TMI 中国最新法令情報 ―(2015 年 8 月号)―

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TMI 中国最新法令情報
―(2015 年 8 月号)―
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皆様には、日頃より弊事務所へのご厚情を賜り誠にありがとうございます。
お客様の中国ビジネスのご参考までに、「TMI 中国最新法令情報」をお届けします。記事
の内容やテーマについてご要望やご質問がございましたら、ご遠慮なく弊事務所へご連絡下
さい。バックナンバーについては、弊事務所のウェブサイトに掲載させていただきますので、
併せてご利用下さい。(http://www.tmi.gr.jp/global/legal_info/china/index.html)
目次
一.中国最新法令
1. 中央法規
(1) インターネット金融の健全な発展の促進に関する指導意見
2.地方法規
(1)上海市クロスボーダー電子商取引の発展の促進に関する若干の意見
3.司法解釈
(1) 民間貸付案件における法律適用の問題に関する最高人民法院の規定
二.連載 中国企業法実務/第八弾:財産法
(第 5 回 担保物権)
三.中国法務の現場より
1. 戦後 70 年談話、軍事パレードと駐在員の生活(北京)
2.上海における「三証合一」の導入
1
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一.中国最新法令(2015 年 7 月中旬~2015 年 8 月中旬公布分)
1.中央法規
(1) インターネット金融の健全な発展の促進に関する指導意見 1
中国人民銀行、工業情報化部、公安部、財政部、工商総局、法制弁、銀監会、証監会、
保監会、国家インターネット情報弁公室
2015 年 7 月 18 日公布 同日施行
① 背景
インターネット金融とは、伝統的な金融機構とインターネット企業がインターネット
技術及び情報通信技術を利用して資金融通、決済、投資及び情報仲介サービスを実現す
るという新型の金融業務モデルである。
近年、インターネット技術及び情報通信技術の飛躍的な発展によって、インターネッ
トと金融との融合が推進され、金融資源の配置の効率が高められてきた一方で、参入基
準、管理規定及び監督管理の欠如等の問題が存在しており、実際に、インターネット金
融の経営者が資金を横領して逃亡する事例が多発している。
しかしながら、インターネットと金融との融合は時代の潮流であり、インターネット
金融は中小企業の発展及び雇用の拡大に関して、現在の金融機構が代替できない役割を
果たしているため、引き続きインターネット金融の発展を促進する必要がある。そこで、
インターネット金融に関する問題を改善し、リスク回避を図るため、各部門は共同で本
指導意見を公布した。
② 主な内容
本指導意見の主な内容は以下のとおりである。
ア
以下の面からイノベーションを奨励し、インターネット金融の平穏な発展を支持す
る。
(a) 銀行、証券、保険等の金融機構によるインターネット技術を根幹とする新商品及
び新サービスの開発を奨励する。
(b) 金融機構とインターネット企業との協働を奨励する。
(c) 融資手段を拡大させる。
(d) 行政部門による管理の効率を高める。
(e) 税収政策を完備させる。
(f) 大容量データの保存、インターネット安全に関するインフラ建設を推進する。
イ 以下のとおり各インターネット金融業務の管理部門を明確化する。
(a) インターネット決済-中国人民銀行
(b) インターネット貸付-銀監会
(c) インターネット融資-証監会
(d) インターネット金融商品の販売-証監会
(e) インターネット保険-保監会
(f) インターネット信託及びインターネット消費者金融-銀監会
ウ
1
以下の面からインターネット金融の秩序に関するルールを構築する。
中国人民银行、工业和信息化部、公安部等关于促进互联网金融健康发展的指导意见(银发[2015]221 号)
2
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(a) インターネット金融業界の管理責任を明確にさせる。
(b) 第三者(銀行業金融機構)による顧客資金の保管制度を重視する。
