SACLA 線形加速器の性能と課題 原 徹 理化学研究所 放射光科学総合研究センター SACLA 線形加速器は、コンパクト化と安定性を追求した加速器である。 周期長 18 mm の真空封止型短周期アンジュレータを用いることで、10 keV 前 後の硬X線領域のレーザー発振を 8 GeV という低いビームエネルギーで実現し、 更に 35-40 MV/m の高加速勾配 C-band 加速管の導入によって、線形加速器の 全長を約 400 m に抑えている。また SACLA はユーザー実験施設であるため、 電子ビームやレーザー光の安定性は最も重要な点である。SACLA ではレーザー 発振に必要な高密度電子ビームを生成するため、入射部の速度変調バンチ圧縮 に加え 3 段のシケイン型バンチ圧縮器を用いて、1 ns の初期電子バンチを最終 的に 20-30 fs まで圧縮している。電子ビームの加速と圧縮を安定に行うために は、各加速管空洞の安定動作は必須であり、0.01℃の精密温度制御装置や、加 速器全体をカバーする同期精度 100 fs 以下のタイミングシステムを開発、実現 させてきた。 2012 年 3 月のユーザー実験供用開始以後も、ユーザー運転と並行して 加速器の安定化および高度化に継続して取り組んでいる。各種安定化の結果、 現状アンジュレータへの入射電子ビーム軌道のふらつきは、位相空間上で水平 1.1 pm-rad、垂直 0.18 pm-rad と、電子ビームエミッタンス(規格化エミッタ ンス 1 mm-mrad は 8 GeV で 64 pm-rad)に比べ十分小さく抑えられている。 またビームエネルギーの安定性も 2×10-4 (RMS)を達成している。 レーザー出力は K 値が上がるほど増えるため、加速管増設によるビー ムエネルギーの増強、および小ギャップ化によるアンジュレータ最大 K 値の増 大は、SACLA 高度化のひとつの方向である。現状の運転では、最小ギャップ 3.5 mm、 最大 K 値 2.15 でアンジュレータを使用しているが、ギャップを 2.5 mm 程度まで閉めることができれば K 値は 2.7 を超える。 本発表では、SACLA 線形加速器が現状達成している性能に加え、アン ジュレータ小ギャップ運転の可能性、減磁を防ぐためのロスモニター、および 線形加速器のビームエンベロップ問題などについて紹介する。
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