[第6回]気管支喘息治療薬

こどもの薬【第 6 回】
気管支喘息治療薬
気管支喘息の治療の用いられる薬は、大きく 2 つに分かれます。“気管支喘息の発
作を予防する薬”と“起きてしまった喘息発作を鎮める薬”です。
Ⅰ.気管支喘息の発作を予防する薬(長期管理薬:コントローラー)
気管支喘息の患児の気道(空気の通り道:気管や気管支)では、持続性の炎症が起
きており、様々な刺激で喘息の発作が起きやすくなっています(気道過敏性の亢進)
。
この持続性の炎症を抑え(抗炎症作用)、リモデリングと呼ばれる気道の線維化、平
滑筋の肥厚などの不可逆的な構造変化を抑える薬が長期管理薬(コントローラー)に
あたります。具体的には吸入ステロイド薬やロイコトリエン受容体拮抗薬と呼ばれる
薬です。ホクナリンテープなどの長時間作用性のβ2 刺激薬には抗炎症作用はほとん
どありませんが、吸入ステロイド薬の作用を増強し、また、気管支拡張作用により喘
息の症状を軽減する点から長期管理薬として使用されます。以前使われていたテオド
ールなどのテオフィリン製剤はけいれんとの関連がある点や気管支拡張作用も弱い
ことがわかってきたためなどの理由で、年長児に対する追加治療の扱いとなり、年少
児、特に乳幼児へは原則使用しないことになっています。
① 吸入ステロイド薬
ステロイドというと“強い薬”とか“副作用が強い薬”などのイメージが強いと思
います。確かに、内服薬として長期間ステロイド薬を使用した場合には、ムーンフェ
イスと呼ばれる丸い顔や低身長になってしまったり、感染症にかかりやすくなったり
するなど、様々な副作用が認められます。
しかし、吸入ステロイド薬は、直接気道に到達し気道の炎症を強力に抑制するため、
全身的な影響は内服で使用する場合と比べ比較的少ないとされており、現在の気管支
喘息における基本的な予防的薬物治療となっています。
吸入ステロイド薬の具体的な使用方法ですが、乳幼児は、意識的な長い吸気が難し
く、また息止めも困難であるため、ネブライザーを使用します。ネブライザーを使用
すると比較的簡単に吸入ができます。ただ、ネブライザーを購入しなければなりませ
ん。意識的な長い吸気が可能となる年齢であれば、加圧噴霧式定量吸入器(pMDI)
やドライパウダー定量吸入器(DPI)の製剤が使用されます。pMDI は、薬剤を噴霧
するタイミングと自発的に吸い込むタイミングを合わさなければいけないため、幼少
時ではスペーサーがなければ難しいでしょう。DPI は、ある程度の吸入力があれば可
能です。ネブライザー、pMDI、DPI それぞれの特徴を以下に示しておきます。
現在では、吸入ステロイド剤にあとで説明する長時間作用性β2 刺激薬を配合した
吸入薬も重症の喘息に対するコントローラーとして用いられています。(商品名:ア
ドエア、シムビコート、レルベア)
各種吸入機器の特徴
吸入機器
長所
短所
商品名
ネブライザー
普通の呼吸で吸入が
可能
乳幼児に使用できる
確実に吸入できる
薬液量の調節が容易
吸入装置が大型、高価 パ ル ミ コ ー ト 吸
(1.5~2.5 万円程度)
入液
使用に時間がかかる(5
~10 分)
薬物の種類が限定され
る
電源が必要
騒音の問題がある
加圧噴霧式
定量吸入器
(pMDI)
軽量・小型
携行性に優れる
特別な装置が不要
電源が不要
騒音がない
吸入に時間がかから
ない
スペーサー使用する
と同調不要
吸入手技の習得が必要
吸気と噴霧の同調が必
要
吸入が不確実な場合が
ある
年少者では使用が難し
い
良の調節が不可能
安易に反復使用しやす
い
過量投与の危険性があ
る
使用前によく振って混
合する必要がある
噴射用溶媒が必要
フルタイドエア
ー
キュバール
オルベスコ
ドライパウダー
定量吸入器
(DPI)
軽量・小型
携行性に優れる
特別な装置が不要
電源が不要
騒音がない
吸入に時間がかから
ない
吸気との同調が不要
操作、管理が容易
噴射用溶媒が不要
吸入手技の習得が必要
吸入力が必要
吸入が不確実な場合が
ある
年少者では使用不可
量の調節が不可能
安易に頒布器使用しや
すい
過量投与の危険性があ
る
薬剤の種類が限定
フルタイドディ
スカス
フルタイドロタ
ディスク
パルミコート
アズマネックス
② ロイコトリエン受容体拮抗薬
以前は、様々な抗アレルギー薬が喘息の治療(特に長期管理薬として)に使用され
ていましたが、現在ではロイコトリエン受容体拮抗薬とインタール吸入液だけが喘息
の長期管理薬として適した作用があるという科学的根拠が示され、この 2 つの薬が使
われるようになりました。
ロイコトリエン受容体拮抗薬は、強力な気管支平滑筋収縮、血管透過性亢進、気道
分泌亢進などの作用を示し、さらに気道平滑筋増殖促進、繊維芽細胞へのコラーゲン
