解剖・栄養生理学 細胞とエネルギー代謝 参考書: 山本ら 第2章 Mader 第3章 この講義で身に付けること • 細胞膜の構造を理解する • 細胞膜における輸送原理の違いについて学ぶ 細胞小器官の働きを理解する • 細胞内で起こる働き(同化と異化)について学ぶ • エネルギー代謝の原理について理解する • 推定必要量、推奨量、目安量、目標量、上限量 について学ぶ 細胞は生物の基本的な単位である • 動物に対しては1839年にドイ ツのテオドール・シュワンがこ の説を提唱した • その後構築された考え方 Theodor Schwann 1810~1882 – 現存する細胞から分裂することで増 殖する – 細胞は生理学的な機能を持つ最小 単位である – 各細胞レベルでホメオスタシスを維 持している各組織、器官、系、個体 レベルでのホメオスタシスの維持は 複数の細胞が協調した結果を反映 している http://sites.google.com/site/pl99323/_/rsrc/1243897289397/genetics1/schwann.jpg 細胞は原核細胞と真核細胞 に分けられる http://www.biological-j.net/blog/%E7%B4%B0%E8%83%9E%E6%AF%94%E8%BC%83.jpg • DNAを収容する「核」があるのが真核細胞 動物性と植物性細胞 • 両方にある –核 – 細胞質 – 細胞膜 • 植物細胞にある – 葉緑体(光合成) – 細胞壁(葉や茎 を丈夫にする) http://www.science-art.com/gallery/58/58_1126200417216.jpg ヒトにおける細胞 組織 細胞外液 (組織では間質液) 核 細胞膜 細胞質 細胞内小器官 細胞内液 細胞基質 • ヒトの細胞は体細胞と生殖細胞に分類される – ほぼ全ての細胞は核と細胞質から形成されている(例外:赤 血球や水晶体) • 細胞膜が細胞質と間質液を仕切っている 細胞膜の構造 細胞外液 糖タンパク質 親水性 炭水化物 リン酸基 (頭部) 2分子層 糖脂質 リン脂質 膜タンパク質 細胞質 疎水性 炭素鎖 (尾部) • リン脂質の間にはビタミンEが存在する – 抗酸化作用を持ち、生体膜中の脂質の酸化を防御する http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/d/da/Cell_membrane_detailed_diagram_en.svg/800px-Cell_membrane_detailed_diagram_en.svg.png 細胞膜での物質の輸送 拡散 受動輸送 促進拡散 能動輸送 http://faculty.irsc.edu/FACULTY/TFischer/bio%201%20files/membrane%20transport.jpg • 酸素・二酸化炭素・ 水分は自由に出入り できる • 他の分子やイオンは 細胞膜によって通過 が決められている (選択的透過性) • 受動輸送と能動輸送 A) 拡散:高濃度から低濃度に移動す る分子運動 B) 浸透:細胞膜を超える水分子の移 動(水分濃度を一定にする) - 膜を通して水分を引き入れる力 浸透圧 - 通常細胞内液と細胞外液の浸 透圧は等しい - 細胞に比べて濃度が低い溶液 水分が細胞に入り膨張や破裂 (低張液) - 細胞に比べて濃度が高い溶液 水分が細胞から抜けてしなびる (高張液) 1. 受動輸送 http://www.colorado.edu/intphys/Class/IPHY3430-200/image/figure0312.jpg 1. 受動輸送 C) ろ過:分子をふるいわけて大きい分子は細胞膜 を通らせない - 人体では腎臓や毛細血管でこの仕組みが働いている D) 担体輸送(促進拡散):細胞膜に存在する担体 タンパク質を使い細胞膜を通ることのできない 大きな分子(グルコースやアミノ酸)の移動を可 能にする 促進拡散の例:グルコーストランスポーター (GLUT) • • 細胞内外のブドウ糖の濃度に従って取り込む GLUTは現在13種類見つかっている – – – – GLUT1:赤血球や腎臓尿細管など GLUT2:肝臓、小腸など GLUT3:脳、胎盤、腎臓、肝臓、小腸など GLUT4:心筋、骨格筋、脂肪細胞 2.能動輸送 ATP(エネルギー)を使い分子を輸送する 細胞内液と外液の濃度を気にする必要がない A) 一次性能動輸送:ナトリウム、カリウム、カルシ ウムなどイオンの輸送 イオンパンプ(イオン輸送体) B) 二次性能動輸送:一次性能動輸送の結果生じ る濃度勾配のエネルギーによって輸送する - 同時に複数のイオンを逆方向に輸送する(対輸送) 拡散によって移動する物質と濃度に関わらず一緒 に同方向に輸送する(共輸送) タンパク質を使った輸送 イオンチャンネル 担体 対輸送体 共輸送体 一次性能動輸送体 http://www.ncbi.nlm.nih.gov/bookshelf/br.fcgi?book=bnchm&part=A326&rendertype=figure&id=A332 3.