(c) 情報開示、リスク喚起及び合格投資者制度を構築する。
(d) 消費者権益保護を強化する。
(e) マネーロンダリング及び金融犯罪を防止する。
(f) インターネット金融業界の自律を強化する。
(g) 監督の連携並びにデータの統計及び観測を図る。
2.地方法規
(1) 上海市クロスボーダー電子商取引の発展の促進に関する若干の意見 2
上海市人民政府弁公庁
2015 年 7 月 20 日公布
同日施行
① 背景
近年、消費者の消費力の向上に伴って、中国におけるクロスボーダー電子商取引が急
速に発展してきた。クロスボーダー電子商取引の発展は、雇用の拡大、中国の製造能力
の発揮、新たな経済発展分野の創出等に繋がっており、今後の中国経済にとって非常に
重要である。
もっとも、クロスボーダー電子商取引については、関連法規制の不備、知的財産権の
侵害等多くの問題が存在しているのも事実である。かかる問題の解消を図り、クロスボ
ーダー電子商取引の更なる発展を促進するため、2015 年 6 月 20 日に、国務院弁公庁が
「クロスボーダー電子商取引の健全かつ快速な発展の促進に関する指導意見」を公布し
た3。今回、上海市は同指導意見の実施を徹底させるため、上海市の現状に照らし、本意
見を公布した。
② 主な内容
ア
本意見では、主な目標として以下の事項が挙げられている。
(a) クロスボーダー電子商取引の物流システムを発展させ、特に、税関及び検査検疫
等の部門において集中監督管理場所の認定基準及び実施方法を研究、制定し、企
業による当該管理場所への進出を奨励する。
(b) クロスボーダー電子商取引におけるイノベーションを奨励し、特に、企業による
体験店舗の開設並びに郵送及び宅配によるクロスボーダー小売等を奨励する。
(c) 税関における迅速な対応を引き続き堅持し、個人直接輸入及び保税輸入に関する
監督管理規定を完備させる。
(d) クロスボーダー電子商取引に対して、輸入検査検疫ネガティブリスト制度を実施
させ、中間管理及び事後管理を強調し、企業及び商品の届出に関する要求を簡素
化させる。
(e) 銀行及びクロスボーダー決済機構によるクロスボーダー電子商取引に対する便利
かつ効率的な決済サービスの提供を支持し、一定の条件を満たした企業による国
外における人民元及び外貨準備口座の開設を支持する。
(f) クロスボーダー電子商取引における輸出貨物の小売に関する免税及び税金還付政
策を実施させ、クロスボーダー電子商取引における輸出税金還付業務のペーパー
2
3
关于促进本市跨境电子商务发展的若干意见(沪府办发[2015]32 号)
关于促进跨境电子商务健康快速发展的指导意见(国办发[2015]46 号)
3
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レス化を探る。
3.司法解釈
(1) 民間貸付案件における法律適用の問題に関する最高人民法院の規定 4
最高人民法院
2015 年 8 月 6 日公布
2015 年 9 月 1 日施行
① 背景
1991 年 8 月 13 日に最高人民法院が「人民法院による貸付案件の審理に関する若干の
意見」5(以下「若干意見」という。)を公布して以来、約 25 年が経過した。この 25 年
間は中国の経済が最も速く発展した期間であり、民間の金銭消費貸借について若干意見
では対応できない様々な新たな状況が現れた。かかる問題の解消を図るべく、最高人民
法院は本規定を公布した。
② 主な内容
本規定は全 33 条から構成されている。若干意見と比較した場合の主な改正点は以下の
とおりである。
ア
民間貸付の範囲の拡大6
若干意見では、民間貸付とは、個人と法人又は個人とその他の組織との間の貸付し
と定義されているのに対し、本規定では、民間貸付とは、金融管理部門から認可を受
けて貸付業務に従事する金融機構とその分枝機構を除き、個人、法人及びその他の組
織の間で行われた資金調達と定義されており、法人間の貸付も民間貸付の範疇に入っ
た。
イ
利息保護基準の明確化7
若干意見では、民間貸付の利息は銀行の同種類の貸付金利の 4 倍を上回ってはなら
ないと定められているのに対し、本規定では、法律で保護される利息の上限は年利
24%となり、年利 36%以上の金利に関する約定は無効になり、また、借入人が払った
