工程設計支援システムの工程評価指標の確立 N15

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N15
工程設計支援システムの工程評価指標の確立
東京農工大学
○惟村 健太,東京農工大学大学院 ◎中本 圭一
要
旨
多品種少量生産化した切削加工のリードタイム短縮には,加工準備に要する時間削減が効果的であり,技能者の知識や経験に
基づいた工程設計を支援するシステムが不可欠になる.そこで本研究では,複合加工機を対象とした工程設計支援システムで提
示された加工工程案に対して,加工時間や加工精度などの工程を評価するための指標を確立することを目的とした.
1. 緒
論
3. 加工工程の評価指標
近年の製造業では多品種小量生産化が進行しており,生産リ
ードタイムの削減が求められている.
この取組みの一つとして,
加工工程の評価指標として考えられる加工時間と加工精度の
予測方法について以下に示す.
複合加工機による工程集約型の高能率生産がある.複合加工機
加工時間は,アイコクアルファ製のマシンシミュレータ
の普及に伴い,CAM システムにおいても複合加工機への対応
G-navi で予測された加工時間を基に評価する.G-navi の加工時
が進みつつあるが,使用工具や加工順序などの加工情報の準備
間の正確性を実加工時間との比較実験により確認したところ,
に時間がかかり,結果的に生産リードタイム全体の短縮にはつ
ミリングはほぼ正確であったが,旋削による端面加工で誤差が
ながらない場合もある.そこで,従来は作業者が担っていた工
大きく,G-navi では実加工時間より短く予測された.そこで,
程設計を CADモデルから自動で計算する工程設計支援 (CAPP:
工作物の径に比例した補正をかけて加工時間を予測する.
加工精度は,加工中の工作物の変形量を概算して評価する.
Computer Aided Process Planning)システムの開発が求められて
いる 1).
対象とする複合加工機 INTEGREX i-200 では,工作物の片端を
2. 提案された加工フィーチャ
把持するため,工作物を円柱の片持ちはりと仮定する.このと
工程設計支援システムでは,一般に加工フィーチャと呼ばれ
る工程を特徴付ける領域を認識する.本研究で対象とする加工
き,たわみは次式で求められ,W は荷重,l ははり長さ,E は縦
弾性係数,I は断面二次モーメントである.
フィーチャ 2)を図 1 に示す.加工フィーチャは,基本形状要素
δ=
である加工プリミティブと創成面の情報を基に認識される.創
1 𝑊𝑙 3
(1)
3 𝐸𝐼
成面とは,加工プリミティブの所有する面の中で目標形状と接
ここで,荷重 W を切削力として,加工中に工具が加工プリミテ
する面である.提案された加工フィーチャは,除去領域から認
ィブを通過する瞬間の最大断面積と工作物の材質に応じた係数
識されるが,除去領域はターニングやミリングといった加工方
の積とする.また,切削力の方向は,加工プリミティブの中心
法を決定するために重要な要素であり,従来のように目標形状
から工作物の中心軸とする.l は,工作物のチャック位置から
のみから加工フィーチャを認識するのは不適切である.また,
加工プリミティブの中心までの距離とする.なお,断面二次モ
ターニングとミリングの両機能を併せ持った複合加工機に対応
ーメントは,加工工程によって変化することがないとする.
した工程設計支援システムにおいては,加工方法を限定しない
このような加工フィーチャの利用が不可欠になる.
4. ケーススタディ
本研究では,まず加工時間と加工精度を加工工程の評価指標
(A)
Generated surface: 1
(B)
(Curved surface: 1)
Generated surface: 1
(Curved surface: 0)
として有効か確認するために,3 パターンの工程設計を実施し
た.本研究で取り扱う加工フィーチャは図 1 の 14 種類であり,
加工プリミティブは,Cylinder と Cuboid およびそれらが Hole
(C)
Generated surface: 2
(D)
(Curved surface: 1)
Generated surface: 2
(Curved surface: 0 )
(E)
Generated surface: 4
(F)
Number of
opposite pairs: 2
Generated surface: 1
Number of
opposite pairs: 0
(G)
Generated surface: 5
(H)
Number of
opposite pairs: 2
Generated surface: 2
Number of
opposite pairs: 1
(I)
Generated surface: 3
(J)
Number of
opposite pairs: 0
Generated surface: 3
Number of
opposite pairs: 1
(K)
Generated surface: 2
(L)
Number of
opposite pairs: 0
Generated surface: 4
Number of
opposite pairs: 1
Fig. 2 Target shape
(a)
Generated surface: 1
(b)
(Hole: 1)
Generated surface: 1
(Hole: 1)
はアルミニウム合金 A5052 を想定した.
素材形状と目標形状の
を内包する場合の 4 種類である.
ケーススタディにおける目標形状を図 2 に示す.
