専門里親委託・一時保護委託の同時体験談 新井直子(埼玉県里親) 現在、私は養育里親、専門里親であり、一時保護のお子さんを預かったりしています。我 が家は主人、実子2人、元里子1人、専門里親の里子が2人、養育里親の里子1人の8人家 族です。里親になって 11 年になります。 専門里親というのは、児童虐待などにより心身に有害な影響をうけた要保護児童を預か る里親です。 ◆専門里親として初めて預かった 17 歳の A ちゃんのこと 専門里親として初めて預かった、17 歳の A ちゃんの話をします。ネグレクト、虐待を経 験して、親が家をあけ帰ってこない、食事がない、食べるために万引きをしたり、近所の方 に時々食事をもらっていたそうです。思春期に入り親より大きくなった A ちゃんは母親に 暴力をふるうようになり、母親の訴えで4年間特別な施設に預けられていました。高校生に なり親元に戻ったものの、何故私を引き取らなかったのかと怒りは母親に向けられ、不登校 、暴力となり、母親がそれに耐えかねて失踪してしまいました。A ちゃんは食べることが出 来ず警察に助けを求め、児童相談所の一時保護所に3か月いて、自立支援の施設も一杯だっ たため、そこから専門里親としてわが家に委託となりました。 持ってきた物は高校の教科書と洋服、靴でしたが、洋服も靴もぼろぼろでした。高校も不 登校になり、どんな生活をしていたのか、私たちには想像もつかない人生を送ってきたので しょう。 A ちゃんに初めに言われた言葉は「ここの家の籍に入りたいのだけど」。 「え、何故?」 「籍に入ればここの財産は分けてもらえるでしょう」。 年齢が大きくなるとびっくりするような会話が出てきます。 生活が始まり、しつけはされてなく、歯を磨くこともせず、朝起きてパジャマも着替えず 、夜の定時制高校でしたが、バイトが決まるまで食べては寝てと、夕方、着替えることもな くそのまま高校へ行ってしまいます。小さな子を育てるのと同じに、顔を洗おう、歯を磨こ う、着替えようと、本当に根気よく声をかけ、褒めることを繰り返しました。 一時保護所に居たこともあり、高校の単位が足りず数学2時間、国語3時間など休むと留 年か退学と言われていたので、預かった時、簡単な約束として高校は休まない、部屋を片づ けるなど決まり事を作りました。最初の1か月ほどは頑張っていましたが、学校に行く意味 がわからないし、ゴミ部屋で育った A ちゃんにとって、部屋は散らかり一緒に掃除をしま すが、前の生活に比べたら綺麗な部屋なのです。今の子どもの言葉でいうと「うざいさとお や」です。 生活にも慣れ、素の 17 歳の A ちゃんが出てくるようになりました。イライラするとドア は壊れるかと思うほどバーンと閉め、慣れてくるにしたがって大きな声で文句が出るよう になりました。現在、わが家に委託されている D くんに焼きもちがやけ「ママは小1の D 君ばかり可愛いんだ、ママは私が嫌いなんだろう、どっちが大事なんだ」と、実の母との愛 着を築けなかった寂しさや怒りが出てくるようになりました。また、雨の日でも時間がある ときはただただ外を歩くという行動を良くしていました。 ある日、定時制に通っていた A ちゃんは門限 11 時と決めてありましたが、11 時半にな っても帰ってきません、携帯に連絡を入れても無視、児童相談所に連絡し、警察に届けてく ださいと言われ A ちゃんにメールし、 「連絡が取れないので警察に届けます」と書いたらす ぐに電話が鳴りました。 「てめえ、ふざけるなよ」 、 「今ナイフを買ったから人を殺してやる 」と電話が切れ、警察に連絡を入れると、娘のしつけがなっていないことを叱られ、そのと おりですと謝り、実は里親であることを伝え、ナイフを持っているかもしれないので探して 下さいとお願いして、私も探しに出ました。夜中2時半に見つかり、パトカーで送って来て もらいました。警察官から「お母さん、思春期でもあるし、怒鳴ったり叩いたりしないで穏 やかに接して下さい」と注意を受け、ただ唖然とするばかりでした。 ハローワークに連れて行きパートの仕事を探して面接の時も「娘さんが 17 歳なのでご一 緒に来てください」 。次の日、面接に行きましたら面接係の方から「お母さんは働いていま すか?」 「いいえ働いていません」 「子どもを昼間働かせて、夜は定時制かい? 良い身分だ ね」 。事情を知らない方なのでしょうがないとは思いますが、きつい言葉でした。里親です と説明すると「済みませんでした」 。本当に様々な言葉をかけられます。 仕事が始まり、朝の弱い A ちゃんを起こすのは大変です。朝出る時も不機嫌の A ちゃん に「笑っていくんだよ」 。 しかしそこも3か月、朝の6時半に電話が入り「くびにさせていただきます」と通告され てしまいました。その前の日、 「明日は休みます」と A ちゃんが夜中にメールで連絡したそ うです。 