―資源を見るまなざしの育成を―

はじめよう! 社会科・観光の授業
NEW!
はじめよう! 社会科・観光の授業
―資源を見るまなざしの育成を―
玉川大学教育学部 教授 寺本 潔
2014年12月22日,訪日外国人旅行者数が1300万
内容理解に介在させたほうが資源を見る目が養え
人をこえた。国内では北陸新幹線も開通した。今
る。5年単元「くらしを支える情報」
「環境を守る」
年は,金沢を代表とした和風の文化が日本人,外
も観光情報やエコツーリズムを扱えば断然おもし
国人問わず観光客の人気を集めるだろう。古民家,
ろくなる。
和食,着物,和菓子,富士山,温泉,祭り等の伝
一例をあげよう。下の表は,農漁村地域で発見
統文化はもちろん,日本車を生み出す自動車工場
できる資源とその観光教育的価値を整理したもの
や安全で味深い食品をつくる工場を見る産業観光,
である。つまり,観光という懐中電灯で地域を照
キャラクター・漫画・アニメ-ション・フィギュ
らすことで,地域資源が観光化してくる,いわば
ア・コスプレ等のサブカルチャーも観光客の注目
資源を見るまなざしを獲得できるようになる。
を集めている。国内旅行に目を転じてみると富岡
表 農漁村で発見できる資源とその観光教育的な価値
製糸場や軍艦島を始め近代化遺産にも注目が集ま
地域にある資源
具体的な要素(学習材) 観光教育的な価値
田園・里海景観
灌漑水路,屋敷林,棚 故郷,いやし,く
田,浜と魚付林
つろぎ
伝統的な建造物
神社,古民家,散居村,レ ト ロ, 素 朴 さ,
防風石垣
本物
お祭りや年中行事
収穫祭,鳥追い,どん 受けつぐ意味,民
ど焼き,海神祭
俗文化
安心安全な食
郷土料理,沿岸の海の 食育,土・海との
幸,特産品
つながり
農漁村の生活
有機農業,生活リズム,健康,自然のめぐ
地場産業
みへの感謝
新しい農業・漁業
ガーデニング,ハーブ 西洋の趣味,都市
園,栽培漁業
交流
りつつある。もちろん,代表的な観光地である京
都・奈良の街なみ・文化財,北海道や沖縄県の自
然美,小京都である萩・高山等もさらに人気を集
めていくだろう。これらの動きを教育界でも生か
したい。今こそ,教師たちは観光の教育力に強い
関心を抱き,将来の観光人材の卵である子どもた
ちに「観光のまなざし」を育成すべきではないか。
1 観光は農漁村の主産業
グリーン・ツーリズムという観光がある。都市
から農漁村に出かける滞在型の旅である。受け入
もっと 使おう 地図 応用編
STEP
2
れが成功している地域では,人と接することに長
2 地図帳で学ぶ観光資源
けた人材が多く住んでいる。基本的には人と多く
次に,筆者の出身県である熊本県を例にして観
は接触しない農・漁業とは180度対極に位置する
光がいかに地域理解に有効であるかを確かめたい。
のが,観光産業である。だから,農漁村こそ人を
熊本県は県内に二つの国立公園を有する美しい自
よび込む努力が欠かせない。地方創生のためにも,
然美あふれる県である。そのため地図帳でさまざ
その担い手を教育で育成することが急務である。
まな産物絵記号を見つけることができる。阿蘇・
同時に真っ先に取り組まなくてはならないのは,
小国のすぎから始まり,乳牛や赤牛,菊池や玉名
地域に存在する資源の再発見や資源を新たにつく
のすいかやいちご,芦北の夏みかん,八代のトマ
り出す資源化である。小学3・4年の単元「もの
ト,天草のくるまえび,さらに工芸品の山鹿とう
を生産する仕事」
「ものを売る商店のくふう」
「昔
ろうや肥後ぞうがんも見つかる。人吉市付近では,
から受けつぐ年中行事」
「わたしたちの県の特産
球磨川が九州山地を蛇行しながら八代海に注いで
品」
「外国とつながる地域」は,いずれも観光を
おり,急流である(川下り)ことも読み取れる。
*地図帳の参照ページの「旧」は,5,
6年生が使用している地図帳『楽しく学ぶ小学生の地図帳 最新版』を表しています。
こどもと地図 2015 ①
13
ぞうがん
とうろう
すぎ
関連づければ,単元の目標は達成で
きる。従来どおりに県の地形,人口,
交通,産業などを項目別に学ばせる
だけでは問題解決学習にはなりにく
い。観光という視点を導入してこの
単元を活性化してほしい。
3 資源を見いだす・組み合わせる
さらに観光を産業として認知でき
くるまえび
れば,すそ野は広がる。農漁業が生
み出す野菜や果物,肉や魚介類も,
広い意味でブランド化や観光資源化
をめざしている。子ども自身が,身
近な地域や県内で見いだせる産物を
二つ以上を組み合わせて魅力的な産
品を商品化すると提案型の思考をう
図 『楽しく学ぶ小学生の地図帳』p.19~20①「九州地方」
(旧p.19~20)
ながせば意欲的に学び始めるはずだ。
一方で,観光立国学習が単なるお国
九州山地には五家荘(五木の子守唄)という印
自慢で終わることのないように注意しなくてはな
字も記されている。まさに,観光資源あふれる県
らない。観光は観光客側という相手意識に立つこ
である。47都道府県のなかの県の位置を学んだあ
とが最も求められる産業である。観光客が何を求
とで,発問「どうしてわたしたちの県には年間○○
めているのか,地域の弱点をわかったうえで市
万人もの観光客が多く訪れるのでしょうか?」と切
(町・村)や県のよさをいかに知ってもらうか,
り出し地図帳を開かせれば,答えとして特色ある
自己中心的な見方におちいらない歯止めが必要で
県の自然,位置と交通,産物,歴史・文化等の観
ある。活動的な学びでは県民側と観光客側に分か
光資源が引き出せる。
「阿蘇山はカルデラが有名で
れて役割演技を取り入れ,考案した観光商品や旅
近くに温泉もあるから」
「熊本城が立派で伝統工芸
程を発表させる学習もおもしろい。社会科におけ
品もある」
「人吉という町では川下りとSLに乗れ
る教材開発の大きな鉱脈が観光にある。
る」
「デコポンとすいかが名産」などと観光とから
次号では筆者自身が沖縄県や高知県で取り組ん
めて県のようすが理解できる。自然や伝統を生か
だ観光のモデル授業(滞在プログラムを児童が立
した県内の観光まちづくりの事例をその後で学習
案)を紹介したい。
させ,観光客の動向や国内外と県とのつながりを
◆観光授業の玉手箱
❶既存の社会科単元を観光化し児童に「観光のまなざし」を獲得させよう。
❷地図帳の産物絵記号を観光資源として読むことから,授業を開始しよう。
❸観光対象として地域を見直し,相手意識に立った視点で考えさせよう。
1₄
こどもと地図 2015 ①