マレーシアとシンガポールのNGOによる環境教育の紹介

環境・国際研究会誌 2001 年 12 月号 アセアン音環境協会 石井 晧
アセアン の諸都市の騒音は 著しく私 たちがそ の音環境 の改善の国際協力 をはじめて5
年を経過した。これらの活動を共に行っているカウンターパートのNGOの活動からマ
レーシアとシンガポールの事例を報告する。
1.はじめに
両国を訪問して最初に気づくのは午前学校
平方km)の教育制度は「人は資源」という
と午後学校のあることだ。カウンターパート
考え方のもとで学力のあるものは伸ばすとい
の環境教育オフィサーの説明に戸惑った記憶
う シ ステ ムが あ るが 小学 校( 6 才か ら 6 年 、4
がある。そこで、それぞれの国の教育制度を
年 次 終了 時に 振 り分 け試 験 があり 7・8 年次 を
ま と めて みた 。マ レーシ ア( 人 口 1,905 万 人;
行 う も の も い る )、 中 学 校 ( 小 学 校 修 了 試 験
1993 年 、国 土 面積 33 平 方k m) の 教育 制度
( PSLE) で 至 急・ 特別 コ ース 4 年 制と 普通
は 初 等教 育( 6 才か ら6 年 )、中 等教 育(7 年 )、
コ ー ス 5 年制 )、高 等教 育(ジ ュニ ア・カ レッ
高等教育(多岐に分化)と就学前教育(4∼
ジから大学(中学普通コースでも修了時の試
6才、幼稚園等)からなり、初等教育の就学
験 で 入 れ る )、 技 術 系 高 等 教 育 等 )、 就 学 前教
率 は 99 パー セ ント(1989 年 )で あ る 。マレ
育(幼稚園等)がある。チャンギ空港から街
ーシアは多民族国家をいかに統合化していく
の 中 心 に 至 る 道 路 沿 い に 高 さ 7∼ 8 m の 大 き
かという大きな課題を抱えている。公用語を
な木が街路樹として植えられている、レイン
マレー語としてマレー語を唯一の媒体とする
ツ リ ーで ある 。1963 年 に 当時 の首 相 だっ たリ
教育制度を進め、また青少年の育成に努力し
ー・クアンユー氏が植樹計画をスタートさせ
て お り 、1974 年 か ら青 少 年の 日( 5 月 15 日 )
て以来の国土緑化政策の例である。これは現
と 青 少年 賞を 制 定し てい る 。
在の学校の緑化―環境監査につながっている
シ ンガ ポー ル(人 口 320 万 人 、国 土 面 積 600
と 筆 者は 感じ た もの であ る 。
2.マレーシア自然協会による環境教育
マ レ ー シ ア 自 然 協 会 ( Malaysia Nature
IUCN-World
Conservation,
BirdLife
Society, MNS) は 1940 年 に 設立 さ れた 同国
International, the Global Environmental
で 最 も古 い歴 史 を持 つ会 員 数約 5000 名 のN
Facility's NGO Network
GOであって、会員の会費による運営は選挙
活動している。現在はクアラセランゴール自
による役員によっており、ボランテア活動の
然 公 園( Kuala Selangor Nature Park)、 マ
非営利団体として半世紀以上をマレーシアの
レ ー シ ア 森 林 研 究 所 ( Forest Research
自 然 保 護 に あ た っ て き た 。 国 際 的 に the
Institute of Malaysia ; FRIM)の 自 然教 育セ
の 活 動 に 提携 して
ン タ ー( Nature Education Center ; NEC)、
MNS−BOH自然研究センター、マラヤ大
学 に 沿う Rimba
Ilmu 生 態 園な ど 多く の環
施 さ れて いる 。
Nature Club プ ロ ジ ェ ク ト の テ キ ス ト は
「 子 供の ため の 自然 教科 書 」( 200p、1994 年
発行)があり、環境保全に対する理念・哲学
境 教 育の プロ グ ラム を運 営 して いる 。
の 章 に続 き、熱帯 雨林の 生 態、森林 の 植物 相、
森林の動物、昆虫、水中生物、生態系をわか
( 1 )機 関誌 ・ 機関 紙
MNS の 刊 行 物は 2001 年に 55 巻 と なる 機
り や す く 学 ぶ も の が あ る 。 WA プ ロ ジ ェ ク ト
関 誌 の The Malaysian Nature Journal( 学 術
の テ キス トは 3 冊発行 さ れて おり 、 参加 者は
