山形市見崎浄水場の原水状況と課題

山形市見崎浄水場の原水状況と課題
1114118 高橋 賢汰
1.はじめに
地球温暖化 1)の影響により日本各地で豪雨に見舞われることが多くなり、結果として通常の濁度を遙かに超える高濁度に
より水道施設とりわけ浄水場での運転を難しくしている 2)。本研修では故郷である山形市内の浄水場の中でも施設能力の最
も大きな見崎浄水場に着目し、降水などによる原水濁度への影響ならびに浄水場原水の状況と課題などを検討した。浄水
場原水は、貯水池と河川水などでは特徴が大きく異なることが知られている。そこで本研修では見崎浄水場が最上川表流水
を水源としているので、表流水を水源としている山形市内の浄水場と比較検討した。
表 1 山形市給水の関連浄水場の概要
2.調査の対象および項目と方法
浄水場
施設能力(m³/日)
表 1 に、山形市水道の浄水場の概略を示した。山形市には 7 つの浄水場があ
見崎
80,000
り、他に村山広域水道の用水供給を受けている。これらのうち河川表流水を水源
松原
45,000
急速濾過
南部
2,470
緩速濾過
東沢
山寺
蔵王温泉
蔵王堀田
村山広域水道
1,080
700
3,500
50
26,661
緩速濾過
緩速濾過
緩速濾過
膜濾過
急速濾過
とするのは、見崎、南部、蔵王温泉の各浄水場であるので、これらの原水水質を
比較検討することとし、貯水池や湧水等を水源としている他浄水場は調査対象
処理方式
急速濾過
高速凝集沈殿地
水源
最上川表流水
馬見ヶ崎水系
(蔵王、不動沢ダム)
場内伏流水
又治窯沢川
(蔵王上野地内)
蔵王ダム
湧水(仙山トンネル内)
カリージャ川、一度川
湧水(蔵王山麗)
寒河江ダム
から除外した。図 1 に調査対象浄水場およびこれらの各水
源の河川水の位置や本流/支流の関係を示した。図 2 に対
象とする降水観測所(山形/左沢/長井/米沢)と水源となる表
流水および浄水場の位置関係を示した。降水量はこれらの
観測所データ 3)、原水水質は山形市上下水道部水質年報
のデータ 4)(データはともに 2002-2012 年度)を用いた。
図 1 対象浄水場および水源河川
3.調査結果および考察
図 2 対象浄水場と雨量観測所
3.1 山形市近郊の降水の状況と見崎浄水場の原水濁度の変動
図 3 に降水観測所の降水データをまとめた。市内にある山形の降水量は比較的
少なめで、長井がもっとも多く、左沢と米沢はその中位という関係にある。11 年間の
降水量発生率は、10mm/d 以上で 10~15%、40mm/d 以上では1%以下といえる。
図 3 降水観測所の降水量発生頻度
50
表 2 比較的高濁度の観測時近傍の降水量
いる見崎浄水場原
0
50
見崎
代表として左沢の降
水量を比較して図 4 に
25
0
02
03
04
05
06
07
年度
08
09
10
11
12
図 4 降水量(左沢)と見崎浄水場原水濁度の経年変化
示した。図 3 から降水量 40mm/d 以上は1%以下とい
う状況下で、1 回/月の見崎浄水場の原水濁度は、南
部や蔵王温泉浄水場よりは高いものの、50 度を超え
3/1
100
降水量(mm/d)
降水量(mm/d)
降水量(mm/d)
左沢アメダス
長井アメダス
米沢アメダス
当日 1日前2日前3日前4日前5日前 当日 1日前2日前3日前4日前5日前 当日 1日前2日前3日前4日前5日前
12/4/4 7.5 16.0 0.0 2.0 5.5 0.0 9.5 19.5 1.0 2.0 5.0 0.0 4.5 19.5 0.0 4.0 4.5 0.0
12/5/7 0.0 5.0 1.0 22.0 24.0 0.0 0.0 4.5 1.5 6.5 42.0 0.0 0.0 8.5 0.5 8.5 46.0 0.0
06/7/3 1.0 29.0 2.0 1.0 0.0 0.0 1.0 32.0 20.0 16.0 0.0 1.0 2.0 23.0 26.0 28.0 0.0 0.0
08/8/5 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 45.0 0.0 0.0 0.0 0.0 4.0 12.5 0.0 0.0 0.0 0.0
濁度 観測日
蔵王温泉
降雪( cm)
水の濁度と降水量の
濁度(度)
南部
2007
60
55
45
37
4/12
3/1
2009
3/1
4/12
2011
4/12
100
50
50
濁度
川取水場で取水して
100
降水量(mm/d)
図 2 に示した最上
るのは 1 回(25 度以上は 10 回)のみで少なくとも高濁
0
度の懸念はない。表 2 に 25 度を超える比較的高い濁
3/1
2006
4/12
3/1
2008
4/12
3/1
2010
4/12
3/1
2012
0
4/12
図 5 2006~2012 年度の積雪量の変動と見崎浄水場の原水濁度
度が観測された日の数日前の降水量をまとめた。表 2 に
よると高濁度が観測される前には 30~40mm/d の降水が観測されているが、4 月 4 日は大きな降水はない。そこでこの地域
特有の積雪および雪解けによる影響を検討した。図 5 に左沢の 2006~2012 年度の 3 月 1 日~4 月 12 日までの積雪状況と
