少額の保険修理が激減

特集
少額の保険修理が激減
市場縮小を防ぐために、今すべきこととは
保険等級制度改定後の
市場動向
定を実施した 2012 年度以降、付保台
クサ損害保険は 2012 年度から、2013
数は増加し続けているにもかかわら
年から等級制度改定を実施したその他
昨今、入庫量の減少が業界内で顕著
ず、支払保険金合計、支払件数はとも
ダイレクト型損保と JA 共済は 2013 年
に見られている。その理由には、先進
に減少に転じている。さらに 2013 年
度から、対前年比で損害率が低下して
安全技術の普及による事故件数の減少
度には、合計、支払件数ともに対前年
いる。事故有り係数の導入により、軽
や、若者のクルマ離れなど多くの原因
比で 1 割以上も低下した。
微な損傷での保険使用を抑制できたこ
が考えられるだろう。しかしここ 2 ∼
2011 年度を基準に、その後の支払
とで、各社損害率に一定の改善がみら
3 年の市場動向に最も大きな影響を及
保険金合計と支払件数の推移を比較す
れている。
ぼしているのは、2012 年度以降に損
ると、件数の方が減少率が高いことが
しかし、保険を使用するつもりでボ
保各社が実施したノンフリート等級別
分かる。これは、すべての事故・損傷
デーショップに車両を持ち込んだ後、
料率制度の改定であろう。
程度の保険支払いが平均的に減少して
保険会社に連絡して等級制度の仕組み
等級制度改定で特に影響を受けた車
いる訳ではなく、少額の保険支払い件
を知り、慌てて工場に費用の相談を持
体修理需要は、自損事故などの支払い
数が大きく減少していることを示して
ちかけるカーオーナーもいると聞く。
に使用されていた「車両保険」による
おり、今回の等級制度改定によって、
新車販売における軽自動車の躍進にも
保険修理である。グラフ 1 は車両保険
少額での保険使用を控えるカーオーナ
現れているように、車両購入価格を抑
の「支払保険金合計」、「支払件数」
、
ーが増加したことを裏付けている。そ
えるカーオーナーが増加している状況
「支払保険金平均」
、
「付保台数」と、
の結果、支払保険金の 1 件当たりの平
下において、現状のままの保険制度
「交通事故発生件数」の推移をまとめ
均額は増加しており、2013 年度にお
で、今後も車両保険の付保台数(付保
たもの。交通事故発生件数は確かに
ける車両保険を使用した 1 台当たりの
率)が増え続けるかは、甚だ疑問であ
年々減少しているが、支払保険金合計
修理費は、過去 10 年間で最高額を記
る。
や支払件数はそれと比例せず、2005
録している(グラフ 2)。
もしも付保台数まで減少に転じてし
年度からは付保台数とともに増加傾向
損保各社・共済のデータを見ると
まえば、車体修理業界における保険修
(グラフ 3、4)
、2012 年から等級制度
理市場はさらに縮小してしまう。市場
改定を実施した代理店型損保各社とア
の縮小を食い止めるためには、損保業
が見られている。
しかし、3 メガ 5 社が等級制度の改
グラフ1 車両保険の支払件数・支払保険金と事故発生件数の推移
3,023,298件
2004
支払保険金合計
2005
付保台数
2006
2007
交通事故発生件数
3,276,034件
2008
支払件数
259,459円
33,953,388台
665,138件
692,056件
2011
235,137 円
770,317,830千円
771,405,208千円
2010
33,312,774台
755,915,622千円
2009
支払保険金平均
725,903件
229,008 円
32,892,031台
225,307 円
737,628件
228,679 円
727,190,145千円
2,627,231件
32,298,411台
31,773,060台
766,382件
699,605,853千円
832,691件
672,852,849千円
222,556 円
31,199,754台
887,25 7件
674,978,353千円
225,790 円
30,314,382台
934,339件
29,443,541台
668,980,567千円
28,441,054台
952,709件
230,918 円
706,080,285千円
3,368,467件
225,940円
245,453円
26
3,355,041件
2012
34,482,134台
2,897,049件
3,179,963件
629,021件
3,096,426件
681,659,960千円
2,989,412件
2,876,641件
2013 (年度)
参考資料:自動車保険の概況(損害保険料率算出機構)
※交通事故発生件数のみ年間集計
ボデーショップレポート 2015 年 4 月号
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2015/03/04 20:45
特集
トヨタ・プリウス
直接来店した客による入庫で、左リ
アドアに大きな凹みが認められる。顧
左リヤドアパネルの損傷
客から鈑金による修理の依頼を受け
て、実施した。
匠自動車(高知県高知市)
Before
交換と鈑金作業を比較すると、部品
代で 4 万円以上の差が見られ、指数は
After
1.2 増となった。指数は、深さや面積
などを加味した独自の外板板金修正指
数を用いて算出。実際は見積り金額か
ら割り引きしており、実作業時間はさ
らに短い時間で仕上げている。
作業内容の違いによる部品代、指数の比較
鈑金作業実施時
交換作業実施時
●車名
トヨタ・プリウス
●型式
DAA-ZVW30
●グレード
L
●カラーコード
202 / S
●初年度登録
No.
