授与機関名 順天堂大学 学位記番号 甲第 1498 号 Inhibition of the NAD-dependent protein deacetylase SIRT2 induces granulocytic differentiation in human leukemia cells (NAD 依存性脱アセチル化酵素 SIRT2 の阻害は白血病細胞を好中球様細胞に分化誘導する) 角南 義孝(すなみ よしたか) 博士(医学) 論文内容の要旨 Sirtuin は NAD 依存性脱アセチル化酵素で、代謝や細胞修復、分化などの基本的な生命 現象に関わっている。一方、がんにおける sirtuin の役割はよくわかっていないが、固形 がんで sirtuin の過剰発現が報告されており、がん細胞の未分化状態の維持に関与してい る可能性がある。急性白血病は未分化な腫瘍細胞が骨髄中で異常増殖した疾患であるが、 未分化な細胞を成熟細胞へ分化させ、細胞死を誘導する“分化誘導療法”は急性白血病の 治療法の一つである。そこで我々は sirtuin の機能阻害により白血病細胞を分化誘導でき るのではないかと仮説を立て、以下の実験を行った。はじめに sirtuin 阻害薬の tenovin-6 と BML-266 で急性前骨髄球性白血病 (acute promyelocytic leukemia; APL)細胞株であ る NB4 細胞を処理したところ、これらの細胞は好中球様細胞へと分化した。tenovin-6 処理された細胞では sirtuin family の一つである SIRT2 の基質 α-tubulin のアセチル化 が亢進しており、この分化誘導作用は SIRT2 の脱アセチル化活性阻害を介していること が示唆された。そこで APL の原因分子である PML-RARα 融合蛋白質に対する tenovin-6 の影響を検討した。ATRA (all- trans retinoic acid)は PML-RARα 融合蛋白質を分解し、 正常な PML-nuclear body を形成し、APL 細胞を好中球様細胞へと分化誘導する。一方、 tenovin-6 は NB4 の PML-RARα 融合蛋白質を分解せず、PML-RARα 陰性の非 APL 細 胞株 HL-60 も好中球様細胞へと分化誘導したことから、PML-RARα を介さずに白血病 細胞の分化を誘導していることが明らかとなった。次に shRNA を用いて NB4 細胞の SIRT2 をノックダウンしたところ、これらの細胞は好中球様細胞へと分化したことから、 SIRT2 阻害が分化誘導の引き金になっていることが示唆された。一方、SIRT2 過剰発現 NB4 細胞は tenovin-6 に耐性となり、分化誘導が阻害された。このことは tenovin-6 が SIRT2 活性阻害を介して NB4 細胞を好中球様細胞へと分化誘導したことを示している。 以上の結果から、SIRT2 は急性白血病治療の標的分子となる可能性がある。
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