ゲノム多様性解析部門

TOKAI UNIVERSITY
THE
INSTITUTE OF MEDICAL SCIENCES
「生命情報学を活用した疾患関連遺伝子およびタンパク質の探索」
2.トランスクリプトーム解析に基づくヒト遺伝子の統合デー
図2. ヒト遺伝子の統合データベース H-InvDB
タベース構築
ヒトの転写産物である mRNA や cDNA の配列データに基
づいてさまざまなバイオインフォマティクス解析を行うことに
より、ヒト遺伝子の構造やタンパク質の機能に関する豊富な
アノテーション(注釈付け)情報を整備し、統合データベー
ス H-InvDB を構築している。新規に収集した転写産物の配
柴田健雄
Shibata Takeo
分子生命科学 講師
中川 草
Nakagawa So
分子生命科学 助教
列データを用いて、2015 年 5 月に H-InvDB の最新バージョ
ン 9.0 を作成して公開した(図 2)。ここでは、220,058 件
のヒト転写産物の配列データに基づいて、48,065 のヒト遺
伝子候補を同定した。今回のバージョンで改良された点とし
プロジェクトリーダー:今西 規
Imanishi Tadashi
ては、転写産物に付与する HUGO Gene Symbol を遺伝子座
基礎医学系分子生命科学 教授
図 3. 内在性ウィルスのデータベース gEVE
ごとに統一したことや、UniProt/SwissProt および RefSeq
ゲノム多様性解析センター長
Protein との対比に基づいて個々のタンパク質機能を記述す
る方式に変更したことなどである。
【研究の背景と目的】
生命情報学(バイオインフォマティクス)による疾患関連遺伝子や創薬ターゲット分子の探索研究を行う。特に、次の 2 つの目標に
3.ゲノム内在性ウイルスに関する研究
向けた研究課題に取り組む。(1)ゲノム情報を個人の健康と医療に応用するため、疾患との関連が明らかにされたゲノムの変異の情報
ウイルスが宿主の生殖細胞に感染し、そのまま子孫に伝
を網羅的に収集してデータベース化する。これを用いて個人の疾患リスクを正確に予測する技術を開発し、予防医療の実現に寄与する。
わっていくことがある。そのような宿主に内在化したウイルス
(2)ヒト転写産物(トランスクリプトーム)の網羅的なデータベースの構築を通じて、疾患関連の新規タンパク質を同定するための情
由来の配列を内在性ウイルス(EVE)と呼ぶ。EVE は胎盤
報技術を開発する。特に、転写産物から予測される 100 残基以下の短いタンパク質(ペプチド)や、ゲノム多型によって生じると考え
の形成・維持、ウイルス感染の防御・促進、幹細胞の分化など、
られる個人に特有の変異タンパク質、選択的スプライシングによって生じる変異タンパク質、内在性ウイルスに由来するタンパク質等を
さまざまなプロセスに関わっていることが明らかにされた。われわれは、ヒトを含めた 19 種類の哺乳類についてゲノムワイドに EVE を
発見することをめざす。
収集したデータベース gEVE(Genome-based EVE database)を作成した(http://geve.med.u-tokai.ac.jp, 図 3)。
図1.VaDE データベースにおけるアルツハイマー病に関わる SNPs の情報
【本年度の主な研究成果】
上記の目的に向けた研究は現在も進行中であるが、本
年度は主に以下の成果を挙げることができた。
1.再現性のある疾患関連ゲノム多型のデータベース構築
学術文献で報告されている疾患発症リスク・薬剤応答性・
体質に関わるゲノム多型の情報を網羅的に収集し、その機
共同研究により、ネコの腎臓に持続感染し、尿細管間質性腎炎を引き起こすネコモルビリウイルスの分離に日本で初めて成功した。
また、ネコでは感染性内在性ウイルス RD-114 がネコのゲノム中に存在することが知られていたが、世界各地のネコのゲノム配列からそ
の挿入位置を調べることにより、ネコの移動経路を明らかにした。そしてヒトを含めた霊長類に加え、ウシ、ウマ、ネコなどに広く感染す
るフォーミーウイルスについて、ニホンザルから単離してゲノム配列を解読し、感染性クローンの作成やその系統解析を行った。その結
果フォーミーウイルス間での組換えを発見し、それがウイルスのゲノム多様性を生み出し、幅広い宿主への感染に関係する可能性を示
した。また、コアラ白血病の原因となるコアラレトロウイルスの新種について、われわれとアメリカの研究グループがほぼ同時期に発表
したウイルスが同じサブグループに属することを明らかにした。
能や連鎖不平衡の情報をつけたデータベース VarySysDB
Disease Edition (VaDE) を構築している(図 1)。新規の
文献から新たな情報を取得することにより、VaDE データ
ベースの更新を行った。2015 年 3 月に更新した最新バー
ジョン 1.5 では、420 の疾患と 889 の形質と 84 の薬剤応答性に関係する合計 25,759 件のゲノム多型の情報を格納している。VaDE デー
タベースの特徴は、人類集団ごとに、複数の独立なサンプルを用いた研究で関連性が再現されたゲノム多型を表示できることである。
例えば、東アジア人で再現性の認められたすべての疾患関連ゲノム多型を検索して表示し、ダウンロードできるほか、多型を示すゲノム
位置の機能に関する情報も提供している。
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Selected Papers.
1. Nagai Y, Takahashi Y, and Imanishi T (2014) VaDE: a manually-curated
database of reproducible associations between various traits and human
genomic polymorphisms. Nucleic Acids Research, Database Issue doi:
10.1093/nar/gku1037.
2. International Glossina Genome Initiative (including Imanishi T) (2014)
Genome sequence of the Tsetse fly (Glossina morsitans): vector of
African trypanosomiasis. Science 344(6182): 380-386
(10.1126/science.1249656).
3. Yamada C, Kondo M, Oroguchi T, Ebihara A, Shibata T, Nagai Y,
Imanishi T, Ishii N, and Nishizaki Y (2014) Subclinical visceral fat
accumulation is a risk for lifestyle-related diseases and progression of
atherosclerosis in Japanese adults - Results from a study of 94 healthy
volunteers -. Health Evaluation and Promotion 41(4): 518-523.
4. Yoshikawa R, Nakagawa S, Okamura M and Miyazawa Y (2014)
Construction of an infectious clone of simian foamy virus of Japanese
macaque (SFVjm) and phylogenetic analyses of SFVjm isolates. Gene
548(1): 149-54.
5. Sakaguchi S, Nakagawa S, Yoshikawa R, Kuwahara C, Hagiwara H, Asai
K, Kawakami K, Yamamoto Y, Ogawa M and Miyazawa Y (2014)
Genetic diversity of feline morbilliviruses isolated in Japan. Journal of
General Virology 95(7): 1464-1468.
6. Shimode S, Nakagawa S, Yoshikawa R, Shojima T and Miyazawa T
(2014) Heterogeneity of koala retrovirus isolates. FEBS Letters 588(1):
41-46.
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Genomic Medicine
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