濁度の発現状況をまとめた。図 5 によると 2012 年度は例年になく積雪量が多く、3 月になって一気に雪解けが進み、そ
キーワード:見崎浄水場 原水 雪解け水
No.2-12 (今野研究室)
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の影響による高濁度と考えられる。図 6 に 3 月から 4 月にかけての最高気温の変
化をまとめた。それによると 2012 年度は特に気温が高いわけではないので高濁
度は積雪量の多さに関係していると考えられる。したがって見崎浄水場のように
最上川を水源としている浄水場の場合には、降水量とともに、融雪時の積雪量
によって高濁度を予測することが重要と考えられる。
3.2 見崎浄水場の原水水質の特徴 - 南部、蔵王温泉浄水場と比較して
図6
3~4 月の最高気温の変動
原水水質を山形市発行の水質年報に基づいて 3 浄水場(以下見崎/南部/蔵王温泉と名称のみ)の原水水質を比較考察
する。見崎は、2002~2012 年度まで臭気強度や窒素以外は 1 回/月のデータがあるが、南部や温蔵王温泉は、2004~2012
年まで、1 回/3 ヶ月のデータである。
図 7 に 3 浄水場の原水 pH の経年変化を示した。すべて原水の
pH はアルカリ側に偏っており、特に南部はほとんど 7.5 以上と高
い。蔵王温泉は強酸性の温泉で知られているが近くの河川水は
図 7 原水 pH の経年変化
酸性ではない。見崎は若干アルカリ側であるが、浄水処理上課
0.15
題といえるほどではないが、pH が高まる傾向にあるようだ。
見崎
マンガン(mg/L)
南部
図 8 は、マンガンおよび鉄濃度の経年変化をまとめた。マンガ
0.05
ンは、蔵王温泉は 0.02~0.04mg/L 程度、南部はほぼ 0mg/L と
0
1.5
低濃度なのに比較し、見崎は 0.05mg/L を超えることが多く、
0.3mg/L 以上で、1mg/L を超えることも多い。マンガンや鉄とも見
02
03
04
05
06
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09
10
11
12
08
09
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12
1
鉄(mg/L)
0.1mg/L 以上の場合もある。鉄についても、見崎のみが高く、
蔵王温泉
0.1
0.5
0
崎では高濃度に対する水処理上の配慮が必要である。
図 8 原水の鉄,マンガンの経年変化
図 9 に全窒素(TN)、全リン(TP)の経年変化を示した。TN は、
1.5
南部、蔵王温泉では若干高い場合もあったが、ほぼ 0.4mg/L 以
1
TN(mg/L)
下と低いのに対し、見崎は 0.5~1.0mg/L と高く、最上川に栄養
07
年度
0.5
塩としての窒素が多いといえる。TP は、蔵王温泉は懸念するほど
0
0.15
でないが、南部で 0.05mg/L を超えない程度、見崎では 0.05~
03
04
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06
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09
10
12
南部
蔵王温泉
0.05
は高く、経年的に濃度低下の傾向にはない。
0
02
図 10 は藻類総数と臭気強度の経年変化である。見崎では 500
は見崎で(それ以外はデータ無し)、2~10 前後であり、図 11
で示すようにその臭いはカビ臭で、原因はジェオスミンと解析
03
04
05
06
07
年度
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10
11
12
11
12
11
12
図 9 原水の全窒素、全リンの経年変化
2000
藻類総数(個/ml)
個/mL 程度で経年的に減少する傾向が見られるが、臭気強度
見崎
1500
南部
蔵王温泉
1000
500
0
15
されており 3)、見崎の大きな課題といえる。
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05
06
07
08
09
見崎浄水場の原水は、①高濁度は降水量の他に雪解け
臭気強度(TON)
年度
4.おわりに
10
見崎
10
水の影響が大きい、②鉄、マンガンが高い、③N,P の栄養
塩濃度が高く、藻類が多い、④ジェオスミンによるカビ臭
5
0
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06
07
08
09
10
年度
図 10 原水中の藻類総数,臭気強度の経年変化
などが課題といえる。
参考文献
1)IPCC 2001 Climatechange2001 881pp,
11
見崎
TP(mg/L)
0.07mg/L 程度と高い。見崎の原水である最上川の栄養塩レベル
02
0.1
2)水道産業新聞 第 4939 号,豪雨でも
平常給水を維持,2014 年 9 月 22 日, 3)気象庁気象データ検索(http://www.jma.go.jp),
4) 山形市上下水道部水質年報,pp47~108,2002~2012 年度
-90-
図 11 検出された臭気の種類と割合