システム制御工学Ⅰ 電気電子工学科 2015年度 今日の講義内容 フィードバック制御系の設計 • 設計仕様 • 設計仕様と評価指標の関係 • 設計法Ⅰ(周波数応答法) – ゲイン調整 – 直列補償 – フィードバック補償 2 設計仕様 仕様 (閉ループ特 性,開ループ 特性) 制御装置 設計 評価 (安定性,減 衰性,速応性, 定常特性) 制御系の設計 • 目標に応じて設計仕様を与える • 仕様を満たすように制御装置を設計する • 制御系の安定性などを評価する • 評価結果が目標を満たせば設計終了.満たさな ければ仕様を修正して再設計する 3 閉ループ特性 直結フィードバック系 𝑅(𝑠) + 𝐺(𝑠) 𝐶(𝑠) − 閉ループ伝達関数を主要極で近似 𝐺(𝑠) 𝑠1 𝑠2 𝐺𝑜 𝑠 = ≅ 1 + 𝐺(𝑠) 𝑠 − 𝑠1 𝑠 − 𝑠2 𝜔𝑛 2 = 2 𝑠 + 2𝜁𝜔𝑛 𝑠 + 𝜔𝑛 2 主要極が共役複素極 𝑠1 , 𝑠2 = −𝛼 ± 𝑗𝛽 とすると 𝛼 𝛼 2 2 𝜔𝑛 = 𝛼 + 𝛽 , 𝜁= = 𝛼 2 + 𝛽 2 𝜔𝑛 4 極零点仕様 設計仕様として主要 極 𝑠1 , 𝑠2 を与える Im 𝑠1 𝛽 𝜔𝑛 固有周波数 𝜔𝑛 は原 点から極までの距離 𝛾 −𝛼 𝑠2 0 Re 原点と極を結ぶ線と 横軸との間の角を 𝛾 とすると,減衰率は 𝛼 𝜁= = cos(𝛾) 𝜔𝑛 5 時間応答仕様 𝑂𝑠 1.05 0.95 1.00 0.90 𝑇𝑑 𝑇𝑠 𝜀𝑝 0.50 0.10 0 𝑡 𝑇𝑟 閉ループ系のステップ応答に対して,遅れ時間 𝑇𝑑 ,立上り時 間 𝑇𝑟 ,整定時間 𝑇𝑠 ,行き過ぎ量 𝑂𝑠 ,定常偏差 𝜀𝑝 などを仕様 として与える 6 周波数応答仕様 1 1 2 ≅ 0.707 𝑀𝑝 0 𝜔𝑏 𝜔 閉ループ系の周波数応答に対して,周波数応答の最 大値 𝑀𝑝 ,遮断周波数 𝜔𝑏 などを仕様として与える 7 設計仕様と評価指標の関係(1) 設計仕様 要件 閉ループ特性 時間特性 周波数特性 開ループ特性 周波数特性 減衰性 行き過ぎ量 𝑂𝑠 周波数応答の ゲイン余裕 GM 位相余裕 PM 最大値 𝑀𝑝 速応性 遅れ時間 𝑇𝑑 立上り時間 𝑇𝑟 遮断周波数 𝜔𝑏 定常特性 定常偏差 𝜀𝑝 , 𝜀𝑣 , 𝜀𝑎 ゲイン交差周 波数 𝜔𝑐 定数ゲイン 𝐾 8 設計仕様と評価指標の関係(2) (1) 減衰率 𝜁= 𝛼 𝜔𝑛 − 𝑂𝑠 = 𝑒 𝑀𝑝 = 𝜋𝜁 1−𝜁2 𝜁 →小 1 2𝜁 1−𝜁 2 減衰率 𝜁 が小さくなる(主要極が虚軸に近づく)と, 行き過ぎ量 𝑂𝑠 や周波数応答の最大値 𝑀𝑝 は大き くなる 9 設計仕様と評価指標の関係(3) 減衰率に関する設計仕様の目安 0 ≤ 𝜁 ≤ 0.8 (サーボ機構などの追値制御) 0 ≤ 𝜁 ≤ 0.4(プロセス制御などの定値制御) 0 ≤ 𝑂𝑠 ≤ 0.25 1.1 ≤ 𝑀𝑝 ≤ 1.5 (通常 1.3 程度) 10 設計仕様と評価指標の関係(4) (2) 速応性 𝜙𝑏 𝜋 𝑇𝑑 ≅ , 𝑇𝑟 ≅ 𝜔𝑏 𝜔𝑏 遮断周波数 𝜔𝑏 が大きいほど速応性が高い(遅れ時 間,立上り時間が小さい) 3 𝑇𝑠 ≅ 𝜁𝜔𝑛 固有周波数 𝜔𝑛 ,減衰率 𝜁 が大きいほど整定時間が 短い (3) 定常特性 開ループ特性の定数ゲイン 𝐾 が大きいほど定常偏差 