学生相談室便り

学生相談室便り
2015 年 6 月
第 32 号
塔を降りたラプンツェル
学生相談室カウンセラー 水谷誉子
皆さんは、ディズニー映画『塔の上のラプンツェル』を観たことがありますか?
主人公のラプンツェルが生まれて初めて塔を降りたときのシーンがとても印象的でした。
ラプンツェルは、自分の足で大地を踏みしめた嬉しさの一方で、幼いころから自分を守ってくれている(と信じ込まされ
ている)お母さま(=悪い魔女)の言いつけを破ったことへの後ろめたさに引き裂かれそうな気もちになります。しかし、
毎年誕生日に空に現れる無数の灯りの正体を確かめたいと思い、地上を進むことを選びました。それまではお母さま
の絶対的な保護下にあったラプンツェルが、自分の中から生じた声にもとづいて実際に行動を起こしたのは 18 歳のと
き、青年期にまで成長したころでした。
子どもにとって、安定して生きるために必要な支えは親ですが、青年期になると親以外の存在に変わっていき、生き
る目的もまた、「与えられたもの」から「自己が見出したもの」に変化していくといわれています。ラプンツェルにとっては、
たまたま塔に飛び込んできたユージーンが相棒のような存在になり、彼を支えに自分の目的を探求していくこととなり
ました。
大学生の皆さんにとっても、そうした変化が起こりつつあるのではないでしょうか。大学生活においては、ものごとを
主体的に選び、取り組む姿勢が求められます。まず、履修科目を自分で選ぶところから始まり、人によっては、サーク
ル活動、ボランティア、アルバイトなどを含めた日々のスケジュール管理が必要となります。さらに、学年が上がるにつ
れて演習や実習などの新しい経験が待っており、4 年生になると、授業や卒業論文執筆と並行して、将来に向けた就
職活動なども始まります。自分一人では迷うこともあるでしょうし、目的に向かって努力をしていても自信を失うことが
あるでしょう。そのとき頼りになるのは、先輩や友人の存在であったり、親以外の人から得られる情報であったりするの
かもしれません。
ラプンツェルのこころの中に芽生えた声も、最初は小さく心もとないものでした。悪い魔女の策略で自信を失い、塔
に逃げ帰ったこともあります。しかし、紆余曲折を重ねながら、自分の意志と仲間の存在に支えられて目的を果たし、
より自分らしいあり方を獲得していきました。そうした中で、悪い魔女を見限り、本当の両親のもとに戻ることになりま
す。このことは、葛藤をへて自立した子どもが親と出会い直し、大人どうしの穏やかな関係が築かれる過程に似ている
ように思われました。
まだ見えない未来に向かって努力を重ねることは、誰にとっても大変なことです。学生相談室は、どのようなときも
皆さんの居場所であり、必要な情報を提供し、自分らしい道を歩むためのお手伝いをさせていただきたいと願っていま
す。どうぞお気軽にドアをノックして下さいね。
★学生相談室便りは、学生相談室のホームページからも見ることができます。
アドレス(URL) http://www.sugiyama-u.ac.jp/univ/campus/health/counseling/
学生相談室便り
2015 年 1 月
第 31 号
さよならができるまで
学生相談室カウンセラー
橋本
容子
今から 20 年前、1995 年 1 月 17 日に阪神淡路大震災が起きました。皆さんの中には、震災の年に命を
授かったという方は少なくないでしょう。逆に、縁のあった方を失った方もいらっしゃるかもしれません。
今回の相談室便りでは、大切な人とのさよならを経験した方に、私たちカウンセ
ラーがお手伝い出来ることを考えてみたいと思います。
そういった場面で、人はどのような気持ちになるのでしょうか?寂しさ、悲し
み、去って行ったものへの怒り、悔い、懐かしさ、不安、期待、絶望・・・。
日ごとに、様々な気持ちがいったりきたりします。何も手につかないほど気持ち
が沈んでしまうことや、激しく気持ちが波打つこともあるでしょう。
カウンセラーはそういう方に出会ったときに何ができるのかと考えたとき、
ヒントとなる”くまとやまねこ(湯本香樹実著、酒井駒子絵
http://www.kawade.co.jp
河出書房新社)”
という絵本があります。絵本には珍しい暗いトーンの色彩の表紙を開けると、冒頭はこんな一文です。
「あ
あさ
る朝、くまは
ないていました。なかよしのことりが、しんでしまったのです」。くまは、ことりのなき
がらを抱えたまま、悲しみにくれ家に閉じこもってしまいます。ある時、ふと出会ったやまねこに「きみ
おも
は
このことりと、ほんとうになかがよかったんだね。ことりがしんで、ずいぶんさびしい思いをしてい
るんだろうね」と言われます。そしてやまねこの奏でるバイオリンを聴きながら、ことりと一緒にしたこ
とをひとつひとつ思い出していきます。楽しかったことも、けんかしたことも。絵にかすかに色がつきま
す。それは、悲しみで凍りついたくまの心が再び動き始めたしるしです。ことりの体はもう存在しなくて
も、心の中でずっと生きていると思えたのでしょう。やまねこに見守られながら、ことりのなきがらを埋
め、さよならをするという内容です。結末には希望が描かれます。
さよならしたものが大切であればあるほど失った悲しみは深く、戻らない時間に茫然となります。思い
出すたびに涙があふれ、悲しみがゼロになることはなく、どこまでも人生にあり続けます。カウンセラー
に出来ることは、さよならを経験した方にとって、失くしたものがどれほど大切であったかを思い描きな
がら傍にいること、そしてその方ご自身が良かったこと、悪かったことも含めたあれこれを思い出すため
の安全な場を提供することだろうと思います。心の中のさよならができるまでの行きつ戻りつを見守る役
割とも言えます。誰もが人生で幾たびかのさよならを経験します。死別に限るものではなく、失恋や喧嘩
別れ、転居に伴う別離なども含まれるでしょう。そんな時には、学生相談室を思い出して下さいね。
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