研 究 雑誌 ) や Malaysian Naturalist( 美 し
第 1 の ステ ッ プに Buku Aktiviti Wira Diri
い写真などがたくさん掲載されている啓発の
と題する身の回りの環境保全・公害防止を学
た め の 雑 誌 ) が あ り 、 Nature Club Project
ぶ 51 ペ ー ジ の テキ スト が あり 、リ サ イク ル ・
で は「 Tapir」と いう児 童 生徒 を対 象 とす るタ
水 質 汚濁・大 気 汚染・省 エ ネな どを 学 習す る。
ブ ロ イド 版の ニ ュー スレ タ ーが ある 。
こ れ を 修 了 す る と 第 2 の ス テ ッ プ は Buku
Aktiviti Wira Alam Komuniti ( p43) を用
いてコミュニティとリンクした環境保全と公
( 2 )自 然ク ラ ブプ ロジ ェ クト
Nature Club Project は 1991 年 に ス ター ト
害 防 止を 学ぶ 、つい で第 3 ス テップ で は Buku
した社会教育プログラムの一つで、マレーシ
Aktiviti Wira Alam(p23) を 用 い て さ ら に 土
ア 教 育省 の後 援 のも とに 実 施し てい る。1991
の働きやその他のアクティビティから自然の
年 には 12 の ク ラブ 数で あ った もの が 1999 年
不思議さを研究し、海岸のクリ―ンアップ作
に は 144 に 拡 大し た。 Nature Club の 生 徒 た
戦などに参加して修了証をもらうこととなっ
ちの自然への親しみを増すために教育省と
て い る。
MNS
は
the
WIRA
ALAM
project(WIRA; あ こ が れ る 、 ALAM;
(WA)
自然、
( 3 ) NEC で の 体 験
邦訳としては「わくわく自然探検!」という
児 童生 徒が 宿 泊し て学 ぶ NEC に 宿 泊し た
ニ ュ アン スか )を 1998 年 から 開始 し た。 生徒
経 験 から MNS に よ る 環 境教 育に つ いて まと
た ち は 学 習 の た め の テ キ ス ト と 上 記 の NEC,
めてみると「自然の不思議さを気づき、その
FRIM な ど の 学習 施設 が 用意 され て おり 、例
知識を身につけ、環境保全の体験を積み重ね
え ば NEC で は 1998 年 7 月 から 1999 年 8 月
て 行 く」プロ セ スが 見ら れ た。NEC に は 男 女
ま で に 40 の Nature Camp と 環 境 教 育プ ログ
別の宿泊室があり、シャワールームとトイレ
ラ ム が実 行さ れ 、1066 名 の 生 徒と 青 年グ ルー
があり、快適であった。1 月に宿泊した時は
プ が 参加 した 。NEC で の 活動 はこ の 前年 には
朝 方 に毛布 1 枚で少 し 寒い かな と 思う 気温 で
54 の プ ログ ラ ムが 実行 さ れ、 1554 名 の 参加
あった。網戸を通して虫の音や夜のしじまが
が あ った 。FRIM で は 熱 帯雨 林の な かの キャ
感じられ、日本では忘れてしまった感覚を思
ノピー・ヲークなどの森林を学ぶプログラム
い 出 すこ とが 出 来た 。
が用意されており、説明員を配置して毎日実
3 . シ ン ガ ポ ー ル 環 境 評 議 会 ( Singapore Environmental Council; SEC) に よ る 環 境 教 育
SEC は 1995 年 に 国家 環 境評 議会 か ら自 立
した 運動 体 とし て発 展 した 。そ の 活動 は
シンガポールにおける環境運動やグループ
ている。プログラムは下水処理場の現場訪問
を育成し、ファシリテートし、協力していく
を行い,最初にどのようにして廃水が集めら
こ と とし てい る 。SEC は 自 然 環境 へ の市 民の
れ、それが処理場で処理されるかを目の当た
気 づ きを より 大 きく し、 市 民 1 人 1 人 の関心
りに見て水の節約が重要であることや工業用
や関わりを育成し,その保全に参加すること
水に再利用されるプロセスを学ぶ。教師用の
を 促 進す るに 努 めて いる 。SEC は こ れら の活
マニュアルや生徒用のアクティビティブック
動を例えば学校・民間機関の「みどりのグル
には下水処理管理に関するクイズやアクティ
ープ」などのような組織と連携し、その活動
ビ テ ィシ ート が 豊富 に用 意 され てい る 。
