終章 本学の教育課程の特色は、実社会で役立つ知識や能力を基礎から身につけるため、き め細かな指導を行うことにある。その理念は、新入生に対して行われるプライムセミナ ーでの個別の履修指導に始まり、教務課の対面式の履修登録など、時間や労力を要する が、学生にとって、きめ細かで、わかりやすい指導となって具現化されている。また、 プライムセミナー中に行われる教員や先輩・同級生との語らいや「自己発見レポート」 などは、その後の学生生活を実りあるものにしていく上で、きわめて直接的な効果を生 み出している。 入学後の授業においては、商学部の「ビジネス実践講座/マネジメント・ゲームⅠ・ Ⅱ」や法学部の「総合講座(地方自治)」など、実践的かつ興味深い内容が組まれている。 「ビジネス実践講座/マネジメント・ゲームⅠ・Ⅱ」では、ボードゲームであるマネジ メント・ゲーム(流通版)を用い、小売業の日常業務と収益構造を学び、流通企業の経 営を理解することができる。また、 「総合講座(地方自治)」では、担当する福嶋教授(前 我孫子市長・前消費者庁長官)の実社会での豊富な経験を基に、民主主義の本質を学ぶ とともに、生活者である市民から出発する社会づくりの視点を身につけることができる ようになっている。さらに同講座では、福嶋教授による講義に加え、市や国の職員、NPO の責任者などを招き、対話形式で授業を進める試みなども行われている。 本学では、語学教育推進のため、ネイティブ・スピーカーによる授業を多く取り入れ ている他、アメリカやニュージーランドでのホームステイを含む「外国文化研究」や、 シンガポール、マレーシア、ベトナム、フランスなどでの実地研修を含む「海外研修特 別講座」などが設けられている。また、台湾、韓国の大学との交換留学制度なども行わ れている他、アメリカ・メンフィス大学との交換留学制度の検討も進められている。さ らに、情報教育推進のため、商学部で「情報リテラシー」及び「情報処理論」、法学部で 「情報処理Ⅰ」が、それぞれ必修科目となっている。情報教育を推進するための施設面 においては、CALL 教室やパソコン教室、自習用のスタディルームなどが完備されている 他、2012 年度に、学内 LAN の更新とともに無線の大幅な拡張工事も行われている。 また、課外講座としては、2012 年度から法学部において、公務員として必要な法律の 基礎知識を身につけるための授業などが開設されている。 こうした実用的な教育とともに、本学では建学の精神に則り、人間としての総合力を 培うための教育も行っている。商学部 1 年次の必修科目「プロゼミナール」では、大学 生としての自覚やマナー、大学での学び方、討論の仕方などを学ぶ他、様々な教養書を 含む有益な図書についての教員による推薦などが行われている。また、法学部 1 年次の 必修科目である「基礎演習Ⅰ」では、意欲を高める、学びの理解、学びと社会、自己理 解、目標立案といった章立てにより、社会や自己についての理解を深めるための授業が 行われている。 人間教育を行う上では、選択科目における講座の内容なども重要であるが、本学にお いては、「現代社会論」「自然科学概論」「心理学」「数学」「スポーツ健康科学論」「地球 環境論」「哲学」「倫理学」「平和学」「ボランティア・アクティビティ」「生物学」「物理 121 学」「歴史学」など幅広い科目が開設されている。 本学の学生は、偏差値教育という一面的な価値観の中では必ずしも高い評価を受けて はいない。しかし、本学の卒業生の中には入学後の努力によって自らの可能性を広げ、 国会議員、著名な企業の経営者、弁護士、公認会計士など社会の第一線で活躍している 者も少なくない。また、本学の学生は、その人間的素養、特に素直で真面目な性格が好 まれ、多くの企業から採用されてきた実績がある。これは、とびぬけて偏差値の高い学 生を求めるのではなく、むしろ磨き上げることによって、ますます光彩を放つような原 石を求める本学の入学者受け入れ方針と大学・学部等の理念・目的が合致し、一定の成 果を上げた結果と自負される。その成果は、就職状況だけではなく、本学の知名度を高 めた駅伝競技などにおいても散見される。本学は箱根駅伝に 11 年連続 14 回目の出場を 果たしているが、法学部教授でもある駅伝部監督は、外国から優れた選手を招くことを せず、国内の原石のような高校生を入学させ、厳しいトレーニングとともに勉学も含め た厳格な人間教育の中で選手を成長させることを信条としてきた。本学の駅伝部の選手 たちは、高校時代、決して華やかな経歴に包まれた選手たちではない。