(a)Case A
(b)Case B
素材形状の寸法は直径 100 mm×長さ 200 mm の円柱で,材質
差分から得られた除去領域を基に図 3 に示す加工プリミティブ
Fig. 1 Proposed machining feature2)
が取得される.工具には,外径と端面旋削用バイトと,フライ
第22回「精密工学会 学生会員卒業研究発表講演会論文集」
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ス用としてf,,,mm の 4 種類のスクエアエンドミル,
f,mm の 2 種類のドリルを想定し,ターニング,ミリング
Machining feature
Machining feature
T: Type
T: Type
ともに加工可能な部分は,ターニングを優先した.なお,工具
G: Generated surface
Machining order
経路の生成には,DP テクノロジー製の CAM システム ESPRIT
を用いた.切削条件は使用した工具のカタログの中から,非鉄
Machining order
G: Generated surface
A: Area [mm ^2]
A: Area [mm ^2]
M: Machining method
M: Machining method
C: Cutting tool
C: Cutting tool
金属の推奨条件を適用し,フライス工具は,加工プリミティブ
T: (B)
T: (K) + (b)
の幅以下の最大径の工具を使用した.
G: 1
G: 3
1
パターン 1 の工程設計では,創成面の数が少ない加工プリミ
6
A: 7854
A: 4368
M: Turning
M: Milling
ティブを優先的に加工することとした.Cylinder の加工プリミ
C: Bite
C: End mill R12.5
ティブでは回転面は創成面の数を 4 とし,加工プリミティブが
T: (B) + (a)
T: (J)
Hole を内包する場合は Hole を創成面の数 1 とする.また,創
G: 2
G: 3
2
7
A: 31536
成面の数も同じ場合は,創成面の面積が大きい加工プリミティ
A: 1149
M: Turning
M: Milling
ブを優先的に加工する.パターン 1 に基づいたケース A の工程
C: Bite
C: End mill R5
設計を図 4 に示す.
T: (K)
T: (C)
G: 2
G: 5
パターン 2 では,一般的でない工程設計を想定し,ミリング
3
8
A: 4648
で加工する加工プリミティブを優先的に加工する.また,複数
A: 550
M: Milling
M: Turning
C: End mill R12.5
C: Bite
存在する場合は,パターン 1 と同様に創成面の数が少ない加工
T: (F) + (a)
T: (C)
プリミティブ,創成面の面積が大きい加工プリミティブを優先
G: 2
G: 5
4
的に加工する.
パターン 3 では,良好な加工精度が得られると予想されるチ
ャック位置から遠い加工プリミティブの順に加工する.
工程設計のパターンによって,加工プリミティブに割り当て
9
A: 4193
5
A: 510
M: Turning
M: Milling
C: Bite
C: Drill D10
T: (H) + (a)
T: (C)
G: 3
G: 5
10
A: 7801
A: 217
ることができる工具や切削条件が変化し,加工時間や加工精度
M: Turning
M: Milling
も変化する.例えば,ケース B において,パターン 1 とは逆に
C: Bite
C: Drill D6
Fig. 4 Machining process based on pattern 1 (Case A)
創成面の面積が小さい加工プリミティブを優先的に加工する工
程設計を施した場合,上部の Cuboid の加工プリミティブは図 5
f10mm End mill
Pattern 1
f25mm End mill
のように分割され ,パターン 1 では使用できたfmm のスク
エアエンドミルを割り当てることができなくなり,fmm の
スクエアエンドミルを割り当てる必要がある.
パターン 1,2,3 の工程設計に基づいた目標形状の加工時間
の予測結果と式(1)を基に得られた加工精度の計算結果を表 1 に
示す.
ケース A では,パターン 2,1,3 の順で加工時間は長くなり,
パターン 2,3,1 の順で加工精度は悪化する.ケース B では,
パターン 2,3,1 の順で加工時間は長くなり,加工精度はパタ
Fig. 5 Divided machining primitives
ーン 2 が一番悪くなる.
ケース A,B ともにパターン 2 の加工時間が最も長い.これ
Table 1 Comparison of time and accuracy
は,ミリングで加工する加工プリミティブを優先的に加工した
ことにより,そのパターンに比べ,工具の切込み回数が増え,
Case A
切削距離が長くなるためである.このケーススタディでは,非
鉄金属の推奨切削条件を適用したが,ステンレス鋼などの難削
Case B
材を加工する際は,更に切削速度が低下するため,切削距離が
加工時間に与える影響はより顕著に現れる.
Pattern 1
Pattern 2
Pattern 3
9.14
Time (min)
9.32
10.25
Accuracy (mm)
0.11
0.38
0.35
Time (min)
10.00
11.21
10.16
Accuracy (mm)
0.15
0.17
0.15
5. 結
論
複合加工機を対象とした 3 パターンの工程設計を行い,工程
設計支援システムの工程評価指標として加工時間と加工精度を
評価した.加工工程が加工時間や加工精度にどのような影響を
与えるかについて考察し,工程設計支援システムに適用する工
程評価の指標として有用であることを確認した.
参考文献
1)
(a)Case A
(b)Case B
Fig. 3 Machining primitives
2)
第22回「精密工学会 学生会員卒業研究発表講演会論文集」
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濱田大地,中本圭一,石田 徹,竹内芳美:複合加工機用 CAPP システ
ムの開発,,日本機械学会論文集(C 編),78 巻,791 号,pp.2698-2709,
(2012).
A. Ueno, K. Nakamoto :Proposal of Machining Features for CAPP System for
Complex Machining, Proceedings of the 15th International Conference on
Precision Engineering , pp.536-537, (2014).