陸奥湾でみつけた世界最北端に生育する海

青森県水産総合研究センター 増養殖研究所だより,第110号
知っていましたか?
陸奥湾でみつけた世界最北端に生育する海草
磯根資源部 部長 桐 原 慎 二
ウミヒルモをご存じですか?アフリカからインドを
経てオーストラリア、インドネシア、フィリピン、ベ
トナムにかけての主に熱帯から亜熱帯地方に生育す
る、かわいらしい小判型の緑の葉をもつ海草(オモダ
カ目トチカガミ科の海産種子植物)です。日本でも沖
縄、南西諸島、伊豆半島などの暖かい海域によくみら
れますが、日本海沿岸では能登半島や富山湾で観察さ
れており、これまでは佐渡島の南部沿岸が世界の北限
とされてきました。
しかし、増養殖研究所が、藻場・水産資源マップ作
成事業として陸奥湾全域の藻場を調べた結果、蓬田村
北部沖合1.2㎞~1.6㎞にあたる水深10m前後の海底に、
ウミヒルモの生育を観察しました。従って、これまで
の世界記録を緯度で3度、300㎞以上も北側に記録を塗
り替えたことになります。これは、ウミヒルモを含む
ウミヒルモ属植物全体の北限でもあるので、日本藻類
学会誌に報告したところです。これまた地球温暖化の
影響か、と思いたくなるところですが、調べてみると
昭和57年の当所で行ったホタテガイ資源調査で、およ
そ同じ場所にウミヒルモ群落をみつけていました。
一方、ウミヒルモは、藻場・水産資源マップを含む
お知らせ 直江春三文庫の開設
当所にはOB職員からの寄贈図書からなる文庫があ
ります。
最初には水産増殖センターの津幡初代所長が寄贈さ
れた津幡文隆文庫、続いて故村上第七代所長の親族か
ら寄贈された村上圭郎文庫がそれです。
このたび、思いも掛けず直江春三氏から寄贈の事が
ありましたのでお知らせしておきます。
氏は昭和57年度を最後に初代内水面水産試験場長で
退職された方で、当所には水産増殖センター開設当初
の昭和43年度から55年度まで貝類部長、漁場部長、次
長として勤務された方です。
氏の略歴を下に掲げておきましたように、徳島県水
産試験場を振り出しに、福島県を経て本県に奉職、全
体では行政での職歴が長いのですが、研究機関では海
面、内水面と渡り歩かれております。
従って、蔵書には内水面の養魚関係も多く、多彩な
内容となっております。
是非、見てみたいという皆さんの便宜を図る為、蔵
書目録を作成し、当所の文書管理に登録しております
ので、御覧になって下さい(職員ポータルの文書管理
これまでの陸奥湾での調査では、蓬田村以外からみつ
かっていないことも分かりました。ではなぜ、佐渡島
より南の暖かい海に生える海草が、20年以上も前から
蓬田の北側地先にだけ生え続けてきたのでしょうか?
渡り鳥が運んできたのか、はたまた、そこにだけ温泉
が湧いて暖かいのか、考えてみてもすぐには答えがみ
つかりそうもありませんが、陸奥湾の「世界一」がひ
とつ増えたことは、間違いなさそうです。
写真 陸奥湾蓬田地先に生育するウミヒルモ
研究調整監 塩 垣 優
から入ります)。目録がすべてを語ります。全369冊か
ら成るもので、今となっては入手不能の昭和30年代の
ものから近刊本まで、水産関係の専門書を中心とした
幅広い中身となっており、氏の並々ならぬ向学心に敬
服するとともに、少ない給料をはたいて図書を購入す
るに際しては、奥様の寛大なご理解があったものと羨
ましく思う次第です。
氏のことで忘れてならないエピソードを一つ紹介し
ておきます。
氏が若かりし頃、福島から十和田市相坂の養魚場に
単身、ニジマスの受精卵をもらいに来たことがありま
す。そもそも、この時から相坂との縁(えにし)が出
来たもののように思うのは小生のみでしょうか?
内水面水産試験場記念誌「百年の歩み」(平成13年刊)
の歴代場長回顧録の巻頭を飾る氏の「金澤坦場長の想
い出の記」にこのことを書かれておりますので、下に
一部引用して氏の温厚な人柄を思い出しながら、今後
とも末永いご健勝を祈念したいと思います。
なお、氏にはこの6月頃お会いしましたが、82歳にし
News Letter, No.110, Aquaculture Insititute, Aomori Prefectural Fisheries Research Center