平成 26 年度創成シミュレーション工学専攻修士論文梗概集 計算応用科学分野 エポキシ樹脂と金属 Al との界面の熱伝導シミュレーション:熱ダイオード効果 学籍番号 25413526 氏名 木村 亮介 指導教員名 尾形 修司 1 はじめに ュレーションを行った. 電気回路のダイオードのように整流方向にのみ熱 が流れる現象を熱ダイオード効果という.界面熱伝 温度制御 温度制御 導度(熱伝導率)は電気伝導率に比べて,物質や構 造による違いが小さいため,熱ダイオードの作成に は多くの工夫が必要となる.そのため,現在有効な 熱ダイオードは非常に少ない.熱ダイオードの設計 には熱伝導の解析が不可欠であるが,分子レベルで Al エポキシ樹脂 固定層 行う必要があるため, 実験での解析は容易ではない. そこで,分子動力学法(MD法)を用いた計算機シミ 図1:エポキシ樹脂と金属Alの界面 ュレーションにより,異なる物質の界面における熱 ダイオード効果を検証した. エポキシ樹脂の分子内の計算とエポキシ樹脂とAl はDREIDING force field[2],Al固体内ではEAMポテ 2 非平衡法 ンシャルを採用した[3]. 熱伝導率を求める手法として,非平衡法がしばし ば用いられる.熱伝導率はフーリエの法則から実際 4 シミュレーション結果 に計算することができる.しかし,本研究で扱うエ 本研究では高温部を 250K,低温部を 150K とし, ポキシ樹脂とAlの界面は,界面で大きな温度差が生 系全体を平均 200K にして計算した. つまり高温部と じるため,熱伝導率では議論しにくい.よって本研 低温部に 100K の温度差をつけた. エポキシ樹脂から 究では,界面熱伝導度を用いて議論する[1].界面熱 熱が伝わる場合と Al から熱が伝わる場合を比較し 伝導度は たいので,エポキシ樹脂 250K,Al150K の時(図 2, 𝐺 = 𝐽/∆𝑇 (1) 図 4)と,エポキシ樹脂 150K,Al250K の時(図 3, と表すことができる.ただし𝐽は熱流束,Δ𝑇は温度 図 5)の二通りを計算した.図 2,図 3 から熱流束, 差である. 図 4,図 5 から温度差を計算することができる.そ 非平衡法は,対象系の両端に高温部と低温部を作 の時の界面熱伝導度を表 1 に示す.ただし,十分に ることによって温度勾配を与え,その温度勾配を維 構造緩和を行ってから計算を始めた. 持するために高温部に与えたエネルギー,あるいは 低温部から奪ったエネルギーから界面熱伝導度を求 で,様々な波長をもつフォノンが自動発生するのを 待つ必要があり,長い時間のシミュレーションが必 要となる.そのため本研究では,並列化やリンクリ スト法などの高速化を用いて計算をした. 3 シミュレーション条件 Energy [eV] める手法である.非平衡法は,高温に制御する場所 30 20 10 0 -10 -20 -30 -40 -50 -60 high_control low_control 0 50 100 150 200 250 300 Time[ps] 本研究では,図1のような高分子系であるエポキ 図2:高温部に与えたエネルギーと低温部から奪った シ樹脂と金属である Al の界面について熱伝導シミ エネルギー(エポキシ樹脂250K,Al150K) 平成 26 年度創成シミュレーション工学専攻修士論文梗概集 計算応用科学分野 Al に比べエポキシ樹脂は柔らかい分子のため,高 30 Energy [eV] い振動数のフォノンが存在できない.そのため,Al high_control low_control 20 10 で発生したフォノンはエポキシ樹脂との界面におい 0 て反射する.このためエポキシ樹脂から熱が伝わる -10 場合のほうが界面熱伝導度は高くなったと考えられ -20 る. -30 本研究の結果により,分子動力学シミュレーショ -40 0 50 100 150 200 250 ンを用いて,熱ダイオード効果を定量的に確認する 300 Time[ps] 図3:高温部に与えたエネルギーと低温部から奪った エネルギー(エポキシ樹脂150K,Al250K) の計算は行っていないため,今後はより詳細な検証 を行う必要がある. 260 Temperature [K] ことができた.しかし,密度の依存性や他の物質で 6 参考文献 240 220 [1] The interfacial thermal conductance between a 200 180 vertical single-wall carbon nanotube and a silicon 160 substrate J. Appl. Phys. 106, 034307 (2009) 140 0 20 40 60 80 100 120 x[ang] 図4:温度分布(エポキシ樹脂250K,Al150K) [2] Stephen L. Mayo, Barry D. Olafson, and William A. Goddard I¥hspace{-.1em}I¥hspace{-.1em}I, "DREIDING: A Generic Force Field for Molecular Simulations", Journal of Applied physics 94, 8897-8909 (1990) Temperature [K] 260 240 [3] Stephen L. Mayo, Barry D. Olafson, and William A. 220 Goddard III, ”DREIDING: A Generic Force Field for 200 180 Molecular Simulations”, Journal of Applied physics 94, 160 8897-8909 (1990) 140 0 20 40 60 80 100 120 図5:温度分布(エポキシ樹脂150K,Al250K) x[ang] 表1 界面熱伝導度 エポキシ樹脂 Al の温度[K] 界 面 熱 伝 導 度 の温度[K] [W/(m^2・K)] 250 150 7.41 ×10^(-9) 150 250 3.33×10^(-9) 350 250 3.26 ×10^(-9) 250 350 1.16 ×10^(-9) 5 まとめ エポキシ樹脂,Al をそれぞれ高温部にした時を比 較したところ,Al→エポキシ樹脂の時よりもエポキ シ樹脂→Al の時の方が界面熱伝導度も高くなった. これは平均温度を 300K にした場合も同様の結果と なった.
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