2015年10月号 「リチウムイオン電池 負極材料加工技術」

リチウムイオン電池
負極材料加工技術
今月の新技術③
A New technology of this month
ホソカワミクロン株式会社
企画管理本部 経営企画部
次長 東 充延
は激化する傾向にある。
1.はじめに
本稿では、社会に根付き、今後更なる市場拡大が予測
リチウムイオン電池(LiB)の一般家電品への適用は
されるLiBの小型化、大容量化などの性能向上に大きく
1990年代から始まったが、この電池を用いたノートパ
貢献する粉体技術について、特に負極材料の加工に焦点
ソコンが発火するなど、安全性の問題が露見したため、
を当てて紹介する。
普及がなかなか進まない時期があった。しかし、近年で
は材料の研究が進むと共に構造上の改善が進んだこと
2.粉体技術から見た負極材料の改良ポイント
で、パソコンや携帯電話などの民生品はもとより、自動
LiBを構成する主たる部材は、正極、負極、セパレータ、
車への搭載実績も伸びつつあり、急速に使用量が拡大し
電解液の4種であることは広く知られているが、その中
ている工業原料のひとつとなっている。
で負極は充電時に正極から出たリチウムイオンを受け取
特に自動車メーカー各社では、ハイブリット車(HV)
り、放電時に電子を放出する役割を果たす。よって、リ
や電気自動車(EV)は、販売戦略上、不可欠なものとな
チウムイオンをなるべく多く吸蔵でき、スムーズに放出
りつつある。このような流れは、今まで日本企業が先導
できる材料が優れた負極材料の条件だと言える。
ただし、
してきたが、最近ではEV専門の自動車メーカーや欧州
工業製品として広く用いられるためには、コストも重要
の老舗自動車メーカーも加わり、各社の開発・販売競争
な要素となる。これらの条件を満たす材料として、現在
原料
微粉
分級部
分散部
空気
粗粉
図1 ファルカルティS型 外観と内部構造
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図2 天然黒鉛の球形化(左:原料=円形度0.85、右:処理品=円形度0.94)
最もよく用いられているのが黒鉛である。特に天然黒鉛
は人造黒鉛と比べて安価で、黒鉛化度が高く、リチウム
イオンを多く吸蔵できるため、電池の大容量化に有利な
3.電極密度向上を図る粒子球形化処理
大容量の電池の設計とは、リチウムイオンの放出と吸
材料として、自動車産業では大きな期待を寄せている。
蔵の量を増やすことを意味するが、そのためには電極に
しかし一方で、鱗片状の粒子形状のためにかさ密度が低
より多くの活物質を詰め込んで、密度の高い電極を作る
く、電極に加工した際に電極密度が上がらず、電池の大
必要がある。負極によく用いる天然黒鉛の場合、鱗片状
容量化が図りにくい材料でもある。また、集電体上で平
の粒子形状が災いし、そのままでは密度を高めることが
面状に配向しやすいため、電解液とのぬれ性が悪いこと
困難なため、粒子の角を丸めて詰まりやすい形状に加工
なども課題とされている。しかし、これらの課題が解決
することで改善を図る。この操作に適した装置がファカ
できれば、負極材料として非常に魅力的な特性を持って
ルティS型である。当装置は原料粒子の圧密・球形化と
いるため、かさ密度向上を図る粒子球形化処理やぬれ性
同時にこの加工で発生した微粉を除去することが可能
改善を図る表面改質処理が行われる。
で、高密度負極の設計を可能とするだけでなく、微粉を
除去することで電解液の分解抑制にも効果を発揮する。
0.90
2.0
0.89
1.8
0.88
1.6
0.87
1.4
0.86
1.2
● 円形度
■ タップ密度増加率
0.85
0.84
0
50
100
タップ密度増加率
(ー)
円形度
(ー)
また、連続バッチ運転によって生産量の拡大にも貢献す
1.0
150
処理時間
(min)
図3 ファカルティS型による天然黒鉛球形化の例
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る装置となっている。このように複数の機能を1台で実
能にする大容量LiBの開発は、重量面でも大きな負担と
現できることが当装置の最大の特長である。
なるバッテリーの小型軽量化にもつながり、その面でも
4.おわりに
航続距離の延長に貢献すると考えられる。また、安価な
材料の採用や大量生産による生産コストの低減は、LiB
EVはエコカーとしての価値は認識されているものの、
が車両価格の約25%を占めると言われるEVの価格引き
現状ではHVのように普及が進んでいるとは言えない。
下げのカギを握っていると言っても過言ではない。更に
その原因は、ガソリン車やHVなどと比較した際の航続
LiBは、車載用の他、発電量が一定しない自然エネルギ
距離の短さと割高な価格にあると考えられるが、これら
ーを用いた発電による電力の一定供給でも需要は高まり
は、即ちEVの普及にはLiBの大容量化と構成材料の低
つつあり、大容量化と低価格化の二大テーマは、まだま
価格化、生産工程におけるコストダウンが求められてい
だ続く課題となりそうである。当社では、今後も時代が
ることを意味する。本稿で紹介したファカルティS型は、
求める材料の進歩を粉体技術で支えていきたいと考えて
これらの課題解決に最適な装置だと考えられ、まさに時
いる。
代が求める装置だと言える。EVの航続距離の延長を可
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