターズクラブを担当する営業部の吉住康 入った人が、自動更新のおか 弘マネージャーは、そう言って表情をこわばらせた。 げで辞めていないだけ。会員 常にチャンピオンを争った黄金時代が過ぎ、人気選手 も他クラブへ移籍した。彼らを追いかけていた女性ファ 「もっとサポーターの生の声を聞く ことが必要」と語る営業部の吉住マ ネージャー のうち、何人が本当にスタジ アムに来てくれているのか」。 実際、昨年の タジアムに足を運んでくれる“生きた”会員を育てること 平均入場者数 が大切だ。サポーターの立場に立って、彼らが本当に欲 は1 万 6 3 5 9 人 しているものを知ることから始めていきたい」 にとどまった。 馬淵社長の言葉には、改革に乗り出す強い決意がみな ぎっていた。 「無理やり入 会 し た 人 」と は、ヤマハ発 見込み客でなく、仲間を募った浦和レッズ 動機の社員な ひとりジュビロのみならず、世間のいわゆるファンク ど関係者のこ ラブでは、売り手(Jクラブ)が特典を提供し、顧客(フ と。ジュビロ はこれらの関 「自分のお金でスタジアムに足を運んでくれる人が最も大 切」と語る馬淵社長 ァンクラブ会員)は受け身の立場にとどまる。これに対し、 全く異なる発想でサポーターとの関係を築いているクラ 係者に、職場で入会を促したことがある。吉住マネージ ブがある。昨季のホーム公式試合で、年間100万人を超 ャーは、「私も以前はヤマハ発動機の社員だったので、 える入場者を集めた浦和レッズだ。 大阪勤務時代に申込書を渡されて、 『試合も見に行けない 「浦和レッズ オフィシャル・サポーターズ・クラブ」は、 のになぁ』と思いながら入会した。『10年以上会員』の中 Jリーグ開幕に先立つこと2年、1991年に発足した。す にはそういう人も多いのでは」と言う。実は会員数の多 でに今年で18シーズン目を迎えている。 さは、このような人々の加入によって実現されていた面 レッズの前身である三菱サッカー部には、 「サッカー後 もあったのだ。 援会」という組織があり、三菱の社員が会費を支払う形 こうした現状を踏まえ、ジュビロ磐田はこれからメン でサッカー部の運営費を捻出していた。このような後援 バーシップの再構築に取り組もうとしている。 組織は、日本サッカーリーグの他チームでも一般的だった。 「本当の意味でサポーターと向き合える組織に蘇らせな 浦和レッズの藤口光紀代表は証言する。 ければいけない。極論すれば自動更新をやめて今の会員 「三菱にはかなりの数の社員がいたから、会費収入も何 数が半分になってでも、まずはジュビロ磐田を愛してく 千万円かになっていたはず。レッズになるときに『それを れているサポーターとしっかり向き合うこと。実際にス 継続してプロサッカー事業の一助とすればいい』とも言 自主独立でクラブを側面から支援 ∼レッドダイヤモンズ後援会∼ 浦和レッズには、サポーターズクラブとは別に「レッドダ アーも行い、グループステージ イヤモンズ後援会」もある。「後援会」といっても、クラブ の上海申花(中国)戦には204人、 に対する経済的な支援を目的とした組織ではなく、あくま 準々決勝の全北現代(韓国)戦に でもレッズを側面から応援するための組織。クラブからは は780人もの会員がアウェイのス 独立した任意団体として運営されている。 タンドを訪れて声援を送った。 前身は1990年に浦和青年会議所主導で発足した「浦和にプ 「後援会の会員は、いわゆる“ゴ ロサッカー球団をつくろう会」。「もともとサッカーが盛んな ール裏”と比べれば、“大人”の 土地柄だったこともあり、クラブの誘致が決まった後も地元 サポーターというイメージ。年齢 のチームを応援したいということで設立されました」 (墨江直 的にも高めで、経済的にも比較 彦事務局長)。 的余裕のある人が多い。応援ツ レッズが浦和をホームタウンとすることが決定した後、こ アーもそうした方々に対応する、 の「つくろう会」が発展解消する形で、 「レッドダイヤモンズ ゆったりとした内容になっています」 (墨江氏) 後援会」になったのである。