秋田大学次世代がん治療推進専門家養成プラン No.6平成27年4月1日発行 平成26年9月○日発行 No.09 【発行】 秋田大学次世代がん治療推進専門家養成プラン事務局 HP:http://www.med.akita-u.ac.jp/~ganpro24/ もっと素敵な秋田県になって欲しい。私たちは秋田のがん医療をよくしようと頑張っています。 私たちの使命を皆さんに知っていただきたい。それは「がんのプロ」と呼べる医療人の育成です。 共に考えてゆきたい、どうすれば秋田のがん医療は良くなるのか。皆さんの意見もお聞かせ下さい。 【今号は】 ● 秋田県のがん治療は向上したのか、向上するのか? —次世代がんプロフェッショナル養成プランの中間年を終えて— ● 口腔ケアと周術期口腔機能管理 ● 【報告】2月21日(土)地域がん医療フォーラム in HIROSAKIを開催しました 秋田県のがん治療は向上したのか、向上するのか? —次世代がんプロフェッショナル養成プランの中間年を終えて— 秋田大学大学院医学系研究科医学専攻臨床腫瘍学講座 教授 柴田 浩行 2012年から始まった「ネクスト(二代目)がんプロ」も来年は5カ年計画の4年目を 迎える。初代の「がんプロ」から数えると通算9年目となる。十年一昔と言うが「がんプロ」前夜の2006 年、本県はがん拠点病院がゼロのどん底に喘いだ。指定要件をめぐる行政と医療機関との連携が悪かったに せよ、NHKと魁新報の報道はがん医療への不信を県民に根深く植え付けた。秋田県にとって2007年に「がんプ ロ」が始まったのは時宜を得ていた。「がんプロ」は文部科学省による、がん専門医療人養成のための大学 院コースである。大学院、すなわち研修を修了した医師を対象とした卒後教育である。がん死亡率で全国 ワーストを彷徨う秋田県に医療人育成では間だるい、他県より即戦力である専門医を招聘すれば解決すると 思うかもしれない。しかし、助っ人をよんでも県内医療の真のレベル向上にはつながらないだろう。 明治維新の頃を想う。西欧列強の外圧に曝された我が国の指導者は、かつて適塾や松下村塾に学んだ学生 である。武器弾薬を買い漁り傭兵を雇ったのではない。国難に及んで人材育成から始めた。しかも、オンザ ジョブ、働きながら学問や技術を習得した。この故知から学べば、「がんプロ」はまさに正攻法である。司 馬遼太郎の歴史観には賛同しかねる点もあるが「花神」や「坂の上の雲」は復読した。内戦である戊辰役は ともかく、日露戦争を描いた後者は帝国主義を礼賛するとして嫌悪する人もいるだろう。しかし、遼太郎自 身、太平洋戦争に動員され侵略戦争の犠牲者であった。日露戦争は自衛のための闘いであるという作者の立 場に立てば、国難に立ち向かった原動力は教育、そして技術で、それらが日本を救ったと言える。勇猛な将 軍や提督がいたからではない。当時の日本人はすべからく勤勉で、これが同じ民族なのかと思われるほど現 代人とは隔たりがある。 数日前、四国松山に呼ばれた。秋山真之と正岡子規の生誕地である。短い時間であったが市内を散策し た。バルチック艦隊撃滅の作戦参謀と近代俳諧の改革者の息吹に改めて触発された。文明開化の遺産が多 く、西国は東国に比べ当時から先取の気運に富んでいたように感じられる。がん治療も新しいことは西から 始まるようである。松山市の人口は約50万人で秋田市よりやや多いが、本学医学部と歴史的に同期の愛媛大 学医学部に加えて四国がんセンターを擁する。秋田県にがんセンターがあっても悪くない。県内で「がんプ ロ」を養成した後に、その就職先を確保する必要がある。税金を投ずる意義について県民の皆さんにも考え てもらいたい。 しかし、がん治療の究極の指標は、どの位の人ががんを克服できたかという点に尽きる。専門医の養成数 や建物の数ではない。その点について、きちんと統計を取る必要があるが、昨日の秋田県がん診療連携協議 会に出された資料では秋田県の成績は決して大都市圏に劣らない。専門医でなくとも現場は頑張っている。 昭和55年に放映された、大村益次郎を描いたNHK大河ドラマ「花神」のプロローグは今も耳に残る。「一人 の男がいる。歴史が彼を必要とした時、忽然として現われ、その使命が終わると大急ぎで去った。彼の役目 は、津々浦々の枯木にその花を咲かせてまわる事であった。中国では花咲か爺の事を花神という。彼は花神 の仕事を背負ったのかもしれない」。英雄になれずとも、花神にはなれる気がするのである。 【発行】秋田大学次世代がん治療推進専門家養成プラン事務局 口腔ケアと周術期口腔機能管理 秋田大学医学部附属病院歯科口腔外科 診療科長・病院教授 福田 雅幸 口腔ケアは、がん患者のQOLに関わるキーワードとして医療人には認知されている と思います。しかし、本当に口腔ケアはQOLの向上に貢献しているのでしょうか。 