「キッコーマンしょうゆ卓上瓶」から見える知財戦略

3AM-E01
平成27年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
工業デザイン「キッコーマンしょうゆ卓上瓶」から見える知財戦略
日本弁理士会関東支部 弁理士 穂坂道子
1.工業デザインと知的財産権
工業デザインは、工業製品の美しさや使いやすさ
を追求しその結果として製品の商品価値を高めるこ
とを目的に行われる。
優れた工業デザインは、消費者の購買意欲を引き
起こすため多大な財産的価値があり、企業の資本導
入とデザイナーの能力と努力によって生まれるもの
であるにもかかわらず、製品の外観に係るものであ
るため容易に模倣される。模倣を防止するための有
効な保護手段がなければ、創作意欲は薄れ、活発な
産業活動が阻害されるであろう。
そのための有効な手段が、知的財産権の取得であ
る。また、知的財産権では保護が不十分なケースに
関し、いわばすき間埋めのようなかたちで不正競争
防止法が工業デザインを保護しうる。
2.特許権、意匠権との関係
キッコーマンしょうゆ卓上
瓶は、工業デザイナー榮久庵
憲司氏によるデザインとして
世界的に有名であり、キッコ
ーマン社が 1961 年に販売を
開始し、現在まで 50 年以上の
間継続して販売され、人気を
博した。
この卓上瓶の特徴は、
「側面
の緩やかな美しいカーブ」や
「赤いフタ」といった形態の
みではない。そそぎ口のカッティングの工夫により、
「液だれしない」という技術的な効果を備え、また、
フタに設けられた二つの穴と側面のカーブ形状の位
置関係の工夫により、注ぐ際に蓋の二つの穴の一方
を指でふさぐことができる、という技術的効果も備
える。
これほどの製品であることから、筆者は、この卓
上瓶には当然意匠権が取得されていたであろうと予
想したが、意匠登録は見当たらなかった。
また、この卓上瓶の工夫のうち、技術的な効果の
あるものについては、特許権や実用新案権による保
護が充分考えられるのでこれも説明する。
このように、意匠権に加え、特許権・実用新案権
も取得するという対応策は、形態が技術的な効果を
もたらしている製品では、非常に有効である。
同様の例として、日清食品の「チキンラーメンの
たまごポケット」を紹介する。
3.商標権、著作権との関係
商標は、他の商品と識別する機能を備えた「識別
標識」である。
右のマークは、これを見るだけで
キッコーマン社を想起する消費者が
多いであろう。消費者はこのマーク
を頼りに、キッコーマン社が品質を
保証する商品を入手できる。
商標登録の対象は、時代の要請に応じて変化がみ
られ、平成 9 年に「立体的形状」の登録が認められ
るようになった。さらに平成 26 年には、
「音」、
「色
彩」、といったものにまで対象が広がった。「立体的
形状」や「色彩」について商標登録することにより、
工業デザインを商標権で保護できる。
例えば、キッコーマンのしょうゆ卓上瓶は、仮に
その瓶にキッコーマン社のマークが付されていない
場合でも、瓶の形状を見ただけで、キッコーマン社
のしょうゆの瓶、と理解する日本人は多いのではな
いだろうか。キッコーマンのしょうゆ卓上瓶の立体
的形状については今のところ商標登録の申請がされ
ていないが、申請すれば登録の可能性は充分にある
であろうと筆者は考える。
立体的形状の商標登録が認め
られた工業デザインとして「コ
カ・コーラ瓶」
(登録第 5225619
号)を紹介する。
最後に、工業デザインと著作
権の関係はどうであろうか。
例えば陶芸作家の「壺」は純
粋美術として著作権により保護
される。その一方、応用美術で
ある工業デザインには著作権の
適用がない。
工業デザインに対する著作権と、意匠権や特許権
との棲み分けの考え方についても紹介する。