越境汚染下におけるクロスボーダー消費と環境税の有効性 九州大学炭素資源国際教育研究センター 大野 正久 Abstract 近年,地球温暖化を引き起こす二酸化炭素の排出を抑制するために,フィンランド,スウェーデン,ノ ルウェーをはじめ多くの国々で炭素税が導入されている.日本では,このような炭素税は導入されていな いが,低炭素社会の実現に向けての環境税の導入について盛んに議論されている.他方で,インターネッ ト等の情報技術や輸送手段,交通手段の発達により,国境による制約が緩和され,ボーダレス化が進展し ている.それによって,国境を越えての人々の財・サービスの消費が可能となっている.このような現状 を背景に,本稿では環境税の導入とクロスボーダー消費に注目して,越境汚染が存在する状況下で,各国 の政府が財の消費が国内に限定される財を生産する企業に環境税を課すべきか,あるいはクロスボーダー 消費が可能な財を生産する企業に環境税を課すべきかを理論的に分析し,環境税を導入することの有効性 について考察する.主要な結果として,越境汚染の程度が小さい(大きい)場合は,財の消費が国内に限 定されるケースよりもクロスボーダー消費が可能なケースの方が均衡における環境税率は高い(低い)水 準になることが示される.さらに,環境負荷を最小化する観点からでは,越境汚染の程度が小さい場合は, クロスボーダー消費が可能な財を生産する企業に対して環境税を課すべきであり,越境汚染の程度が大き い場合は,財の消費が国内に限定される財を生産する企業に環境税を課すべきであるという政策的インプ リケーションが得られる. キーワード: 越境汚染,環境税,クロスボーダー消費 JEL: H23, H71, Q53, Q58 1 Cross-border Consumption and the Efficiency of Environmental Tax under Transboundary Pollution Tadahisa Ohno Research and Education Center of Carbon Resources, Kyushu University Abstract Focussing on the introduction of environmental tax and cross-border consumption under transboundary pollution, this paper analyzes the differences related to the decisions on environmental tax in each country comparing the cases with and without cross-border consumption. This paper makes the following main conclusion. When the degree of transboundary pollution is small (large), the environmental tax rate which is decided under a situation in which cross-border consumption exists is higher (lower) than the one which is decided under a situation in which cross-border consumption does not exist. Keywords: Transboundary Pollution, Environmental Tax, Cross-border Consumption JEL: H23, H71, Q53, Q58 2
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