磁性体 Pd(dmit) 2 のラマン・IR スペクトル に関する分子軌道法を用いた

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磁性体 Pd(dmit)2 のラマン・IR スペクトル
に関する分子軌道法を用いた解析
伊藤章・○川上貴資・木下啓二・吉村翔平・北河康隆・山中秀介・奥村光隆
阪大院理
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【序】本研究は Pd(dmit)2 錯体の分子性結晶を対象とした。Pd(dmit)2 は反強磁性や超伝導、ス
ピンフラストレーション、電荷分離状態という多様な基底状態をとるという点で注目されて
いる。興味深いことにどの状態でも共通して、結晶中では Pd(dmit)2 が強く二量体化し積層構
造(図 1)をとるにも関わらず、二量体内、二量体間の電荷の揺らぎや、相互作用の変化などに
より、この多様性を生じさせている。これらについて詳細な解析が必要であり特に理論計算
によるアプローチが重要である。
本研究では我々は多角的にアプローチしているが、特に本講演では、分子軌道から予測さ
れる Pd(dmit)2 二量体の物性量を、実験結果と関係づけて議論する。
【計算と結果】ラマン・IR 分光測定による実験に関しては、山本(阪大)らによって詳細
に報告されている[1]。特に、興味深いことは、Pd(dmit)2 分子性結晶での 4 個の振動モード(A,
B, C, D) (図 2)が、各分子内の dmit 部位間や、 2 分子間の dmit 部位間の相互作用に強く依存
することが、定量的に議論されていることである。
初めに、我々の計算では、振電相互作用を算出することで、多くの振動モードのうちのど
れが、どのような機構によって、分子環境を反映するのかを解析した。その結果、実験で観
測される dmit 配位子内の炭素二重結合の伸縮振動モードが重要であること立証した。
次に、この伸縮振動モードに起因する、分子性結晶での 4 個の振動モードに関して、分子
軌道を用いて解析した。具体的には、計算系(二量体で-1 価)に関して、UB3LYP 法などやそれ
らに分散力を加味した UB3LYP-D 法などの、各種密度汎関数法にて、振動モードを計算して、
実験値と比較した。計算の結果、理論計算でこれらの定量的に再現は非常に困難であった。
この原因として、電荷分布および各 dmit 間の相互作用の見積りが、適用した各手法では不十
分であったためと考えられる。これらに関して、現在改良をしている。
図 1 Pd(dmit)2 分子とその二量体
図 2 Pd(dmit)2 分子性結晶での 4 個の振動モード
[1] T. Yamamoto, et al., J. Phys. Soc. Jpn., 80, 074717 (2011)