兵庫教育大学教職大学院 授業実践リーダーコース 授業実践アイディア集 2012 子どもによる「知識の構造化」を意図した社会科授業 王子 明紀・米田 豊 校種・学年: 中学校・1~2 年生 教科: 社会 単元名: 「北海道地方」 平成 20 年版中学校学習指導要領[社会]準拠 あらまし 社会科の目標の一つは、社会のしくみがわかることです。そのためには、「なぜ」という問いに対し て、原因と結果の関係を説明する概念探究型の授業が有効です。しかし、授業中には「わかった」気に なっていても、授業後に一人で探究過程をもう一度たどろうとすると「わかっていない」子どもがいま す。探究過程で思考した内容や習得した知識を結び付けて、問いに対する答え(説明的知識)を導き出せ ないのです。その原因は、子どもが知識を構造化して習得できていないからです。そこで、子どもによ る「知識の構造化」を行う手立てとして開発した「 『タグ』シート法」を活用した学習を提案します。 手立てと活動 ここでは、 「北海道地方」の学習の展開例を紹介します。 「なぜ、北海道地方は観光客が多いのだろう。 」 という問いを探究していきます。子どもは「夏涼しいのが魅力だから観光客が多い。 」という原因は容 易に思いつきます。しかし、原因はそれだけではありません。気候では、夏の気温以外にも冷帯に属す る北海道地方は梅雨がなく湿度が低く快適であるという魅力もあります。また、観光客の減少する冬に は「雪まつり」などのイベントを企画したり、「流氷ツアー」など厳しい冬の気候を逆手にとった工夫 をしたりしているのです。しかし、このような複数の原因を子どもが一度に整理して導き出すことは困 難です。そこで、授業中に知識を構造化したものを図示する「タグ」シートを作成し、自分の作成した 「タグ」シートを見ながら子どもが原因と結果の関係を説明できるようにします。授業過程にそって、 「『タグ』シート法」について解説していきます。 (1) 教師による「タグ」を貼る対象の設定 二つの「タグ」を貼る対象を設定します。この二つは原因と結果の関係を説明するために必要な知識 を問う問いの主語になります。「どのような」を問う問いの主語です。観光客が多い原因を「気候の特 徴」と「観光の特徴」からとらえさせたいので、この二つが「タグ」を貼る対象になります。「どのよ うな気候の特色があるのでしょうか。」と「どのような観光の特色があるのでしょうか。」という問いの 主語が「タグ」を貼る対象に設定されます。 (2)「タグ」を貼る 「『タグ』シート法」では知識の整理のために、まず子どもが「タグ」を貼る対象に資料で調べたこ とを「タグ」として貼っていきます。その時に、教師と子どもは「なぜ、その対象に『タグ』を貼るの か」を確認します。この設定の根拠を確認することで、子どもが「タグ」を貼っていけば検証できるこ とがわかります。この確認によって子どもは検証の道筋を理解します。 (3)グループをつくる たくさん貼った「タ グ」を整理してグルー プにまとめます。一つ の「タグ」が複数のグ ループを形成すること もあります。このグル ープを形成することで 知識の整理をすること ができます。 このほかにも、 「冬の [夏のグループ化の例] 厳しさグループ」 「冬の 観光グループ」「2 月で結びつくグループ」が作られて、気候や観光の特徴の知識を整理します。 (4)グループ同士の組み合わせによる問いに対する説明 作成した「タグ」シートを見ながらグループ同士の組み合わせを考えます。小さな原因と結果を見つ けていきます。小さな因果関係を見つけることは子どもにとって難易度が高いので、この段階での教師 の支援は必要不可欠です。そし て、子どもは小さな因果関係を 見つけ出します。例えば、子ど もは「タグ」シートから、「夏 は快適だから夏の観光客が多 い。 」 「冬の気候は厳しいから観 光客が少ない。」 「雪まつりをす るので 2 月に少し観光客が多 い」などの因果関係を見つけま す。これらの複数の小さな因果 関係を組み合わせて、問いに対 する答えである説明的知識を 習得します。 [説明的知識の習得過程] 期待される効果 「タグ」シートを作成することで、これまで授業が終わったあと「何を勉強したかな。」とか「授業 中はたしかにわかっていたはずなのに。 」ということがなくなります。 「タグ」シートを見れば何を学習 したかを復習できるからです。また、単元の各時間で「タグ」シートを作成すれば、単元のまとめとし て習得した知識を活用して論争問題に対する価値判断をする授業で判断の根拠として活用され、市民的 資質の育成につながることも期待されます。 出典) 王子明紀(2012.3)「 『思考の連続性』を意図した『習得・活用・探究』の社会科授業開発-「『タ グ』シート法」による知識の「構造化」を中核にして-」授業実践リーダーコース実践研究報告書(指 導教員:米田豊)
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