三田評論、そして三人閑談「辺境を旅する」

三田評論、そして三人閑談「辺境を旅する」
最新号(2015 年 7 月)の「三田評論」を見ていたら、
「広がるショッピングモール…郊外
と都市のショッピングモール…」の特集があり、また「長寿革命-高齢社会を乗り超えるた
めに」では福澤先生ウェーランド経済書講述記念講演会講演録が掲載され、その後に、三人
閑談「辺境を旅する」が続いていました。いずれも興味深い記事でしたが、夏は旅行シーズ
ンでもあり、以下では、最後に挙げた「辺境を旅する」についてご紹介します。三人閑談出
席者は、元フジテレビアナウンサーで、1981 年 10 月から始まった人気クイズ番組「なるほ
ど!ザ・ワールド」で、世界中を飛び回りレポーターとして活躍された女性(同番組で 81
~88 年まで、取材担当)、アジアを中心に世界各国を旅する「よく晴れた日にイランへ」な
どの著書がある作家でグラフィック・デザイナーの方、もうお一人は新聞社出身で、
「12 万
円で世界を歩く」でデビュー、「アジア赤貧旅行」などを書かれた旅行作家の方でした。い
ずれも、我々自身には余り(殆ど)馴染みのない世界・日本の辺境旅行の経験を豊富に有す
る方達です。
閑談の先ずはじめの話題は現地の人との触れ合いについてからスタートしました。女性レ
ポーターの方は、「よく分からないけどへんなやつらが変な箱(当時は、カメラマンが今に
比べて大きなカメラを抱えていた)を持ってやってきて、お姉ちゃんが大きな声で話をして、
嵐のように来て嵐のように去っていったけど、悪い人たちではなかった、楽しい一日だった
な」と思ってもらえるようにしたいということで、一緒に行く通訳の人に、言葉を三つだけ、
「こんにちは」
「ありがとうございます」
「さようなら」を教えてもらい、現地の言葉でまず
「こんにちは」と言うと、やっぱり喜んでもらえる、そして例えば「これ飲んでいいですか」
「これちょっと触ってもいいですか」など、言えなくとも、全身全霊で、表情や身振り手振
りで伝えて、必ず許しを得てからするようにしていたと話され、カメラが回っている間だけ
ではなく、現地に着いたときから仕事が始まり、現地の人との触れ合いを、大切にしていま
した。そうしたやり取りの中で、向こうも言葉が分からないからずいぶん、一生懸命に分か
ろうとしてくれて、何か通じ合っているという感じになるそうです。次に、旅行作家の方か
ら、
「村の中に入れてくれなかったということがあるか」という質問があり、ご本人からは、
結局は入れても、それまでに結構時間がかかったことがあったという話が出されました。日
本の幕末のように、開国か攘夷かで 10 年近くも時間がかかっていたら大変ですが、でも辺
境に都市の文化が入り込むことについては、最終的には、若者が村を出て行ってしまうこと
まで警戒し、この人たちを村に入れるかどうか、会議が始まるなどして、半日ぐらい待たさ
れたこともあったように話されていました。
現地の人とのつながりについては、人懐っこい子どもたちに握手をせがまれ、「一列に並
んで」というと、十メートルぐらいの行列ができるところや、いろいろ貴(奇?)重な経験
をされたそうです。「観光地ずれしていない人々の方が信用できますし、観光客もいないか
ら物価も普通だし、たいていの場合、その国のマイナーな文化や、ときには裏の文化に触れ
ることもある」と良い点が列挙されていました。一方、食べること、眠ることは大切な条件
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ですが、神経質な人ほど体調を崩されることがあるそうです。加えて、虫との戦いも日常茶
飯事で、現地の殺虫剤はよく効き、すごい臭いの殺虫剤が、いつの間にか眠れるアロマにな
ってしまったとも書かれていました。
「辺境とはどこか」という点に関しては、辺境と言われるところにも人は住んでいるわけ
ですから、「世界に果たして辺境というところはあるのか」ということまで考えさせられる
そうです。でも、外国人があんまり来ないから、珍しがって親切にしてくれる、観光客はい
なくても、人口密度が低くて風景がきれい、山々が息をのむほど美しかったところもあった
そうです。ここではご紹介できませんでしたが、特に、テレビ番組作成に伴う苦労やエピソ
ードは、いくつも書かれていましたので、ぜひ原文をご一読下さい。
いつもの旅行か、辺境旅行かは、皆さんが選択するテーマですが、ネット時代とはいえ、
現地の制度・文化の情報がネットに乗り切らないのが、辺境旅行の特徴です。最近のマニア
や若者のように、遠方の目的地に行っても、すぐに帰って来てしまうケースもあるようです
が、それだけでは少し物足りないようにも感じます。辺境・越境、国内・国外いずれでも結
構ですが、旅は、自分のいつもの境界・枠組みを超えるチャンスです。そうした心構えを持
ち、旅に臨むことが、旅を楽しむ、大切な要因になるのではないでしょうか。この夏の旅行
を、ぜひお楽しみ下さい。
(石川 武)
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