産生刺激などの作用も持ち、気管支喘息における急性増悪と慢性炎症の両面に作用す
るロイコトリエンの作用に拮抗する薬剤です。もう少しわかりやすく説明すると、気
道の慢性的な炎症を抑え、前に説明したリモデリングを起きにくくする薬で、従来の
経口アレルギー薬より喘息に対する効果は優れているとされています。
具体的な商品名としては、オノン、プランルカスト(この 2 つは同じ成分です)、
シングレア、キプレス(この 2 つも同じ成分です)がロイコトリエン受容体拮抗薬で
す。
副作用としては、発疹、下痢、腹痛、肝機能障害などが報告されていますが、その
頻度は高くなく安全な薬といえます。
Ⅱ.起きてしまった喘息発作を鎮める薬(発作時治療薬:リリーバー)
気管支喘息の発作時に用いられる薬は、気管支拡張薬と抗炎症薬が中心です。その
他に去痰薬も併用されます。去痰薬については“こどもの薬【第 2 回】鎮咳去痰薬”
をご覧ください。
① 気管支拡張薬
文字通り気管を広げる作用を持った薬です。β刺激薬、テオフィリン薬、抗コリン
薬(副交感神経遮断薬)の 3 種類があります。以前はテオドールを代表とするテオフ
ィリン薬が多く使われていましたが、乳幼児では、痙攣が誘発されることもあり、最
近ではあまり使用されなくなっています。抗コリン薬も口内乾燥、眼圧上昇、心悸高
進などの副作用があり、小児には使いにくい薬です。現在では、β刺激薬が気管支拡
張薬の主役となっています。ここでは、β刺激薬について説明しておきます。
⦿β刺激薬(β2 刺激薬)
β刺激薬と呼ばれるカテコラミンのβ受容体を刺激する薬のうち心臓への作用の
比較的少ないβ2 刺激薬がこれにあたります。β2 刺激薬は、気管支拡張作用のほかに
気道粘液線毛のクリアランスを改善させ、気道分泌液の排泄を促進する作用もあるの
で、気管支喘息の発作時の治療薬として有利に働きます。β2 刺激薬は、短時間作用
性と長時間作用性に大別されます。一般には即効性のある短時間作用性のβ2 刺激薬
が発作時の治療薬ですが、長時間作用性のβ2 刺激薬のうちホルモテロール(製品名:
アトックなど)は即効性も持っているため、発作時の治療薬として認められています。
β2 刺激薬には、吸入薬、経口薬、貼付薬(貼る薬:ホクナリンテープ、ツロブテ
ロールテープなど)がありますが、貼付薬は効果が現れるまでに時間がかかるので、
気管支喘息発作時の治療にはふさわしくありません。よく、“咳止めの薬”や“咳が
ひどい時に使ってください”と言われてβ2 刺激薬の貼付薬が処方されていますが、
咳を止める薬ではなく気管を広げる薬です。しかも、貼ってからしばらくたたないと
気管支拡張作用も現れません。間違った使用法です。
β2 刺激薬の分類
作用時間型
一般名
商品名
即効性
短時間作用性
β2 刺激薬
イソプロテレノール
アスプール、プロタノールなど
あり
プロカテロール
メプチン、エステルチンなど
あり
サルブタモール
ベネトリン、サルタノールなど
あり
サロメテロール
セレベント
なし
ホルモテロール
アトック、オーキシスなど
あり
長時間作用性
β2 刺激薬
当院で処方しているベラチンやトニールなども即効性がある短時間作用性のβ2 刺
激薬になります。
② 全身性ステロイド薬
強力な抗炎症作用を持っているため、気管支喘息の発作時に起きている気道の炎症
を抑え込みます。内服と注射での効果の差はないとされていますが、注射のほうが内
服より確実に体内に入るため、気管支喘息の発作時の入院治療の中心になります。当
院でも処方することのあるデカドロンエレキシルやリンデロンシロップなどの経口
ステロイドの液剤は、抗炎症作用が非常に強い反面、糖分の代謝や水分・電解質(酸・
塩基など)のバランスに関わり、ストレスに対抗して体のはたらきを調節する副腎の
作用を抑制する力も強いので、安易な使用は控えるべきであり、もし使用する場合も
3 日程度の短期に限るべきです。
注射で用いる場合ですが、ソル・メドロールという薬には微量ですが乳糖が含まれ
ているので、強い牛乳アレルギーのある患者様では注意が必要です。アスピリン喘息
の患児には、使用を避けるべきステロイド薬があるので注意が必要です。
【余談】
気管支喘息の発作はつらいもので、なるべく早く楽にしてあげたいものです。もち
ろんご家庭での内服のみで治せればよいのですが、やむを得ず入院したうえでの治療
をお勧めすることがあります。気管支喘息の重症の発作時に入院をしていただく理由
はいくつかあります。その代表的なものは以下のものです。①水分を確実に体に入れ
たい(点滴をしたい)。②定期的に気管支拡張薬の入った吸入がしたい。③全身性ス
テロイド薬を確実に体に入れたい(点滴で入れたい)。これらの治療を行うために入
院が必要となることがあります。ご了解ください。
行徳総合病院 小児科 佐藤俊彦