保険・年金論(第3回) リスクプーリング

保険論(第9回)
年金の課題
敬愛大学経済学部
2015年6月4日
大塚忠義
1
日本の公的年金の沿革(1)
1875年(明治7年):海軍退隠令
1876年(明治8年):陸軍恩給令
1884年(明治16年):官吏恩給令
軍人・官吏への恩給制度(全額租税)
が起源
徴兵制度への反発への対応
1907年(明治39年):帝国鉄道庁職員
救済組合
日本の公的年金の沿革(2)
1929年(昭和4年):大恐慌始まる
1931年(昭和6年):満州事変
1939年(昭和14年):船員保険法
戦時体制下での船員の医療や労災保険も
含む制度
1941年(昭和16年):太平洋戦争:戦費国債
の大量発行
1942年(昭和17年):労働者年金保険法
工場で働く男子労働者を対象
1944年(昭和19年):厚生年金保険法
適用範囲を男子事務員と女子労働者に拡
大
日本の公的年金の沿革(3)
1954年(昭和29年):厚生年金法の大
改正。実質的な再スタート、戦後の混
乱期、復興資金が必要
1955年(昭和30年):SF講和会議
1959年(昭和34年):国民年金法。国民
皆年金制度がスタート
1985年:基礎年金の導入により、現行
制度となる。
企業保障
従業員の福利厚生のために実施する。
•法定福利費
厚生年金、健康保険などの社会保険の
雇用者負担部分。法で定められており、租
税と同様に強制的なもの。企業が自由に
決定することはできない。
•法定外福利費
退職金、退職年金、厚生寮、厚生施設、
健康増進・維持サービス、医療保健サービ
スなど企業が独自の判断で従業員に提供
する福利厚生制度
企業年金
•3層構造の2層目
•つなぎ機能と上乗せ機能
•つなぎ:定年退職(60歳)と公的年金の
支給年齢(65歳)の空白期間を埋める
•上乗せ:公的年金の給付額に上乗せす
る
企業年金を導入する理由
•従業員の採用・保持
•優秀な人材の定着・士気の高揚
•退職金コストの平準化
•税制上の優遇措置
充実した退職金制度と高い月給
どちらがいいですか?
日本の企業年金の沿革
1905年(明治37年):鐘紡の従業員年
金給与規定
1914年(大正3年):三井商店(三井物
産)の使用人恩給内規
1952年(昭和27年):法人税法改正。退
職給与引当金制度
1962年(昭和37年):法人税法改正。税
制適格年金制度の導入
1964年(昭和39年):東京オリンピック
公的年金の課題(1)
年金制度が崩壊すると言われています
が、なにが問題なのかを考える
•高齢化社会
•出生率の低下
•長期間にわたる低金利の継続
•複雑な制度
•年金制度と現在の国民の生活パター
ンとのかい離
公的年金の課題(2)
2014年が財政再計算の年
マスコミ・評論家と称する人たちが話題
にする
制度全体の問題、
財政の問題、
国民年金固有の問題、
厚生年金固有の問題
公的年金制度全体の問題(1)
・複雑な制度
もともとは異なった趣旨で始まった制度の
統合
給付額の差。財政状況の差
制度ごとに損得、有利不利があるため一
本化が極めて困難
・給付水準に関する曲解
そもそも公的年金で老後の生活をすべて
賄うことは想定していない制度
北欧と異なりそのための必要な保険料を
徴収していない
公的年金制度全体の問題(2)
・家族単位の年金制度
専業主婦が当たり前のころに構築され
た制度。130万円以上の給料はもらわな
い方が得。独身者・離婚の不利益
・制度管理者(社会保険庁)の事務疎漏
30兆の収入、50兆の支出、160兆円の
預り資産を持つ機関としての事務体制の
不備、高コスト体質
公的年金制度全体の問題(3)
・想定を上回る死亡率、平均寿命の改善
支払年金額の増加
・想定を下回る出生率の低下
保険料を支払う勤労者の減少:収入保
険料の減少
・想定を下回る低金利と想定をはるかを
超える低金利の継続
1.01の50乗は1.64、1.05の50乗は14.55
公的年金の財政方式:賦課方式
•加入者全体(公的年金では国民全体)の保
険料収入と年金支払のバランスを考慮する
方法
•その年の保険料収入によってその年の年
金支払が賄われる
•勤労者が高齢者の生活を支えるという観点
で、国家によって世代間扶を行う制度である
(家族による支えあいを国家が行う)
•年金制度を開始するときに既に年齢に高い
人にも給付するためにはこの方式の方が好
ましい
賦課方式(2)
•すべての国の公的年金に、賦課方式の
考え方が含まれている。ただし、足らない
部分が国庫で負担
•5年に一度財政再計算を行い、保険料・
年金額の変更を行っている
•インフレーションに強いが、人口構造の
変化に弱い
高齢者の増加、勤労世代の減少は直撃
積立方式
•各個人の将来の年金給付に必要な資金
を加入期間中に事前積立する
•それぞれの被保険者の収入と支出のバ
ランスが取れている
•民間の年金はすべてこの方法によって
いる
•人口構造の変化に影響されないが、イ
ンフレーションに弱い
長期間にわたる低金利は影響大
修正積立方式(1)
•積立方式と賦課方式の折衷
•現在の日本の公的年金の財政制度
•現在ほぼすべての先進国でこの制度が
とられている
•日本での公的年金は最初は完全積立
方式であった
•昭和40年代後半からのオイルショック、
狂乱物価といわれる高インフレ:30%の
インフレが数年続いた
修正積立方式(2)
•年金額をインフレに連動して引き上げる
こと決定、しかしその分の保険料を過去に
はもらっていたわけではない
•その間、保険料は十分に引き上げること
はできなかった
•そのしわ寄せは現役世代、若者世代へと
•現在でも176兆円の積立金、支払年金額
の3年分:基本は積立方式を維持している
公的年金の財政の問題(1)
財政破たんの危機?