サイトーシス(膜動輸送) 細胞の形態学的変化を伴いながらの輸送 - エンドサイトーシス(Endocytosis:飲作用): 細胞質の中に取り込む a)受容体依存性エンドサイトーシス b)飲作用(ピノサイトーシス) c)食作用(ファゴサイトーシス) - エキソサイトーシス(Exocytosis: 開口分 泌):細胞質外に放出する 受容体と情報伝達 アドレナリン 受容体 活性化因子が受容体に 結合することでGDP が遊離、GTPと結合する (活性) 酵素 アデニリルシクラーゼ 情報変換体 受容体に結合した 情報を酵素に伝える (酵素活性上昇or抑制) アゴニストorアンタゴニスト セカンドメッセンジャー 細胞内に刺激の伝達を伝える http://biology.clc.uc.edu/fankhauser/Labs/Cell_Biology/Cell_lecture_pdfs/G_protein_signal_transduction_(epinephrin_pathway).png 細胞小器官 ミトコンドリア 鞭毛 ペルオキシソーム 核膜 核 染色質 核小体 粗面小胞体 中心子 マイクロフィラメント 微小管 リボゾーム リソゾーム 細胞膜 ゴルジ体 滑面小胞体 http://fig.cox.miami.edu/~cmallery/150/life/animal_cell.jpg 細胞死 • アポトーシス=細胞自滅(Apoptosis) – 遺伝子的にプログラムされた生理的な死 – ガンや奇形の発生を防ぐ • ネクローシス=壊死(Necrosis) – 栄養素欠乏や毒物、紫外線などによる外因 および内在的な破壊要因による代謝阻害に よって引き起こされる 代謝 • • 生命維持のための生体内で起きる化学反応 物質代謝とエネルギー代謝の違い – 物質の変換に注目する(物質代謝)か、エネルギー の変換に注目するか(エネルギー代謝) • 物質代謝を大別すると異化と同化に分類される – 異化=有機物質を分解することでエネルギーを得 る過程、不必要な物質を分解・処理する過程 – 同化=エネルギーを使い有機物質を合成する過程 • • エネルギー=(能量) エネルギーの単位:ジュール(仕事量)とカロリー (熱量) (1kcal (Cal) = 4.184 kJ) 食べ物にはエネルギーが存在する • • 栄養素を構成している 結合部位にエネル ギーが存在する 3大栄養素のエネル ギー量(アトウォーター 係数) – 炭水化物 = 4kcal/g (~16.7kJ/g) – たんぱく質 = 4kcal/g (~16.7kJ/g) – 脂質 = 9kcal/g (~37.7kJ/g) ボンブカロリメーター(熱量計) http://cache.eb.com/eb/image?id=7054&rendTypeId=4 エネルギーは消えて無くならない 食事 ヒト 熱エネルギー 代謝エネルギー しかし消化率(Digestive efficiency)を考慮する必 要がある。 -脂質や炭水化物の消 化率はタンパク質よりも 高い(90%+) -食物繊維が多い炭水 化物では消化率が↓ 運動エネルギー アデノシン三リン酸(ATP) • アデノシン三リン酸(ATP)=アデノシン(アデニン+リ ボース)が3つのリン酸と結合したもの • 加水分解されるとアデノシン二リン酸(ADP)と無機リ ン酸となり、同時に大きなエネルギーが放出される • 体内における主なエネルギー担体(エネルギー通貨) ATP アデノシン ADP ATPアーゼ P ~ P ~ P アデノシン + 高エネルギー結合 + P P ~ P リン酸 エネルギー ATPはどうやってつくられる? • • • 食事に含まれるエネルギーをATPにしないと有 効活用できない 酸素がある状況(好気性)と無い状況(嫌気性) で違うメカニズムが存在する 3種類 1. 2. 