○プロジェクト研究 1247−2 研究課題「ロボットスーツHALのリハビリテーション教育への導入に関する先駆的研究」 ○研究代表者 理学療法学科教授 水上 昌文 ○研究分担者 付属病院長 和田野安良 (9名) ○研究年度 付属病院副院長 大瀬 寛高 医科学センター教授 永田 博司 作業療法学科教授 白石 英樹 理学療法学科教授 冨田 和秀 理学療法学科准教授 浅川 育世 看護学科講師 髙村 祐子 付属病院講師 理学療法学科助教 岩本 浩二 清水 如代 平成 25 年度 (研究期間) 平成 24 年度~平成 26 年度(3 年間) 1.研究目的 ロボットスーツHAL(以下HALと略)装着下でのトレーニングによる運動機能改善効果の可能性が,特に脳血 管障害,脊髄損傷例などで示唆されている.HALは今後のリハビリテーションの体系を大きく変えて行く可能性 のある先端技術の粋を集めた機器であり,これを学生教育に用いる事により,より大きな教育的効果が期待出来 る.本研究の期間内における目的は以下の通りである。 1) HALを学部および大学院の授業に導入することで,学生が最先端の生活支援機器に接する機会を持つ 2) 付属病院において,HALの医療機器承認を目指した回復期リハビリテーションにおける効果検証のための 臨床研究を実施し,学部生および大学院生が参画することによりHALの運用ノウハウを取得させる 3) 学部生,大学院生にHALを利用した研究テーマを設定し,希望学生を募り研究を実施する. 2.研究方法 1) 学部および大学院の授業へのHALの導入 平成 25 年度には,授業で HAL の装着を体験できる学生は半分程度に限られてしまうことから,HAL 装着体験 の有無により,どの程度学習に違いが生じるのか検証を行った.方法は,授業後に自由記載のレポートの提出を 課し,提出されたレポート(39 名分;100%)について内容分析を行った.今回は「HAL の理学療法への貢献」につ いて記載された文章を抜粋し,それを記録単位とし,意味内容の類似性に従い教員 3 名でカテゴリ化を行った. 2) 付属病院リハビリテーション部理学療法科での臨床研究 25 年度はHALの医療機器としての承認を得るための「治験」実施をめざし,そのプロトコル策定のための臨床 データを得るために,付属病院において回復期脳卒中患者を対象に臨床研究を実施した.なお,本研究は「筑 波大学・県立医療大学共同研究プロジェクト」として実施されるものである.対象は付属病院回復期リハ病棟入院 中の脳出血又は脳梗塞の初回発症の 7 例,年齢は 45~74 歳,平均 64±8.8 歳,発症から介入開始の日数は 25 ~78 日,平均 47.7±15.5 日であった. HAL での歩行練習は,週 4 回,4 週間実施し,1 回の練習は,積算歩行時間 最大 30 分以内とした.評価項目は,2 分間歩行テスト(2MT),10m 最大歩行テスト(10mT), Fugl-Meyer 評価法の下 肢スコア合計(F-M),左右対称比とし,介入の効果は各指標の基本統計量および記述的評価により検討した. 3) 学部生,大学院生による研究の実施 1 学部「理学療法研究Ⅰ,Ⅱ」において,HALを利用したテーマを設定し,希望学生を募り研究を実施した. 3.結果および考察 1) 授業へのHALの導入による効果について 学生は歩行やその他の機能の改善など現段階で明らかにされつつある HAL の効果について実感されていた. また,精神機能面へおよぼす効果についても可能性があることを実感しており,本授業の目標である「HAL の使 用目的や適応」などを十分に理解していることが確認された.HAL 装着体験の有無にかかわらず,これらの学習 効果が得られていたことで,時間的要因や HAL 本体の要因(サイズ等)などで全員が HAL 装着体験が出来ない といった限られた条件下でも本授業がすべての学生に等しく学習効果をもたらしていることが示唆された. 2) 付属病院リハビリテーション部理学療法科での臨床研究 各評価指標は,2MT で介入前の平均 35.9±21.7m が,介入後平均 63.6±20.6m,10m 最大歩行速度は 23.6± 37.3m/分から 37.3±14.7 m/分,F-M は 19.0±6.2 点から 21.7±4.4 点に,歩行中の左右対称性の比は 0.57± 0.08 から 0.73±0.11 にいずれも改善を認めた. 先行研究では,慢性期脳卒中患者に対する HAL での歩行練習による歩行速度の改善が報告されている.更に, 脊髄損傷不全麻痺者を対象にした先行研究では,HAL での歩行練習が結果として適切な左右の重心移動練習 となっていた可能性があることを報告している.左右対称比や記述的評価の結果は,脳卒中患者でも HAL での練 習が左右対称性の改善効果を有する可能性を示した.身体機能の変化が著しい回復期において, 適切な重心 移動を獲得し,歩行パターンの正常化を図れる可能性があるという点は,HAL での歩行練習の大きな利点となり得 る.本研究は回復期の早期に介入を実施した研究であり,対照群を設けずに実施(倫理面や症例数の確保など から)したため HAL による直接の効果は明らかではないが,10mT にて 4 週間で平均 63%の改善率が得られた事, 有害事象を認めなかった事,歩容の正常化が得られた事を確認出来た. 現在,本研究は回復期後期で,歩行能力の改善率が低下しほぼ一定の状態になった症例を対象に,HAL 介 入による効果を探る第二段階の研究を開始している. 3) 学部生,大学院生による研究の実施 学部生3名がHALを使用した研究を実施した.このうち学部生2名は前述の臨床研究を実施し,もう 1 名の学 部生は「持ち上げ動作におけるロボットスーツHALの効果に関する研究」というテーマで,健常者を対象にHAL のアシストによる筋活動の負担軽減の有無について検証を行った. 4.まとめ 平成 25 年度の臨床研究により,治験開始の目処が立つところまでたどり着いた.HAL のリハビリテーション機 器としての薬事法承認のための治験開始に向け症例を積み重ねるとともに,授業・臨床研究・学生研究を通じて HALを操作運用出来る人材育成を進めたい. 5. 成果の発表(学会・論文等,予定を含む) 1) 浅川育世,水上昌文,岩本浩二,理学療法教育にロボットスーツを導入した効果について,理学療法科学, 28(6):805-811,2013 2) 吉川憲一,水上昌文,佐野歩他,回復期脳卒中片麻痺者に対する装着型ロボットスーツによるトレーニング効 果の検討,第 49 回日本理学療法学術大会(2014 年 5 月横浜)発表予定. 2
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