三菱サッカー部後援会の流れを 現在、応援ツアーへの参加者が多く、保険責任などの問 くむ組織ではない。 題からも、公益法人化を検討しているという。 個人、法人いずれも入会でき、年会費はそれぞれ3,000円、 また、レッズのホームゲームにおけるスチュワード(ボラ 3万円。サポーターズクラブとは違い、大納会(全会員対象) ンティア)活動もこの後援会が行っており、座席への案内や 「あくまでもクラブの後方支援に徹 する」と言う墨江事務局長 や選手激励会(法人会員対象)などの会員限定イベントに参 ゴミの回収など、多くの会員が自主的に参加している。 加できるほか、ホームはもちろんアウェイのチケット斡旋も受 現在の会員数は個人1万144人、法人381社。会の総収入(昨 けられるなど(チケットはクラブを通して入手)、いくつかの 年実績)は約6,700万円。この収入は当然クラブとは別会計 「特典」もある。 であり、すべて後援会の事業費、運営費にあてられ、レッ さらにアウェイ応援ツアーも実施。会員になれば特別料 ズを側面から支援するために使われている。 金で参加できる。レッズがACLに出場した昨季は海外ツ 3人に1本、支給されるサポーターズクラブ専用の大旗。毎年のスローガンが記されている。数年前の古い大旗が振られていることもあるという 「サポーターの自発性が大切」と語る 藤口代表 © T.YAMAZOE われた。日本リーグ時代 てチームを応援する。本場のスタジアムでサポーターが をベースにして、それを つくる雰囲気を何度も体験しながら、プロのサッカーク 大きくしていけばいいじ ラブはこうあるべきだと思った。だからレッズでは『フ ゃないかと。実際、そう ァンクラブ』ではなく、『サポーターズクラブ』という言 いう道を選んだクラブは 葉を用いた。これからスタートするプロサッカーを成功 多かったと思う」 させるために、クラブと一緒になって歩んでくれる“仲間” しかしレッズは、たと を募った」 え数千万円の資金を一時 レッズのサポーターズクラブにはいわゆる「特典」がな 失なっても、新たなサポ い。パンフレットには、はっきりとこう記されている。 ーターズクラブを立ち上 <3人に1本の大旗が支給される(このため「登録費」をい げることで、アマチュア ただいています)以外には、「特典」と呼べるものは一切 時代から決別する道を選 ありません> んだ。サポーターという言葉も、旗を振って応援すると 自分のクラブを支える喜びをサポーターに知ってもら いう文化もまだなかった91年当時、レッズが参考にした うこと。それがレッズのサポーターズクラブの目的だ。 のは、本場ヨーロッパにおける、クラブとサポーターの クラブとファンとが、特典と対価で結びつく一般的な 関係だった。 ファンクラブの場合、クラブは見込み客を誘引して、将 「欧州のサッカークラブが発行するファン向けハンドブ 来の入場者増につなげようとしている。これに対しレッ ックには、ズラリとサポーターズクラブの名前が並ぶ。 ズのサポーターズクラブは、すでにクラブを自分のこと スタジアムではたくさんのサポーターズクラブが、自然に のように感じ、一緒に素晴らしいスタジアムの雰囲気を 集まって、自分たちで作った旗を振りながら、歌を歌っ つくろうとする「仲間」、「同志」、「家族」に、集結を呼 「もちろん、レッズが間に入って紹介します。サポータ びかけた。そしてその呼びかけそのものに、仲間を増や ー同士の交流が広がる すための方策が組み込まれていた。 のは楽しいことですか 仲間が仲間を呼ぶ、レッズ方式 ら」と、サポーターズ レッズのサポーターズクラブに、 「個人登録」はない。 クラブを担当している 少なくとも3人以上のグループでなければ登録できない。 事業本部運営部の山村 グループであれば、スタジアムで出会った別のグルー 佳恵さんは言う。 プと、仲間になりやすい。グループとグループが交わる レッズをサポートする ことでさらに大きな仲間が生まれ、やがて全員が一つに サポーターを、サポー なって応援する。