2011 年タイ大洪水の発生要因に関する気候学的研究

2011 年タイ大洪水の発生要因に関する気候学的研究
Climatological study on the causes of the Great Flood in Thailand 2011
気候気象システム研究室
6111M05
小林
直樹
キーワード:ラニーニャ、MJO、大雨、卓越した東風、熱帯地方
1.はじめに
タイは、洪水の多い国であるが、2011 年の夏は異
常であった。5 月から 10 月初めまで大雨が降り続き、
160°E 10°W
月
8
5
9
地帯やバンコクにまで大きな被害を与えた。
10°W
75°E
4
大規模な洪水が発生した。その洪水では、タイの工業
タイ・バンコク
タイ・バンコク
月
このタイの大洪水の発生原因を知ることは、今後の
タイにおける防災にとって必要不可欠である。すでに、
この洪水の発生原因を知るための研究は行われてい
るが、それは気象学的な原因を詳しく探る研究ではな
く、人為的な要因などを踏まえた総合的な研究がほと
んどである。
そこで、本研究では 2011 年におけるタイの大洪水
月
月
の発生要因を気象学的見地で詳しく探ることを目的
としている。
2.データ・方法
SSEC の赤外画像および水蒸気画像
6
NOAA の NCEP/NCAR 再解析データ(SST、SLP、
10
(http://www.ssec.wisc.edu/data/comp/ir/)
月
月
東西風)
(http://www.esrl.noaa.gov/psd/data/composites/day/)
衛星画像の赤外画像をタイの緯度経度に合わせて、
東西および南北の短冊状に編集する。その短冊を日付
順に並べる。この図を雲系ダイアグラムとし、タイの
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時期を調べる。
NOAA の衛星データの平年偏差一週間平均を各緯
度で経度 15°間隔ずつ 30°E~60°W までの数値デ
ータを読み取り、それらのデータを日付順に並べて、
アイソプレスを作成する。
月
11
大雨を降らした雲の挙動およびタイにかかっていた
月
75°E
160°E
(a)
図1
2011 年 4~11 月における赤外画像の WSW-ENE 断面
(b)
(23°東上がりに回転)による雲系ダイアグラム
℃
図2
W
+
E
-
20N のアイソプレス (a)850hPa 面での U-wind 平年偏差
3.解析結果
雲系ダイアグラムの図より、4 月の終わり頃からタ
イに雲がかかり始め、5 月の終わり辺りから発達した
(b)SST 平年偏差
(Nock-Ten)と考えられ、この台風はフィリピンに
被害をもたらした後、タイに上陸し、大きな被害をも
たらした。
雲が断続的に 9 月終わり辺りまでかかり続けている
SST 平年偏差のアイソプレスでは、ラニーニャ現
ことが読み取れる。10 月に入るとタイに雲がかかる
象が卓越しているのが分かり、その結果、中央太平洋
ことも少なくなり、雨が収束に向かったことがわかる。
から西太平洋で、東風が卓越した。
また、5 月終わりや 7 月中旬、8 月中旬にはインド
洋方面から流れてくる雲があるが、これは MJO だと
考えられる。
東西風偏差のアイソプレスでは、7 月から 9 月にか
4.まとめ
ラニーニャ現象が卓越したことにより、太平洋中央
部から西太平洋にかけて、東風が卓越した。その結果、
けて、西太平洋で平年偏差の正負が交互にあらわれて
卓越した東風に乗って、タイに西太平洋上で発達した
いる。これは、フィリピン周辺に大きな被害をもたら
積乱雲が流入して大雨を降らした。また、ラニーニャ
した台風に関連したものと考えられ、うち 7 月の終わ
現象の卓越により、強い MJO が発生し、インド洋か
りに強い東風偏差が発生した。これは、T1108
らも発達した積乱雲群がタイにもたらされた。