を促進しているので、参加する人々の人数は
2)
「環境―関心から参加へ」
中学校における環境教育に関する参考資料集
幅広いものとなっている。主な活動の対象を
学校としており、若い人々に豊かな環境の遺
(第 2 版)
産の知識と感謝を育成することと彼らがそれ
1994 年 に 初 版 本 が 出 さ れ た 教 師 用 の 情 報
を保全し保護することを望むことを鼓舞する
やワークシート満載の資料集の改訂を行う。
ことために教員に対して参考図書を提供し、
ゴミの縮小化を含め環境問題のトピックス、
生徒に対して活動教材としてのアクティビテ
フィールドトリップの組み立てや公害問題の
ィ・お話・展示物・コンクールと賞品を作成
ガ イ ドを 収め て ある 。
し て いる 。
3 )「キ ャン プ の楽 しみ 」(中 学生 版 )
対象は中学校の生徒、学校の行事であるキ
( 1 ) 2001 年 から 2002 年 にか け ての SEC
ャンプの間に教員やキャンプの組織者が資料
の活動
集として用いるもので、生徒たちを刺激しチ
教 材の 作成(中 学校・小学 校・就 学 前教 育)
・
ャレンジする「都市鳥の観察からゴミの調査
賞の制定と運用・アクティビティ・お話・音
まで」の範囲のアクティビティやゲームを含
の 環 境教 育が お こな われ た 。
む。
A
B
参 考 図書 ( 対象 ;中 学 校) の作 成
1 )「下 水道 の 旅― 廃水 管 理プ ログ ラ ム」
参 考 資料 ( 小学 校用 ) の作 成
4 )「若 い心 の 緑化 (グ リ ーニ ング )」
1998 年 に 教 育 省 は 国 家 教 育 プ ロ グ ラ ム を
1993 年 に 初 版 を、1997 年 に 第 2 版 を 刊 行,中
スタートさせたが、このプログラムは公共施
学校版の資料集とリンク。現在のシラバスに
設を訪問し、子供たち自身がシンガポールに
あ わ せて 編集 中 、 CD-ROM で 供 給 の 予定 。
帰属しており、それを誇りと自信とするよう
5 )「ク リー ン ・リ バー 」 教育 プロ グ ラム
に意図されている。訪問個所は教育省、チャ
こ の プロ グラ ム は 1987 年 5 月 に 教 育省 によ
ン ギ 国際 空港 、PSA タ ー ミナ ル、シ ンガ ポー
っ て スタ ート し たが 現在 ま でに 7000 名 の小
ル発見センター、焼却汚水処理施設である。
学生と中学生が参加した。このプログラムは
このテキストとプログラムは政府が何年にも
シンガポールの発展にともないシンガポール
わたって下水処理システムを改善し管理して
川とカラン川がどのようになったか、そして
いる努力とそのステップと、さらに、それに
水路を保全し保護することの重要を強調する
は 人 々が 「バ ケ ツシ ステ ム 」か ら人 口 の 100
ことや排水路が河川に結びついていること、
パーセントが現代的な公衆衛生によるサービ
さらに河川が上水の供給と結合していること
スをいかに得られるに至ったかに焦点をあて
を 学 び、 水路 を きれ いに す るこ とが 重 要で あ
る こ と強 調し て いる 。
こ の プ ロ グ ラ ム は 40 分 の ス ラ イ ド シ ョ ー
か ら 出来 てい る 。
6)キャンプの楽しみ(小学生版)
いる。
E ア ク テ ィビ テ ィ
11) 森 林再生 プ ログ ラム
SEC は 国 立 公 園 委 員 会 と と も に 学 校 を 助
前出の「キャンプの楽しみ」中学生版の小学
成するためにブキ・ティマ自然保護区の森林
校 版 であ る。
再 生 に取 り組 ん でい る。
C
12) 海 岸清 掃 活動
参 考 資料 ( 修学 前の 子 供た ちを 対 象)
7 )「 Naturally、 Yours 」( 修 学 前 教 育 プ ロ
グ ラ ム)
早期の子供時代は人としての発達過程で最
も感じやすい年で、社会性・道徳性は彼らの
SEC は 隔 月 でパ シル ・ リス 公園 と プラ ウ・
ウビンで学校及び協力団体とともに海岸清掃
活 動 を実 施し て いる 。
F お話
認識・感情・コミュニケーションと運動能力
学校でのお話はリクエストに応じてシンガ
を 発 達さ せる も ので ある 。必 要な知 識、自信、
ポールの環境問題と「みどりであること」な
ツ ー ル、 資料 を 教員 に提 供 する 。
ど を 題材 とし て 行っ てい る 。
D
G シ ン ガ ポー ル の学 校で の 音の 環境 教 育
賞
8 )「 あ な た の 学 校 は ど の く ら い グ リ ー ン な