そんなスタジアムを生み出したい、と トするのがレッズの役 いうクラブの願いから、3人(以上)1組という条件が設 割。その心意気がまた、 定された。 レッズへの愛情をはぐ サポーターズクラブに入りたいレッズのファンは、 「3人 くむのだろう。 1組」を作るために、友人や家族などに声をかけて誘わ 「愛犬をメンバーとして登録できるかと尋ね てくる人もいた」と言う運営部の山村さん なければならない。もし相手があまり興味を示さなけれ すべてはワンダーランドのために ば、レッズやサッカーの魅力を語って、口説かなければ レッズは、サポーターズクラブの登録数増を、目標とし ならないだろう。その時ファンは、クラブの「同志」と ていない。93年の5,178クラブ(約2万4000人)から見れば、 して、大きな一歩を踏み出している。 昨年の登録数は3,329クラブ(1万2179人)と、ほぼ半減し ている(下のグラフ参照)。 「サポーターズクラブは、サポーター同士が交わり、より “大きな仲間” になるためのきっかけづくり」 (藤口代表) 「それは大きな問題じゃない。そもそも数を増やすことが もし、転勤などで浦和から離れることになったとして 目的ではないのだから。登録数が減ってもスタンドが埋ま も、引っ越した先にすでにレッズのサポーターズクラブ っていて、フラッグが振られ、スタジアムが応援で満ちて があれば、そこに加わることもできる。連絡先が分から いれば、それこそがスポーツ文化が浸透したという証」 なくてもクラブに相談すればいい。 と藤口代表は言う。また広報部の丸山大輔課長によると、 ■浦和レッズ サポーターズクラブ数・メンバー数・平均入場者数の推移 5,178 (平均入場者数) 5,211 クラブ数 メンバー数 平均入場者数 5,180 50,000 (クラブ数) 5,000 4,794 4,796 45,573 45,000 4,028 40,000 36,660 3,425 3,345 3,120 3,066 3,212 30,000 3,329 3,237 28,855 26,720 25,000 約24,000 24,428 18,475 19,560 20,113 20,504 21,276 2,000 16,923 13,779 11,459 26,296 22,706 22,347 16,188 15,000 3,000 3,017 24,329 21,608 20,000 4,000 39,357 3,509 35,000 46,667 12,194 12,975 11,730 12,886 11,348 12,459 11,099 12,179 1,000 10,000 615 5,000 3,103 0 100 411 1991- 92年 1992年 1993年 1994年 1995年 1996年 1997年 1998年 1999年 2000年 2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 ※1991年 -92年は日本サッカーリーグ、1992年はJリーグヤマザキナビスコカップ、1993年以降はJリーグ(2000年はJ2リーグ戦) 0 「パンフレットにもクラブのメッセージを 込めている」と言う広報部の丸山課長 「ゴール裏で応援してい そしてワンダーラン るサポーターたちの中に ドを支えるもう一つの も、以前はサポーターズ 答えは、チケッティン クラブに登録していて、 グだった。ほとんどの いまは独自に活動してい J クラブでチケットの るグループが少なからず 販売・管理を担当して いる」 いるのは、営業や事業 スタジアムに大勢のサ 部門だ。しかし、レッ ポーターがやってきて、 ズでは一貫して運営部 素晴らしい応援を繰り広 門がそれを担当してい げることがクラブの目標 る。 で、サポーターズクラブはその入り口と位置づけられ サポーターはただの る。そしてクラブはこの目標を、 「レッズワンダーランド」 お客さんではなく、 「レ と呼ぶ。 