修士論文 要旨 論文タイトル: 「新製品開発に対する経営者の関わり方」 学籍番号:AM12005 氏 名:卜月秀 指導教授:伊藤善夫 教授 【論文の構成】 はじめに 第 1 章 問題認識と研究目的 第 2 章 先行研究と事例の分析 第 3 章 仮説の提示と研究方法 第 4 章 実証分析 第 5 章 考察 おわりに 【論文の内容】 1.研究目的 新製品開発は企業にとって重要な活動であり、どの企業も多大の経営資源を投じている。しかし、新 製品開発に成功する企業は少数で、多くの企業が失敗に終わっている。新製品開発の成功要因に関する 調査から検討すると、トップの要因が重要な役割を果たしていることが明確である。また、製品開発の 各段階における経営陣の注意と影響のタイミングと効果に関する研究から見ると、トップが製品開発の 初期段階に関与するほうが、より効果的であることが明らかになった。そこで、本研究では、新製品開 発に対する経営者の実際の経営行動および経営者の製品開発に注意をするタイミングと業績の関係を 実証的に明らかにすることを目的とする。 2.研究方法 ①新製品開発に対する経営者の具体的な経営行動を整理する。②研究開発プロジェクトに対する経営 者の注意のタイミングと影響を分析する。③経営者の製品開発に対する関わり方及び製品開発プロセス の注意のタイミングと、会社の業績との関係を考察する。 3.先行研究および事例研究 まず、新製品について、新製品の定義、分類を確認した上で、新製品開発のプロセス設定、新製品開 発の成功要因およびトップマネジメントの役割を検討しながら、新製品開発の成功要因とトップマネジ メントの役割、および両者の関係を取り出した。そして、自動車業界のトヨタ、日産、ホンダの三社の 歴史に残る製品開発の工程について、詳細に記述される資料を通じて、製品開発に対しての経営者の関 わり方を比較することで、新製品開発に対する経営者の関わり方と業績の関係を検討した。 4.実証分析 先行研究および事例研究に基づき、製品開発プロセスの中で重要な初期段階である製品コンセプトの 策定に対する経営者の関わり方に注目し、1.経営者は製品コンセプトを明確に提示するほど、製品コン セプトが合意される程度が高い。2.製品コンセプトが高く合意されるほど、製品開発の成果が高い。3. 経営者は製品コンセプトを明確に提示するほど、製品開発の成果が高い、という三つの仮説を構築した。 構築した仮説に対する実証的な調査方法を検討し、調査結果を取りまとめた。また、分析に必要なデー タの収集方法について記述し、実証プロセスを報告した。分析手法としては、共分散構造分析を採用し た。そして、日本企業の中国現地法人を訪問し、経営者・管理者に対するインタビューを行うことで、 本研究のモデルを検証した。 5.研究結果 本研究は、製品開発のプロセスの中で、開発活動の指針となる製品コンセプト策定の段階の重要性お よび不確実性に着目し、トップが明確に製品コンセプトを提示することと、製品開発の成果との関係を 明らかにした。具体的には、トップが製品コンセプトを企業と市場の二つの視点からとらえ、他社製品 あるいは自社既存製品と異なる機能・性能を持つ製品コンセプトの提示、他社製品あるいは自社既存製 品と異なるニーズを満たせる製品コンセプトの提示、他社の製品あるいは自社既存製品と比べ製品が持 つ機能・性能と顧客が満たすニーズの異なる結び付きの製品コンセプトの提示、という製品コンセプト を明確に提示することと製品開発の成果との直接関係を明らかにした。また、製品コンセプトは製品開 発関係者の中で合意されることが重要ということが、先行研究において明らかになっているが、本研究 では、トップが構築した製品コンセプトが製品開発関係者の中で合意される程度と製品開発の成果との 関係も実証した。 【主要参考文献】 (1) 海 保 英 孝 (1995) 「 研 究 開 発 活 動 に お け る ト ッ プ マ ネ ジ メ ン ト の 役 割 に つ い て 」 , 成 城 大 学 経 済 学 部,Vol130,pp.111-122 . (2) 河野豊弘(2003)『新製品開発マネジメント―会社を変革する戦略と実行―』,ダイヤモンド社. (3) 小塩真司(2005)『研究事例で学ぶ SPSS と Amos による心理・調査データ解析』,東京図書株式会社. (4) 小島敏彦(1996)『新製品開発管理』,日刊工業新聞社. (5) 黒川文子(2003)「新製品開発のタイプ別成功要因とケース・スタディ」,『情報科学研究』,独協大学情報センタ ー,Vol21,pp.9-30. (6) 中原秀登(2011)「製品開発におけるコンセプト策定」,『千葉大学経済研究』,pp.170-188. (7) 西塚宏(1989)『新製品の開発,製品化,マーケティング戦略』,産業能率大学出版部. (8) 佐藤邦廣(2003)『戦略的マーケティングと経営理念―ビジョンから製品コンセプトへ―』,同文館出版株式会社. (9) 清水龍瑩(1990)『大企業の活性化と経営者の役割』,千倉書房. (10) 清水龍瑩(1998)『日本型経営者と日本型経営』, 千倉書房. (11) 清水信年(1999)「製品開発活動における製品コンセプトの変更に関する実証研究」,『流通研究』,Vol2,No2,p.70. (12) 十川広国(1992)「新製品開発と研究開発組織」, 『三田商学研究』,Vol35,No1,pp.41-42. (13) 鷹田隆久(2006)「顧客視点から生み出し,進化させる製品コンセプト」,『Think』,No.19,p.75. (14) 山崎秀雄(2005)「戦略的製品開発:組織における新製品開発の意義」,『日本経営学会誌』,No.14,p.82. (15) 井上淳子(2003)「新製品開発の失敗要因としてのコミットメント・エスカレーション―開発プロセスにおけるその 現象と影響要因に着目して―」,『産業経営』,Vol34.pp.73-88. (16) 米谷雅之(1997)「新製品の定義と分類」,『山口經濟學雜誌』,Vol.45,No4,pp.519-548. (17) 米谷雅之(2003) 「新製品開発の成功要因」,『東亞経濟研究』,Vol.62,No1,pp.191-210. (18) 湯沢雅人(2009)「製品開発の成否を測る尺度」,『横浜国際社会科学研究』,Vol.13,No6,pp.101-115.
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