海外における日本語教育-対外文化発信の視座から- 日本

Shiga University Seeds No. 11
しゃ
2015–January
【代表的な研究テーマ】
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日本語教育学
□ 海外における日本語教育-対外文化発信の視座から-
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日本語教師養成
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言語政策
□ 日本語に注目しての「グローバル人材」育成
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対外文化政策
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国際協力
課題解決に役立つシーズの説明
<日本語教育とは>
日本語教育とは「日本語を母語としない人を対象とする日本語の教育」であり、その学習者は多くの
場合、すでに自身の母語を持つ外国人である。日本語を自然習得によって身につけた児童生徒を対象
に行う国語教育とは、根幹から異なると言ってよい。外国語としての日本語教育は、さらにJSL教育とJ
FL教育に分けることができる。前者は Japanese as a second language、すなわち第二言語としての日本
語を指し、通常は日本国内で行われている。これに対して後者は、Japanese as a foreign language、す
なわち外国語としての日本語の教育であり、基本的には海外で行われている。文化庁の 2009 年の調査
では国内でJSLを学んでいる学習者は、170,858 人、国際交流基金の同年の調査では、海外でJFLを
学んでいる学習者は世界 133 カ国・地域の 3,651,761 人である。
平畑 奈美
Nami Hirahata
国際センター/准教授
<海外における日本語教育と、それに従事する日本語教師養成の重要性>
外務省は、海外における日本語教育を「日本との交流の担い手を育てるものであり、日本理解を深
め、諸外国との友好関係の基盤をつくるものとして重要」であるとし、日本の広報外交(パブリック・ディ
プロマシ-)、対外文化発信の一環としてこれを支援する方針を打ち出すとともに、それに従事する日本
語教師養成の強化を課題としてあげている。
【プロフィール】
●専門分野
・日本語教育
・言語教育政策論
・社会心理学
一般に外国語教育において母語話者教師の存在は重視され、多くの教育現場で必要とされる。海外
の日本語教育機関から、日本の公的機関に、母語話者教師の派遣を求める声は少なくない。しかし、
日本国内で、JFL教育をになう母語話者日本語教師の養成を行うには、JSL教育に従事する日本語教
師の養成にはない困難がある。世界 133 カ国・地域の日本語教育現場はあまりに多様であり、そのす
べてに合わせた教師養成をすることはできない。そして現地には現地の教育政策と教育方針があり、現
●略歴
・筑波大学
第二学群人間学類
心理学専攻卒業(1989)
・早稲田大学大学院
日本語教育研究科
修士課程修了(2006)
博士後期課程修了
博士(日本語教育)(2011)
・1989-1996
マツダ(株)技術研究所
研究員
・1998-2004
(独)国際交流基金・
(社)日本外交協会
NIS日本語教育専門家
(タシケント東洋学大学・
キエフ国立大学・
バクー国立大学・
モスクワ国立大学)
・2009滋賀大学
国際センター 専任講師
・2011滋賀大学
国際センター 准教授
地の人々が現地語を用いて現地の目的に合わせた日本語教育を行っている。母語話者が海外でJFL
教育に従事するにあたっては、それを十分に尊重し、現地に合わせた日本語教育を行わなければなら
ないが、日本での教師養成課程においてそれを可能とする能力を身につけることは容易ではない。た
だ、少なくとも日本語教師養成担当者と志望者、そして彼らを国際社会に向けて送り出す機関が、海外
の日本語教育の現場を意識し、その現状についての情報を集め、理解を深めることは、その一助となる
だろう。
<研究テーマ1>海外で活動する日本語母語話者教師の資質
上記の観点から、私は海外の日本語教育関係者、すなわち現地の母語話者・非母語話者教師、日本
語教師派遣を行う公的機関の代表者、有識者などを対象に、彼らが母語話者日本語教師に求める資
質能力についての調査を行っている。近年は世界 26 カ国・地域の日本語教育現場の関係者の声を収
集、SCATを用いた質的分析を行い、近著『「ネイティブ」とよばれる日本語教師: 海外で教える母語話
者日本語教師の資質を問う』(春風社 2014)にまとめた。
<研究テーマ2>海外での日本語教育経験が若者のキャリア形成に与える影響
海外における日本語教育は、日本と諸外国の間に日本語による橋を架け、日本人・外国人の青年を
グローバル人材として育てることに貢献する。特に海外で日本人の若者が日本語教育に従事すること
は、日本と日本語を客観視するうえで貴重な機会となる。これに関連し 2011 年度から3年間、科学研究
費助成事業の学術研究助成基金助成金(基盤研究(C))を受け、「海外業務経験と若年層のキャリアイ
メージ-青年海外協力隊日本語教師への調査から-」という題目で調査研究を行っており、その中間
報告を、近著『「グローバル人材」再考:言語と教育から日本の国際化を考える』(くろしお出版2014
西山教行・平畑奈美編著)にて発表した。
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