ッズワンダーランド」 クラブ最大の商品であるホーム試合で、観客にかけが という非日常空間を一 えのない、一度限りの経験を味わってもらう。試合の質、 緒につくってくれる演 スタンドの空気、スタジアムの周辺をも含めたすべてが、 出家であり、かつ出演 非日常空間(ワンダーランド)の雰囲気を醸し出す。それ 者だ。彼らがスタジア はクラブだけでなく、サポーターも一緒になることで、初 ムの一体感や雰囲気をつくりやすくするための席割り、チ めて実現できるものだ。現にヨーロッパ、特に英国のサ ケット価格、販売方法を考えるのは、いつも彼らの近く ッカー場は、ずっと以前からそうだった。 にいる運営部が最も適している、とレッズは考える。 レッズは、ワンダーランドをつくるために、どんなファ またクラブ創設以来、チケットの「ホームタウン優先 ンにスタジアムに来てもらうのか、どんなファンを育てれ 販売」にこだわっているのも、クラブに絆を感じてくれ ばいいのかを考えた。その答えの一つが、公認サポータ ている本当の“仲間”でスタジアムを埋める必要があるか ーズクラブだったのだ。 ら。常に自分たちを「優先」してくれていると感じれば、 すべてのサポーターズクラブが掲載されてい る『浦和レッズ・オフィシャル・ハンドブッ ク』 生涯をクラブと共に ∼スペインの「ソシオ」とは∼ ヨーロッパのクラブのメンバーシップ組織を語る上で欠か は、クラブの信念や価値観をソシオと共有する場でもある。 せないのがスペインの「ソシオ」という仕組み。FCバルセロ FCバルセロナはまさしく「ソシオのもの」であり、ソシオの ナの国際マーケティング部門に2004年4月∼06年3月まで在 メンバーにとってクラブは「自分たちのもの」なのだ。 籍していた斎藤聡氏 (現・日本サッカー協会キャプテン特命 それだけに112ユーロ(約1万8300円、今年の4/1∼12/31) 担当本部AFCプロリーグプロジェクト所属)にFCバルセロ という年会費は、日本の感覚からすると高いが、そうは受 ナを例に、ソシオについて話を聞いた。 け止められていない。スペイン人はソシオの年会費について、 ほかの商品を買うときのように、それが「高いか安いか」と FCバルセロナは「ソシオのもの」 いう損得勘定ではなく、「お金の価値では計れないもの」と ソシオはもともと、選手たちが必要な用具などを買ったり、 いう価値観を持っている。 試合を行うための資金を自分たちで出し合い、自主的に運 営する組織として発足したもの。その後、プレーはしないが 子供が生まれるとすぐにソシオへ クラブのためにお金を出すという人たちがソシオに加わって 約10万人収容のホームスタジアム「カンプ・ノウ」の座席 きた。 の9割は年間シートである。この年間シートはソシオになら 一世紀以上の歴史を持つFCバルセロナのソシオは、メン ないと買う権利はなく、一度手に入れた人はなかなか手放 バーがクラブに対して年会費を払うという点は、日本のク さないので、入手するためには2年、3年待ちは当たり前にな ラブのメンバーシップと同じだが、そもそものクラブとメン っている。そこで、大人になるまでには年間シートを買える バーの関係は全く異なるものである。 ようにと、子供が生まれるとすぐにソシオに入れる家庭も多 ソシオはあくまでクラブの「一員」であり、会長選挙など、 い。スペイン人は一度ソシオに入会すると、生涯やめるこ クラブの経営にかかわる重要な議題についての投票権を持つ。 とはないといわれている。まさに世代を超え、何十年にも クラブに対して自らの意思を示すことができるこうした機会 わたってクラブとのかかわりを持つことになる。 ホームタウン住民とクラブの絆は自然に深まる (下の図 Relationship Management)システムを導入する。これ 参照)。 はシーズンシートやサポーターズクラブの会員を対象に、 決して招待券は配らずに、チケットは必ずお金を出し 非接触IC型の会員カードを発行して、ホーム、アウェイ て買ってもらうという哲学。どんな人も、電車に乗ると にかかわらず、スタジアムへの来場履歴を記録、データ きは切符を買うように、レッズを見るときもチケットを ベース化するものだ。