国の財政破たん:国が債務の支払を約定
どおりに行えないこと
国の債務:国債の利払い、公務員の給与、
公共事業の代金etc..
年金財政の破たん:年金の支払を約定ど
おりに行えないこと
現実に発生すると思えますか?
20
公的年金の財政の問題(2)
受け取れる年金の総額は払った保険料
より少ない?
国民年金:1/3は国庫補助
厚生年金:雇用主が同額の負担
少なくとも国や会社が負担した分はお得
公的年金の財政の問題(3)
平均寿命の延びは年金受給者にとってはお得
•保険料は一律月15,250円(平成26年)
•平均受給年金額月54,000円
20歳から40年すべて支払うと732万円
月54,000円貰ったら11年3か月分
65歳の平均余命男18.74年、女23.80年(2010
年完全生命表)
男 1412万円:保険料の1.66倍
女 1542万円:保険料の2.11倍
平均寿命と平均余命の違いの話
23
公的年金の財政の問題(4)
低金利は年金財政に直撃
:年金預り金の運用成績に影響
1.01の50乗は1.64、1.05の50乗は14.55
年金の支給額には物価スライド条項があ
る
金利と消費者物価の変化は並行
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公的年金制度全体の問題(5)
独立行政法人年金積立金運用
日本最大級の機関投資家:
平成24年度末120兆円:
日本生命の総資産:54兆円
大きすぎるため資産運用に大きな制約:
効率的な運用はできない、常に平均
株が下がりそうでも売ることができない
平成25年9月末
27
国民年金の問題(1)
未加入問題
•第1号被保険者の未加入、保険料の未納
加入強制力のない強制年金
第1号被保険者の1/3が未加入
もともとは任意加入
•未加入、未納はやがて年金の支払いがない
年金の財政には何の影響もない
未加入・未納者の老後の生活の問題、生活保
護増加の恐れ
•社会保険方式から税方式への案
解決の具体案がない中で、社会保険をやめるこ
とにより国民皆年金を維持
国民年金の問題(2)
•社会保険方式から税方式への案
現在1/3、将来1/2、消費税の増税
•議論すべきは、国民皆年金としての
適正な年金の水準と
公平・公正な負担の水準と負担の方法
国民年金創設時:
平均寿命 男65歳女70歳
自営業者、農業従事者に対しそれまでの
所得の1/3程度を保証する水準
60歳以上人口が全体の8%、金利が6%のと
きに創設した制度。今は20%,0.8%
厚生年金の問題(1)
•年金の水準を維持するための、保険料の負担
水準はどの程度か?
•修正積立方式のため、死亡率の改善と低金利
による影響は大きい
•制度の設計は在職時の2/3の年金水準を目指
していた。
•60歳以上人口が全体の8%、金利が6%のときに
創設した制度。今は20%,0.8%
•現行の保険料率13%、月給20万なら27千円。
他に所得税・住民税・健康保険・雇用保険
•年金水準維持のために将来20-25%まで上昇。
厚生年金の問題(2)
•被用者年金を国が管理しつづける必要がある
か?
•強制である必要が一体あるのか?(国民年金
と違って給料から天引きなので強制力が強い)
•財政方式を完全な積立方式に変更?
•民営化?
•パートタイマー、アルバイトはどう扱う?
•企業にとっての負担が大きいと非正規雇用が
増大
厚生年金の問題(3)
•財政方式を完全な積立方式に変更?
変更時に莫大な資金を必要とするため現
実的とはいえない
•民営化?
現在は逆に資産運用の負担のため国に返
上する会社が多い。AIG問題
•パートタイマー、アルバイト、企業の負担
適正な負担額に対する議論
企業にとっては年金の負担がない人を雇
う、負担のない国に工場を作る方が有利
公的年金の最大の課題
公的年金制度の構築、変革は、国会で決議
保険数理、経済の問題より政治
投票者の意向が重要
選挙に行くのは
•高齢者>弱年層
•地方>都市部
•農業従事者>給与所得者
選挙の結果が民意です。
Question?
お疲れ様でした。
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