3. – – ATP-PCr 系 (フォスファゲン系):嫌気性 解糖系 (Glycolysis):嫌気性+好気性 有酸素系(酸化的リン酸化):好気性 酸素を使わないATP生産スピードが速い 酸素を使うATP生産の効率が良い(最大38ATP 分子 vs 2ATP分子) ATP-PCr系 (フォスファゲン系、ローマン反応) 1) ATPが加水分解されてエネルギーとADPが生産される ATPアーゼ ATP ADP + P + E 2) ADPがPCrと反応してATPが生産される クリアチンキナーゼ PCr + ADP + H+ ATP + クリアチン + E 3) ADP同士が反応することでもATPが生産される ミオキナーゼ ADP + ADP ATP + AMP グルコキナーゼ (肝臓) または ヘクソサキナーゼ (その他の臓器) グルコース フルクトース1,6二リン酸 変換までで2ATPを消費 ホスホフルクトキナーゼー1 解糖系 (Glycolysis) 解糖系 糖新生 この過程で 4ATPと2NADH を生産 ピルビン酸キナーゼ ピルビン酸 x 2 http://www.biochem.arizona.edu/classes/bioc462/462b/graphics/GlycolysisGNGLehn4fig15-15.jpg 酵素と補酵素 • 酵素は自然界における触媒の役割を果たす – 反応に必要なエネルギー量を減らす – 反応にかかる時間を短縮する – pHや温度によって性質が変性する 適切な役割を果たすことができなくなる • 補酵素は酵素の働きを補助する – タンパク質ではない有機物 – 補酵素の例:脱水素酵素(反応物(基質)から水素 原子(H)を取り除く)の補酵素 1. NAD+(コチンアミドアデニンジヌクレオチド) 2. FAD(フラビンアデニンジヌクレオチド) 代謝ではビタミンB群が重要 • • • ピルビン酸からアセチル CoAになる脱水素反応に はビタミンB1が必要 欠乏症が脚気 NAD+はナイアシンを、 FADはビタミンB2(リボフラ ビン)を含む アミノ酸もTCAサイクル(ク レブス回路、クエン酸回路) に合流する際の代謝でビタ ミンB6を必要とする http://www.mediage.co.jp/img/tenteki-ninniku/4.jpg 乳酸のその後 • • 嫌気性の状況で激しい運動が続いた場合、乳酸は肝臓 へ送られ糖新生によってグルコースへと変換される(コリ 回路) 2ATP生産後6ATPを使うため結果的に4ATPを消費する が、乳酸の増加によるアシドーシスを防ぐことができる http://souko.ggtt.net/bunsei_chinnen/minitest/images/cori_cycle.jpg 解糖系+酸素系 http://blog-imgs-31.fc2.com/f/p/t/fptsukioka555/ROS-9.jpg ミトコンドリア内膜 ミトコンドリア外膜 アセチルCoA ピルビン酸 脂肪酸 http://phy.asu.edu/phy598-bio/D6%20Notes%2006_files/image018.jpg 中性脂肪 グリコーゲン タンパク質 グルコース 脂肪酸 解 糖 グリセロール アミノ酸 糖 新 生 ピルビン酸 CO2 アセチルCoA O2 H2O 電子 伝達系 ATP H TCA サイクル ATP CO2 異化 同化 Martini, 1995, p955 •運動をすると時 間と共にエネル ギー生産経路が 移行していく ( ) – 最初はATPPCr系 – 次に解糖系 – 最後に酸素系 エ ネ ル ギ ー 産 生 % 運動時間(分) ATP-PCr系 解糖系 酸素系 酸素を使う際のデメリット • 酸素を使うエネルギー代謝の過程で電子を一つしか 持たない(不対電子)酸素を産生(活性酸素) – 不対電子を持つ分子:フリーラジカル不安定 フリーラジカル ヒドロキシラジカル:・OH スーパーオキシドラジカル:O2脂質ラジカル:LO・など 活性酸素 過酸化水素:H2O2 スーパーオキシドラジカル:O2ヒドロキシルラジカル:・OHなど 佐久間慶子.栄養と遺伝子のはなし.技法堂出版.2011 • フリーラジカルや活性酸素は核酸や脂質、たんぱく 質を攻撃 – 血管への障害、酸化LDLによる動脈硬化、がん、 老化や痴呆 • 抗酸化作用があるβカロテンやVit. C、Vit. Eで除去 ヒトのエネルギー消費の内訳 100 80 ~10% 15-30% 食事誘発性体熱 生産 産生 身体活動 60 40 非運動性活動(NEAT) と運動性エネルギー消費 を含む 60-75% 20 基礎代謝 総エネルギー消費量(TEE) 24時間の期間で同化と異 化に利用したエネルギー量 0 総エネルギー 基礎代謝(BMR)と安静時代謝(RMR)の違いは? RMRはBMRよりも1割ほど高い 安静時代謝に影響を与える因子 • • • • • • • • 体のサイズ 体組成 性別 年齢 発育 ホルモン 温度 計測前に摂取し た栄養素 http://www.physics.ohio-state.edu/~wilkins/writing/Assign/topics/life-pulse.gif 骨格筋、脳、肝臓が 基礎代謝の半分以上を占めている 組織 肝臓 脳 心臓 腎臓 骨格筋 脂肪組織 その他 (骨、腸など) 重量 体重比% 心拍計 運動記録 間接的 カロリメトリー エネルギー代謝の 調査方法 二重標識水法 直接的 カロリメトリー 万歩計 モーションセンサー