その後、今までの様子を聞きました。「5時間のバイト中 1 時間ごとに 20 分トイレに入 って出てこない。腹が立つと無視とため口……」 。私が謝りに行って終わりでした。 次のバイトも色々ありましたが、我が家を出る日まで務めました。学校にも仕事場にもよ く車で送って行きましたね。 高校でもトラブルが多く、担任から電話がきたり、呼び出しを受け、児童相談所のワーカ ー3人と私で連れ立って行きました。 担任の先生から「A ちゃんから相談を受けています」と聞かされた内容は、 「里親さんと しゃべれない、相談しても聴いてくれない、委託されてから人が怖くて休みは一度も外出し たことがない、夜眠れない」など、カウンセリングの先生、養護の先生、担任の先生や各教 科の先生を捕まえ相談をしていました。担任の先生から「A ちゃんの悩みが深刻なので学校 のカウンセリングを受けさせます。A ちゃんが里親さんには内緒にしてくださいと言って いるのでよろしくお願いします」と連絡が入り、A ちゃんのカウンセリングには本人の希望 で担任、養護教諭の先生の立ち合いで行ったそうです。A ちゃんの話を先生方が信じ、余り に深刻であると呼び出しになったわけです。 「家での様子はどうですか?」養護教諭の先生から質問の声は里親への怒りが出ていま す。 A ちゃんの夢は、一人カラオケがしてみたい、アニメイトに行きたい、声優さんのコンサ ートに行きたい。 私たち専門里親は報告書を毎月提出します。児童相談所のワーカーも高校の先生たちの 話が間違っていることはわかっています。 A ちゃんは我が家に委託されてから、しゃべらないどころではありません、傍に来ては喋り どおしです。休みの日はアニメイト、一人カラオケや友達と遊びに行ったり声優さんのコン サートに出かけるなど、家に居ることはめったにありません。 バイトから帰ってくると学校に行くまで昼寝をよくすること、DVD を借りてきて寝るよ うに声をかけても寝ずに見ていることなどを話しました。高校の先生も「今まで聞いてきた 事はうそですか」とびっくりされていました。 そのようなうそをついても自分を見てほしい、親と築けなかった愛着、人一倍甘えたいが 、このようなうそをつく事でしか生きてこられなかった A ちゃんです。本人には私たちが 会ったことは話さず、本人も色々言えたので、その後、相談はなくなったそうです。それで も生活する中で月に一度の爆発は解除になるまでありました。 解除になるきっかけになる事が起きたのは委託されて1年になった時でした。その日は 日曜日でした。 パート先で失敗があり 残業も重なり8時に帰ってきました。疲れたでしょうと食事を 温め食べだしたとたん、 「てめえの顔なんか見たくないんだよ」。私は居間に移り黙りました 。 「お前無視するのか?」私は「どうしたの? 何かあったの?」と声をかけましたが、 「出 てってほしいなら出てってやるよ」と外に飛び出して行ったので、追いかけていったら大声 が始まってしまい、私はしょうがなく家に入り「お腹がすいているでしょう。帰っておいで 」とメールをしたり、携帯で連絡を取りましたが、無視されて連絡がとれず、11 時過ぎ「 警察に届けます」とメールをしました。少し経つと「お前を殺してやる」とメールが来まし た。 「構わないから携帯に出て」と送ると、携帯で連絡が来ました。 「お前を殺すためにナイ フを買った、会ったら殺すぞ」と興奮しています。 「どこに居るの? 迎えに行くから」とい うと場所を教えてくれましたが、どこにもいません。警察に連絡を入れて事情を話し、いつ もの事で親のくせに何しているのかと怒られ、里親であることを説明し、主人と警察と連絡 を取りながら、2時間。私の方が先に A ちゃんを見つけました。 「今からおまわりの前でお前を刺す」、私も覚悟というのか「刺しな」と駅前の交番に行 きました。 交番のお巡りさんは、A ちゃんを探しているのでいませんでした。「どこにおまわりがい る?」 「本署にいる」と答えると、 「どうしてもおまわりの前で刺す」というので、本署に電 話を入れ連れて行きました。 着くと3人の警官が待っていました。車を止め、 「おりなさい」 「おりない」の問答を2, 3回繰り返し、警官が近づいた所で私は A ちゃんに首を絞められ、殴られて、警官に助け てもらいました。一晩 A ちゃんと少年担当の警察官と朝まで話しました。途中 A ちゃんは トイレに行くと席を立ったとたん警察から逃げようとして4,5人の警官に抑えられまし た。 「お母さん、気持ちはわかるが返した方がいい」と私は言われました。 あの子は一生懸命助けを求めていたと思うのです。自立への不安、実親への怒り……。た った1年でしたが、バイトをして 60 万円を貯めたこと、生活保護を受けてきた親元でゴミ 部屋の生活、小さい頃受けてた虐待、16 歳で突然棄てられた事……。 