は小さくなる 11 𝜙(𝜔) [degree] 開ループ特性 • ゲイン余裕 GM,位 相余裕 PM が大き いほど減衰性が高 い • ゲイン交差周波数 𝜔𝑐 が大きいほど速 応性が高い • 定数ゲイン 𝐾 が大 きいほど定常偏差 が小さい gain [dB] 設計仕様と評価指標の関係(5) 𝜔𝑐 0 GM 𝜔𝜋 0 −180 PM 12 0 0 𝜔𝜋 −180 gain [dB] 𝜔𝑐 𝜙(𝜔) [degree] 𝜙(𝜔) [degree] gain [dB] 設計法Ⅰ 周波数応答法 0 望ましくない開ループ特性 GM 𝜔𝜋 0 −180 補償 𝜔𝑐 PM 望ましい開ループ特性 13 補償方式 + − 補償要素 制御対象 𝐺𝑐 (𝑠) 𝐺𝑝 (𝑠) 制御対象 + 𝐺𝑝 (𝑠) − 𝐺𝑐 (𝑠) 補償要素 直列補償 フィードバック補償 周波数特性の補償方式 • 制御対象に直列に補償要素を付加する • フィードバックループに補償要素を付加する 以下では基本的に直列補償を考える 14 ゲイン調整(1) 0 𝜔𝜋 0 −180 gain [dB] 𝜔𝑐 𝜙(𝜔) [degree] 𝜙(𝜔) [degree] gain [dB] 補償要素に比例要素を 用いてゲインを下げる 𝜔𝑐 0 𝜔𝜋 0 −180 不安定 𝜔𝑐 が下がる 位相余裕が 生まれる PM 安定 15 ゲイン調整(2) ゲイン調整を行うと,定数ゲイン 𝐾 が減少する ため 1. 位相余裕 PM が増加する ⇒ 減衰性が良く なる 2. 定数ゲイン 𝐾 が減少する ⇒ 定常偏差は増 加する 3. ゲイン交差周波数 𝜔𝑐 が下がる ⇒ 速応性 は悪くなる 16 例(1) 制御対象 𝐺𝑝 𝑠 = 1 𝑠(1+0.5𝑠)(1+0.2𝑠) ゲイン交差周波数 𝜔𝑐 = 1 位相余裕 PM= 50° 17 例(2) 補償要素 𝐺𝑐 𝑠 = 𝐾 位相余裕 PM=30°となるように 𝐾 を設計する. ボード線図から 𝜙 = −150° となる周波数にお いてゲインはおよそ−7dB.よって,7dB分だけ 定数ゲインを上げて良い. 20 log10 (𝐾) = 7 𝐾 = 107/20 ≅ 2.24 18 問 1. 前ページの例題の制御系は,何形の制御系 か? 2. 制御対象のみで直結フィードバックを行った 場合,定常位置偏差 𝜀𝑝 ,定常速度偏差 𝜀𝑣 はどのようになるか? 3. ゲイン調整を行った場合,定常位置偏差 𝜀𝑝 , 定常速度偏差 𝜀𝑣 はどのようになるか? 19 位相遅れ補償 ゲイン調整では,減衰性(PM)と定常偏差(𝐾) はトレードオフ 位相余裕PMを変えずに定数ゲイン 𝐾 を大きく したい 低周波領域のゲインを高周波領域のゲインに 比べて大きくするような補償要素(位相遅れ要 素)を用いる 20 位相遅れ要素(1) 𝑅1 位相遅れ要素の伝達関数 1+𝑠𝑎𝑇 𝐺𝑐 𝑠 = 1+𝑠𝑇 右の電気回路の場合 𝑎𝑇 = 𝑅2 𝐶 𝑎= 𝑅2 𝑅1 +𝑅2 𝑅2 <1 𝐶 ゲイン 𝐺𝑐 𝑗𝜔 = 𝐺𝑐 𝑗0 1+𝜔2 𝑎2 𝑇 2 1+𝜔2 𝑇 2 = 1, = 1 +𝑎2 𝑇 2 2 𝜔 1 +𝑇 2 2 𝜔 lim |𝐺𝑐 (𝑗𝜔)| = 𝑎 < 1 𝜔→∞ 21 位相遅れ要素(2) 0 1 𝑇 𝜔𝑚 1 𝑎𝑇 𝜔 位相 𝜙𝑐 は周波数 1 𝜔𝑚 = 𝑇 𝑎 𝜔 で最小値 𝜙𝑚 を取る 𝑎−1 sin(𝜙𝑚 ) = 𝑎+1 20 log10 𝑎 0 𝜙𝑚 ボード線図 22 位相遅れ補償の効果 0 GM 𝜔𝜋 0 −180 PM gain [dB] 𝜔𝑐 𝜙(𝜔) [degree] 𝜙(𝜔) [degree] gain [dB] 𝐾 が増加する 𝜔𝑐 0 GM 𝜔𝜋 0 −180 位相は一 PM 旦遅れる が,元に 戻る 23 例 制御対象 𝐺𝑝 𝑠 = 10 𝑠(1+0.5𝑠)(1+0.2𝑠) 補償要素 𝐺𝑐 𝑠 = 1+10𝑠 1+100𝑠 24 位相進み補償 ゲイン調整では,減衰性(PM)と速応性(𝜔𝑐 )も トレードオフ 位相余裕PMを変えずにゲイン交差周波数 𝜔𝑐 を大きくしたい 𝜔𝑐 付近で位相を進める補償要素(位相進み要 素)を用いる 25 位相進み要素(1) 𝐶 位相進み要素の伝達関数 1+𝑠𝛼𝑇 𝐺𝑐 𝑠 = 1+𝑠𝑇 右の電気回路の場合 𝑇= 𝛼= 𝑅1 𝑅2 𝐶 𝑅1 +𝑅2 𝑅1 +𝑅2 𝑅2 𝛼 𝑅1 𝑅2 >1 ゲイン 𝐺𝑐 𝑗𝜔 = 𝐺𝑐 𝑗0 1+𝜔2 𝛼2 𝑇 2 1+𝜔2 𝑇 2 = 1, = 1 +𝛼2 𝑇 2 2 𝜔 1 +𝑇 2 2 𝜔 lim |𝐺𝑐 (𝑗𝜔)| = 𝛼 𝜔→∞ 26 位相進み要素(2) 20 log10 𝛼 0 1 𝜔𝑚 𝛼𝑇 1 𝑇 𝜙𝑚 0 𝜔 位相 𝜙𝑐 は周波数 1 𝜔𝑚 = 𝑇 𝛼 で最大値 𝜙𝑚 を取る 𝑎−1 sin(𝜙𝑚 ) = 𝜔 𝛼+1 ボード線図 27 位相進み補償の効果 0 GM 𝜔𝜋 0 −180 PM gain [dB] 𝜔𝑐 𝜙(𝜔) [degree] 𝜙(𝜔) [degree] gain [dB] 𝜔𝑐 が大 きくなる 𝜔𝑐 0 0 −180 𝜔𝑐 付近で位 PM 相が進むので, PMは小さくな らない 28 例 制御対象 𝐺𝑝 𝑠 = 10 𝑠(1+0.5𝑠)(1+0.2𝑠) 補償要素 𝐺𝑐 𝑠 = 1+0.8𝑠 1+0.08𝑠 29 位相進み遅れ補償 位相遅れ補償+位相進み補償 𝐶1 𝑅1 𝑅2 伝達関数 𝐺𝑐 𝑠 = 𝑇 1+𝑠 1 1+𝑠𝑎𝑇2 𝑎 1+𝑠𝑇1 1+𝑠𝑇2 𝐶2 右の電気回路の場合 𝑅1 𝐶1 = 𝑇1 , 𝑅2 𝐶2 𝑎 = 𝑎𝑇2 , 𝑅1 𝑅2 𝐶1 𝐶2 = 𝑇1 𝑇2 30 フィードバック補償 制御対象 + 1 𝐺𝑐 (𝑠) 𝐺𝑝 (𝑠) − + − 補償要素 制御対象 𝐺𝑐 (𝑠) 𝐺𝑝 (𝑠) 𝐺𝑐 (𝑠) 補償要素 等価変換 直列補償 フィードバック補償 フィードバック補償の場合,直列補償に等価変 換して考えれば良い 31 練習問題 制御対象 𝐺𝑝 𝑠 = 𝐺𝑐 𝑠 = 1+𝑠𝛼𝑇 1+𝑠𝑇 𝐾 𝑠(1+0.5𝑠) に対し,位相進み補償 を行うことを考える. 1. 定常速度偏差 𝜀𝑣 が0.05以下となるように定数 ゲイン 𝐾 を決定せよ. 2. 上で求めた 𝐾 を用いる場合,制御対象のボー ド線図の概形を描き,位相余裕PMを求めよ. 3. 𝛼 = 3,𝑇 = 0.1 のとき,補償後の伝達関数 𝐺𝑐 (𝑠)𝐺𝑝 (𝑠) のボード線図を描き,位相余裕PM がどの程度改善されるかを読み取れ. 32
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