ベッドサイドからは、今までの診療や看護に加え、「食事以外の口の管理までするの はとても大変」という声を残念ながら漏れ聞きます。毎食後あるいは絶食の場合でも 1日数回口腔内を徹底的にきれいにする(正確には口腔内の常在細菌数を可及的に少 なくする)のは、健康な人でも努力のいる行為です。 周術期口腔機能管理は、周術期の口腔ケアの代名詞として、平成24年度の診療報酬改定において、「全身 麻酔下で、頭頸部領域、呼吸器領域、消化器領域等の悪性腫瘍の手術、臓器移植手術又は心臓血管外科手術 等を実施する患者の周術期における口腔機能管理を、手術前・入院中・手術後に実施した場合」の歯科診療 報酬として新たに創設されました。また、「放射線治療や化学療法を実施する患者の口腔ケア」も同様に算 定が可能になりました。 口腔ケアの保険導入の経緯は、静岡県の要介護老人ホームに対する誤嚥性肺炎に関する調査結果が大きく 貢献しています。2年間の追跡調査を行ない、その間に37.8℃以上の発熱が7日以上みられた入所者数、肺炎 発症者数、肺炎による死亡者数をそれぞれ比較したところ、口腔ケアを行った群では口腔ケアを行わなかっ た群に比べ、発熱者、肺炎発症者、肺炎による死亡者が有意に少ないという結果が得られました。これに よって、口腔ケアの誤嚥性肺炎の予防に対する効果が証明され、今回、がん患者を対象とした周術期口腔機 能管理として保険導入に至りました。口腔ケアが、がん治療中の合併症の減少による入院期間の短縮や医療 費の削減の一助になれば本望です。 当院では、すでに病院長から各診療科長あてに、周術期口腔機能管理を積極的に導入するように通達があ りました。以前当科では、口腔がん患者に対する口腔ケアの効果を評価したことがあります。術後急性期を 過ぎた後の白血球数・CRP値の上昇、発熱・肺炎の有無、および手術から経口摂取開始までの平均期間を口腔 ケア導入前群と導入後群で比較しました。その結果、白血球数・CRP値の上昇、熱発、肺炎のいずれかが生じ たのは導入前群で39.1%、導入後群で12.5%であり、導入後群で有意に減少しました。また、手術から経口 摂取開始までの平均期間は、導入前群で25.7日、導入後群で19.5日であり、短縮がみられました。口腔ケア は,周術期口腔機能管理の要であると再認識した次第です。現在、院内における口腔ケアの依頼は、曜日を 問わず外来新患として受け付けております。お気軽にお声掛けください。 口に関連したキーワードとしてもう一つ知っておいていただきたいのが薬剤性の顎骨壊死です。ビスフォ スフォネート(BP)製剤は、骨吸収を阻害することが報告され、悪性腫瘍による高Ca血症、骨転移、多発性 骨髄腫の治療に高い治療成績があり、広く用いられています。しかしその一方で、重篤な副作用として、厚 生労働省からもBP製剤関連顎骨壊死が報告されています。また、近年では、ヒト型抗RANKLモノクローナル抗 体製剤が開発され、これによる顎骨壊死も報告されています。 これら薬剤による顎骨壊死の発生機序は、いろいろ議論されていますが統一した見解は出ていません。ま た、関連学会から「ビスフォスフォネート関連顎骨壊死に対するポジションペーパー」がすでに発表されま したが、治療法も確立していません。しかし、口腔内常在菌による感染が契機になっていることは確かで す。発症後は治療に難渋する症例が多く、顎骨切除に至り、術後経口摂取ができなくなる場合があります。 したがって、何よりも口腔内常在菌の数を減らすような予防が第一であり、ここでも口腔ケアは予防の要な のです。 おいしいものを思う存分味わいたいというのは人間の根源的欲求の一つです。周術期だけではなく治療中 は可能な限り経口摂取できるように、口腔機能の維持に口腔ケアは不可欠であるとの信念をもってわれわれ は日々対応しています。 【報告】2月21日(土)『地域がん医療フォーラム in HIROSAKI』を開催しました 次世代がん治療推進専門家養成プラン(弘前大学、秋田大学)の共催により、6月の『地域がん医療フォー ラム in AKITA』に引き続いての開催となりました。第1部の東京大学大学院医学系研究科放射線医療学講座 准教授 中川恵一先生の基調講演では、放射線治療と化学療法を併せた治療法、緩和ケア等について御講演い ただき、第2部では「東北地方の放射線治療の問題点と将来」と題し、弘前大、秋田大、岩手医大、東北大、 福島医大の5大学のがんプロの先生方からパネルディスカッションがおこなわれました。秋田大学の放射線治 療の人的不足が顕著でした。今後は人のリクルート、養成について全県をあげて支援する必要があります。
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