年利 36%を上回った利息を取り戻すことができると定められている。
なお、民間貸付金利が年利 24%から 36%の間で約定された場合、人民法院において
年利 24%を上回る未払い金利は保護されないが、既に支払われた金利については、借
入人が貸付人に対して年利 24%を上回る部分の金利の返還を求めることができない。
ウ
法人間貸付に関する契約の有効性の明記 8
若干意見では民間貸付の当事者の一方が個人に限定されているのに対し、本規定で
は、法人間又はその他の組織間において生産、経営のために締結された民間貸付契約
について、契約法第 52 条9又は本規定第 14 条10で定められている場合を除き、当事者
が同契約の有効性を主張した場合、人民法院はこれを支持する旨が定められている。
特に、従来、人民銀行が 1996 年に公布した貸金通則にて、法人間貸付が違法とされて
いることにも照らし、法人間貸付は無効と解されてきたが、本規定により、一定の範
4
最高人民法院关于审理民间借贷案件适用法律若干问题的规定(法释[2015]18 号)
关于人民法院审理借贷案件的若干意见(法[民][1991]21 号)
6
第1条
7
第 26 条
8
第 11 条
9
契約の無効事由を定めた条項
10
民間貸付に関する契約の無効事由に関する条項である。詳細について本文「エ」を参照されたい。
5
4
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囲で、法人間貸付を有効であるとしたことは、画期的と言える。
民間貸付に関する契約の無効事由の明確化 11
エ
若干意見では、詐欺、脅迫等の手段を用い、若しくは他人の危機を利用して、相手
方の本来の意思に違反して貸付関係を形成した場合、又は借入人が違法な活動のため
に資金を借りることを知りながら資金を貸し付けた場合、それらの貸付関係を保護し
ないと定められている。そのため、民間貸付の効力に関する判断において、主に民法
通則及び契約法に照らして検討する必要があり、基準としての明確性が十分とはいえ
なかった。
これに対して、本規定では、民間貸付に関する契約を無効とする判断基準が以下の
とおりより明確に定められている。
(a) 金融機構から資金を借り、高額な利息で借入人に貸し付け、かつ、借入人が事前
にこれを知り、また知りうる場合。
(b) その他の企業又は自社の従業員から資金を集め、利益を図るために借入人に貸し
付け、かつ、借入人が事前にこれを知り、また知りうる場合。
(c) 借入金が違法犯罪活動に用いられることを貸付人が事前に知り、また知り得たに
もかかわらず、資金を貸し付けた場合。
(d) 社会公共秩序及び善良な風俗に違反する場合。
(e) その他の法律、行政法規、効力のある強制的な規定に違反する場合。
(彭涛・中国法顧問)
二.連載 中国企業法実務
第八弾:財産法(第 5 回/全 6 回)
第1回
2015 年 4 月号
財産法の体系
第2回
2015 年 5 月号
物権法の概要と諸原則、所有権一般
第3回
2015 年 6 月号
区分所有権
第4回
2015 年 7 月号
用益物権
第5回
2015 年 8 月号
担保物権
第6回
2015 年 9 月号
不動産登記
第5回
担保物権
財産法の連載の第 5 回となる今回は、物権法第 4 編及び担保法に規定されている担保
物権について紹介する。
1.担保物権の概要
担保物権とは、債務者が期限の到来した債務を履行しない場合、又は当事者が約定し
た担保物権実行事由が発生した場合に、担保物権者が、法に従って担保目的物から優先
11
第 14 条
5
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弁済を受けることを実現する権利をいう 12。中国物権法上、担保物権として、抵当権、質
権及び留置権が規定されている 13。
1995 年に制定された担保法において、人的保証や手付金といった債権的な担保制度と
併せて、抵当権、質権及び留置権に関する初歩的な規定が設けられたが、法体系上の欠
陥や条文の不足が指摘されていた。その後、2007 年に制定・施行された物権法において、
担保物権を物権法定主義の構造体系の下に置き、第 4 編合計 71 条をもって、担保物権の
一般規定、並びに抵当権、質権及び留置権に関する各規定を設けることにより、従来の