PAQ 加速度計 国際標準化 身体活動質問表 直接的カロリメトリー -どれだけ熱を産出したか- Wilbur Olin Atwater 1844 - 1907 Atwater – Benedict Human Calorimeter http://www.sportsci.org/news/history/atwater/atwater_calorimeter.jpg http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/a/ab/Wilbur_Atwater.jpg 間接的カロリメトリ― -どれだけ酸素を消費したか- • RQ(呼吸商): O2 の消費に対しての CO2の産出の比率 基質+O2⇒熱+CO2+H2O http://www.carefusion.com/Images/Respiratory/Pulmonary_Funct ion_Testing/vmaxencoremetaboliccart-3.jpg – 食物に含まれてい る栄養素の比率に よって違う – 炭水化物の酸化に よるRQ=1 – 脂質の酸化による RQ~0.7 総エネルギー消費量の計測 Prof. Tom Preston 講義スライドより • 最も正確とされる計測方法二重標識水法(DLW) • 水素と酸素の同位元素(アイソトープ)の計測 – 酸素は尿(H2O)と二酸化炭素(CO2)として排出 – 水素は尿(H2O)から排出 – 約2週間追跡することで代謝状況を把握できる – 制約を受けずに日常生活を送れる 日本人の基礎代謝量 基礎代謝基準値:体重1kg当たりの基礎代謝量(kcal/kg体重/日) 日本人の食事摂取基準(2010年版).2009.厚生労働省 海外における基礎代謝量の推定 • 広く使われている方程式は二つ – Harris Benedict (1919)の式 男性:BMR (kcal/日) = 66.5 + (13.8 x体重) + (5 x身長) – (6.76 x年 齢) [SEE = 119] 女性:BMR (kcal/日) = 655 + (9.56 x体重) + (1.85 x身長) – (4.68 x年齢) [SEE = 103] ※体重(kg)、身長(cm)、年齢(歳) 出典:Harris JA and Benedict FG. (1919). – Schofield (1985)の式WHOで採用されている • 推定式を使用する際の限界点⇒あくまでも推定 – 個別のエネルギー必要量を正確に把握できない – 運動もしくは食事摂取制限がお互いに与える影響を 考慮できない(Schoeller, Nutr Rev, 2009) 推定エネルギー必要量 • 理想のエネルギー必要量=エネルギー消費量 – 小児・乳児・妊婦・授乳婦では成長や組織増加分のエ ネルギー(エネルギー蓄積量)や、組織形成に必要な エネルギーを考慮する必要がある • 推定エネルギー必要量(Estimated Energy Requirement: EER) EER = 基礎代謝量(BMR) x 身体活動レベル(PAL) = 基礎代謝基準値 x 基礎体重 x 身体活動レベル 日本人の栄養摂取基準 推定平均必要量 推奨量 耐容上限量 目安量 目標量 日本人の栄養摂取基準2010年度版 確率の概念を導入 2005年からの所要量→推奨量へと変更 2015年版についての検討結果 日本人の食事摂取基準(2015年版)の概要 食事摂取基準指標の定義(1) 1. 摂取不足の回避目的の指標 • 推定平均必要量(EAR):特定の集団を対象と して推定された必要量から、性別・年齢階級別 に日本人の必要量の平均の推定値 – 集団の50%が必要量を満たすと推定される • 推奨量(RDA):特定の性別・年齢階級に属する 人の殆ど(97~98%)が1日の必要量を満たすと される推定値(EAR+2SD) • 目安量(AI):推定平均必要量・推奨量を算定す るのに十分な科学的根拠が得られていない場合 一定の栄養状態の維持に十分と考えられる量 食事摂取基準指標の定義(2) 2. 過剰摂取による健康障害の回避 • 耐容上限量(UL):特定の集団に属する殆ど全 ての人が健康障害をもたらす危険が無いとみな される習慣的な摂取量の上限を与える量 3. 生活習慣病の予防 • 目標量(DG):生活習慣病の一次予防のために 現在の日本人が当面の目標とすべき摂取量 – 循環器疾患(高血圧・脂質異常症・脳卒中・心筋梗塞) とがん(特に胃がん) – 対象:脂質、コレステロール、炭水化物、食物繊維、ナ トリウム(食塩)、カリウム UL・NOAEL(健康障害非発現量) &LOAEL(最低健康障害発現量) 2010年度版 食事摂取基準
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