1
2
3
4
5
6
7
8
9
作業部位 / 部品名
作業内容 部品単価 数量
【部位 : 左 リヤドアパネル】
LH リヤドア パネル
取替
38,400 1
リヤドア ベルト モールデイング
取替
ASSY LH1,810 1
LH リヤドア アウトサイド ストライプ
取替 ロア630 1
LH リヤドア アウトサイドストライプ
取替 アッパー
840 1
LH ブラック アウト テープ NO.2
取替
950 1
LH リヤドア アウトサイドストライプ
取替
1,260 1
LH リヤドア ウェザーストリツプ
取替
リテーナ 90 17
LH リヤドア サ - ビスホールカバー
取替
630 1
平成22年(2010年)
46,050
38,400 3.0
1,810
630
840
950
1,260
1,530
630
指数
No.
作業部位 / 部品名
作業内容 部品単価
1 【部位 : 左 リヤドアパネル】
2 左 リヤドア
鈑金
3 リヤドア ベルト モ - ルデイング
取替
ASSY LH
1,810
部品代
1,810
数量
部品金額 指数
1
指数
4.2
1,810
4.2
※内容に差が見られる個所への作業のみ
抜粋しているため、全作業の合計指数、
部品代ではない。
3.0
損傷の正確な
見極めが重要
自費修理の割合は高まって
たり、その部位に求められる
重要となる。まず一つ目の判
いるが、だからといって安い
性能を満たしていなければ、
断基準は、直るか直らないか、
という理由だけで修理を勧め
「直った」とは言えない。同じ
その次に工賃、作業時間がど
匠自動車
田中大助社長
るべきではないと考えてい
部位がもう一度損傷を受けて
の程度かかるのか。修理した
る。鈑金修理をした結果とし
も修理できるようにする、そ
結果、工賃が交換に迫るよう
て、交換よりも安くなったと
れが本当の修理である。
であれば、顧客が希望しない
いうのであれば良いが、安く
まずは常に同じ方法で、損
限り交換を勧めている。
するという目的が先にあるべ
傷に対応できる技術力を身に
損傷状況の正確な見極めと
きではない。交換か修理か悩
つけることが重要になる。ハ
鈑 金 技 術 が、 利 益 に つ な が
むほどの損傷であれば、ある
ンマリング一つとっても、い
る。業界全体で技術力と品質
程度の修理技術や設備が必要
つも同じように叩くことがで
の向上を目指していく考えか
となる。その中でただ安さだ
きなければ、その鋼板が他と
ら、日本自動車板金塗装協会
けを追い求めれば、品質の低
どのように違うのか判断でき
(JAA)では勉強会や座談会で
下を招きかねない。
な い。 各 種 鋼 板 や 損 傷 に 対
の情報交換を実施している。
交換にするか鈑金にするか
し、自分なりのものさしを持
等級制度改定によって支払い
を決める前に、まずは「車を
つことで、修理可否や正確な
の方法は変わったが、損傷に
直す」という定義を改めて考
修理時間を判断できるように
向き合ってしっかり「直す」
える必要がある。修理直後は
なる。
ことが最も重要であることに
直ったように見えても、経年
交換か修理かの選択におい
変わりはない。
変化や振動に耐えられなかっ
ても、損傷の正確な見極めが
田中社長(左)と同社スタッフ
28
部品代
部品金額 指数
ボデーショップレポート 2015 年 4 月号
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