法規定及び実務によって形成されてきた担保物権制度の体系化が実現された。
なお、現時点においても担保法は有効に存続しているが、担保法と物権法の規定に内
容の齟齬がある場合は、物権法の規定に従う 14。
2.抵当権
(1) 抵当権総論
抵当権とは、債務者又は第三者が占有を移転せずに債務の担保に供した財産(不動産
又は動産)につき、債務者が期限の到来した債務を履行しないとき、又は当事者が約定
した抵当権実行事由が発生したときに、債権者が他の債権者に先立って当該財産につい
て優先弁済を受けることができる権利をいう 15。
物権法上、抵当権は、特定の債権を被担保債権とする「普通抵当権」 16と、一定の範
囲に属する不特定の債権を一定の極度額の範囲内において担保する「根抵当権」(中国
語:最高额抵押权) 17に分類される。
(2) 抵当目的物
日本の民法上、抵当権の対象となる目的物は、不動産(土地・建物)、地上権、永小
作権に限定され 18、原則として動産に抵当権を設定することは認められていない(なお、
特別法で、立木、自動車、建設機械、航空機、船舶等に対する抵当権設定が例外的に認
められている)。
これに対して、中国物権法においては、条文上、動産を含む次の各財産について抵当
権を設定することが認められている19。また、これらの財産を併せて抵当目的物とする
ことも可能である 20。
① 建造物及びその他の土地の定着物
② 建設用地使用権
③ 入札募集、競売、公開協議等の方式により取得した荒地等の土地請負経営権
④ 生産設備、原材料、半製品、製品
12
物権法第 170 条
それぞれ物権法第 16 章(第 179 条~第 207 条)、第 17 章(第 208 条~第 229 条)、第 18 章(第 230 条~
第 240 条)に規定されている。
14
物権法第 178 条
15
物権法第 179 条
16
物権法第 16 章第 1 節(第 179 条~第 202 条)
17
物権法第 16 章第 2 節(第 203 条~第 207 条)
18
日本民法第 369 条第 1 項、第 2 項
19
物権法第 180 条第 1 項
20
物権法第 180 条第 2 項
13
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⑤ 建造中の建築物、船舶、航空機
⑥ 交通運輸手段
⑦ 法律、行政法規により抵当権設定が禁止されていないその他の財産
このうち、④企業の生産設備、原材料、半製品、製品に対する抵当権については、当
事者の書面合意に基づき、企業、個人商工業者及び農業生産経営者が、現在保有してい
るもの及び将来保有するものに設定することが認められている21。
なお、次の各財産について抵当権を設定することは禁止されている 22。
① 土地所有権
② 耕地、宅地、自留地、自留山地等集団所有の土地使用権
③ 学校、幼稚園、病院等の公益を目的とした事業単位、社会団体の教育施設、医療衛
生施設及びその他の社会公益施設
④ 所有権、使用権が不明又は紛争がある財産
⑤ 法に従って封印、差押、監督管理されている財産
⑥ 法律、行政法規において抵当権設定が禁止されているその他の財産
(3) 効力発生要件、対抗要件
日本法上、抵当権は契約締結時に有効に発生するが、当該抵当権設定の事実を公示
して第三者に対抗するための対抗要件として抵当権登記(登録)制度が設けられてい
る。
これに対して、中国物権法においては、次のように、抵当目的物によって効力発生
要件と対抗要件を区別して規定している。
【登記が抵当権の効力発生要件となるもの】23(契約だけでは抵当権が成立しない)
① 建造物及びその他の土地の定着物
② 建設用地使用権
③ 入札募集、競売、公開協議等の方式により取得した荒地等の土地請負経営権
④ 建造中の建築物
【抵当権設定契約のみで効力が発生し、登記は対抗要件となるもの】 24
① 生産設備、原材料、半製品、製品
② 建造中の船舶、航空機
③ 交通運輸手段
(4) 抵当権の実行
日本法において債務者が期限の到来した債務を履行しない場合、抵当権者は、民事執
行法に基づき裁判所に対して競売申立てをし、競売で得た代金から優先弁済を受けるこ
とができる25。
21
22
23
24
25
物権法第 181 条
物権法第 184 条
