写経についてはこちら

写経の手引き
写経とは
写経はそもそも,印刷技術の無い時代に,経典を残すために始められたものでした.それが次第
に人々に仏道を広め,大願成就を祈ることから始まる仏道修行となり,おそらく平安時代頃から修
行はもちろん,家内安全,病気平癒,先祖供養などの祈りや願いを目的にした個人的なものになっ
ていったようです.今では,写経によって静かに落ち着いた時間を大切にするとともに,祈りや願
いを生活の中に活かしていこうという目的で行われています.
「写経の心」とは,心と身体を調える心です.落ち着いた心で,姿勢を正し,一つひとつの所作
を丁寧に行う心のことです.ですから,一文字一文字,一点一画をゆっくり丁寧に書写すれば良く,
文字の上手下手はあまり問題ではありません.
「上手な字」
「きれいな字」は,写経を続けることで
自然に身に付きます.まずは,
「写経の心」を保って「よい字」を書くことを心がけましょう.
般若心経について
『般若心経』は,本文がわずかに 266 文字という短い経典ではありますが,仏法の大意が述べら
れていて,書写し易い経典です.写経は,経典を書写すればよいので,本来どの経典でもよいので
すが,一般的に写経と言えば『般若心経』を書写することが多いようです.
写経の功徳
仏教において,読経すれば功徳を積むことができ,書写することでさらに功徳があると言われて
います.功徳とは,善い行いをすることによって,その人に備わった徳(優れた結果を招く能力)
を高めていくことです.写経(善行)をすることによって,その意味や精神を理解し,実践するこ
とによって功徳があると言われているのです.また,書写した写経は尊いものとして,仏像などと
同様に特別なものとして扱われます.
医学的見地からも写経の効果が認められているようです.集中して写経をしていると無心になる
ことができます.このとき脳内ではベータ・エンドルフィンという脳内物質が分泌されているので
す.この物質は思考をポジティブにし,身体の免疫力を高めてくれます.また,認知症の改善や防
止策として,脳を活性化するのに最も効果が高いのが写経であることが,川島隆太(東北大学教授)
と学研の共同研究で証明されています.
このように,写経には道徳的にも医学的にもさまざまな効果がありますが,具体的には次のよう
り や く
な効果(ご利益)があると言われています.
1. 心が清浄になり,安心の境地になる
2. 脳を活性化し,自然治癒力が向上する
3. 心身がリラックスし,ストレスが解消される
4. 集中力や忍耐力が高まる
5. 姿勢がよくなる
6. 字が上手くなる
写経の手順
<準備>
道
室
おろ
具・・・ 筆,硯,固形墨,毛氈,文鎮,写経用紙.墨汁は使わず,必ず硯で墨を摺します.
内・・・ きれいに掃除をし,できればお香を焚くなどします.仏間を使用する場合には,お線
香,お華,お灯明をお供えしましょう.
身支度・・・ 手を洗い,口をすすぎ,着衣を整えます.
作
法・・・ まず正座(着座)し,姿勢を正して呼吸を整えます.次に,静かに墨を摺りながら心
を落ち着けます.そして,手を合わせ,
『四弘誓願文』に続き『般若心経』を唱えま
す.書き終えたら,手を合わせて『普回向』を唱えます.硯と筆を始末します.
<書式>
内題
最初に書く表題(
「摩訶般若波羅密多心経」)です.写経用紙の 1 行目は空けて,2 行目から書き始
めます.字間は本文よりやや詰めて書き,字の大きさは本文と同じにします.
本文
本文は,3 行目から 1 行 17 文字で書きます.写経は中国から伝わりましたが,このときからこの
様式であったと言われています.また,17 という数は「清浄の本有(本来的な存在)」や陰(8)と
陽(9)を合わせた数,つまり天地の万物・森羅万象・宇宙を表す数という説もあります.
奥題
本文の後に,「般若心経」と書きます.本文は 3 行目から始まり 16 行必要なので,奥題は 19 行目
に書くことになります.
日付
日付は本文から 1 行空け,最初の 1 字分を下げて書きます.
願文
奥題から 1 行空けて書き始めます.この場合,頭に「為」と書き,その下に願文を書きます.写経
そのものが目的の場合はあえて書かなくてもよいでしょう.
記名
氏名を書き,末尾に「謹写」や「敬書」と記します.このとき,雅号を使ったり雅印(落款印)を
捺したりはしません.写経は「風雅な書」ではないからです.
<写経中に間違えたら..
.>
写経中は慎重な心構えで,字を間違えないよう注意しながら丁寧に書写しますが,もし字を間違え
たときは,誤字の右横に点(﹅)を打ち,同じ行の上下いずれかの余白に正しい字を書きます.脱
字のときは,その箇所(文字と文字の間)の右に点を打ち,行の末尾にその文字を書きます.
道具の扱い方
<墨の摺り方>
写経は,墨を少しずつ摺りながら書いていきます.小さな筆を使うので,大量の墨は必要ありま
せん.また,写経には時間がかかるので,たくさん摺っていても蒸発して色や粘度が変わってしま
うからです.ですから,少量の墨を摺り,無くなったらまた墨を摺るということを繰り返します.
まず,硯の陸の部分に少量(数滴)の水を垂らします.固形墨の上の方を軽く掴む感じで,ゆっ
くりと「の」の字を書くように摺っていきます.力を入れてゴシゴシ摺ってはいけません.墨の重
さだけで摺る感じです.水に墨が溶けて少しネットリしてきたら,余分な紙に少し書いて色を見て
みましょう.
<筆の持ち方・書法>
筆は写経用の小さい筆を使います.穂先を 5mm 程度おろします.新しい筆の場合には,穂先を揉
むようにしておろし,濡らしたティッシュなどで糊を落とします.
筆の持ち方には,単鉤法(たんこうほう)と双鉤法(そうこうほう)があります.写経の場合,鉛筆と同じ
ように人さし指だけを筆の軸に鉤ける単鉤法で書くのが一般的です.
腕の構え方には次の 3 つの方法があります.

懸腕法(けんわんほう):肘を上げ,腕全体を浮かせて書く方法

枕腕法(ちんわんほう):左掌を枕のようにして,右手の手首を乗せて書く方法

提腕法(ていわんほう):右手首を付けて,薬指と小指で支えて書く方法(鉛筆とほぼ同じ)
どの方法でも構いませんが,写経の文字は小さいので,筆の安定性が高い枕腕法か提腕法で書くの
が一般的です.
<道具の始末>
使い終わった筆は,濡らしたティッシュで穂先を拭いて墨を取ります.そのままにすると墨が固
まり,次に使うときにおろし難くなります.
硯もティッシュで墨を拭き取ります.汚れが気になる場合には,暫くぬるま湯につけてスポンジ
などで洗ってください.硯の表面は細かい鑢状になっており,これを使って墨を摺しています.金
属束子などを使うと鑢が削れて墨摺りが悪くなります(普通の束子は可)
.