このCRMにより、試合観戦やグッ 買ってもらう。こうした積み重ねが、今日のレッズの基 ズ購入、ボランティア参加の履歴など、より詳細なサポ 礎を築いた。 ーター情報を蓄積することができる。 ファンとの絆を深めるCRMシステム J リーグは 2 0 0 9 年 か ら 順 次 、 C R M( C u s t o m e r そもそもサポーター情報を把握することはなぜ必要な のか。JリーグエンタープライズでCRMの導入に携わる 島田圭一取締役は、こう語る。 クラブが目指すもの レッズワンダーランド (非日常空間のスタジアム) ファンづくり チケッティング どんなファンを?→サポーターづくり 誰に見てもらうの?→ホームタウンの人々 どんなスタジアム?→ホームの雰囲気 ①サポーターズクラブ ②レッドダイヤモンズ後援会 ①ホームタウン優先販売 ②シーズンチケット (上図は、2006年開催「Jリーグ準加盟セミナー」の際に浦和レッズがプレゼンテーションした「ファンづくり/チケッティング」の資料から引用) そういった人々が一世紀以上もの間「クラブ以上の存在 ーティーなどもよく行われている。 (“Més Que Un Club”)」(FCバルセロナの理念スローガ ン)として支え続けているために、FCバルセロナは今もま “大いなる挑戦”―― 世界戦略の中で だソシオ制度のもとに運営されているのである(現在、ソ しかし、約15万人のソシオを抱え、約10万人収容の「カ シオ制度で運営されているクラブは、レアル・マドリード、 ンプ・ノウ」を毎試合満員にするFCバルセロナでさえも、 ビルバオ、オサスナを加えた4クラブ)。 さらなる改革に乗り出している。03年11月の就任後にラポ ソシオになると、年6回の会報誌が届き、抽選でVIP席へ ルタ会長が掲げた「大いなる挑戦(“EL GRAN REPTE”)」 の招待や選手の私物がもらえるなどの特典がある。中でも という改革は、「収益をあげればクラブは必ず強くなる」と ソシオの証である会員バッジは、ソシオになっている年数 いう考え方に基づき、スペイン国内にとどまらずソシオの募 によって色が変わり、25年未満は銅、25∼49年は銀、50∼ 集を世界的に展開して収益を拡大しようというものだ。こ 74年は金、75年以上はプラチナゴールドとなっている。ほ の改革で、当時10人以下だった日本のソシオも、現在は約 かに認定証もあり、これに記載されている会員番号は会員 1,400人に増えた。 歴の長い人から順にふられているため、ソシオを続けてい 世界戦略を行う上では「地域の誇り」や「身近なクラブ」 くと毎年この番号が少しずつ若くなっていく。このためソ といった部分を会員に感じてもらうことはなかなか難しい シオの間では番号が若い人ほど重くみられる(個人識別番 ため、海外のソシオ会員へはいくつかの特典を付加する形 号は固定性で別にある)。 になった。しかし、これらの特典目当てだけで入会する人 また、ソシオは総合スポーツクラブであるFCバルセロナの は長くは続かず、海外であっても有形無形問わずに、クラ メンバーであるため、クラブの保有する体育館やグラウンド ブとの絆の証としてソシオに入会している人が、今も長く などの施設を利用することができる。体育館に隣接してい 会員であり続けている。 るレストランなどはソシオ会員の社交場となっており、パ 「クラブは、シーズンシート購入者や、サポーターズクラ ため、サポーターズクラブ会員を絞り込む英断が必要な ブ会員のデータを、統合して管理するべき。そうしない いか。 と、すでにシーズンシートを購入してくださったサポータ 最良の顧客に、最高のサービスを提供するためには、 ーズクラブ会員にまた、 『シーズンシートはいかがですか?』 まずどんな顧客がクラブにとって最良なのか、あらかじ とセールスしてしまう可能性がある」。もしお客様が、こ め考えておくべきだろう。