物権法第 187 条
物権法第 188 条
日本民事執行法第 180 条~第 188 条、194 条
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これに対し、中国においては、債務者が期限の到来した債務を履行しない場合又は当
事者が約定した抵当権実行事由が発生した場合、抵当権者は、まず抵当権設定者との協
議による合意に基づき、抵当財産を時価換算することにより 26、又は当該抵当財産を競
売、換価して得た代金により優先弁済を受けることができる27。当該協議を経ても抵当
権者と抵当権設定者が抵当権の実行方式について合意に達しなかった場合、抵当権者は、
人民法院に対して抵当財産の競売、換価を申し立てることができる 28。
なお、抵当財産を時価換算する場合又は換価する場合は、市場価格を参考にしなけ
ればならず 29、抵当権者と抵当権設定者による合意が他の債権者の利益を害する場合、
他の債権者は、当該事由を知った日又は知り得た日から 1 年以内に、人民法院に対し
て当該合意の取消しを申し立てることができる 30。
3.質権
(1) 質権総論
質権とは、債務者又は第三者が担保目的物である財産の占有を債権者に移転し、債務
者が期限の到来した債務を履行しないとき、又は当事者が約定した質権実行事由が発生
したときに、債権者が他の債権者に先立って当該財産について優先弁済を受けることが
できる権利をいう 31。
中国物権法は、質権の種類として、「動産質」 32と「権利質」 33を規定している。動産
質とは、動産を担保目的物とする質権である。権利質とは、債券、株式・出資持分、知
的財産権等の財産権を担保目的物とする質権をいう(なお、権利質においてはその性質
上、担保目的物の占有を債権者に移転することができない場合、財産権の性質に応じて
担保目的物の事実的支配を債権者に移転する。)。
日本民法においては、動産質、権利質に加えて、不動産質も規定されているが 34、中
国物権法において、不動産質の規定は無い。
(2) 動産質
動産質は、質権設定者が質権者に対して担保目的物(動産)を引き渡したときに成立
する35。目的物の引渡しによって初めて動産質の効力が発生するという点(要物契約性)
は日本民法と同じである 36。
26
ここにいう時価換算とは、中国語では「折价」という。物権法解釈《物权法释义》(全国人民代表大会常
務委員会法制工作委員会編集)によると、「抵当権設定者と抵当権者の合意に基づき、市場価格を参考にし
て確定した一定の価格をもって抵当財産の所有権を抵当権者に移転する方法により債権を実現する方式」を
いう。この場合、売買代金が被担保債権に充当されるが、もし、抵当財産の時価が被担保債権額を上回ると
きは、超過額は、抵当権設定者に支払われるべきとされる。
27
物権法第 195 条第 1 項
28
物権法第 195 条第 2 項
29
物権法第 195 条第 3 項
30
物権法第 195 条第 1 項
31
物権法第 208 条
32
物権法第 17 章第 1 節(第 208 条~第 222 条)
33
物権法第 17 章第 2 節(第 223 条~第 229 条)
34
日本民法第 356 条~第 361 条。なお、日本においても実務上、不動産質はあまり用いられていない。
35
物権法第 212 条
36
日本民法第 344 条
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もっとも、中国物権法においては、日本法と異なり、質権の設定について、当事者が
書面形式によって質権設定契約を締結することを義務付けている 37。
その他には、質権者による果実収取権 38、質権者による質物の適切保管義務(日本で
は善管注意義務)39、流質の禁止40、質権設定者の同意なき転質に伴う質権者の責任負担
41
等、日本民法と共通の制度が多く見られる。
(3) 権利質
中国物権法は、次の各財産権について、権利質を設定することを認めている 42。
① 為替手形、小切手、約束手形
② 債券、預金証書
③ 倉庫証券、船荷証券
④ 譲渡可能なファンド持分又は株式・出資持分
⑤ 譲渡可能な登録商標専用権、特許権、著作権等の知的財産権(財産権のみ)
⑥ 売掛金43