教 育 省 は website で 学 校 の 騒 音 調 査 を 行
の ? 」− 環境 監 査プ ログ ラ ムと グリ ー ン賞 −
い、騒音地図を描くアクティビティを紹介し
このプログラムは簡単な環境監査プログラ
ている。小学校高学年以上を対象。生徒は学
ムとしてデザインされている。生徒が学校の
校の騒音を調べ、音地図を描きますが、騒音
水と電気の使用量を計算する。加えて学校の
調査をそれぞれの地点で聞いた音事象の発生
食堂・学校事務室/スタッフルーム・教室・
頻度(とてもうるさいからとても静かまでの
学校菜園と他の区域から生み出されるゴミの
ランキング)で評価する。生徒はクラスの照
量とタイプを評価します。この活動から生徒
度・換気と同じように騒音調査を行い、教室
は浪費やゴミの減少を自発的に行う。学校の
環 境 の改 善を 行 って いる 。
環 境 監 査 を SEC の グ リ ー ン 賞 に 報 告 す る こ
とから環境保全に参加することになる。昨年
(2)ブキイ・ティマ自然保護区の訪問でみ
度はこのグリーン賞がスタートして最初の年
た 環 境教 育
で 、賞 は四ラ ン クに 区分 さ れて おり 28 の 学 校
高 さ 168m の ブ キイ ・ ティ マに 入 るビ ジタ
が 参 加し た。
ーセンタの脇には日本軍との戦跡を記す大き
9 ) 若人 環境 大 使プ ログ ラ ム
な石碑があり、戦争をしてはならないと言う
昨年、学校を対象として南アフリカへの環
気持ちを強くした。ビジターセンタは展示室
境教育訪問を賞品とするエッセイコンテスト
やショップも充実していた。この自然保護区
が 開 催され 2 名 の 学生 が 選ば れた 。
は 71ha の 1 次 林 か らな っ てお り最 近 の 1990
10) 環 境ポ ス ター の展 示 会
年の国立公園法で保護されている。ゆっくり
「 あな たの 学 校は どれ ほ どグ リー ン なの ?」
と舗装された道を上って行くとジョギングに
プ ロ グラ ムに 関 連して SEC は 学 校、コミュ ニ
汗を流す人々と行き交うことになる。緩やか
ティセンター、ショッピングモールと会社を
にカーブする道の終点には丘の頂上部に電波
横断的に教育的なポスターの展示会を行って
塔 な どが あり 、 緑陰 に憩 う 人々 がい る 。ブ キ
イ ・ ティ マの 森 には Green-body cicada
が
た。ブキイ・ティマのガイドブックにあった
鳴 い てお り、2.5cm の 長 さ を持つ Giant forest
Black lily を 観 察 する こ とは 出来 な かっ たが
ant の 動 き 回 る 様 子 を 見 る こ と が 出 来 た 。 頂
豊 か な 植 生 を 学 ぶ こ と が 出 来 た 。 Black lily
上部から北は貯水池と軍の演習地であり自然
は マ レー シア の FRIM の キ ャノ ピ ーウ ォー ク
がそのまま残されているようであった。帰り
への山道で見たが暗紫色の気品のある花は見
道 に は当 地の サ ルで ある Long-tail macaque
事 で あっ た。SEC は「 み どり の地 図 シン ガポ
の一群に遭遇したが、道にそして頭上の枝の
ール」を発行し、啓発事業を行っているが
上に数頭のサルがおり、ジョギングする地元
Upper peirce 貯 水 池、 Sungei buloh 自 然公
の人がそのサルの脇をあたかも石像のサルの
園 や Pulau Ubin な ど の 自然 の施 設 を用 いた
脇をかけるように通り過ぎていくことに驚い
環 境 教育 を行 っ てい る。
4.おわりに
アセアン音環境協会はアセアンのカウンタ
ーパートの団体と国際協力を行い、都市の音
環境改善に努めている。音の環境教育は我が
国でも実施している団体等は少ないがアセア
ンではカウンターパートの団体などのみで我
が国同様に少ない。環境教育も自然の保護や
緑化政策に重点があるようであるが教材の種
類も多く、数多くの機会をとらえて行われて
いる。カウンターパートの活動は筆者らの
JA-SEA の 活 動 に刺激 を 与 えてお り 、 考え方
と教材には体験交流を行いたい多くの体験を
持 っ てい るこ と がわ かる 。
「 気 づき 」
「知識」
「市 民 活動 のた め の技 能」
「 環 境保 全に 対 する 態度 」「市 民活 動 の体 験」
「市民活動の実践」の環境教育に我々が継続
し て 国際 協力 を 行い たい と 考え てい る 。