にもかかわらず、 お互いを支え合う、そのチーム力によって、2008 年の総合 3 位を始めとして輝かしい成 績を残してきたのである。 ここまで大学として、地道に取り組んできた教育の成果、達成状況などを述べてきた が、一方、これから優先的に取り組むべき課題としては、以下のようなものがある。 まず、2012 年度に生じた入学定員割れ問題が挙げられる。幸い、大学全体の取り組み、 関係部署などの必死の努力により 2013 年度は定員を上まわることができた。とは言え、 依然として予断を許さない状況にあり、引き続き全学一丸となった取組みが必要である。 2 つめの課題としては、2011 年度 244 名(在学生比 7.1%)、2012 年度 206 名(在学生 比 6.5%)と毎年 200 名を超える退学者・除籍者数である。IC カードの導入による出席管 理の強化、アカデミック・アドバイザー、ゼミの担任などによる指導、学生サポートセ ンターによる相談・助言などによる努力を続けているものの、経済的な理由なども含め た退学者・除籍者数を減らせない状況が続いている。 3 つめの課題としては、FD 活動、自己点検・評価活動における教員の意識の向上であ る。FD 活動においては学長主催の様々なプログラム、一部の教員による模擬授業などが 行われてはいるものの、所管の委員会を始めとして教員の活動が消極的であり、FD への 参加者が少ないなど課題が多い。また、自己点検・評価活動においても、第三者評価な どに対する義務的な意識が強く、自ら教育・研究の質を変えていくという自覚において は不十分と言える。 4 つめの課題としては、従来から指摘のあった研究活動の活性化である。若手の教員に よる科研費の獲得の他、私学事業団の学術研究資金を獲得する教員などもでてきてはい るものの、教員の研究業績一覧において、過去 5 年間の論文数が少ない教員がいること も否めない。 5 つめの課題としては、学生納付金収入の減少とも関わるが、財政状況悪化の改善であ る。帰属収入の増加に向けて方策を練ることも重要であるが、一方、経費の削減に向け 122 ては、全学共有の意識と危機感を持って取り組んでいくことが求められている。 本学においては、施設面における整備は、ある程度整っている。とはいえ、今後の施 設の老朽化に向けての減価償却引当特定資産を含む内部留保の充実は、財政基盤の安定 のためにも重要である。このため、2012 年 4 月に発足した第二次財政安定化協議会の財 政改善部会において、支出削減の具体策、収入確保の対策、中・長期計画の策定などに ついて議論を行った。その答申(2012 年 7 月)に基づき、今後、具体案を検討していく。 また、「給与・人事制度部会」「人事考課制度部会」「募金部会」などにおいても議論を行 っていく。 FD については、2012 年 7 月に就任した商学部長が、授業アンケートの公開について積 極的に取り組んだ結果、教員個人レベルでの公開が実現されることになった。また、2012 年 4 月に就任した法学部長の発案により、FD に特化した大学間連携組織「FD ネットワー クつばさ」への加入について検討が行われることになった。今後は、FD 活動の充実につ いて、さらに議論を重ねていく。 2012 年度の定員割れに関しては、2013 年度に回復したとはいえ、今後は、従来以上の 危機感を持って教育・研究内容の充実、定員確保に努めなければならない。そのために は、現在の日本の私立大学が直面している、かつてない厳しい少子化と競合化を生き抜 くための、魅力ある大学づくりをしていくことが必須である。本学の場合、2013 年度に 法学部が大幅なカリキュラム改革を行った。2014 年度以降には商学部も大幅なカリキュ ラム改革を行う予定となっている。さらに、大学創立 50 周年(2016 年)に向けては、学 長によるラフスケッチとして新学部の設立などにも触れられている。とはいえ、本学が 何よりも自覚すべきことは、大学本来の深い社会的使命を考えた上で、本学が建学以来、 培ってきた特色や長所を生かしながら地道に努力を重ねていくことと言える。 そうした改善・改革を進めるために、今後は自己点検・評価実施委員会の機能をさら に強化するとともに、様々な問題点の改善に向けて全学的な取り組みが図れるよう組織 を改革し、意識を高めていく。 123
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