⑦ 法律、行政法規において質権を設定することができる旨が規定されているその他の
財産権
このうち、有価証券等(上記①、②、③)に質権を設定する場合、質権は、権利証書
が質権者に引き渡されたときに成立する。権利証書が無い場合は、関連主管部門におい
て質権登記を行ったときに質権が成立する 44。
上記④のうち、ファンド持分及び証券登記決済機構において登記した株式 45に質権を
設定する場合は、証券登記決済機構が質権登記を行ったときに質権が成立し、有限公
司の出資持分に質権を設定する場合は、工商行政管理部門において質権登記を行った
ときに質権が成立する 46。
また、知的財産権(上記⑤)の場合は、各関連主管部門において質権登記を行った
時点で質権が成立する 47。
さらに、売掛金(上記⑥)については、貸付信用調査機構(中国人民銀行征信セン
ター48)において質権登記を行ったときに質権が成立する49。
37
物権法第 210 条
物権法第 213 条
39
物権法第 215 条
40
物権法第 211 条
41
物権法第 217 条
42
物権法第 223 条
43
売掛金質権設定登記弁法《应收账款质押登记办法》
(中国人民银行令[2007]第 4 号) 第 4 条第 2 項による
と、質権設定が可能な「売掛金」には、①販売により生じた債権(物品販売、水電気等の供給、知的財産権
ライセンス等により生じた債権を含む)、②賃貸により生じた債権(動産又は不動産賃貸を含む)、③サービ
ス提供により生じた債権、④道路、橋梁、トンネル、渡し場等の不動産利用料徴収権、⑤貸付又はその他の
信用取引により生じた債権、が含まれる。
44
物権法第 224 条
45
物権法解釈《物权法释义》
(全国人民代表大会常務委員会法制工作委員会編集)によると、証券登記決済
機構において登記した株式とは、上場会社の株式、公開株発行会社の株式、200 人以上の株主を有する非公
開株発行会社の株式を指す。
46
物権法第 226 条
47
物権法第 227 条
48
売掛金質権設定登記弁法《应收账款质押登记办法》(中国人民银行令[2007]第 4 号)第 2 条
38
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4.留置権
(1) 留置権総論
留置権とは、債務者が期限の到来した債務を履行しない場合に、債権者が既に適法
に占有している債務者の動産を留置し、かつ当該動産から優先弁済を受けることので
きる権利をいう 50。日本法において留置権の目的物は動産、不動産を問わないが、中国
物権法においては動産に限定されている。抵当権と質権が当事者の合意に基づき発生
する約定担保物権であるのに対して、留置権は当事者の合意なくして法律上当然に発
生する法定担保物権である51。
(2) 留置権の成立要件
留置権は下記の成立要件を満たす場合に、法律上発生が認められる。
① 債権者が「適法に」「債務者の動産」を占有していること 52
② 被担保債権の弁済期が到来していること 53
③ 留置する動産が、被担保債権と同一の法律関係に属すること(牽連性)。但し、
企業間の留置に関してはこの限りでない 54。
(3) 他の担保物権との競合関係
同一の動産上に既に抵当権又は質権が設定されている場合であっても、留置権者が
優先して弁済を受けることが可能である 55。
[応用編]
中国における企業買収に際して対象企業のデューディリジェンス(以下「DD」という。)
を行う場合、資産及び負債の内容は重要な調査事項の一つである。そして、資産及び負
債の調査に際しては、対象会社の資産に抵当権や質権等の担保物権が設定されていない
か否かを確認することが重要となる。
確認方法としては、まず、対象会社から担保設定に関する契約書の提供を受けて内容
をチェックする。また、財務 DD のチームと協力して財務諸表上、借入債務及び担保設
定の有無についても確認する。さらに、対象会社から提供される情報のみによって担保
権の有無を判断するのではなく、不動産、生産設備・製品等の動産、有価証券、株式・
出資持分、売掛金及び知的財産権等について、抵当権や質権設定の有無を、現地の各関
49
物権法第 228 条
物権法第 230 条
51
なお、日本民法には、法定担保物権として留置権以外に先取特権(第 303 条~第 341 条)が規定されて