さらにCRMシステムの、生涯 うした扱いを受ければ、クラブに絆を感じなくなり、や の観戦履歴を記録する機能を、顧客との絆づくりに、ぜ がて去っていくことになるだろう。 ひ活用したいところだ。 「NBA(全米バスケットボール協会)のチームではシー ズンシート会員を1人失うと、 (平均継続期間が8年とし 一方のレッズも、自らの課題を見据えている。 「サポーター情報の活用に関しては、立ち遅れていると て)チケット収入はもちろん、スタジアムでの飲食やグ 認識している」 (丸山課長) ッズ購入、駐車場利用なども含めて、クラブにとって約 これまでレッズはサポーターズクラブの会員データな 800万円の損失になるという試算もある」 (島田氏)。優 どを積極的に活用してこなかった。仲間づくりの入り口 良顧客との絆を保てないということは、そのままクラブ として機能し、3人以上のグループの自発的活動を旨とす 経営をも左右しかねない。 るレッズ型のサポーターズクラブに、個人単位のデータ 「クラブはしっかり“あなた”に向き合っています」とい 収集を基盤とするCRMシステムを、どう適合させるのか。 うサポーターとの信頼関係を作るためには、 「観客」とい レッズならではの課題だろう。 う大きな固まりではなく、来場頻度、趣向、属性といった、 今後は、もっとサポーターとの絆を深めるため、クラ 一人ひとりの顔を知っておくことが必要になってくる。 ブスタッフの顔もしっかり見せて、サポーターに向き合 「自動車を販売する営業マンが、自分の営業エリアの うことも考えていく方針だ。 「シーズンシート保有者が、 顧客に関して、誰がいつ新車を買ったのか、車検はいつ “マイシート”と思ってくれるように。そのためにはサポ か、家族構成はどうか、などのデータを把握してから向 ーターの情報を知ることが大切」 (藤口代表)。 き合うのは、当たり前」 (島田氏)。新車を購入したばか 「データを集計して分析することが目的になってはいけ りの顧客にセールスしても、成約する可能性はほとんど ない。あくまでも、レッズを自発的に支えてくれる仲間 ない。車検の直前にその案内を送っても、すでにほかで を増やしていきたい。CRMのデータは、サポーターのた 申し込みを済ませているかもしれない。顧客にとって最 めに活用するのでなければ、プラスにならない。主体は 適のタイミングに、最適なご案内を届けることが、最高 クラブではなく、あくまでサポーター」 (同) のおもてなしにつながる。それが信頼関係を生み、ひい CRMというと「顧客情報を集めて管理すること」ととら ては絆づくりにもつながっていく。 えられがちだが、それは手段であって、目的ではない。 ジュビロの未来、レッズの未来 サポーターの顔を知り、彼らの想いを読み取り、クラブ との絆を深めるために活用し、サポーターに「自分のク ジュビロ型のサポーターズクラブは、見込み客を誘引 ラブ」と感じてもらえるようにすることが、J リーグの未 したものなので、CRMを活用すれば、会員をより熱心な 来につながる。 顧客へと誘導できる可能性がある。例えばサポーターズ サポーターズクラブのあり方は、クラブによって実に クラブ会員を、シーズンシート購入者にステップアップ 多様だ。中には、シーズンチケットと完全に融合させて させる施策だ。 運営しているクラブもある。今回のCRM導入は、各クラ その準備として両者に与える特典や、どんな人にサポ ブにとって、顧客、ファン、サポーターとの向き合い方 ーターズクラブ会員になってもらうべきか、整理してお を再点検するための、好機ともいえる。そこにはファン く必要がありそうだ。シーズンシート購入者に、サポー ベースを拡大するための、ヒントが潜んでいる可能性が ターズクラブ会員であり続けてもらう必要があるのかど ある。われわれもこのテーマを、今後さらに探求したい うか。また馬淵社長の言うように、生きた会員を育てる と考えている。 「 J リーグニュースプラス」は 100%再生紙を使用しています。
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