今は連絡を取ることは出来ませんが、A ちゃんはわが家を出て自立支援ホームに移り、そ こで2か月生活しましたが、周りに居た子どもたちが、仕事もせず、学校にも行かないので 、 「私はここに居たらだめになる」とアパートを借り、仕事も転職して1人で暮らしている そうです。 ◆6 歳で一時保護委託された B ちゃんのこと 次に一時保護児童の B ちゃんのお話です。今年の初めにお預かりした6歳の子どもです 。ネグレクト、虐待で警察に保護され、その日のうちに我が家へ一時保護委託されました。 来た時は水疱瘡で熱があり、口の中にも出来ている発疹で食事も出来ない状態でしたが、そ れでも泣くわけでもなく、口もききません。夜中、熱はどうかとおでこに手をつけただけで も、布団をかけ直そうとしただけでも、泣き叫びました。虐待を受けているので体に触れよ うとするとおびえて触らせてくれません。次の朝、緊張していましたが、何もなかったよう に「お母さん」と呼ばれました。3日ほど続いた夜泣きが終わり、B ちゃんの口から「お母 さんの所に居たい」 、 「ママの所へ帰らない」、 「ここに居られる?」の言葉が出ましたが、 「 ごめんね、お母さんにはわからないよ」と答えるだけでした。 B ちゃんから話される虐待の様子。この数年、幼児虐待の事件が多い中で、事件のニュー スは聞きますが、実際、その子どもたちと関わることはほとんどないのではないでしょうか 。体が小さく栄養失調なのか大きく膨れ上がったお腹、少量しか食べないので 5 回 6 回と おやつやおにぎりを作って食べさせました。6 歳とは思えない小さな体、いつも大人の顔色 を見て、買い物へ連れていくと「お母さんお金ある?」 「大丈夫だよ」 。その後は、お菓子、 おもちゃ、あれもこれも欲しいのです。だまって受け入れ、買いました。2 か月後、3 人姉 妹が一緒に施設入所と決まり、お別れになりました。 ◆18 歳寸前で来た C ちゃん、小 4 の D 君と小 3 の E ちゃん 最後にお話しするのは現在、一緒に暮らしている里子たちです。 A ちゃんの次に C ちゃんという療育手帳をもっている里子が「あと 3 日で 18 歳を迎えて しまい、児童相談所の手を離れなければならない、行く場所がない」というので 2 日後に委 託になりました。16 歳で親の虐待から逃げ、一度は違う里親さんの元にいましたが、気が 合わず飛び出してきました。独特の子で食事はお米、麺類、肉が食べられず、パンと野菜類 、魚が少し食べられます。わが家に来て7か月がたち、ご飯が食べられるようになり、お弁 当にはご飯を詰め、おにぎりも食べるようになりました。とてもニコニコして笑顔の可愛い 子ですが、大人とのおしゃべりが苦手です。でも友達やアルバイト先ではしゃべれるのでそ れで十分です。 バイトは大好きなパン屋さんを見つけ、自分で連絡をさせました。休まず頑張っています 。高校の事や必要な事を人に伝えることが難しい子ですが、私は事あるごとに話をしていく ようにしています。自立のことを話すと泣く場面もありますが、言葉で伝えないとわからな いことを時々話し合います。今後の生活の場として、グループホームなど当たっています。 安心して暮らせる場所を見つけるため、後1年半ですが共にやって行きたいと思っていま す。 もう2人は小学校4年生と3年生の子です。 小4の D 君は3歳で委託を受けました。喘息アレルギー、いつも病弱で 4 歳過ぎるまで言 葉がほとんど出ませんでした。しかし、今はスポーツが得意で、絵を描くのがとても上手で す。委託後6年くらいは泣くのも声を殺し泣く子でした。昨年、D 君の学校の役員会に主人 と2人で行っていました。D 君は友達と遊ぶからと先に帰り私たちの帰りを待っていたの ですが、思ったより時間がかかり不安だったのでしょう。大きな声でパパ、ママと泣きまし た。その時の泣き声は本当に感動でした。D 君を抱き主人も私も涙があふれました。帰って きた娘や息子も良かったねと涙でした。 小 3 の E ちゃんは専門里親として生活が始まったばかりです。他の里親さんに馴染めず 、わが家に委託となりました。まだ、これから色々なことが起こると思いますが、一緒に育 っていこうと思っています。子どもたちが乗り越えなくてはならない事はいっぱいありま す。自分のルーツ、何回も繰り返される真実告知。一緒に泣いたり笑ったり、どの子も大切 な宝物です。 皆さん是非、将来里親になってください。堂々と僕は、私は里子ですと言える社会に、ま た施設に長期委託されている子どもたちに、ホームステイ先となってもいいのです。あなた が大事という大人が一人でもいればと心から思います。
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