いるが、中国物権法上、先取特権は規定されていない
52
物権法第 230 条。なお、日本法においては、
「他人の物」であれば債務者の所有物でなくても成立する(民
法第 295 条)。また、日本民法(第 295 条第 2 項)においては「不法行為によって始まった場合でない」こ
とが要件とされているが、同条の類推適用によって、正当に始まった占有がその継続中に不法行為となった
場合にも留置権が成立しない(最判昭和 46 年 7 月 16 日民集 25 巻 5 号 749 頁、最判昭和 51 年 6 月 17 日民
集 30 巻 6 号 616 頁)。
53
物権法第 230 条。日本法でも同様の要件が規定されている(民法第 295 条)
54
物権法第 231 条。日本法でも同様の要件が規定されている(民法第 295 条、商法第 521 条)
55
物権法第 249 条
50
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連主管部門において確認することが必要である。
実務上、工場内の生産設備に対して抵当権が設定されているケースがよく見られる
が、本稿2.(3)で述べたように、対抗要件となる抵当権登記は現地の工商行政管理部
門(工商局)で確認することになる。また、有限公司の出資持分に質権が設定されてい
る場合も尐なくないが、当該質権設定の有無も同じく工商行政管理部門で確認を行う。
なお、DD の実務上、対象会社から提供を受けた契約書やインタビューによって開示
されたもの以外に対象会社が担保権設定や保証を行っていない旨を、対象会社の代表者
に表明保証させる確認書を提出させることが多い。
(野中信孝・弁護士)
三.
中国法務の現場より
1.戦後 70 年談話、軍事パレードと駐在員の生活(北京)
70 回目の終戦記念日を迎えるにあたり、今月 14 日、安倍晋三首相が内閣総理大臣談話
を発表した。談話の発表を前にして、日本人駐在員の間では「談話の内容によっては、改
善の兆しを見せている日中関係が再び悪化し、2012 年のような反日デモが起きるのではな
いか」と心配する声もあったが、杞憂に終わり、胸を撫で下ろした方も多かったのではな
いだろうか。
談話については様々な論評がなされているが、個人的には、戦後一貫して平和のために
力を尽くしてきた日本の立場をアピールするとともに、諸外国からの懸念にも配慮したバ
ランスの取れた内容であったと思う。当該談話を受けて、中国外務省の華春瑩報道官が「戦
争責任についていかなるごまかしもすべきではない」旨の発言を行い、新華社による批判
報道も一部で見られたが、中国国内では概ね抑制的な報道が多く、日中関係を悪化させた
くはないという中国政府の思惑が見て取れる。
首相談話の内容にホッとしたのも束の間、北京では、9 月 3 日の抗日・反ファシズム戦
勝 70 周年記念式典を控えて様々な厳戒態勢が取られており、我々駐在員の生活にも大きな
影響が及んでいる。
8 月 1 日以降、北京首都国際空港において発着便が削減され、8 月 20 日からナンバープ
レート末尾の奇数、偶数による自動車の通行規制が開始された。また、パレードが行われ
る長安街に面したビルではセキュリティが強化され、日系企業が多い東方広場、長富宮等
のオフィスビルやサービスアパートにおいても、通行パスによる入館制限や、部屋の立入
検査が実施されている。8 月 22 日、23 日には、パレードの予行演習に伴い、工人体育場路、
二環路等の市内幹線道路に通行規制が敷かれるとともに、西単から国貿にかけての地下鉄
駅が利用停止とされた。
9 月 3 日のパレード当日にかけて、更なる幹線道路の通行止めや地下鉄駅の利用停止、
長安街周辺のビルへの入館禁止、市内の 2 空港の閉鎖等が予定されていることから、今後
も北京市当局の発表する情報に十分にご注意頂きたい。
また、公安部の発表によると、7 月 30 日から式典までの期間中、インターネットセキュ
リティ強化のための規制を実施しており、既に多くの企業でネット速度の大幅低下、メー
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ル遅延、VPN 接続の不具合等が発生してい
るようである。
このように不便な生活が続く中、市内の
交通規制と火力発電所や工場の操業停止
によって「PM2.5」の濃度が大幅に低下し、
空気のきれいな日が続いていることだけ
は有難い現象である。中国で「阅兵蓝(パ
レードブルー)」と呼ばれているこの青空
が、尐しでも長く続くことを願いたい。
(野中信孝・弁護士)
2.上海における「三証合一」の導入
先月号の「中国最新法令」にてご紹介したとおり、営業許可証、組織機構コード証、税
務登記証の「三証」を一体化して、さらに番号も 1 つにするという改革が、今年の年末を
目標に、国務院の通達により、全国的に進められている。
上海では、営業許可証の発行を担当する上海市工商局が、10 月 1 日までに本件改革を全
面的に導入する旨、近時発表した56。
中国での会社設立には、内資、外資を問わず、
最低限でも、営業許可証(工商局)、組織機構コ
ード証(品質技術監督部門)、税務登記証(税務
局)の三種類の証書を取得することが必須とな
っており、それぞれの役所を行ったり来たりす
る手間と時間が負担となってきた。記載事項の
変更時には、それぞれの証書の変更も必要であ
った。
この点、上海市の一部の区を始めとする全国
各地の一部の地区では、数年前から並列審査認
可57と呼ばれる制度を導入し、一つの窓口で、当
該三種類の証書の申請を一括で受け付け、三種
類の証書を同時に交付するという試験的運用が
行われてきた。
今回の「三証合一」は、それを一歩進め、組
織機構コード証と税務登記証を廃止して、営業許可証に統一しようという改革である。
56
57
http://www.sgs.gov.cn/shaic/html/dtxx/2015-08-20-0000009a201508190002.html
中国語では「并联审批」。
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この「三証合一」には、①一通の営業許可証に、工商登記番号、組織機構コード、税務
登記番号を併記する「一証書三番号」58、②一通の営業許可証に、三種類の番号をつなげ
た長い番号を記載する「一証書一番号」59、③一通の営業許可証に、
「統一社会信用コード」
60
と呼ばれる新しい番号を記載する「一証書一コード」61(上記写真の例)の三種類のステ
ップがあるが、今回、上海市では、直接③の「一証書一コード」の制度を導入することに
なった。
ところで、従前の並列審査認可制度の場合はもちろん、他の都市で試行されていた「一
証書三番号」の例でも、営業許可証(工商登記)、組織機構コード証、税務登記証の申請に
必要な申請書類をそれぞれ準備する必要があり、しかも、工商局のウェブサイトで申請書
をダウンロードして、あらかじめ記入しておいて提出できる工商登記の申請と異なり、組
織機構コード証と税務登記証の申請は、役所の窓口で、申請書をもらってから記入すると
いうプロセスが必要となり、特に、日本で法定代表者に署名をいただいてから窓口に提出
する必要がある日系企業においては、結局窓口で申請書を取得してから郵送で署名を手配
するという手間がかかり、必ずしも手続簡略化のメリットを享受できない状況もあった。
この点、今回の上海市工商局の通知によれば、工商登記、組織機構コードと税務登記の
それぞれに必要な申請書と提出書類を整理・統合し、一通の申請書で申請できることを目
指すという。当該申請書は、現在のところ工商局のウェブサイトにて公開されていないが、
これが、従来の工商登記申請書と提出書類一覧のように、一目瞭然のものに整理されれば、
手続の大幅な軽減が期待でき、朗報といえる。他方、新しい証書の導入前後の過渡期にお
いては、制度上の隠れた矛盾点や、担当官の不慣れによって、手続がスムーズにいかない
こともありうるので、10 月 1 日前後の会社設立申請や工商登記変更を計画される場合には、
余裕をもって対応することをお勧めする。
(弁護士・山根基宏)
TMI 中国最新法令情報―2015 年 8 月号―
発
行:TMI 総合法律事務所
監
修:何連明・外国法事務弁護士
編集主幹:山根基宏、中城由貴・弁護士
発 行 日:2015 年 8 月 31 日
58
59
60
61
中国語では「一照三号」。
中国語では「一照一号」。
中国語では「统一社会信用代码」
中国語では「一照一码」。
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